議席奪取4選挙区の動き
米NY州連邦下院選で共和党善戦(後編)

2023年2月20日

近年は民主党寄りとされている米国ニューヨーク(NY)州だが、2022年11月8日に投開票が行われた中間選挙の連邦下院選では、共和党が民主党から4議席を奪取し善戦した。その要因を分析するに当たり、本稿の前編では、新たな選挙区割り編成に至るまでの経緯を整理した。後編では、共和党が民主党から奪取した4つの選挙区それぞれをクローズアップし、投票結果に影響を与えたと考えられる要因と、米国全体の政党支持傾向などを分析する。

再編後のNY州の選挙区割りで、第3、4区はニューヨーク市の東側に隣接して横たわるロングアイランド地域内に位置する。第17、19区はアップステート地域の南部に位置する(図1参照)。以下ではまず第3、4区を分析し、その後、第17、19区を分析する。

図1:2022年NY州中間選挙の連邦下院選で共和党が民主党から奪取した選挙区
図はニューヨーク州の地図のうち、共和党が民主党から奪取した4つの選挙区を示したもの。第3、4区はニューヨーク市の東側に隣接して横たわるロングアイランド地域内に位置する。また、第17、19区はアップステート地域の南部に位置する。

出所:NY州議会人口統計調査・選挙区再編委員会の情報を基にジェトロ作成

第3、4区含むロングアイランド地域は「赤い波」

ロングアイランド地域の選挙区は大きく4つに分かれ、北東部が第1区、南東部が第2区、北西部が第3区、南西部が第4区となっている。2022年中間選挙で共和党が第3と第4区を民主党から奪取したことにより、もともと共和党議席だった第1と第2区と合わせて、ロングアイランド地域の4区全てが共和党区となった。

選挙区割り再編前にはロングアイランド北西部の広い範囲を占めていた第3区は、再編後にその東側に位置する共和党支持層の多い地域の一部を失った。一方で、南西部に位置する第4区の区割りは再編前後で大きな変化はなかった。今回の第3、4区の下院選挙の投票結果は図2、3のとおりで、特に第4区で接戦だった。両区に「赤い波」(注1)が寄せた結果と言える。

図2: 2022年中間選挙NY州連邦下院選第3区の投票結果
「ジマーマン氏(民主党)」は12万2,229票で全体の45.9%、「サントス氏(共和党)」は14万3,896票で全体の54.1%となっている。

出所:NY州選挙管理委員会のデータを基にジェトロ作成

図3:2022年中間選挙NY州連邦下院選第4区の投票結果
「ギレン氏(民主党)」は13万712票で全体の48.2%、「デスポジト氏(共和党)」は14万484票で全体の51.8%となっている。

出所:NY州選挙管理委員会のデータを基にジェトロ作成

「赤い波」の原動力はゼルディン氏と犯罪防止策か

NY州第1区選出で現職の連邦下院議員を務めながら、共和党からNY州知事候補に立候補し、キャシー・ホークル知事(民主党)と接戦の末に敗北したリー・ゼルディン氏は、第3区で勝利したジョージ・サントス氏(共和党)と第4区で勝利したアンソニー・デスポジト氏(共和党)への支持を表明していた。

また、ゼルディン氏の知事選選挙対策委員会には、第3、4区が位置するナッソー郡の郡長官が委員の1人として含まれていた。共和党が今回奪取した第3、4区の境界付近にあるナッソー郡イーストメドウは、ゼルディン氏の出身地でもある。ゼルディン氏は自身の知事選立候補に当たり、ナッソー郡の保安警察官同志会(COBA)など計52に及ぶ地元の警察関連団体から推薦を得ており、これら地域でのゼルディン氏の影響の強さがうかがえる。ゼルディン氏は選挙戦で犯罪防止を最も重要な政策としていた(注2)。

選挙後に複数の米国メディアは、近年の犯罪件数の増加がこれまで民主党支持だった有権者を共和党支持に導いたと評価した。今回の選挙では、共和党に投票したアジア系市民も多く、理由は犯罪対策に期待したためとの分析もある(「ニューヨーク・ポスト」紙電子版2022年11月20日)。新型コロナウイルス禍から、アジア系市民に対するヘイトクライムが増加しているが、民主党には解決できなかった課題を共和党に期待した可能性がある。

