「新アフリカ争奪戦」と日本のアフリカビジネスの可能性

2023年3月3日

かつて低成長と貧困から「絶望の大陸」と呼ばれたアフリカは、豊富な資源と急速な人口増加で、今や世界中から注目を集めている。2019年にエコノミスト誌は、植民地時代(欧州)、冷戦時代(米ソ)を経て、再びアフリカを諸外国が奪い合う「新アフリカ争奪戦(The New Scramble for Africa)」の時代が訪れた、と分析している。この争奪戦は、ビジネスにはどのような影響があるのか。各国のアフリカに対するアプローチについて、外交と貿易を概観しつつ、日本のアフリカビジネスの可能性を考察する。

新アフリカ争奪戦の時代へ

2023年は新年早々から、各国のアフリカ争奪戦は過熱している。1月だけで、中国の秦剛外相、米国のジャネット・イエレン財務長官、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がアフリカを回るなど、各国は外交戦を繰り広げている。

この外交戦で、先頭を走るのは中国だ。新年の外相のアフリカ訪問は2023年で33回目となり、2000年に中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を開始以降、既に8回の会議を開催している。この間、中国はアフリカ各地でインフラ開発など多額の支援を行い、新型コロナウイルスの世界的流行の折にも、マスクやワクチンなどの物資をいち早く供与し、迅速な支援によりアフリカの信頼を勝ち得てきた。秦外相は、アフリカ連合(AU)との会談で「アフリカに必要なのは連帯・協力で、競争ではない」とし、アフリカを大国の競争の場にすべきでないと牽制しているが、競争を意識した発言ともとれる。

対する米国も、バイデン政権が2022年から激しい巻き返しの動きを見せている。米国は、黒人初の大統領としてアフリカ外交を重視したオバマ氏が2014年に初めてアフリカとの首脳会議を行ったが、その後、トランプ政権時代にアフリカとの関係は極端に冷え込んだ。バイデン政権も2021年1月に就任して以降、しばらく目立った関係強化の動きは見られなかったが、2022年7月にケニアとの戦略的貿易・投資パートナーシップ(STIP)立ち上げ、8月にブリンケン国務長官のアフリカ訪問とバイデン政権による「アフリカ戦略」の発表、12月に8年ぶりとなる「米・アフリカ首脳会議」開催、2023年1月のイエレン財務長官のアフリカ訪問と攻勢に出た。

米国に強くアフリカを意識させたのは、中国のみならずロシアの存在もある。ロシアはアフリカの旧社会主義国家とは現在も人的交流を維持し、近年は、武器の輸出や原発に係る協力、穀物や肥料の輸出などで関係を深めつつある。ウクライナ侵攻以前から、西アフリカなどで民間軍事会社ワグネルが活動を拡大させてきており、特に2022年3月のロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議や10月のウクライナ4州併合無効の国連決議ではアフリカの動向が大きく注目されるなど、ロシアにとってもアフリカ諸国との関係の重要性は高まっている。それを示すかのようにラブロフ外相は2023年1月に4カ国、2月に3カ国と続けてアフリカを訪問。また、ベラルーシのルカシェンコ大統領も1月にジンバブエを訪問している。ロシアは2023年7月に2回目となるロシア・アフリカサミットの開催を予定しており、ロシアにとって国家的威信をかけたイベントを控えている。

各国がアフリカに対して攻勢をかける一方で、中国は債務問題解決への消極的姿勢、米国は人権に対する厳しい姿勢が障害となって、必ずしもアフリカ諸国からもろ手を挙げて歓迎されているわけではない。ロシアを強く支持する国もわずか一部だ。アフリカは、むしろこの争奪戦をレバレッジとして使い、「グローバルサウス」の一員として、国際社会におけるプレゼンスを高めていこうというのが本音だろう。実際、中国から400億ドル、米国から550億ドルの支援を引きだし、AUは中国と米国の両方からG20への参加に対する支持を得ることに成功している。

アフリカとの貿易で中国が独走状態

続いて、諸外国とアフリカの貿易関係をみていく。アフリカの貿易総額は、2000年代前半に輸出入ともに急増している(図1参照)が、この頃は中国やインドが急成長を遂げた時期と一致している。アフリカからの原油輸出が中印の成長を支え、その輸出から得られる収入がアフリカの成長をも促したといえる。現在の中国の圧倒的な存在感はこの時代から築かれてきたものだ。

