中国、訪中外国人の支払い利便性向上に向けた取り組みを強化

2024年4月9日

中国では、アリペイ(支付宝)やWeChat(微信)ペイといったモバイル電子決済の普及により、キャッシュレス化が急速に進んでいる。一方で、中国のモバイル決済アプリは海外クレジットカードとひもづけにくい(注)、限度額を超えると支払いができないことや利用の際にトラブルが多いことを懸念して、利用したくないといった指摘がなされることもある。

これらの状況を踏まえ、国務院は3月7日、「決済サービスの最適化と支払いの利便性向上に関する意見(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。意見では、多層的で多様化した決済サービスシステムを整備し、高齢者や外国人向けに効率的かつ利便性の高い決済サービスを提供するため、以下の6項目の取り組みを打ち出している。海外クレジットカードから前述のモバイル電子決済などを含む幅広い内容となっている。

  1. 海外クレジットカードの利用環境を着実に改善する。商業地域、観光地、ホテル、空港や鉄道駅、病院などの重要な場所で、海外クレジットカードによる決済への対応を推進する。銀行や決済機関において海外クレジットカード対応端末などの整備を加速させる。
  2. 現金の使用環境の最適化を継続的に推進する。民生・渉外分野の経営主体が釣り銭を準備し、現金での支払いに対応できるよう指導する。現金決済を拒否する行為に対する取り締まりを強化し、空港やホテルなどに外貨両替機関を増設し、外貨両替のサービスを向上する。
  3. モバイル決済の利便性をさらに向上する。銀行、決済機関、清算機関の相互の連携を促し、決済サービスの改善、決済プロセスの最適化を推進する。飲食、宿泊、移動、観光、ショッピングなどに関わるプラットフォーム企業による訪中外国人のオンライン、オフライン決済の改善を支援する。
  4. 消費者が決済手段を選択できるようにする。一定の規模の商業地域、観光地、ホテル、空港や鉄道駅、病院など重要な場所では、モバイル決済、銀行カード、現金などの決済手段に対応する環境を整備しなければならない。
  5. 銀行の口座関連サービスを向上する。口座開設プロセスをさらに改善し、口座の種類・等級別管理を合理的に実施する。「グリーン通路」(ファストトラック)を開設し、高齢者、外国人向けのサービスを向上させる。
  6. 決済サービスの広報・普及を強化する。商業地域、観光地、ホテル、空港や鉄道駅、病院などに決済サービスに関する相談窓口を設置するよう奨励し、航空会社や旅行社に対して国際線、海外のビザセンター、港など、訪中外国人が集まる場所で中国国内での決済サービスの広報を行うよう指導する。

なお、在中国日系企業などで構成する中国日本商会は「中国経済と日本企業2023年白書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、外国人の訪中旅行者や中国居留者に対するキャッシュレス決済サービス利用の簡便化や、新規赴任時の銀行口座開設手続きの簡素化などを要望している。

アリペイなど、外国人取引限度額を引き上げ

前述の意見を受け、アリペイは2024年3月7日、外国人の取引限度額を1回当り1,000ドルから5,000ドルに、年間取引累計額を1万ドルから5万ドルにそれぞれ引き上げると発表した。

また、アリペイは3月18日、多言語翻訳サービスを、当初の中国語と英語の2言語からフランス語、ドイツ語、日本語など16言語に拡大した。16言語の翻訳サービスは、タクシー予約、ホテル予約、観光地のチケット予約、バスの乗車、為替レート照会などのサービスシーンで利用できる。

北京日報の3月7日付の報道によると、WeChatペイを運営している財付通支付科技(Tenpay)も、外国人の取引限度額を引き上げるほか、支払いプロセスをさらに簡素化すると表明した。詳細な身分情報を提出しなくとも海外クレジットカードとWeChatペイのひもづけを可能にするとともに、クレジットカードとのひもづけがなくとも少額チャージを利用すれば決済できるようにするとした。

地方政府も外国人の支払い利便性向上に取り組む

中国人民銀行は3月14日、「訪中外国人向けの決済ガイド(中文版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(英文版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。同ガイドでは、海外クレジットカード、モバイル決済、現金、銀行口座、デジタル人民元による決済の利用方法が具体的に説明されている。

四川省は2月7日、「四川省での外国人の消費支払いの利便性を高めるための若干の措置」を打ち出した(2024年2月29日付ビジネス短信参照)。同措置には、四川省内の商業地域や観光地、空港、鉄道駅などで、海外クレジットカード対応店舗を増やすため、同カードに対応するPOS端末を設置する店舗に対して、設置とメンテナンスの費用向けの補助金を支給することや、海外クレジットカードを利用する際に発生する手数料へも補助金を支給するなどの取り組みが盛り込まれた。

北京市は2月5日、北京首都国際空港と大興国際空港に訪中外国人向けの支払いサービスモデルセンターをオープンした。同センターでは、訪中外国人に対して、中国での支払い方法などに関する問い合わせ対応や、中国での決済方法などに関する広報を行っている。また、同市でも、商業地域、観光地、ホテルなどで海外クレジットカード対応のPOS端末の整備を進めている。

上海市は、市政府ウェブサイトに外国人の支払いに関するウェブサイト(上海市)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開設し、モバイル決済利用のプロセスなどを動画で分かりやすく解説しているほか、外国人からよく聞かれる問合せに対する回答を掲載している。また、同市は2023年11月、「決済サービスのシステム整備による外国人の消費環境改善に向けた実施プラン」を発表し、商業、文化・観光、空港・駅の3つのエリアにおける重要な店舗で海外クレジットカード対応のPOS端末を整備するなどの措置を打ち出している。


注:
WeChatペイとアリペイは2023年7月、海外クレジットカードと連携できるようシステムをアップグレードしたと発表した(2023年7月27日付ビジネス短信参照)。ただし、カード情報、身分情報などの登録・認証を行う際に障害が発生することがあり、カードとのひもづけの成功率が高くないとの指摘もある。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
張 敏(ちょう びん)
1999年、ジェトロ・北京事務所入構。2004年10月より調査業務に従事。