2023年の自動車販売80万台に迫る、2年連続で過去最高更新(マレーシア)
2024年6月7日
マレーシア自動車市場は、2022年以降も好調を維持し、2023年に2年連続で過去最高を更新した。販売台数、生産台数がそれぞれ前年比1割増だった。メーカー別にみると、主に国民車メーカー2社(プロトン、プロドゥア)の好調な販売実績が全体を押し上げた。
新車販売台数は2年連続の過去最高、80万台に迫る
マレーシアにおける2023年の新車販売台数は、前年比10.9%増の79万9,731台だった。2年連続で70万台を超え、前年に記録した過去最高水準も上回った。マレーシア自動車協会(MAA)はその要因として、(1)自動車の売上税免税措置が2023年3月31日までの登録車を対象としていたこと、(2)2022年11月中旬の総選挙後、社会・政治が安定していること、(3)回復力のある国内経済、(4)電気自動車(EV)を含む数多くの新車モデルが価格競争力のある価格帯で市場に投入されたこと、(5)サプライチェーンの改善などを挙げた。
新車販売台数の内訳をみると、全体の9割を占める乗用車は前年比12.0%増の71万9,160台、1割を占める商用車は2.0%増の8万571台といずれも前年を上回った。MAAによると、乗用車が伸びた背景には、主に国民車メーカー2社(プロトン、プロドゥア)による好調な販売がある。また、商用車が微増したのは、現アンワル・イブラヒム政権の樹立後、より安定した環境を見込んだ企業が投資を始めたためとみられる。
乗用車のタイプ別では、普通乗用車が11.2%増の44万305台、スポーツ用多目的車(SUV、注1)が9.7%増の21万3,128台、多目的車(MPV、注2)が27.6%増の6万4,937台、窓付きバンが8.5%減の790台だった(表1参照)。商用車のタイプ別では、ピックアップトラックが1.5%増の5万8,600台、トラックが4.0%増の1万5,294台、パネルバンが2.6%減の4,735台、プライムムーバ(牽引車)が8.2%増の1,739台、バスが42.0%増の203台だった。乗用車では窓付きバン、商用車ではパネルバンだけが、前年割れとなった。
車種 | 2022年 | 2023年 | |||
---|---|---|---|---|---|
通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
|
乗用車 | 642,157 | 89.0 | 719,160 | 89.9 | 12.0 |
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396,098 | 54.9 | 440,305 | 55.1 | 11.2 |
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194,291 | 26.9 | 213,128 | 26.6 | 9.7 |
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50,905 | 7.1 | 64,937 | 8.1 | 27.6 |
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863 | 0.1 | 790 | 0.1 | △ 8.5 |
商用車 | 79,020 | 11.0 | 80,571 | 10.1 | 2.0 |
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57,710 | 8.0 | 58,600 | 7.3 | 1.5 |
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14,701 | 2.0 | 15,294 | 1.9 | 4.0 |
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4,859 | 0.7 | 4,735 | 0.6 | △ 2.6 |
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1,607 | 0.2 | 1,739 | 0.2 | 8.2 |
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143 | 0.0 | 203 | 0.0 | 42.0 |
新車販売台数合計 | 721,177 | 100.0 | 799,731 | 100.0 | 10.9 |
出所:マレーシア自動車協会(MAA)
なお、2023年の新車販売台数を月別にみると、4月と6月を除く全ての月で、月間販売台数が2022年同月を上回った(図1参照)。売上税減免措置の終了直前に自動車購入が増え、3月の販売台数を大きく押し上げた一方、4月の販売台数はその反動で前年割れしたとみられる。ただ、その後5月以降の月間販売台数は毎月6万台を超え、売上税減免措置の終了にもかかわらず堅調な売れ行きとなった。なお一般的には、自動車メーカーが年末に在庫一掃セールを開催するため、特に年末にかけて新車販売が伸びる傾向にある。

出所:表1に同じ
