外貨不足で2022年の新車販売数は減少(エジプト)
日系含む現地生産車がシェア伸ばす

2023年8月24日

エジプトの自動車市場情報委員会(AMIC)によると、2022年の新車販売台数は前年比36.5%減の18万4,711台だった。2020年以降、同国の経済成長を背景に新車販売台数は年率25%以上の大幅増加を続け、2021年には29万846台に達したが、2022年は一転大幅減となった。

背景にあるのは、エジプトの外貨不足と、それに起因する輸入抑制政策だ。ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、主要輸入品の小麦や原油の価格が高騰したことに加え、エジプト経済の減速を見越して外国資本が逃避したため、深刻な外貨不足に陥っている。エジプト政府は外貨流出を防ぐべく、輸入の抑制に踏み切った。食料や燃料などの生活必需品の輸入に外貨が優先的に割り当てられ、完成車を含む嗜好(しこう)品の輸入は極めて難しい。また、製造業にとって不可欠な部品の輸入も滞る状況が続いている。

乗用車、バス、トラックいずれも減少

車種別にみると、2022年の新車販売台数は、乗用車、バス、トラックいずれも前年比30%超の減少率で、車種を問わずに輸入規制の影響を受けたことがうかがえる。最も販売台数が多いのは乗用車で13万3,857台だが、前年比の減少率も最も大きく、37.8%に達した(図1参照)。乗用車のうち、排気量1.5~1.6リットルの販売台数が最も多い36%を占めるが、前年比でみると、販売台数は約半数にとどまった。販売数を伸ばしたのは排気量1.0~1.5リットルのもので、約2,000台増加とした。

バスの新車販売台数は前年比32.8%減の1万7,344台だった。内訳をみると、観光用のミニバスと大型バスがいずれも微増となっている。新型コロナウイルス禍によりエジプトの観光業は大打撃を受けたが、2022年に入って回復の兆しが見られ、観光客数も順調に増加している。観光業の回復に伴う需要増が販売台数増加に寄与したといえるだろう。トラックは前年比32.8%減の3万3,570台で、いずれの型も前年比減だった。

図1:エジプト新車販売台数
エジプトにおける2019年から2022年の新車販売台数は以下のとおり。2019年はトラック34,874台、バス20,396台、乗用車127,443台、2020年はトラック37,013台、バス26,433台、乗用車167,792台、2021年はトラック49,957台、バス25,817台、乗用車215,072台、2022年はトラック33,570台、バス17,344台、乗用車133,857台。

出所:AMIC

輸入抑制が完成車輸入に打撃、国内組み立て車にも影響

2022年の新車販売台数のうち、輸入完成車は9万1,193台で、前年と比べ47.6%の大幅減となった(図2参照)。国内で生産される組み立て車についても、完成車ほどの顕著な減少はなかったものの、販売台数は前年比19.8%減の93,578台にとどまった。完成車の販売台数は2021年までは高い増加率を持続しており、組み立て車よりも販売台数が多かった。しかし、前述のとおり、輸入抑制政策の影響で輸入が困難になり、2022年には組み立て車と販売台数が逆転している。組み立て車の販売台数は完成車よりは減少幅が少ないものの、生産に必要な一部部品の輸入が滞ったために生産台数が減少、販売台数の減少につながった。

図2:エジプト組み立て車・完成車販売の推移
エジプト国内組立車・完成車販売の推移について示す。2019年国内組立車販売台数は90,295台、完成車販売台数は92,418台、2020年国内組立車販売台数は94,413台、完成車販売台数は136,825台、2021年国内組立車販売台数は116,650台、完成車販売台数は174,196台、2022年国内組立車販売台数は93,518台、完成車販売台数は91,193台。

出所:AMIC

苦境の中でプレゼンス維持する日系メーカー

2022年、エジプト経済は厳しい状況が続いた。前述の外貨不足のほか、政府は2022年1月~2023年1月に3度の通貨切り下げを実施し、エジプト・ポンドの対ドル価値は半減した(2023年1月12日付ビジネス短信参照)。また、輸入品の価格上昇などによって物価上昇が加速しており、消費者の購買意欲は減退している(2022年12月27日付ビジネス短信参照)。

