議席数減少と区割り再編
米NY州連邦下院選で共和党善戦(前編)

2023年2月10日

近年は民主党寄りとされているニューヨーク(NY)州だが、2022年11月8日に投開票が行われた中間選挙の連邦下院選では、共和党が善戦した。今回の下院選は、10年ぶりに選挙区割りが再編されてから初の選挙となった。結果はNY州の全26議席中、民主党15議席、共和党11議席と、共和党は過半数には達していないものの、議席数を積み増した。区割りが再編される以前は全27議席で、民主党19議席、共和党8議席だった。民主党の牙城となっていたはずのNY州で共和党が躍進したのはなぜか。本稿前編では、区割り再編に至るまでの経緯を整理する。後編では、共和党が民主党から奪取した4選挙区での要因と、米国全体の政党支持傾向との関係を分析する。

NY州の連邦下院議席数が1議席減少

2022年の中間選挙では、NY州の連邦下院議席が27議席から26議席に減少した。米国では10年に1度行われる国勢調査の結果に基づいて、全435の下院議席が各州の人口に比例して割り当てられるが、米国商務省センサス局の2020年の国勢調査の報告(2021年4月)で、カリフォルニア、イリノイ、ミシガン、NY、オハイオ、ペンシルベニア、ウェストバージニア州では、他州に比べて人口増加率が低い傾向が続いており、それぞれ連邦下院議席を1議席ずつ減らすべきとされた(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。これにより、NY州では選挙区割りを再編する必要が生じることとなった。

州議会による選挙区割り地図の再編成

2022年のNY州の選挙区割り草案は、民主党員のみによって編成され、共和党員の賛成票が1票も入らないまま、民主党が多数派を占める同州議会で可決した(注)。この区割りは、26区(議席)中、民主党優位となる22区と、共和党優位の4区から構成されていた(「ポリティコ」2022年4月21日)。そのため、選挙の公平性を求める共和党派の有権者らは2022年2月3日、民主党のキャシー・ホークル知事とNY州選挙管理委員会、州議会人口統計調査局などを提訴した(裁判所資料参照PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.25MB))。

NY州裁判所は3月31日、この区割りが州の憲法に反するとして、州議会に4月11日までに区割りを再編成して提出するよう言い渡した(AP通信2022年3月31日)。その後、州議会は再編後の区割りは提出せず、裁判所に命令を延期するよう求めた。これに対して、裁判所は4月18日、区割り再編は迅速に解決する必要性があるという観点から、区割り編成作業を専門家に委託すると発表した。区割り再編成の間、6月27日に予定されていた連邦下院と州議会上院の予備選挙は8月23日まで延期されることとなった(2022年8月25日付ビジネス短信参照)。

州外の専門家による選挙区割り地図の再編成

最終的に採用されることとなった区割りは、裁判所から任命されたペンシルベニア州カーネギーメロン大学で政治博士研究員を務めるジョナサン・セルバス氏により作成され、5月16日に発表された。同氏によると、この区割りは、寄せられた数々の証言と草案の中で、公平と判断されたものだけを考慮し作成した(セルバス氏ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。

NY州の選挙区を1つ減らすという課題に関し、新たな区割りでは同州の北西に位置する第27区を取り去り、周辺の第23、24、25、26区に吸収した。うち、第23、24区の議席はもともと共和党、第25、26区は民主党が保有しており、今回の中間選挙の結果でも、党派に変更は生じなかった。取り去られた第27区の議席は共和党だったため、共和党は1選挙区を失うこととなった。

セルバス氏が新たに作成した区割りに基づく中間選挙の結果は、これまで民主党優勢だった第3、4、17、19区の4区が共和党に奪取されることとなった(添付資料図参照)。逆に、共和党が優勢だった区が民主党に奪取される例は1区もなかった。

選挙分析・予想で定評のあるバージニア大学政治センターが予備選挙前の5月26日に発表した、セルバス氏による新しい地図を基にした議席獲得予想外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、第19区は「共和党寄り」と予想していたが、第3地区は「どちらになる可能性もある」、第17区は「民主党寄り」で、第4区は「おそらく民主党」としていた。選挙の専門家の予想を覆してこれら4つの選挙区で共和党が勝利した要因は後編で分析する。

図:2022年NY州中間選挙の連邦下院選で共和党が民主党から奪取した選挙区
図はニューヨーク州の地図のうち、共和党が民主党から奪取した4つの選挙区を示したもの。第3、4区はニューヨーク市の東側に隣接して横たわるロングアイランド地域内に位置する。また、第17、19区はアップステート地域の南部に位置する。

出所:NY州議会人口統計調査・選挙区再編委員会の情報を基にジェトロ作成


注:
NY州議会が編成して既に可決していた選挙区割りに関しては、同州の最高裁判所に相当する控訴裁判所が2022年4月27日、民主党にとって有利に働くと主張する共和党の意見に同意した。また、政治的駆け引きを排除することを目的に2014年に改正された州憲法にも違反するとして、この選挙区割りの採用を取り下げた。さらに、この区割りは独立区割り委員会で合意に至ることができなかったため、そもそも議員は草案を可決する権限がなかったとした(「NPR」2022年4月27日)。

米NY州連邦下院選で共和党善戦

  1. 議席数減少と区割り再編
  2. 議席奪取4選挙区の動き
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
吉田 奈津絵(よしだ なつえ)
在米の公的機関での勤務を経て2019年からジェトロ入構。