第3区で当選したサントス氏が最も重要としている政策は、インフレ問題に取り組むことだったが、その次に、安全な社会をつくることとしていた。また、第4区で当選したデスポジト氏は元ニューヨーク市警察(NYPD)刑事の経歴を持つなど、治安問題の解決が期待されていたとみられる。

こうしたことから、第3、4区では、区割り編成が共和党による議席奪取を導いたというよりも、有権者の関心が高い治安改善などの社会課題が選挙結果により大きな影響を及ぼしたと考えられる。

第17、19区は区割り再編の影響が顕著に

一方、ニューヨーク市の北側に広がる州北部のアップステート地域に位置する第17、19区では、大幅かつ複雑に再編された選挙区割りが大きな要因になった可能性がある。両区の選挙結果は図4、5のとおり、前述の第3、4区と同様、接戦となった。

図4:2022年中間選挙NY州連邦下院選第17区の投票結果
「マロニー氏(民主党)」は14万1,597票で全体の49.7%、「ローラー氏(共和党)」は14万3,384票で全体の50.3%となっている。

出所:NY州選挙管理委員会のデータを基にジェトロ作成

図5:2022年中間選挙NY州連邦下院選第19区の投票結果
「ライリー氏(民主党)」は12万1,457票で全体の48.6%、「モリナロ氏(共和党)」は12万8,326票で全体の51.4%となっている。

出所:NY州選挙管理委員会のデータを基にジェトロ作成

第17、19区は複数の郡から構成されており、郡によっては複数の選挙区にまたがるケースもある。NY州選挙管理委員会の統計を確認すると、4郡で構成される第17区では、区割り再編後に新しく含まれることとなったダッチェス郡とプトゥナム郡に共和党支持者が集まっていた。また、11郡で構成される第19区でも、今回区割り再編で新たに加わった4郡(ブルーム郡、チェナンゴ郡、コートランド郡、ティオガ郡)の全てで、共和党候補への投票数が民主党候補を上回った。こうしたことから、第17、19区では、区割り再編が選挙結果に影響を及ぼしたと考えられる。

第17区で敗れた民主党のショーン・マロニー候補は2013年から10年間、第18区選出の連邦下院議員を務めていた。今回再編された新たな区割りで旧第18区は新第17区と新第18区に分断され、同氏の出身地のプトナム郡は第17区に移行したが、マロニー氏を支持する有権者数の約4分の3はそのまま第18区に残ることとなった。地元紙は、典型的な郊外型の生活を送る第17区の住民との関係性や知見の面で、当選した共和党のローラー氏はマロニー氏よりも精通していたとし、市街中心部での支持が高いマロニー氏は前回と同じ第18区から出た方が当選の可能性が高かっただろうと指摘している(「タイムズユニオン」2022年11月15日)。

第19区では候補者の知名度も影響

他方、候補者自らのもともとの地盤の地域が他の選挙区に移行したにもかかわらず、当選するケースもあった。第19区で当選したマーカス・モリナロ氏(共和党)がその例だ。同氏は選挙前までダッチェス郡長官を10年間務めていた。ダッチェス郡の大半は、以前は第19区に含まれていたが、再編後は第18区に移行し、第19区はダッチェス郡を失った。それでも、モリナロ氏が第19区から立候補して当選した要因の1つは、同氏が超党派の姿勢を見せていたことで、民主党支持層や無党派層の票も得たと推測される。モリナロ氏と第19区で争ったジョッシュ・ライリー氏(民主党)は敗北宣言で「モリナロ氏が全米における人工妊娠中絶の禁止に反対し、精神保健サービスのための予算を増やし、州北部の雇用を改善すると表明したことに対し、感謝している」と述べた。

モリナロ氏は18歳でダッチェス郡ティボリ村の理事に就き、その後、自治体の首長として米国史上最年少で同村長に選ばれ、地域に貢献してきた。2018年のNY州知事選では共和党候補として、アンドリュー・クオモ前知事(民主党)と戦った経緯もあり、ダッチェス郡のみならず隣接する第19区の住民にも、同氏の知名度は高かったと思われる。その一方で、対立候補のライリー氏はNY州のアップステートの出身ながら、職歴の大半が州外だった。

全米の共和党支持者数の推移も影響か

このように、NY州で共和党が民主党から連邦下院4議席を奪取した背景には、各選挙区の社会課題や選挙区割り再編、候補者の知名度など、固有の事情がそれぞれ要因の一部だったと考えられる。

