ビジネスは回復の途上に
在カナダ日系企業実態調査を読む(前編)

2023年5月15日

ジェトロは2022年9月、カナダに進出する日系企業を対象にアンケート調査(注1)を実施した。この調査は、対象企業の経営状況や、現地でのビジネス環境の変化などを把握することを目的にする。1989年から実施し、今回で33回目になる。2022年度の調査結果からは、(1)在カナダ日系企業の経営環境は、新型コロナウイルス禍に伴う経済活動の停止から回復を遂げつつあること、ただし(2)その進み具合には業界によって差異がみられること、が分かった。

そこで、調査結果解説の前編となる本レポートでは、2022年の営業利益見込みに関する指標を取り上げ、在カナダ日系企業の経営状況を概観する。後編では、経営状況回復に向けて重要課題になっている賃金や物流、原材料調達をはじめとする各種コストの上昇や、従業員確保の難しさについて解説する。

営業利益が回復しながらも、新型コロナ禍前には及ばず

新型コロナ禍による経済活動停止により、2020年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は記録的に減少した(前期比年率37.1%減)。しかし、直後の同年第3四半期(7~9月)には、早くも大幅な反動増(同41.3%増)を示した。その後も、調査期間に含まれる2022年第3四半期まで回復傾向が続いた。2021年第4四半期(10~12月)時点の実質GDPは、約2兆1,400億カナダ・ドル(約209兆7,200億円、Cドル、1Cドル=約98円)。新型コロナ禍前の2019年第4四半期(約2兆1,200億Cドル)の水準を超えた(図1)。

図1:実質GDPとその成長率の推移(四半期ごと)
2019年第1四半期以降、実質GDPは以下の通り推移。2019年第1四半期2兆888億Cドル、2019年第2四半期2兆1,095億Cドル、2019年第3四半期2兆1,174億Cドル、2019年第4四半期2兆1,243億Cドル、2020年第1四半期2兆791億Cドル、2020年第2四半期1兆8,519億Cドル、2020年第3四半期2兆189億Cドル、2020年第4四半期2兆619億Cドル、2021年第1四半期2兆889億Cドル、2021年第2四半期2兆766億Cドル、2021年第3四半期2兆1,063億Cドル、2021年第4四半期2兆1,415億Cドル、2022年第1四半期2兆1,542億Cドル、2022年第2四半期2兆1,732億Cドル、2022年第3四半期2兆1,857億Cドル、2022年第4四半期2兆1,859億Cドル。実質GDP成長率は以下の通り推移。2019年第1四半期0.3%、2019年第2四半期4.0%、2019年第3四半期1.5%、2019年第4四半期1.3%、2020年第1四半期-8.2%、2020年第2四半期-37.1%、2020年第3四半期41.3%、2020年第4四半期8.8%、2021年第1四半期5.3%、2021年第2四半期-2.3%、2021年第3四半期5.8%、2021年第4四半期6.9%、2022年第1四半期2.4、2022年第2四半期3.6、2022年第3四半期2.3、2022年第4四半期0.0。

注1:実質GDPは、季節調整済み(連鎖方式で計上されている)。基準=2012年。
注2:成長率は、前期比年率換算。
出所:カナダ統計局に基づきジェトロ作成

在カナダ日系企業の事業も、これに連動しているようだ。2022年の営業利益見込み(黒字・均衡・赤字)に関する調査結果では、黒字を見込む在カナダ日系企業の割合は71.0%。と、前年度調査に基づく2021年の見込み(67.5%)から3.5ポイント上昇した。2021年の営業利益見込みからの変化(改善・横ばい・悪化)に基づいて算出した景況感を示すDI値(注2)も、前年(15.8)から2.6ポイント上昇して18.4になった。DI値が上昇したのは、「悪化」を見込む企業の割合(19.1%)が前年(23.6%)から4.5ポイント減少したためだ(注3)。このことから、在カナダ日系企業は新型コロナからの回復が進んでいることがわかる。

もっとも、黒字を見込む在カナダ日系企業の割合は、新型コロナ禍前(2019年)の水準(77.1%)には及んでいない。2021年第4四半期時点以降、実質GDPが新型コロナ禍前を上回っているにもかかわらず、だ。こうした状況下、在カナダ日系企業はいまだ新型コロナ禍の経済停滞から回復しきっていない点には注意しておくべきだろう(図2)。

図2:営業利益見込みとカナダの実質GDP成長率
黒字を見込む企業の割合は、1998年71.3%、1999年78.2%、2000年81.6%、2001年72.5%、2002年67.5%、 2003年64.9%、2005年74.1%、2006年73.1%、2007年75.8%、2008年67%、2009年51.5%、2010年65.2%、2011年64.2%、2012年75.9%、2013年75.4%、2014年74.4%、2015年76%、2016年72.3%、2017年75.3%、2018年74.8%、2019年77.1%、2020年53.8%、2021年67.5%、2022年71.0% 。均衡を見込む企業の割合は、1998年7.6%、1999年10.9%、2000年7.1%、2001年12.2%、2002年22.5%、2003年18.8%、2005年18.5%、2006年17.7%、2007年14.6%、2008年18.3%、2009年22.2%、2010年25.6%、2011年19.5%、2012年11.7%、2013年12.7%、2014年14.3%、2015年10.9%、2016年17.7%、2017年7.1%、2018年11.2%、2019年13.2%、2020年19.6%、2021年12.7%、2022年10.9%。赤字を見込む企業の割合は、1998年21.1%、1999年10.9%、2000年11.3%、2001年15.3%、2002年10%、2003年16.2%、2005年7.4%、2006年9.1%、2007年9.6%、2008年14.7%、2009年26.3%、2010年9.1%、2011年16.4%、2012年12.4%、2013年11.9%、2014年11.3%、2015年13.2%、2016年9.9%、2017年17.5%、2018年14%、2019年9.7%、2020年26.6%、2021年19.8%、2022年18.1% 。実質GDP成長率は、1998年3.9%、1999年5.2%、2000年5.2%、2001年1.8%、2002年3%、2003年1.8%、2005年3.2%、2006年2.6%、2007年2.1%、2008年1%、2009年-2.9%、2010年3.1%、2011年3.1%、2012年1.8%、2013年2.3%、2014年2.9%、2015年0.7%、2016年1%、2017年3%、2018年2.8%、2019年1.9%、2020年-5.2%、2021年4.5%、2022年3.3%

