韓国2023年の合計特殊出生率は0.72、女性の社会進出と高学歴化が背景に
尹政権の少子化対策の現状と課題

2024年9月2日

韓国の2023年の合計特殊出生率は前年比0.06ポイント減の0.72、出生数は同7.7%減の23万人と、それぞれ2022年に続いて過去最低になった(2023年5月15日付地域・分析レポート参照)。また、統計庁が2023年12月に発表した「将来人口推計(中位推計)2022~2072年」によると、韓国の生産年齢人口(15~64歳)は、少子化の進展により2050年には2024年(3,633万人)に比べ1,188万人少ない2,445万人に減少する。今後、労働力の減少が経済成長率を引き下げると予測されよう。このような深刻な少子化の背景には、住宅費や教育費の負担、ソウル・首都圏一極集中、若年層の就職難などの様々な要因があるが、近年では、女性の積極的な社会進出および高学歴化も1つの要因として挙げられている。本稿では、韓国の女性の社会進出と少子化の相関性を探り、政府の少子化対策の現状と今後の課題について概観する。

女性の就業率と合計特殊出生率の相関性

韓国の女性の就業率向上と出生率低下の相関性は顕著に表れている(図1参照)。韓国の女性の就業率は、1970年は38.2%と全体の4割を切っており、合計特殊出生率(以下、出生率)は4.53と、2023年の約6倍となる数値だった。その後、1980年には就業率が41.3%と4割を超え、出生率は2.82と1970年の約6割となり、2000年には就業率が50.1%、出生率は1.48となった。2000年以降、少子化が加速し、2018年で出生率が0.977と1を切り、2023年は就業率が61.4%、出生率はOECD加盟国で最下位の0.72となった。

図1:韓国の女性の就業率・合計特殊出生率の推移
1970年は38.2%と全体の4割をきっていたが、合計特殊出生率は4.53と2023年の約6倍となる数値だった。その後、1980年には就業率が41.3%と4割を超え、出生率は2.82と1970年の半分となり、2000年には就業率が50.1%、出生率は1.48となった。2000年以降、少子化が加速し、2018年で出生率が0.977と1を切り、2023年は就業率が61.4%、出生率が0.72とOECD加盟国でも最下位となった。

出所:韓国統計庁「経済活動人口調査」

1970年代から1980年代にかけて出生率が急激に下落した理由として、韓国社会の近代化が挙げられる。1960年代後半以降、政府が輸出主導型の経済発展計画を推進し、「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる急速な経済成長を遂げた韓国では、労働市場に大きな変化がみられた。女性が軽工業の輸出部門で雇用され、低賃金ではあるものの重要な労働力として、経済成長に寄与しはじめた。当初は、未婚の女性が主な雇用対象となっており、結婚・出産を経て労働市場から退出する女性が多かった。しかし、1980年代以降は、主に都市部において既婚の女性雇用が増加し、夫婦ともに経済活動に参加する家庭の割合が増加し始めた。

2000年以降の女性の就業率は、ほぼ一貫して上昇している。このような中、政府系の韓国保健社会研究院の「女性の雇用と出産~先行研究の動向と課題~」(2022年4月発表)によると、2021年時点で20代~40代の年代別就業率は、すべての年代において既婚女性の就業率が未婚女性よりも低かった。また、政府系の韓国開発研究院(KDI)は2024年4月に発表したレポートの中で、出産後の女性の所得は労働参加率低下により長期的に66%減少するが、男性の所得は配偶者の出産後も大きな影響を受けない、との分析結果を紹介している。韓国の女性は出産に伴い、経済活動の経歴が断絶するのが現状といえよう。このような女性の労働市場における変化により、結婚よりも自身のキャリアを重視する女性が増加し、晩婚化が進んだ。これに伴い、第2子および第3子の出生率が低下した。第2子の調整合計特殊出生率は1980年代初頭の0.9水準から微減した後、2015年まで継続的に減少し、0.6以下となった。第3子の調整合計特殊出生率は1980年代後半にはすでに0.2以下まで下落していた。