図1:アフリカの世界貿易と油価(総額推移)
アフリカの貿易総額は2000年代前半に輸出入ともに急増。中国やインドの急成長期にあたり、アフリカからの原油輸出が中印の成長を支え、その輸出収入がアフリカの成長をも促した。

注:油価はブレント原油の年平均を使用。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

貿易を品目別でみれば、アフリカは世界に原油やプラチナを輸出し、世界から精製された石油製品、機械、車や家電などの工業製品、そして、穀物や医療用品を輸入している(図2参照)。輸入は、人口増加を背景に上位品目がほぼすべて増加傾向にある一方で、輸出は、石油・ガスの輸出額が不安定に推移する脆弱(ぜいじゃく)な構造にある。各国政府は多角化、工業化を政策に掲げるが、この伝統的な貿易構造を変えるには至っておらず、世界中からあらゆるものを輸入するしかない状況だ。

図2:アフリカの世界貿易(品目別)

輸入
アフリカは世界から精製された石油製品、機械、車や家電などの工業製品、そして穀物や医療用品を輸入。輸入は人口増加を背景に上位品目がほぼすべて増加基調にある。
輸出
アフリカは世界に原油やプラチナを輸出。輸出は石油・ガスの輸出が不安定に推移。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

貿易を相手国でみると、この20年間で、輸出入ともに中国がフランスや米国、ドイツを抜き、貿易パートナーとして圧倒的な存在感を示している(図3参照)。アフリカ諸国は対中貿易赤字を是正すべく、中国にさらなる市場開放を迫っており、中国もそれに呼応して、アフリカ産品に対する関税免除措置を拡大しつつある(2022年12月13日付ビジネス短信参照)。中国とアフリカの貿易は今後も拡大していくだろう。

図3:アフリカの世界貿易(国別)

輸入
輸入を相手国で見ると、この20年間で輸出入ともに中国がフランスや米国、ドイツを抜き、最大の貿易パートナーに。インドが第2グループで一つ頭が抜けた存在に。
輸出
輸出を相手国で見ると、この20年間で輸出入ともに中国がフランスや米国、ドイツを抜き、最大の貿易パートナーに。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

中国とアフリカの貿易関係をみると、中国は、ナイジェリア、南アフリカ共和国、エジプトに電気機器や機械類、輸送機器などを輸出し、南ア、アンゴラ、コンゴ民主共和国から鉱物性燃料、鉱石、貴石・貴金属類などを輸入している(表1参照)。一方の米国は、エジプト、南ア、ナイジェリア、モロッコに対して、鉱物性燃料、輸送機器、機械類、航空機、果実・植物類などを輸出し、南ア、ナイジェリアから貴石・貴金属類と鉱物性燃料を輸入している。アフリカの2大国家であるナイジェリアと南アに輸送機器と機械類を輸出している点は共通するものの、その他では貿易相手や品目をみても、両国は輸出ではあまり競合していない。ロシアも貿易面では米中とは全く異なるパターンで、貿易面では競合していない。外交上で激しく繰り広げられている競争関係は、少なくとも貿易面では見られず、むしろ補完関係にあるとも言えるかもしれない。現在、アフリカで繰り広げられている外交上の「争奪戦」は、今のところ貿易に直接は影響していないと考えられる。

だからといって、ビジネス上の競争がないわけではない。今後、先頭を走る中国の背中を追いかけていきそうなのがインドだ(図3参照)。インドの対アフリカ貿易は、輸出入ともに年によってばらつきが大きいが、全体としては増加基調にある。2021年の貿易額は輸出が前年比45.8%増、輸入が61.1%増となり、第2グループの中で1つ頭が抜けだした。インドは鉱物性燃料や輸送機器、医療用品、穀物など幅広い品目をアフリカに輸出しており、アフリカの3大市場である南ア、ナイジェリア、エジプト向けも大きく伸ばしている(表1参照)。まだその差は大きいが、インドがアフリカとの貿易で中国を抜く日もいつか来るかもしれない。

