米テキサス州の半導体産業、韓国勢はじめ国内外企業の投資計画に沸く

2024年9月9日

米国テキサス州中部にあるマクレガー、テイラー、マナー、ハットー……いずれも半導体産業の集積地オースティン近郊に位置し、車で1時間圏内の中核都市だ。これらの町で近年、韓国企業の投資計画が相次いでいる。いずれも半導体関連ビジネスだ。

これら韓国企業が供給先として見定めるのは、韓国サムスン電子。同社は2022年からテイラーで、最先端ロジック半導体施設や研究開発施設、先端パッケージング施設の建設を進めているほか、1996年から操業するオースティン工場の拡張投資も計画している。テイラー、オースティン両工場の今後数年にわたる投資総額は400億ドル以上。連邦政府は2024年4月、これら投資を補完するため、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づき、64億ドルの助成を決定した(2024年4月16日付ビジネス短信参照)。

テキサス州の半導体産業の歴史は長い。同州の半導体輸出額は2023年まで13年間連続で全米1位だ。2022年にはテキサス州の半導体と電子機器類の輸出額がカリフォルニア州、アリゾナ州、ニューヨーク州、フロリダ州を合わせた額を上回った(テキサス州知事室経済開発・観光局)。さらに、韓国企業をはじめとした米国内外の半導体関連企業が相次いで投資計画を発表し、州も2023年6月に独自の半導体産業支援法「テキサスCHIPS法」を成立させ、強力に後押しする。

相次ぐ韓国企業の投資計画

サムスンは2024年6月7日、建設中のテイラー拠点近くで、新道路「サムスン・ハイウエー」の開通式を開催した。来賓として招かれたテキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は同社のテイラー拠点への巨額の民間投資を歓迎し、「新道路の開設はテキサス史上最大級の外国直接投資プロジェクトにつながるゲートウエーだ」と、門出を祝った。

アボット知事をはじめ州政府、自治体の期待を一身に集めるサムスンの大規模投資計画。これが引き金となり、テイラー近郊には相次いで韓国企業が進出している(2024年7月31日付ビジネス短信参照)。半導体製造に直接関わるサプライヤー企業から、輸送、建設、資材調達・補修整備(MRO)サービスなどの周辺サービス企業まで多岐にわたる(参考参照)。

韓国企業は2023年末までの10年間、テキサス州で205億ドル超を投資し、7,000人以上の雇用を創出している。アボット知事は2024年7月のアジア歴訪の際に、韓国にあるサムスンの世界最大級の半導体製造施設ピョンテクキャンパスを訪問しており、さらなる投資への期待を寄せる。現在進行中の半導体関連投資は、州内の韓国企業の存在感をさらに高めている。

参考:韓国企業のテキサス州進出事例
半導体部品製造のウォンイクは、4,600万ドルを投じて同州マナーに製造施設建設を計画(2024年7月報道)。
半導体製造向け化学薬品メーカーのソウルブレインは、同州テイラーにリン酸製造工場建設を計画。2029年1月までに1億7,500万ドル、2033年1月までに4億ドルの投資を計画(2024年7月報道)。
半導体材料・装置製造のファイン・セミテックは、同州ハットーに製造拠点建設を計画(2024年5月報道)。
ガスセンサーとパイプ供給のMSSインターナショナルは、同州ラウンドロックに米国本社建設を発表(2023年12月)。
電力機器メーカーのLSエレクトリックは、同州バストロップにテクニカルセンター用地を取得(2023年6月報道)。2024年7月現在、既に運営を開始。

古くからの半導体産業集積地

韓国企業だけではない。テキサス州は長年、米国内外の半導体関連企業の一大集積地となっている。同州ダラス近郊のシャーマンでは、半導体の老舗大手テキサス・インスツルメンツ(TI、注1)を中心に、台湾グローバルウェーハズのシリコンウエハー工場(注1)や、高周波(RF)半導体のコルボ(本社:ノースカロライナ州)、シリコンエピタキシャルウエハー(エピウエハー)のリテルヒューズ(本社:イリノイ州)、レーザーや装置組み込み産業向けの材料を提供するコヒレント(本社:ペンシルベニア州)などが集まり、「シリコンプレーリー」(注2)と称される産業集積が形成されている。また、「シリコンヒルズ」の異名があるオースティンには、インテル(本社:カリフォルニア州)やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD、本社:同)、アプライド・マテリアルズ(本社:同)など、大手半導体関連企業のテキサス州拠点が所在する。

