2024年米大統領選挙共和党予備選に向け、トランプ氏に対してヘイリー候補が浮上

2024年1月15日

2024年11月の米国大統領選挙に向けて、共和党予備選挙でドナルド・トランプ前大統領のリードが続く。一方で、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃にあたって同氏がとった行為には批判もある。共和党候補者にもたらす悪影響などの危惧にもつながっている。そのため、党のリーダーをトランプ氏以外に求める声が絶えない。

この状況を受け、過去4回の共和党候補者討論会で高い評価を得たニッキー・ヘイリー元国連大使に期待する声も高まってきた。

有罪でもトランプ氏が「候補者であるべき」に格差

トランプ氏は、4つの事件で起訴されている。裁判で有罪になる可能性も否定できない状況だ。

そこで、「ニューヨーク・タイムズ」紙とシエナ大学は、2023年12月に実施した世論調査(注1)で「トランプ氏が予備選で最多得票の場合、有罪になっても(共和党の)候補者であるべきか」について共和党予備選の投票予定者に聞いた。その結果、「候補者であるべき」が62%に及んだ。「候補者であるべきでない」の32%を大きく上回り、トランプ氏支持の強さが示されたかたちだ。この回答結果を学歴別に見ると、「候補者であるべき」は大卒未満に多い(70%)。一方、大卒以上では、この回答が45%にとどまった。教育水準によって回答に差異が出たことになる(「ニューヨーク・タイムズ」紙2023年12月20日)。

ヘイリー氏支持が高まるきざし

このように、共和党でトランプ氏への支持は依然として根強い。もっとも、共和党系組織の指導者や支援者らの中には、トランプ氏を警戒する声もある。トランプ時代と決別して共和党を牽引できる次世代リーダーの必要性も聞こえ始めた。

その一例が、政治団体「繁栄のための米国人(AFP)アクション」だ。AFPアクションは2023年11月、ヘイリー氏支持を表明した(2023年11月30日付ビジネス短信参照)。トランプ氏の再選を阻止するため、当初はロン・デサンティス氏(フロリダ州知事)に期待をかけていた。しかし同氏の主張は、AFPアクションの自由主義的価値観に反するものだった。11月に至るまで、支援する候補者を見極めていたという。これを受け、実業界からヘイリー氏を支持する声も聞こえるようになった。例えば、ジェイミー・ダイモン氏〔金融大手JPモルガン・チェースの会長兼最高経営責任者(CEO)〕が11月、ケン・ランゴーン氏(ホーム・デポの共同創始者)が12月、支持を表明している。

NH州での支持拡大を追い風に今後をうかがう

政界からも同様の動きがあった。ニューハンプシャー(NH)州のクリス・スヌヌ知事(共和党)が2023年12月、ヘイリー氏支持を表明したのだ。

ちなみにNH州は、アイオワ(IA)州とともに、他州に先駆けて共和党が予備選を実施することで知られる(具体的には2024年1月/表1参照)。それを意識してということもあるのだろう、CBSニュースは2023年12月、共和党予備選に関してこの両州で世論調査(表2、注2参照)を実施した。「共和党予備選が今日だったら、誰に投票していたか」という問いに、NH州で首位だったのはやはりトランプ氏(44%)。もっとも、ヘイリー氏が2位(29%)と善戦した。3位のデサンティス・フロリダ州知事(11%)を大きく上回っている。IA州でも、トランプ氏首位(58%)は同様だ。しかしNH州とは様相が異なり、ヘイリー氏(13%)はデサンティス氏(22%)に後れを取った。

両州で、結果に差異が出たのはなぜか。その理由について、CBSニュースは、回答者の属性に注目した。NH州では、MAGA(注3)を自認する有権者の割合がIA州より小さい(IA州:48%、NH州:33%)。また、人工妊娠中絶への認識も対照的と言える。「全てあるいはほとんどのケースで違法とすべき」という回答が74%に達するIA州に対して、NH州では「全てあるいはほとんどのケースで合法とすべき」が57%だ。総じて、NH州では中道派有権者がより多いと理解できる。これが、ヘイリー氏支持に追い風になったというわけだ。