国民車メーカーと非国民車メーカーで明暗分かれる
2023年の新車販売台数をメーカー別にみると、国民車メーカー2社(プロトン、プロドゥア)が市場シェアの60.2%を占めた(表2参照)。商用車を販売しないこれら2社は、乗用車の市場シェアでは66.9%を占める。
日本のダイハツ工業が25%、三井物産が7%を出資しているマレーシア第2国民車であるプロドゥアは、33万325台(前年比17.1%増)で市場シェアの4割強を占め、引き続き首位を独走した。プロドゥアは、当初2023年の販売目標台数を31万4,000万台としており、同年11月に32万5,000台へと目標を上方修正していた。修正後の目標も達成した同社は、モデル別の販売台数内訳は公開していないが、総販売台数は過去最高を記録した。また、2023年10月27日付の同社プレスリリースによると、2023年1~9月の販売実績では、最も売り上げたモデルは小型セダン「ベザ」で、次いで「アジア」、ロングセラーのコンパクトカー「マイヴィ」が続いた。「ベザ」の価格帯は「マイヴィ」より手頃で、ライバルのプロトンの「サガ」と同水準である。
2017年に中国の吉利汽車が49.9%を出資した第1国民車プロトンは、15万975台(前年比11.0%増)に増加し、シェアは18.9%と前年と横ばいだった。同社によると、ベストセラーモデルである小型セダン「サガ」が引き続き好調で、7万184台と、2012年以降で過去最高を売り上げた。SUVも好調で、「X50」が3万1,829台、「X70」が1万1,200台、2023年5月に投入した「X90」が4,815台販売された。また、2023年11月末に発表した新型Cセグメント・セダン「S70」が、2024年以降に納車予定だ。
日系を含む外資系メーカーの販売台数では、市場シェアの13.3%を占めるトヨタが前年比6.2%増の10万6,206台で、外資系メーカーでは3年連続で首位に立った。同社は乗用車と商用車を販売しているが、モデル別の販売台数内訳は公開されていない。
ホンダは前年比0.3%減の8万27台で4位だった。2023年に4つの新モデルを投入した同社は、最も売れた上位3モデルとして、「シティ(セダン)」(同社売り上げシェア30%)、「HR-V」(同25%)、「シティ・ハッチバック」(同13%)を挙げた。なお、商用車を販売しないホンダは、乗用車カテゴリーでは、トヨタを抜き、外資系メーカーとしては10年連続で首位を維持している。
三菱自動車は2万1,719台で、前年に続き5位を維持したが、前年比で9.6%減少した。モデル別の販売台数内訳は不明だ。
項目 | 2022年 | 2023年 | |||
---|---|---|---|---|---|
通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
|
乗用車 | 642,157 | 89.0 | 719,160 | 89.9 | 12.0 |
商用車 | 79,020 | 11.0 | 80,571 | 10.1 | 2.0 |
国民車(乗用車のみ) | 418,045 | 58.0 | 481,300 | 60.2 | 15.1 |
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282,019 | 39.1 | 330,325 | 41.3 | 17.1 |
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136,026 | 18.9 | 150,975 | 18.9 | 11.0 |
国民車以外(乗用車+商用車) | 303,132 | 42.0 | 318,431 | 39.8 | 5.0 |
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100,041 | 13.9 | 106,206 | 13.3 | 6.2 |
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80,290 | 11.1 | 80,027 | 10.0 | △ 0.3 |
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24,017 | 3.3 | 21,719 | 2.7 | △ 9.6 |
新車販売台数合計 | 721,177 | 100.0 | 799,731 | 100.0 | 10.9 |
注:プロトン、プロドゥア、ホンダは乗用車のみ。トヨタ(レクサスを含まず)と三菱自動車は、乗用車と商用車の合算。
出所:表1に同じ
新車への需要拡大を反映し、2023年の生産台数は、前年比10.3%増の77万4,600台だった。乗用車が11.5%増の72万4,891台、商用車が4.6%減の4万9,709台だった。月別では、販売台数とほぼ同じ傾向がみられ、3月末の自動車売上税減免措置の終了に伴い、4月に生産台数が激減したが、5月以降は高水準を維持した(図2参照)。

出所:表1に同じ