しかし、こうした地域的な要因以外にも、全米横断的な要因があると推測される。全米の共和党支持層の変化とも関係しているからだ。AP通信によると、2020年の大統領選で30歳未満の投票先は、61%が民主党のジョー・バイデン現大統領、36%が共和党のドナルド・トランプ前大統領だったのに対し、2022年中間選挙の連邦下院選では、53%が民主党候補、41%が共和党候補に投票し、共和党支持が拡大した。

「ワシントン・ポスト」紙電子版(2022年11月11日)によると、民主党を支持するマイノリティーの有権者は、黒人、ラテン系、アジア系いずれも減少傾向で、中でもアジア系の有権者の連邦下院選の出口調査では、2018年の77%から2022年には56%と、21ポイントも減少した。さらに、黒人有権者の共和党支持率は、今回の2022年の連邦下院選では17%となり、2020年大統領選でのトランプ候補への投票率(8%)と2018年の連邦下院選での投票率(8%)と比較して、大きく拡大した(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版2022年11月7日)。

共和党の支持基盤はこれまで、白人男性というイメージがつきものだった。しかし、共和党は、全米で白人人口が縮小する中(2021年10月14日付地域・分析レポート参照)、マイノリティーの支持獲得に必死だ。NY州第3区で今回当選した共和党のサントス氏は、マイノリティー比率の高いニューヨーク市の市立大学を卒業し、動物愛護協会を運営していたとし、祖父母はウクライナから逃れてきたユダヤ系移民などと自称し、当選後に経歴詐称が報じられているが(注3)、これは、中間選挙でマイノリティーの支持を得ることを目的としていたためと考えられる。

政治メディア「ファイブ・サーティー・エイト」によると、共和党は、2020年の大統領選挙でトランプ氏が落選した後、共和党と白人を熱狂的な人種平等主義運動の犠牲者として描写するようになった。同メディアはまた、白人に根付いた被害者意識は、トランプ氏が退任した後も広がり続けているとしている(「FiveThirtyEight」2022年3月21日)。

2022年の中間選挙前には、トランプ氏の上級顧問とスピーチライターを務めていたスティーブン・ミラー氏率いる非営利団体が米国のアジア系米国人の有権者に対し、民主党支持を妨害するため、はがきを送っていたことも明るみになっている。はがきには、バイデン大統領がマイノリティー支援のために立ち上げた幾つかの政策が新聞の切り抜き式に書かれており、それらが「白人とアジア系米国人」を除外しているとした上で、「民主党員は、白人とアジア系市民を除外する人種差別を行っている」などと書かれていた(「ウォールストリート・ジャーナル」紙2022年11月2日)。

米国市民権委員会NY会顧問で投票権弁護士のグレン・マグパンタイ氏は2022年11月7日、「これは、白人やアジア系米国人の有権者を、黒人やラテン系と対立させる人種差別的なキャンペーンだ」と非難した上で、有権者に誤った情報に惑わされないよう注意を促した。同氏によると、少なくとも全米14州のアジア系米国人の有権者に送付したことが確認されており、その中にはNY州も含まれていた。

普段は政治に興味を持たない有権者の場合、候補者や政党に関する事前知識は限られるため、選挙を前に有権者がどのような情報を受け取るかは、選挙の結果に大きく影響を及ぼし得る。NY州での共和党による下院4議席の奪取は、治安悪化など市民生活と密接な社会課題や、選挙区割りの再編成、候補者の知名度に加え、若者やマイノリティーでの共和党支持層の拡大という米国全体の傾向も背景にあったと考えられる。


注1:
両党には、シンボルカラーがある。共和党が赤、民主党が青だ。
注2:
ゼルディン氏は犯罪対策に力を入れているが、銃規制には反対している。
注3:
「ニューヨーク・タイムズ」紙は2022年12月19日、サントス氏に対する素性調査の結果を発表し、経歴詐称をしていると報道した。その後、サントス氏は職歴や学歴、自身のルーツをユダヤ系と説明していたことなどについて、虚言したことを認めた。

米NY州連邦下院選で共和党善戦

  1. 議席数減少と区割り再編
  2. 議席奪取4選挙区の動き
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
吉田 奈津絵(よしだ なつえ)
在米の公的機関での勤務を経て2019年からジェトロ入構。