米国半導体工業会(SIA)によると、2020年5月にCHIPSプラス法案が連邦議会に提出されて以来(注3)、これまでに25州にわたって82件の民間投資プロジェクトが発表され、その総額は公表されている分だけでも約4,470億ドルに上る。そのうち約2割に当たる880億ドル以上がテキサス州での投資計画だ。州別順位で見れば、プロジェクト件数では1位アリゾナ(19件)、2位テキサス(9件)、3位ニューヨーク(7件)、民間投資金額では1位ニューヨーク(1,233億800万ドル)、2位アリゾナ(1,011億3,500万ドル)、3位テキサス(880億ドル)と続いている。

テキサス州は独自のCHIPS法を制定、産業を後押し

連邦支援に加えて、テキサス州政府も独自の支援に動いている。2023年6月に成立したテキサスCHIPS法では、半導体の研究・設計・製造と関連事業を支援する助成金(TSIF)と、州半導体産業の戦略立案や助成金の採択に携わるコンソーシアム(TSIC)の設置が定められた。テキサス州知事室の経済開発・観光局内には、これらTSIFとTSICの事務局となるテキサスCHIPSオフィスが新設された。州知事直下の組織で、州内半導体産業の振興を加速させていく。

TSIFの助成金と合わせて、州は総額約14億ドルの投資を発表している。TSIFを通じて民間企業などの関連投資に6億9,830万ドルが充てられるほか、テキサス大学オースティン校の研究開発製造施設建設に4億4,400万ドル、テキサスA&M大学の量子および人工知能(AI)施設建設と関連研究活動に2億2,600万ドルの支援が決まっている。

表2:テキサスCHIPS法概要
施策 概要
助成金(Texas Semiconductor Innovation Fund、TSIF) 州に所在する民間企業などの半導体関連の投資に対し、助成金を給付する。6億9,830万ドル 。
テキサス半導体イノベーション・コンソーシアム(Texas Semiconductor Innovation Consortium、TSIC) テキサス州知事および州議会にとっての諮問機関として、TSIF助成金の採択に携わる。
同コンソーシアムを統率する執行委員会には、テキサス大学およびテキサスA&M大学システム等の幹部をはじめ、東京エレクトロン、TI、サムスン、デル・テクノロジーズなど、民間の半導体製造やテック関連企業の幹部ら9人を指名。同執行委員会により、TSICにテキサス州立の高等教育機関19校から各1人が委員として指名された。

出所:テキサス州知事室経済開発・観光局

テキサス州は半導体産業で活躍する人材育成にも注力する。テキサス大学オースティン校では、半導体エンジニア向けの修士課程を2025年秋に開設する予定だ。また、2024年3月、テキサス大学とオースティン・コミュニティー・カレッジ、テキサス大学が率いる半導体コンソーシアム「Texas Institute for Electronics(TIE)」は共同で、半導体関連の訓練プログラムとトレーニングセンターを開設すると発表した。テキサスA&M大学でも、2025年秋に微細電子工学と半導体に焦点を当てた修士課程を開設する。


注1:
テキサス州シャーマンでのTI、台湾グローバルウェーハズの製造拠点新設計画は、CHIPSプラス法の連邦助成対象になっている(2024年8月20日付ビジネス短信参照)。
注2:
西海岸のシリコンバレーと、テキサス州に広がる大平原(プレーリー)を掛け合わせた造語。丘陵(ヒル)が広がるオースティンは「シリコンヒルズ」と呼ばれる。
注3:
法律成立は2022年8月9日(2022年8月10日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ヒューストン事務所
キリアン 知佳(きりあん ちか)
2022年9月からジェトロ・ヒューストン事務所勤務。