なお、NH州で同時期に実施された世論調査としてはほかに、セント・アンセルム大学のもの(注4)がある。この調査での「共和党予備選で誰に投票するか」という問いでも、ヘイリー氏の回答が30%に上った。9月時点での同じ調査の結果(15%)から倍増したかたちだ。こうしてみると、スヌヌ知事(共和党)の支持表明が影響した可能性もある。

ヘイリー氏陣営としては、2024年1月のNH州の予備選で好結果を出したいところだ。そうなると、3月5日のスーパーチューズデー(注5)や他州予備選への波及効果を期待できることになる。

表1:2024年米国大統領選挙に向けた予備選などの日程
民主党実施州 共和党実施州
1月 15日(月曜) アイオワ
23日(火曜) ニューハンプシャー ニューハンプシャー
2月 3日(土曜) サウスカロライナ
6日(火曜) ネバダ
8日(木曜) ネバダ
24日(土曜) サウスカロライナ
27日(火曜) ミシガン ミシガン
3月 2日(土曜)

アイダホ
ミズーリ
3日(日曜) ワシントンD.C.
4日(月曜) ノースダコタ
5日(火曜)

アラバマ アラバマ
アラスカ
アーカンソー アーカンソー
カリフォルニア カリフォルニア
コロラド コロラド
アイオワ
メーン メーン
マサチューセッツ マサチューセッツ
ミネソタ ミネソタ
ノースカロライナ ノースカロライナ
オクラホマ オクラホマ
テネシー テネシー
テキサス テキサス
ユタ ユタ
バーモント バーモント
バージニア バージニア
12 日(火曜) ジョージア ジョージア
ミシシッピー ミシシッピー
ワシントン ワシントン
ハワイ
19日(火曜)

アリゾナ アリゾナ
フロリダ フロリダ
イリノイ イリノイ
カンザス カンザス
オハイオ オハイオ
23日(土曜) ルイジアナ ルイジアナ
ミズーリ
4月 2日(火曜)

コネチカット コネチカット
デラウェア デラウェア
ニューヨーク ニューヨーク
ロードアイランド ロードアイランド
ウィスコンシン ウィスコンシン
6日(土曜) アラスカ
ハワイ
ノースダコタ
13日(土曜) ワイオミング
20日(土曜) ワイオミング
23日(火曜) ペンシルベニア ペンシルベニア
5月 7日(火曜) インディアナ インディアナ
14日(火曜) メリーランド メリーランド
ネブラスカ ネブラスカ
ウェストバージニア ウェストバージニア
21日(火曜) ケンタッキー ケンタッキー
オレゴン オレゴン
25日(土曜) アイダホ
6月 4日(火曜) ワシントンD.C.
モンタナ モンタナ
ニュージャージー ニュージャージー
ニューメキシコ ニューメキシコ
サウスダコタ サウスダコタ

注1:ここで言う「予備選など」には、党員集会を含む。
注2:大統領選の州予備選などはしばしば、民主・共和両党同一の日程で実施される。その場合、太字で州名を記載した。
出所:270トゥウィン

表2:2024年大統領選共和党予備選を想定した各州の世論調査結果(単位:%)
項目 ニューハンプシャ― アイオワ ニューハンプシャ―
実施機関 CBSニュース CBSニュース セント・アンセルム大学
実施時期 12月8~15日 12月8~15日 12月18~19日
対象者 共和党予備選投票予定者459人 共和党予備選投票予定者478人 共和党予備選投票予定者799人
ドナルド・トランプ前大統領 44 58 44
ニッキー・ヘイリー元国連大使 29 13 30
ロン・デサンティス・フロリダ州知事 11 22 6
ビベク・ラマスワミ氏(実業家) 5 4 5
クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事 10 3 13