乗用車販売台数のシェアを国・地域ブランド別にみると、日本車の2022年の販売台数は4万4,532台で、前年比26.1%減とはなったものの、首位を維持した。欧州、米国、韓国はいずれも前年比50%以上の減少だった。中国、インドはいずれもシェアを伸ばしており、経済情勢が厳しい中で新興国ブランドの人気が相対的に上昇していることがわかる(図3参照)。

図3:国・地域ブランド別の乗用車新車販売
2022年の国・地域ブランド別乗用車新車販売台数を国別に示すと、日本が44,532台で首位、中国が39,567台で二位、追うスフが24,441台で三位、韓国が17,860台で四位、米国が5,165台で五位、インドが2,292台で六位となっている。

出所:AMIC

ブランド別の新車販売(乗用車とバス、トラックを含む)をみると、シボレーが17.6%のシェアを占め、前年に引き続き2022年もトップを維持した(図4参照)。日本勢では2位の日産(13.0%)、3位のスズキ(11.0%)がいずれもシェアを伸ばしている。日産はエジプトに自社工場を構えて現地生産を行っており、乗用車全体では16.1%、組み立て車に限れば36.8%で、いずれも首位のシェアを持つ(図5、6参照)。日本勢以外では、中国のチェリー(奇瑞汽車)が大きくシェアを伸ばした。チェリーはエジプトの地場製造業者ガブールグループと提携して現地生産を行っている。経済情勢が厳しく、完成車の輸入が困難な中、比較的安価な現地生産車のシェアが伸びていることがうかがえる。

図4:ブランド別マーケットシェア・全車種合計
2021年と2022年のブランド別販売シェアを示すと、シボレーが2021年17.6%、2022年17.6%、日産が2021年9.2%、2022年13.0%、スズキが2021年7.5%、2022年11.0%、チェリーガブールが2021年5.6%、2022年10.2%、トヨタが2021年9.0%、2022年8.2%、MGが2021年8.1%、2022年6.1%、ヒュンダイが2021年8.7%、2022年5.6%、キアが2021年5.7%、2022年4.4%、フィアットが2021年4.8%、2022年3.2%、BYDが2021年2.3%、2022年2.9%、ルノーが2021年2.9%、2022年が2.8%、プジョーが2021年4.4%、2022年2.1%、その他が2021年14.2%、2022年12.9%となった。2021年と2022年のブランド別販売シェアを示すと、シボレーが2021年17.6%、2022年17.6%、日産が2021年9.2%、2022年13.0%、スズキが2021年7.5%、2022年11.0%、チェリーガブールが2021年5.6%、2022年10.2%、トヨタが2021年9.0%、2022年8.2%、MGが2021年8.1%、2022年6.1%、ヒュンダイが2021年8.7%、2022年5.6%、キアが2021年5.7%、2022年4.4%、フィアットが2021年4.8%、2022年3.2%、BYDが2021年2.3%、2022年2.9%、ルノーが2021年2.9%、2022年が2.8%、プジョーが2021年4.4%、2022年2.1%、その他が2021年14.2%、2022年12.9%となった。

出所:AMIC

図5:ブランド別マーケットシェア・乗用車
2021年と2022年の乗用車のブランド別販売シェアを示すと、日産が2021年10.4%、2022年16.1%、チェリーが2021年7.6%、2022年が14.1%、スズキが2021年7.3%、2022年10.5%、MGが2021年11.0%、2022年が8.5%、ヒュンダイが2021年11.6%、2022年が7.3%、トヨタが2021年8.6%、2022年7.2%、キアが2021年7.7%、2022年6.0%、フィアットが2021年5.9%、2022年4.2%、BYDが2021年3.1%、2022年4.0%、ルノーが2021年3.8%、2022年が3.8%、プジョーが2021年5.9%、2022年2.9%、シボレーが2021年4.0%、2022年2.4%、その他が2021年10.1%、2022年10.5%となった。

出所:AMIC

図6:ブランド別マーケットシェア・現地組み立て乗用車
2021年と2022年の現地組立乗用車のブランド別販売シェアを示すと、日産が2021年34%、2022年41%、チェリーが2021年31%、2022年が33%、BYDが2021年11%、2022年13%、ヒュンダイが2021年5%、2022年9%、トヨタが2021年2%、2022年1%、LADAが2021年4%、2022年1パーセント、ジープが2021年3%、2022年1パーセント、シボレーが2021年9%、2022年1%、キアが2021年1%、2022年0%となった。

出所:AMIC

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。