輸出不振に直面し、政府が打開策を模索(韓国)

2023年2月20日

韓国の輸出が不振に陥っている。

確かに、2022年通年の輸出でこそ、前年を上回る実績だった。具体的には、前年比6.1%増の6,837億ドルを記録した。しかし、月を追うごとに勢いが衰えているのだ。月別に輸出の前年同月比を追うと、2021年5月をピークに伸び率は低下傾向だ。2022年10月以降は、4カ月連続してマイナスを記録している(図参照)2022年の輸出を半期別にみると、上半期(1~6月)は前年同期比15.6%増の3,505億ドルだったのに対し、下半期(7~12月)は同2.4%減の3,332億ドル。減少に転じたかたちだ。さらに、2023年1月は前年同月比16.6%減と、大幅に減少している。輸出不振がさらに鮮明になったことがわかる。

なお、貿易収支は、2022年通年で赤字だった。これは輸入が、同18.9%の7,312億ドルと大幅に増加したことを受けた結果だ。貿易赤字を計上したのは、リーマン・ショック時の2008年以来だ。

図:韓国の対世界輸出の推移(月ベース)
2021年1月以降の韓国の対世界輸出を月別にみると、2022年3月に638億ドルを記録した後、減少傾向にあり、直近の2023年1月は463億ドルに留まった。対世界輸出の前年同月比をみると、2021年5月に45.5%増を記録した後、低下傾向にあり、2022年10月以降はマイナスが続いている。

注:2023年1月は速報値。
出所:韓国貿易協会データベース

半導体価格下落から、輸出が不調に

韓国の総人口は5,163万人(2022年中位推計、出所:統計庁)。内需規模が必ずしも大きいとは言えない。そのため、経済成長には輸出の役割が重要だ。統計庁のデータベースによると、韓国の輸出依存度(名目GDPに対する通関ベースの輸出額の比率)は、2021年時点で35.6%。主要国の中ではドイツ(38.6%)と並び、高めの水準になっている。ちなみに、同データベースなどによると、輸出依存度(同年)は、中国19.0%、日本15.0%、米国7.6%だ。いずれも、韓国よりも大幅に低い。輸出依存度が比較的高いというのは、輸出の好不調が経済に大きく影響する構造と言い換えることもできる(注1)。

足元の輸出が不振な最大の原因は、主力品目の半導体の輸出減少だ(注2)。前年同期比106億ドル減(15.0%減)と、輸出総額の減少幅(80億ドル)を上回るほどだった。半導体輸出がここまで減少したのは、半導体価格の下落によるところが大きい。半導体メモリー(HS 854232)の輸出単価は、2022年半ばから下落が鮮明になっている。2022年で最も高かったのは、5月。その当時のキログラム当たり2万1,700ドルが、12月には同1万400ドルと半分以下に下がった。市況回復には時間が掛かる見通しだ。かと言って、半導体に代わって輸出が好調な品目も見当たらない。そのため、当面は輸出不振が続きそうだ。

ちなみに、韓国銀行(中央銀行)が2022年11月24日に発表した経済予測では、2023年の実質GDP成長率は1.7%にとどまる。韓国では2%を切る経済成長率は低成長とみられがちだ〔実際、2010年以降で2%未満だったのは、新型コロナウイルス禍に見舞われた2020年(マイナス0.7%)1年だけだった〕。2023年の経済成長率が低水準になるとした大きな理由は、輸出の不振が続くとみたことにある。同行では、同年の財貨・サービス輸出(実質GDPベース)が0.7%増(上半期は前年同期比3.7%減、下半期は同4.9%増)にとどまるとみている。

輸出先の多角化、新しい輸出品目の創出に注力

昨今の輸出不振に対して、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は強い危機感を抱いている。

尹大統領は2023年1月1日、国民向けに「新年の辞」を発表した。主に言及されたのが経済分野だ。その中でも、幾度となく輸出の重要性を強調したのが特に印象的だった。まず、世界経済や韓国経済が直面する課題に言及した後、「複合危機は輸出で突破しなければならない。輸出は韓国経済の根幹で、雇用の源泉」と述べ、輸出の重要性を強調した。さらに、「韓国の輸出戦略は過去とは変えなければならない」「全ての外交の中心を経済に置き、輸出戦略を直接構築する」と決意表明している。

