RCEP発効から1年、在大連日系企業の利用実態は(中国)

2023年4月21日

「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」(以下、RCEP)は、2022年1月1日、発効した。ジェトロ大連事務所は、その後の現地日系企業の利用実態を把握するため、2022年10月から2023年1月にかけて、遼寧省大連市進出日系企業100社を対象に実態把握を行った(有効回答率97%)。

本稿では、その結果を基に、RCEP利用の現状や今後の展望などについて考察する。

発効1年目でRCEPを利用した企業は約2割

大連市には、加工貿易などを営む日系製造業が集積している。今回の実態把握では、業務の中で「輸出が多い」と回答した企業が72社(全体の74.2%)、「輸入が多い」と回答した企業は25社(25.8%)だった。業種別には、製造業が72.2%、非製造業が27.8%という構成だった(図1参照)。製造業では金属製品、一般機械、自動車や関連部品などが多く、非製造業では商社、建設業が多かった。日本の親会社の企業規模別では、中小企業が78.4%を占めた(図2参照)。

図1:回答企業の属性(業種、n=97)
製造業が70社、72.2%。非製造業が27社、27.8%

出所:実態把握に基づきジェトロ作成

図2:回答企業の属性(親会社の企業規模、n=97)
大企業が14社、14.4%。中堅企業が7社、7.2%。中小企業が76社、78.4%。

出所:実態把握に基づきジェトロ作成

実態把握の実施時点(2022年10月~2023年1月)では、「RCEPを利用している」と回答した企業が18.6%。「今後検討する予定」との回答は23.7%になった(図3参照)。発効から日が浅いためか、まだ広く利用されているわけではない。その一方で、今後の利用増が期待できる結果だ。

図3:RCEPの利用状況(n=97)
RCEPは「利用している」と答えた企業が18社、18.6%。「今後検討する予定」と答えた企業が23社、23.7%。「利用していない」と答えた企業が56社、57.7%

出所:実態把握に基づきジェトロ作成

なお、「輸出が多い」と回答した企業の中では、「金属製品」「非金属」「商社(卸売り)」などの業種で、RCEPの利用比率が高い。一方、「輸入が多い」と回答した企業では、「金属製品」「半導体」「商社(卸売り)」が高かった。

RCEP利用のきっかけは輸入側の要請か

RCEPを利用したきっかけに関する設問(複数回答)では(注1)、「親会社・主要取引先からの要請」が46.3%と、最も多かった。次いで、「国際物流企業からの案内」が21.9%になった。

前述の通り、今回の実態把握では、業務の中で「輸出が多い」と回答した企業が多かった。世界の工場と称される中国で、主に輸出するに当たって、子会社等が製造した製品を輸入する日本の親会社や主要取引先の要請に対応した結果と推測される。RCEPの利用にあたり、関税が減免される効果を直接的に実感しやすいのは輸入者だからだ。すなわち、輸入者の側から迅速に協定を利用するよう働きかけた可能性がある。

一方で、輸出者にしてみると、RCEPの原産地証明書を取得するなど、新たな作業に直面することにもなる。当地企業でまだそれほどRCEPの利用が進展していないのは、輸出者の立場から慎重に検討している可能性がある。

RCEPの利用について情報収集する際の照会先に関する設問(複数回答)では、「物流企業や通関業者など」が約5割(48.5%)に上った(注2)。中国では、物流業者などと日系企業との間で、業務上の緊密な連携が構築されていることがうかがえる。

長期的な関税削減に注目、利用にあたっての課題指摘も

当該実態把握の後、ジェトロ大連事務所は、RCEPなど通商協定の利用について遼寧省の日系企業関係者を対象にヒアリングした(2023年3月7日付ビジネス短信参照)。長期的な視点で関税削減に注目する日系企業の声などが聞かれた。

  • A社/化学繊維製造、所在地:営口市、聴取時期:2023年3月上旬
    工場で使用する化学繊維などの原材料の多くは、日本から輸入している。RCEPの下で10年かけて段階的に関税削減するものが多いため、1年目(2022年)に享受した削減額は2万~3万元(約40万~60万円、1元=約20円)にすぎなかった。しかし、2023年に入ってからは、1月だけで2万元近くの削減額になった。
    今後は、さらに効果が期待できる。年数を重ねることで適用される関税率が低下するため、これまで以上に積極的に利活用する予定だ。
  • B社/食品製造、所在地:大連市、聴取時期:2023年3月上旬
    韓国向けの輸出には中韓自由貿易協定(FTA)、日本向けの輸出にはRCEPを利用している。
    韓国向けの商品には、元々10%の輸入関税がかかっていた。しかし、中韓FTAの利用でゼロ関税になった。なお、韓国にも適用できるRCEPを利用しないのは、中韓FTAの方が優遇率で有利なためだ。
    一方、日本向けの商品は、もとから1~2%と輸入関税率が低かった。そのため、RCEPを利用してもあまり削減額が多くない。ただし、今後、年数を重ねることで関税率が徐々に下がっていくため、長期的に見ればメリットがある。今後も積極的に取り組みたい。
  • C社/商社、所在地:大連市、聴取時期:2023年3月下旬
    関税削減のメリットは多い。しかし、中国各地の税関ではいまだにローカルルールが存在している側面がある。RCEPといったグローバルな経済協定の活用が進むことによって、税関手続きのスタンダード化に期待したい。

今回の実態把握では、自由記述での回答も寄せられた。そこからも、中小企業などが抱えている課題が浮かび上がってくる。例えば、「コスト、時間、労力などがかかり、原産地証明書取得のハードルが高い。通関業者や物流会社などの専門業者に代行してほしい」「原産地規則やHSコードの知識に乏しいサプライヤーが多く、説明・指導するのに時間がかかる」「RCEPを利用するとメリットが出るかどうかの判断ができない。費用対効果の試算方法が分からない」といった指摘があった。

大連は、日系企業が集積することで世界的にも有数の都市だ(注3)。日本との貿易額が多く、日本語人材も豊富なことも特徴と言える(2019年8月30日付地域・分析レポート参照)。海外、特に在中国に所在する日系企業にとってのRCEPの利用実態やその課題を把握する上では、望ましい環境だろう。今回の実態把握から、現状でRCEPの活用が限定的なことは事実と言えそうだ。だとしても、一定程度の関心があることが分かった。

今後は年数を重ねることにより、関税がさらに削減されていく。すなわち、日系企業が従前より前向きに当該協定を利用するようになることも、十分考えられる。


注1:
「利用していない」と回答した企業を除いて算出した。
注2:
「物流企業や通関業者など」以外に、「輸出先国の取引先」7.2%、「自社スタッフの情報収集」6.2%、「公的機関、ジェトロや商工会議所」3.1%などが続いた。
注3:
外務省は、海外進出日系企業拠点数調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で、公館ごとに報告された日系企業数を発表している。
最新の2021年度調査(2021年10月1日時点)によると、大連(領事事務所)が報告した日系企業数は、(1)上海(総領事館が報告)、(2)バンコクなど〔「タイ日系企業進出動向調査2020年」(ジェトロ・バンコク)を転用して、在タイ日本大使館が報告〕、(3)北京など(在中国日本大使館が報告)、(4)ジャカルタなど(在インドネシア大使館が報告)に次いで多かった。
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年4月、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋などを経て、2021年8月から現職。