日本の狙いどころは

続いて、日本とアフリカ貿易関係をみつつ、日本のアフリカビジネスの可能性について考察する。日本からアフリカへの輸出額が最も大きい品目は輸送機器(大半が自動車および部品)だ(図4参照)。過去、一貫して高い水準を維持している。続いて多いのが船舶で、これはリベリアが便宜置籍船の仕向け地となっているからで、便宜的に船籍が移されているだけだ。続く、機械類(建機など)、鉄鋼は伸び悩んでいる。輸出相手国では、リベリアを除くと南アが圧倒的で、日本の南ア向けの輸出の内訳で特に多いのは輸送機器(主に自動車および部品)、続いて機械類(主に建機)が多い(表2参照)。

図4:日本からアフリカへの輸出(品目別と国別)

品目別
日本からアフリカへの輸出額が最も大きいのは輸送機器で一貫して高い水準を維持。続いて多いのが船舶、機械類、鉄鋼。
国別
輸出相手国では、リベリアを除くと、南アが圧倒的。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

他の先進国とアフリカの貿易関係をみても、南アはどの国にとっても輸出相手国の上位だ(表1参照)。しかし、近年の低成長率をみれば、南アにほぼ一極集中している日本のアフリカ貿易が停滞しているのは当然の帰結だ。南アの自動車市場が不調なわけではないが、それだけでは貿易は伸びない。輸出できる品目をより広く模索していくことが求められる。他の主要国の南アへの輸出品目を比較すると、日本は輸送機器や機械類、電気機器、鉄鋼などではまずまずのシェアを取れている一方で、医療用品や化学工業生産品ではドイツやフランスなどと比べ、貿易額が少ない(表2参照)。これらの分野は欧州勢との競争や規制の難しさはあるが、まだ伸びしろがあるのではないだろうか。

また、南ア以外の国々との貿易を太くしていく努力も必要だ。日本が他国と比べて特徴的なのは東アフリカ(ケニア、タンザニア、ウガンダ)で、他は輸出先の上位国にそれほど大きな違いはない。日本は東アフリカでの市場拡大を追求しつつ、エジプトやナイジェリア、モロッコ、アルジェリアといった市場で、より売れる商品を模索していく取り組みが求められるだろう。加えて、まだ競合相手の少ないフランス語圏アフリカのような市場(2022年12月15日付地域・分析レポート参照)に向けても長期的な視点から取り組みを開始していくことも重要だ。

これらの国々では、成長の担い手として、地場の財閥が急速に力をつけてきており、自動車の組み立てや石油精製、日用品や医薬品製造など様々な分野に事業を拡大している。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の進展も期待され、アフリカでこうした地場の財閥を中心に、サプライチェーン構築の動きは加速していく。日本としてもビジネスを通じてこの動きに参画し、アフリカの成長を支えていくことが重要だ。

ジェトロが在アフリカ進出日系企業を対象に実施したアンケートでは、日系企業にとって最も競合関係があるのは4年連続で欧州系企業であった。競争相手として日本企業が意識をしているのは、フランスやドイツ、イタリアといった国々だが、一方で、フランスは、アフリカ市場にともに取り組む連携相手としても有望視されている。

また、日本企業はインドの工場で生産した自動車のアフリカへの輸出を拡大させるなど、上述のとおりアフリカに近いインドの地理的メリットを活用したアフリカビジネスも注目だ。スズキはこのビジネスモデルでアフリカ市場での売り上げを急速に伸ばしており、こういった取り組みの有効性は証明済みだ。

日本は地政学的には、西側陣営であることはアフリカ諸国も十分に認識しているところであるが、人材育成や技術移転を大事にする日本企業の姿勢は、欧米企業や中国企業とは異なったものとしてアフリカでは重要性が認識されている。現状では、新アフリカ争奪戦の影響は、明確にはビジネス面では表れていないが、デジタル分野の基幹インフラなど、米国が強く意識して取り組みそうな分野では注意していく必要がある。しかしながら、アフリカはしたたかに、中国や米国とうまく距離を取りながら独自のポジションを築きつつあり、日本にとってもその間隙を縫って、アフリカでビジネスを拡大していく余地は十分にあると考えられる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部を経て、2020年4月から現職。