出所:各実施機関

バイデン氏×トランプ氏の本選対決を多くが望まない

民主党側では現時点で、ジョー・バイデン大統領が候補者となることが確実視されている。しかし同大統領は高齢。健康への影響を問題視されることも多い(2023年12月19日付ビジネス短信参照)。対する共和党トランプ氏も、4件で起訴されている。2024年は、裁判に多くの時間が割かれる想定だ。また2023年12月には、コロラド州の最高裁判所が「トランプ氏が2024年大統領選挙の同州共和党予備選に参加するのを認めない」判決を下した(2023年12月21日付ビジネス短信参照)。

また、コロラド州に続きメーン州でも12月にシェナ・ベローズ州務長官がトランプ氏の予備選への参加を禁止を決定した。トランプ氏は決定の取り消しを求めて同州高等裁判所に控訴している。

こうしたことから、現時点での最有力候補が両党そろって、本選出馬に盤石と言えない。これは、AP通信とシカゴ大学全米世論調査センター(NORC)が2023年11~12月に実施した世論調査(注6)からも読み取れる。バイデン氏が民主党の候補者になることを「不満」とする割合は、過半に及ぶ(56%)。トランプ氏も同様だ(58%)。非支持政党側からは当然、一層厳しい評価になる。民主党支持者の86%がトランプ氏に「不満」、共和党支持者の81%がバイデン氏に「不満」だ。無党派層の両者に対する「不満」割合も約6割と高い(バイデン氏:63%、トランプ氏:57%)。

ヘイリー氏にしてみると、これは勝機になりうる。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が2023年11~12月に実施した世論調査(注7)によると、バイデン氏との本選挙直接対決を想定した場合、ヘイリー氏がトランプ氏よりも好結果だった(2023年12月11日付ビジネス短信参照)。ヘイリー氏が中道派の支持を得て勝ち残る可能性を示した。

このような状況に、トランプ氏は目ざとい。中道派の取り込みを図るため、ヘイリー氏を副大統領候補に据える案を自身から周囲に相談したという。もっとも、政策の違いを理由に、側近らは反対姿勢と伝えられる。

とは言え世論調査で、トランプ氏は党内候補者中、大幅なリードを続けている。同氏が共和党で最有力なのは変わらない。米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所も、「ヘイリー氏はさらに好機を積み上げていく必要がある」と論評。トランプ氏との戦いの困難さを指摘した。

トランプ氏が大統領に再選されると、民主主義にとって脅威になるという見方もある(2023年12月6日付地域・分析レポート参照)。同氏の再選を阻止するという理由でヘイリー氏を支援する声も聞かれるようになった。2024年1月8日にCNNが発表したNH州の共和党予備選を想定した世論調査(注8)では、ヘイリー氏が32%とトランプ氏(39%)に7ポイント差に迫る結果だった。選挙戦は、ますます激化していくだろう。


注1:
実施時期は2023年12月10~14日。対象者は、全米の共和党予備選投票予定者380人。
注2:
実施時期は2023年12月8~15日。対象者はいずれも、州内の共和党予備選投票予定者。NH州では459人、IA州で478人。
注3:
MAGAは、Make America Great Again(米国を再び偉大に)の略。ドナルド・トランプ前大統領が選挙キャンペーンで持ち出したスローガンとして知られる〔ただし現時点では、トランプ氏や共和党の同氏支持者を揶揄(やゆ)する際、民主党支持者らがこの表現をあえて持ち出して用いることが多い〕。
注4:
実施時期は2023年12月18~19日。対象者は、NH州の予備選投票予定者1,711人(民主党支持者782人、共和党支持者799人、無党派130人)。
注5:
米国大統領選挙で予備選が集中して実施される日。大統領に関する選挙日程は伝統的に火曜日に置かれることが多いため、「スーパーチューズデー」と呼ばれる。2024年選挙では、3月5日。
注6:
実施時期は2023年11月30日~12月4日。対象者は、全米の成人1,074人。
注7:
実施時期は2023年11月29日~12月4日。対象者は、全米の登録有権者1,500人。
注8:
ニューハンプシャ―大学が実施。実施時期は2024年1月4~8日。対象者は、NH州の共和党予備選投票予定者914人。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。