韓国の出生率低下の要因として、女性の高学歴化に伴う社会進出の変化も指摘できよう(図2参照)。1970年は女性の大学進学率がわずか3.4%(出生率は4.53)だったが、1980年に約2倍の6.6%(同2.82)、1995年に31.7%(同1.63)と急上昇している。2000年には進学率が47.6%と約半数となり、2005年には60%を超え、2023年には78.3%(同0.72)とOECD加盟国の中でも女性の大学進学率がトップとなった。大学進学率と出生率が反比例していることは明白だ。

図2:韓国女性の大学進学率・合計特殊出生率の推移
韓国女性の就業率・1970年は女性の大学進学率がわずか3.4%(出生率は4.53)だったが、1980年に2倍の6.6%(同2.82)、1995年に31.7%(同1.63)と急上昇している。2000年には進学率が47.6%と約半数となり、2005年には60%を超え、2023年には78.3%(同0.72)とOECD加盟国の中でも女性の大学進学率がトップとなった。大学進学率の向上と出生率の低下が比例していることは顕著である。

出所:韓国統計庁「経済活動人口調査」

韓国銀行は2024年1月、「未婚人口の増加と労働供給の長期傾向」を発表し、女性は高学歴化の進展によって労働市場への参加が拡大し、平均初婚年齢が上昇した、と言及した。同行によると、2000年および2022年の性別平均初婚年齢は、男性が29.3歳から33.7歳に、女性が26.5歳から31.3歳に上昇している。また、生涯未婚率(男女計)は2013年の4.8%から2023年は13.7%に上昇している。さらに同行は、学力水準別にみると低学歴の男性と高学歴の女性の未婚率が高いとし、女性に関しては自身の選択的要因が大きい、と指摘している。韓国では、ベストセラー書「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著、2016年)などでも言及されているように、儒教思想が根強かった。しかし、女性が大学進学や労働市場への参入を自ら選択できるようになり、結婚や出産も選択するものとの認識が浸透しつつある。また、2018年に韓国で広がったフェミニズム活動のMeToo運動により、女性の社会的地位への認識変化が起こるなど、新たな価値観の浸透も女性の選択の自由度が高まるきっかけとなった。

このように、統計上は、「女性の高学歴化が進むほど、出生率低下(少子化)につながる」といえる。これに対し、韓国のある男性の研究者が、女性が高学歴になると少子化が加速するため良くないとの見方を示したが、政府系の韓国女性政策研究院では、こうした見方は適切ではないとしている。同研究院は、女性の経済活動が活発になるほど少子化が加速するのは事実だが、韓国社会で子供を産んで育てることが難しいという環境の方が要因としてはるかに深刻である、と指摘した。女性の社会進出や経済活動の機会の増加に伴い、子育てと仕事の両立がしにくくなっていることに焦点があてられるべきだとし、女性の高学歴化が、直接的な少子化の要因ではないとした。また、家庭での女性の役割が、現在でも非常に大きいことが課題とし、女性を支援する政府の役割・政策が不足だ、と指摘した(2024年2月ヒアリング)。

政府の少子化対策と課題提起

それでは、韓国政府はどのような女性支援政策、出生率向上政策を行っているのだろうか。韓国政府は2006年から2021年までの16年間で総額280兆ウォン(2024年8月時点のレートで約30兆8,000億円、1ウォン=約0.11円)の予算を投入してきたが、出生率低下の傾向を変えることはできなかった。2022年5月に発足した、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、現状を打破するべく、数多くの政策を打ち出している。

尹大統領が委員長を務める低出産高齢社会委員会は2023年3月、第1回の会議を開催し、「低出産・高齢社会の課題および政策推進方向」を発表した。その中で、「低出産5大中核分野および主要課題」を提示した。具体的には次のとおり。