では、政府として具体的にどのような輸出政策を取ろうとしているのだろうか。産業通商資源部(「部」は日本の「省」に相当)は2022年12月27日、「2023年 産業通商資源部業務報告」を発表した。この報告には、2023年に実施予定の政策がまとめられている。報告に付されたタイトルには、当年中に「輸出6,800億ドル以上」「設備投資100兆ウォン(注3)」「対内直接投資300億ドル以上の誘致」を目標にするとの文言が躍る。ここでもまず「輸出」に言及していることから、特に輸出の回復に注力する方針を宣言したものといえる。

報告の内容は、4つの柱で構成されている。その第1の柱もやはり、「政府を挙げて輸出増を実現」だ。輸出回復を最優先する姿勢を、さらにここでも示している。そのための方策として挙げたのが、次の項目だ。

  • 貿易金融、認証、マーケティングという「輸出に伴う3大隘路」を集中的に解消する。
  • 貿易に携わる若年層育成とデジタル貿易拡大により、輸出の裾野を拡大する。
  • ASEAN・中南米・アフリカなどの新興国、中東などの資源国に対して、輸出を支援。これにより輸出先の多角化を進める。
  • 原発、防衛産業、プラントの「3大有望分野」で、輸出拡大を推進する。
  • 大統領主催の「輸出戦略会議」を通じ、政府を挙げて輸出支援戦略を推進する。

以上の項目には、さまざまな次元の対策が含まれている。(1)輸出先、(2)輸出品目の2つの視点で整理すると、次のようになろう。

  1. 輸出先の多角化

    まず輸出先については、中国に対する輸出依存度を低める狙いが込められていると読み取れる。ちなみに、対中輸出が輸出総額に占める割合(2022年)は22.8%。これに香港を加えると26.8%と、4分の1を超過する。 中国に代わる輸出先として、韓国政府が特に注目しているのが、ASEANと中東だ。 ASEANについては、文在寅(ムン・ジェイン)前政権も、「新南方政策(注4)」を展開してきた。尹政権になってからは、「新南方政策」という用語は使用していない。しかし、2022年12月28日に「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」を発表。前政権同様に、ASEAN諸国との関係強化を図る考えを示した。実際、輸出総額に占めるASEAN向け輸出の割合も上昇傾向にある(注5)。ASEANは中国依存度を低める上で、切り札になり得る地域といえよう。 中東については、尹大統領は2023年1月に早速、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問。経済のさまざまな分野で、両国が協力していくことで合意している(2023年1月18日付ビジネス短信参照)。ただし、中東向け輸出が輸出総額に占める割合は2.6%(2022年)にすぎない。その存在感が急速に高まることは期待しづらいだろう。

  2. 有力輸出品目の育成

    産業通商資源部は2022年8月31日、「輸出競争力強化戦略」を発表した。この戦略で、前述の原発、防衛産業、プラントの3業種について「大規模輸出プロジェクトの成果を上げる」と、決意を示している。同時に、「主力産業で他国との技術格差を維持する」「バイオ医薬品、車載電池、消費財などの輸出有望産業の成長を支援する」と記載。原発、防衛産業、プラントとともに、これらの業種の輸出を強化する考えだ。

    とはいえ、新しい輸出品目を育成していこうというのは、尹政権になって初めて打ち出された政策ではない。例えば、産業通商資源部が毎年、年初に発表する前年の輸出入実績(速報値)をみると、2020年以降は主力の15品目(注6)の輸出入実績とともに、「新規有望3品目(有機EL、ソリッド・ステート・ドライブ、マルチチップパッケージ)」「5大有望消費財(農水産食品、化粧品、ファッション・衣類、生活・乳児用品、医薬品)」の輸出入実績が別途、掲載されている。それ以前にも、品目に若干の違いがあるものの、輸出有望品目が別掲されていた。こうしたことからも、新規品目の輸出拡大を目指した歴代政権の姿勢を垣間見ることができる。