メーカー別の生産台数をみると、国民車では、プロドゥアが前年比18.2%増の33万4,482台、プロトンが7.4%増の15万4,866台だった(表3参照)。一方、国民車以外では、トヨタが1.1%増の9万8,094台、ホンダが6.1%増の8万3,111台、三菱自動車が12.9%減の1万2,454台だった。
項目 | 2022年 | 2023年 | |||
---|---|---|---|---|---|
通年 (台) |
シェア (%) |
通年 (台) |
シェア (%) |
前年比 (%) |
|
乗用車 | 650,190 | 92.6 | 724,891 | 93.6 | 11.5 |
商用車 | 52,085 | 7.4 | 49,709 | 6.4 | △ 4.6 |
国民車(乗用車のみ) | 427,143 | 60.8 | 489,348 | 63.2 | 14.6 |
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282,884 | 40.3 | 334,482 | 43.2 | 18.2 |
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144,259 | 20.5 | 154,866 | 20.0 | 7.4 |
国民車以外(乗用車+商用車) | 275,132 | 39.2 | 285,252 | 36.8 | 3.7 |
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97,051 | 13.8 | 98,094 | 12.7 | 1.1 |
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78,299 | 11.1 | 83,111 | 10.7 | 6.1 |
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14,300 | 2.0 | 12,454 | 1.6 | △ 12.9 |
新車生産台数合計 | 702,275 | 100.0 | 774,600 | 100.0 | 10.3 |
注:プロトン、プロドゥア、ホンダ、三菱自動車は乗用車のみ。トヨタ(レクサスを含まず)は、乗用車と商用車の合算。
出所:表1に同じ
世界経済の減速受け、2024年は前年を下回る見込み
2024年通年の新車販売台数見通しについて、MAAは1月16日、前年比7.5%減の74万台(うち、乗用車が66万6,000台、商用車が7万4,000台)と予測した。その背景には、マイナス面とプラス面の要因が存在する、とMAAは分析する。マイナス面として、(1)イスラエル・ハマスの軍事衝突やロシア・ウクライナ情勢といった地政学的緊張による世界経済見通しの不確実性、(2)国際通貨基金(IMF)の予測で、2024年世界経済成長率は2.9%と、前年の3.0%からわずかに減速する見込みであること、(3)生活費の上昇、サービス税率の引き上げ(2024年2月29日付ビジネス短信参照)やガソリン「RON95」への一律補助金制度の廃止計画などに対する懸念により、消費支出の減速可能性がある。他方で、プラス面としては、(1)堅調な国内消費に引き続き下支えされ、マレーシア経済が4~5%成長する見込みであること、(2)中央銀行による政策金利の据え置き、(3)大幅に改善されたサプライチェーンと、手頃な電動自動車 (xEV 、注3)を含む新モデルが消費者の購買意欲を高めることなどを挙げた。
その後、民間調査会社ケナンガ・リサーチは3月15日、2024年の予測販売台数を71万台と、MAAの予測を下回る見通しを発表した。政府が2024年内にガソリンへの一律補助金を廃止する予定であることが、主に中所得世帯を対象としたモデル車両への需要に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、さらに手頃な価格の車両への需要については、同社もMAA同様に、引き続き高水準を維持するとの楽観的な見方も示した。
なお、電動自動車(xEV)の2023年の販売台数は3万8,214台で前年比69.2%増と急増し、消費者の関心が高まっている。うち、バッテリー式電気自動車(BEV)が1万159台、ハイブリッド電気自動車(HEV)が2万8,055台だった。2023年における新車販売台数に占めるシェアは4.8%だったが、政府によるEVの利用促進策およびメーカー各社の新モデルの投入から、xEVに対する需要が引き続き増大する、とMAAは見込んでいる。
- 注1:
- Sports Utility Vehicleの略。
- 注2:
- 日本で「ミニバン」と呼ばれるMulti-Purpose Vehicleの略。
- 注3:
- xEVとは、バッテリー式電気自動車 (BEV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車 (PHEV)、燃料電池電気自動車 (FCEV) を含むさまざまな電動自動車の総称である。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
エスター頼敏寧 - 2009年、ジェトロ入構。ジェトロ・クアラルンプール事務所にて2年間調査アシスタントを務め、2016年に再入構し現職。