(1)
質の高い保育と教育:ベビーシッター・学童保育制度の拡大、幼保統合(幼稚園・保育園を統合する計画、教育部管轄)の施行、ヌルボム学校の全国拡大(注1)、児童基本法の制定推進
(2)
共働き世帯への支援:仕事と子育ての両立支援制度の実質的な利用条件の整備、両親が直接子育てできるような幼児期における労働環境の改善
(3)
家族向け住宅サービス:新婚夫婦への住宅供給および資金支援の拡大、世帯人数を考慮した面積の住宅供給の拡大
(4)
養育費用の負担軽減:両親への特別給与支給、子女奨励金の支給額および支給基準の改善、家族に優しい税制改正案の策定
(5)
両親および子供の健康:妊娠準備のための事前健康管理の徹底、不妊治療支援拡大、満2歳未満の児童の入院医療費の無償化

また、同委員会は2023年9月に、同政策推進方向の予算案を一部改定し、2024年の予算として15兆4,000億ウォンを投入すると発表した。その後、2024年1月にさらに同支援を拡大するとし、1歳までの乳幼児への支援金として2,000万ウォン以上を、共働き夫婦が2人とも6カ月以上の育児休暇を取得する場合は、育児休暇給付金として最大で3,900万ウォンをそれぞれ支給するとした。そのほか、住居支援のために新生児特例融資を行う、などと発表した。

同委員会は2024年5月に、「2024年結婚・出産・養育の認識調査」(注2)の結果を発表し、住居および雇用などの経済的条件の改善および仕事と子育ての両立が結婚・出産をするうえで最も重要なポイントだと指摘した。また、ベビーシッターサービスの需要は高いものの利用率は依然として低い状況だと指摘した。そのほか、12カ月未満の幼児を対象とした育児休暇制度の取得向上や、勤務時間の短縮およびフレックスタイム制の導入を強く希望するとの回答が多かったとした。

尹大統領は2024年6月、「第2回 2024年低出産高齢社会委員会会議」で「少子化逆転対策」を発表し、少子高齢化などを担う官庁の「人口戦略企画部」を新設する方針を発表した。同部発足時に、保健福祉部管轄の人口政策と、企画財政部管轄の人口に関する中長期発展戦略が同部に移管される。その後、同年7月、少子化克服の司令塔として、大統領室に低出産対応首席室を新設し、首席秘書官に柳慧美(ユ・ヘミ)漢陽大学経済金融学部教授を任命した。柳教授は、自身が双子を育て、長年、少子化問題の要因と解決策について研究してきたことから抜擢(ばってき)された。柳教授は、出生率の低下を遅らせ、増加に転じさせるために、短期的な政策だけでなく、経済や社会の構造的変化を要求する課題も積極的に提案していくと強調した。

労働市場における女性の現状と課題

前述したとおり、政府は出生率向上のために焦点を絞って多くの政策を施行しているが、一方で、労働市場における男女格差や、出産による女性の労働参加率の低下などが依然として課題として挙げられている。今後、韓国政府にとって、「チャイルドペナルティ(マザーフッドペナルティ)」をいかに下げるか、また、育休・産休制度の整備や活用を大企業や公的機関のみならず、中堅中小企業などでも浸透させられるかが課題だ。現在の韓国では、キャリア形成と結婚・出産を照らし合わせた際に「ネガウェ(私がなぜ)」という意識が広く浸透しており、自身がなぜ出産などを通してキャリアを犠牲にしないといけないのか、と主張されている。韓国女性政策研究院の発表のとおり、労働市場に参入している女性にとって出産・子育てをしやすい社会を造成していくこと(文化的・時代的な背景なども慎重にとらえつつ)、男性の育児休暇取得推進政策を改善していくことが必要であるといえる。


注1:
ヌルボム学校とは、教育部が管轄する学童保育で、共働き世帯などの小学生が、放課後も学校に残って遊んだり学んだりできる環境を提供する。
注2:
同調査は、24~49歳の男女2,000人を対象に行った。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
益森 有祐実(ますもり あゆみ)
2022年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国、韓国関係の調査を担当。