    にもかかわらず、近年、主要輸出品目には変化があまりみられない。実際、韓国の主力輸出品目(韓国独自の分類体系のMTI3桁ベース)の変遷をみると、2000年以降はほぼ同じ顔ぶれだ(表参照)。意気込みがあっても、実際に有力品目に成長させるのは難しいということだろう。

    尹政権も、このことに危機感を持っている。そこで打ち出されたキーワードが「産業大転換」だ。産業通商資源部は2023年1月26日、「産業システムの根本的改善のための産業大転換を本格推進」と題したプレスリリースを発表した。これは、「産業大転換フォーラム座長会議」の第1回会議の結果をまとめたものだ。この会議は、2023年上半期に発表予定の「産業大転換戦略」策定に当たって設けられた。会議では政府や専門家、経済団体の関係者が参加・議論した。

プレスリリースによると、「産業大転換」の必要性について、参加者から次のような見解が示された。

  • 2000年代以降、韓国の産業は「失われた20年」に陥っている。主要輸出品目に変わりなく、新しい主力輸出産業が育たなかった。
  • 半導体などを除いて、主力産業が中国企業の追い上げに直面している。特に中国市場では、半導体メモリーなどの限られた品目だけが、かろうじて競争力を保っているにすぎない。
  • 10年後の主力産業の姿が見えない。このままでは、韓国経済は現在の水準で停滞する。産業立国の地位を失いかねない。

韓国政府の思惑どおり、産業構造は転換されるのか、また新たな有力な輸出品目が生まれるのか。今後の政策が注目される。

表:韓国の輸出額トップ10品目の変遷
順位 1977年 1990年 2000年 2010年 2022年
1 衣類 衣類 半導体 半導体 半導体
2 船舶海洋構造物および部品 半導体 コンピュータ 船舶海洋構造物および部品 石油製品
3 自動車 自動車 自動車
4 木材類 映像機器 石油製品 フラットパネルディスプレー・センサー 合成樹脂
5 魚類 船舶海洋構造物および部品 船舶海洋構造物および部品 石油製品 自動車部品
6 音響機器 コンピュータ 無線通信機器 無線通信機器 鉄鋼板
7 半導体 音響機器 合成樹脂 自動車部品 フラットパネルディスプレー・センサー
8 鉄鋼板 鉄鋼板 鉄鋼板 合成樹脂 精密化学原料
9 レールおよび鉄構造物 人造長繊維織物 衣類 鉄鋼板 船舶海洋構造物および部品
10 その他繊維製品 自動車 映像機器 コンピュータ 無線通信機器

注:品目分類は韓国独自の分類体系のMTI3桁ベース。
出所:韓国貿易協会データベース


注1:
輸出とGDPとの関係をみるために、実質GDP成長率と各需要項目(実質値)の増減率とで、相関係数(2010~2022年)を取ってみた。その結果、(1)財・サービスの輸入(0.82)、(2)民間最終消費支出(0.80)、(3)財・サービスの輸出(0.73)の順に相関係数が高かった。輸出入とも、実質GDP成長率との間で高い相関関係を示したかたちだ。ここからも、輸出の好不調とマクロ経済の好不調とは密接な関係にあるといえよう。
ちなみに、これらに次いで相関係数が高かったが設備投資(0.51)だ。しかし、前述の品目に比べて相関関係は格段に低い水準にとどまる。
注2:
半導体は韓国最大の輸出品目だ。MTI3桁ベース(韓国独自の分類体系)で2022年下半期の輸出をみると、輸出総額の18.1%を占めた。
注3:
100兆ウォンは、約10兆円。1ウォン=約0.1円。
注4:
新南方政策は、ASEANやインドとの関係強化を図る目的で前政権が進めていた。
注5:
輸出総額に占めるASEAN向け輸出の割合は、2022年(通年)で18.3%。米国の16.1%をしのぐ水準に達した。
注6:
15品目は具体的に次のとおり。
船舶、無線通信機器、一般機械、石油化学、鉄鋼製品、半導体、自動車、石油製品、ディスプレー、繊維、家電、自動車部品、コンピュータ、バイオヘルス、車載電池。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。

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