半導体不足による販売不振が続くも、電動車のシェアは拡大(オランダ)

2023年2月27日

新型コロナウイルス感染拡大により停滞していたオランダ経済は2021年春以降、急回復に転じたが、半導体不足による供給難から乗用車販売の回復は遅れ、2021年の乗用車の新車登録台数は前年比9.2%減の32万2,831台と前年に引き続き減少した。バッテリー式電気自動車(BEV)も14.7%減の6万957台と大幅減となったが、プラグインハイブリッド車(PHEV)が2倍の3万615台となった。

2021年の新車登録台数、ガソリン車のシェアは5割下回る

オランダ自転車・自動車工業会(RAI)は2022年1月、2021年のオランダの乗用車新車登録台数を前年比9.2%減の32万2,831台と発表した(図1参照)。2019年の44万5,217台から2年連続での減少となった。これは半導体不足による供給難が深刻で、注文しても自動車の納品が行われなかったことによる。さらに政府は2030年までに新車乗用車をゼロ・エミッションにする目標(2021年7月2日付地域・分析レポート参照)を掲げていることから、脱ガソリン・ディーゼル車の動きが進み、それらの車種の販売が急速に減少していることなどがある(図2参照)。

図1:オランダの新車登録台数の推移
2016年38万2,514台、2017年41万4,306台、2018年44万3,530台、2019年44万5,217台、2020年35万5,431台、2021年32万2,831台。2016年以降の小型商用車(LCV)の新車登録台数は、2016年7万429台、2017年7万3,471台、2018年7万9,173台、2019年7万6,251台、2020年6万395台、2021年6万8,433台。

出所:乗用車はオランダ自転車・自動車工業会(RAI)、小型商用車は欧州自動車工業会(ACEA)

2021年の新車登録台数を燃料別にみると、台数はガソリン車が前年比約28%、ディーゼル車が約45%減少し、シェアもそれぞれ57.7%、3.7%から45.6%、2.2%へ低下した。その分、バッテリー式電気自動車(BEV)またはハイブリッド式電気自動車(注)を選択する人が増えており、BEVのシェアは19.8%、ハイブリッド式電気自動車は31.8%となり、両者を合わせると51.6%となった。

図2:新車乗用車の燃料別シェアの推移
2016年ガソリン車71.8%、ディーゼル車18.9%、液化石油ガス(LPG)車0.2%、ハイブリッド式電気自動車7.8%、バッテリー式電気自動車(BEV)1.0%、2017年ガソリン車75.0%、ディーゼル車17.4%、液化石油ガス(LPG)車0.3%、ハイブリッド式電気自動車5.0%、バッテリー式電気自動車(BEV)1.9%、2018年ガソリン車75.4%、ディーゼル車12.9%、液化石油ガス(LPG)車0.2%、ハイブリッド式電気自動車5.9%、バッテリー式電気自動車(BEV)5.4%、2019年ガソリン車71.0%、ディーゼル車7.3%、液化石油ガス(LPG)車0.1%、ハイブリッド式電気自動車7.6%、バッテリー式電気自動車(BEV)13.8%、2020年ガソリン車57.7%、ディーゼル車3.7%、液化石油ガス(LPG)車0.5%、ハイブリッド式電気自動車17.6%、バッテリー式電気自動車(BEV)20.5%、2021年ガソリン車45.6%、ディーゼル車2.2%、液化石油ガス(LPG)車0.7%、ハイブリッド式電気自動車31.8%、バッテリー式電気自動車(BEV)19.8%

出所:オランダ自転車・自動車工業会(RAI)

一方、2021年の小型商用車(LCV)の新車登録台数は前年比13.3%増の6万8,433台だった。また、オランダ自転車・自動車商業組合(BOVAG)の発表によると、2021年の中古自動車の販売台数は0.9%減の200万8,222台だった。

フォルクスワーゲンが17年連続1位

2021年の乗用車新車登録台数をメーカー・ブランド別にみると、フォルクスワーゲン(VW)が17年連続1位(3万1,059台、市場シェア:9.6%)で、2位も前年と同じ、起亜(3万28台、9.3%)だった(表1参照)。起亜は、「ニロ」の販売が前年に引き続き好調だった。3位はトヨタ(2万3,022台、7.1%)で前年の4位から順位を上げた(表1参照)。

表1:メーカー、ブランド別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー、ブランド 2020年 2021年
台数 台数 シェア 前年比
VW 44,552 31,059 9.6 △ 30.3
起亜 26,781 30,028 9.3 12.1
トヨタ 22,848 23,022 7.1 0.8
プジョー 23,910 20,283 6.3 △ 15.2
シュコダ 16,514 20,215 6.3 22.4
BMW 17,988 18,662 5.8 3.7
フォード 19,329 18,219 5.6 △ 5.7
ルノー 20,173 16,242 5.0 △ 19.5
ボルボ 16,170 15,965 4.9 △ 1.3
オペル 20,375 15,361 4.8 △ 24.6
合計(その他含む) 355,431 322,831 100.0 △ 9.2

出所:オランダ自転車・自動車工業会(RAI)

モデル別では、起亜「ニロ」(1万812台、市場シェア:3.3%)、ボルボ「XC40」(8,448台、2.6%)、VW「ポロ」(8,009台、2.5%)がトップ3で、起亜「ピカント」(7,929台、2.5%)、シュコダ「エニヤック」(6,621台、2.1%)と続いた(表2参照)。

表2:2021年のモデル別新車登録台数(単位:台、%)
メーカー モデル 台数 シェア
起亜 ニロ 10,812 3.3
ボルボ XC40 8,448 2.6
VW ポロ 8,009 2.5
起亜 ピカント 7,929 2.5
シュコダ エニヤック 6,621 2.1
合計(その他含む) 322,831 100.0

出所:オランダ自転車・自動車工業会(RAI)

日系ブランドの新車販売台数は前年比7.6%減の4万7,041台となり、新車登録台数全体に占めるシェアは14.6%で前年から0.3ポイント上昇した(表3参照)。うち、トヨタのみが0.8%増と健闘したが、その他の日系メーカーは軒並み減少した。

表3:日系ブランド別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド 2020年 2021年
台数 台数 シェア 前年比
トヨタ 22,848 23,022 7.1 0.8
マツダ 7,092 6,780 2.1 △ 4.4
日産 8,420 6,092 1.9 △ 27.6
スズキ 6,084 5,918 1.8 △ 2.7
三菱 4,057 3,732 1.2 △ 8.0
ホンダ 1,253 802 0.2 △ 36.0
レクサス 916 527 0.2 △ 42.5
スバル 265 168 0.1 △ 36.6
合計 50,935 47,041 14.6 △ 7.6

PHEVの登録台数が大幅増、BEVは減少

オランダ企業庁(RVO)によると、2021年のBEVの新車販売台数は前年比14.7%減の6万957台だった。需要は大きかったが、前述の通り、半導体不足から供給できなかったことによる。国内で登録された2021年末時点のBEVの台数は24万3,662台となり、前年末の17万2,524台から41.2%増となった。RAIによれば、2021年に最も登録されたBEVは同年に発売を開始させたシュコダのエニヤックで6,621台、BEV新車全体の10.3%を占めた(表4参照)。

表4:2021年のモデル別BEV新車登録台数(単位:台、%)
メーカー モデル 台数 シェア
シュコダ エニヤック 6,621 10.3
起亜 ニロ 5,879 9.2
VW ID.4 4,215 6.6
フォード マスタング マッハE 4,142 6.5
BMW X3 2,733 4.3

出所:オランダ自転車・自動車工業会(RAI)

2021年のPHEVの新車登録台数は3万615台で、前年の1万4,884台から倍増した。国内で登録された2021年末時点のPHEVの台数は前年比40.8%増の14万9,196台となった。燃料電池車(FCEV)は2021年に110台(23.1%減)が登録され、同年末の国内の登録台数は488台となった。

充電インフラについては、2021年末にEV充電ポイントが8万2,876基(公共、セミプライベート)となり、前年末の6万3,586基から30.3%増加した。さらに急速充電ポイント(公共、セミプライベート)も2020年末の2,027基から27.1%増加して2,577基となった。

電動車の優遇措置は2025年で終了

オランダ政府は電動車の普及に向けて、優遇措置を導入している。主な内容は次の通り。

  • 自動車税(MRB)の減免:BEVは2024年まで課税されない。2025年は75%が減税される。PHEVは2024年まで50%減税、2025年は25%減税。
  • 自動車登録税(BPM)の減免:二酸化炭素(CO2)排出量に応じて課税。BEVは2024年まで課税されない。なお、PHEVはCO2を排出することから課税対象。
  • 個人用BEVに対する補助金制度(SEPP):航続距離120キロ以上のBEVの購入またはリースに対して補助金を支給。2022年の補助額は、新車の場合が3,350ユーロ、中古の場合が2,000ユーロ(ただし、申込殺到のため、2022年分は5月30日に受付終了)。2023年の補助額は、新車の場合が2,950ユーロ、中古の場合が2,000ユーロ。新車価格が1万2,000ユーロ以上、4万5,000ユーロ以下が補助対象となる。2023年の補助金の総額は新車が6,700万ユーロ、中古車が3,240万ユーロ。本制度は2020年7月1日から2025年7月1日まで実施される。詳細はRVOのウェブサイト(オランダ語)がいぶさいトへ、新しいウィンドウで開きます で確認できる。

また、オランダでは、会社が乗用車を購入またはリースして従業員に支給する「カンパニーカー」制度が一般的だが、BEVを購入する場合は購入価格の一部を経費として計上できるインセンティブがある。同時に、カンパニーカーを利用する従業員に対し、車両価格の一部は所得とみなされて現物給付税(BiK)の課税対象になるが、BEVについては、通常車両よりも低い税率が適用されるインセンティブがある。2022年以降のBEVの課税状況は次の通り。

  • 2022年:3万5,000ユーロまでは16%、3万5,000ユーロ超の部分は22%課税
  • 2023~2024年:3万ユーロまでは16%、3万ユーロ超の部分は22%課税
  • 2025年:3万ユーロまでは17%、3万ユーロ超の部分は22%課税
    このインセンティブは年々縮小される傾向にあり、2025年に終了する予定。

注:
マイクロハイブリッド電気自動車、ハイブリッド車、PHEV車の合計。
執筆者紹介
ジェトロ・アムステルダム事務所長
下笠 哲太郎(しもがさ てつたろう)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ソウル事務所、海外調査部グローバルマーケティング課、サービス産業課、商務・情報産業課長、EC流通ビジネス課長、プラットフォームビジネス課長などを経て、2021年9月から現職。