注:2022年の実質GDP成長率はIMFによる予測値(2022年10月)。2004年度は調査を実施せず。
出所:カナダ統計局、IMF、ジェトロ調査に基づき作成

コスト上昇が一部企業の逆風に

では、黒字を見込む在カナダ日系企業の割合が、新型コロナ禍前の水準に及んでいないのはなぜか。その要因として、業種によってビジネスの現況が大きく異なることが挙げられる。

製造業では食料品や自動車・二輪車(以下、自動車等)、プラスチック製品、非製造業では販売会社で、それぞれ黒字を見込む企業が8割以上だった。一方、鉄・非鉄・金属や鉱業・エネルギーについては、赤字を見込む企業が4割を占めた(図3)。

さらに、2022年景況感DIを業種別にみると、赤字を見込む割合の大きい鉄・非鉄・金属(マイナス25.0)や鉱業・エネルギー(マイナス40.0)だけでなく、8割以上が黒字を見込む自動車等についても、景況感は16.7にとどまった。特に自動車等の値は、前年(85.0)から大きく減少したかたちだ。黒字を見込む割合が高い業種でも、2022年のビジネスが安定しているとは限らないことが分かる(図4)。

図3:2022年度の営業利益見込み(業種別)
全業種は黒字71%、均衡10.9%、赤字18.1%。製造業は黒字70.2%、均衡8.8%、赤字21.1%。食料品は黒字83.3%、均衡16.7%、赤字0%。自動車等は黒字83.3%、均衡0%、赤字16.7%。プラスチック製品は黒字80%、均衡0%、赤字20%。一般機械は黒字62.5%、均衡25%、赤字12.5%。自動車等部品は黒字61.5%、均衡0%、赤字38.5%。鉄・非鉄・金属は黒字40%、均衡20%、赤字40%。非製造業は黒字71.6%、均衡12.3%、赤字16%。販売会社は黒字84.2%、均衡5.3%、赤字10.5%。運輸業は黒字75%、均衡25%、赤字0%。商社・卸売業は黒字75%、均衡12.5%、赤字12.5%。金融・保険業は黒字62.5%、均衡12.5%、赤字25%。鉱業・エネルギーは黒字60%、均衡0%、赤字40%。情報通信業は黒字57.1%、均衡42.9%、赤字0%。旅行・娯楽業は黒字50%、均衡12.5%、赤字37.5%。

出所:ジェトロ調査に基づき作成

図4:2022年の主な業種別景況感DI(業種別)
全業種のDIは18.4、製造業のDIは23.3、プラスチック製品のDIは60、食料品のDIは50、一般機械のDIは37.5、自動車等部品のDIは23.1、自動車等のDIは16.7、鉄・非鉄・金属のDIは-25、非製造業のDIは15、旅行・娯楽業のDIは85.7、運輸業のDIは25、情報通信業のDIは14.3、商社・卸売業のDIは0、販売会社のDIは0、金融・保険業のDIは0、鉱業・エネルギーのDIは-40。

出所:ジェトロ調査に基づき作成

営業利益の赤字見込みに影響した要因として、自動車等の企業は「原材料高騰、インフレ、半導体供給不足の影響」を、鉄・非鉄・金属の企業は「原材料費や輸送費の高騰に対する売値への転嫁の遅れ」を、それぞれ挙げた。また、営業利益見込みが悪化する主な原因として、「原材料・部品調達コストの上昇」(19.2%)、「輸出量の減少による売上減少」(15.4%)、「販売価格への不十分な転嫁」(11.5%)などが挙がった(図5)。

図5:2022年の営業利益見込みが悪化する主因
「原材料・部品調達コストの上昇」を悪化の主因と答えた企業の割合は19.2%、「輸出量の減少による売上減少」を悪化の主因と答えた企業の割合は15.4%、「販売価格への不十分な転嫁」を悪化の主因と答えた企業の割合は11.5%、「新型コロナに起因する反動減」を悪化の主因と答えた企業の割合は7.7%。

出所:ジェトロ調査に基づき作成

この調査結果から、新型コロナ禍からの経済回復が日系企業のビジネスの営業利益見込み改善にもつながっていることが示唆される(注4)。一方で、原材料・部品調達をはじめとして、コスト増を販売価格に十分に転嫁できなかった企業や業種には、2022年のビジネス環境は厳しいものになった。その結果、全体として、新型コロナ禍前の水準には戻らなかった。

業績回復を阻む要因は、経営上の課題と理解される。後編では、そうした課題を取り上げる。具体的には、各種コスト(賃金、物流・原材料調達など)の上昇や従業員確保の難しさなどについて分析していく。


注1:
調査実施期間は、2022年9月8~30日(日本時間)。調査対象は、在カナダ日系企業(製造業・非製造業)184社。より具体的には、直接出資・間接出資をあわせて日本の親会社の出資比率が10%以上の現地法人と、日本企業の支店。有効回答数は138社(有効回答率75.0%)。カナダでの当該調査は、1989年から原則として年1回実施。今回が33回目に当たる。
なお、類種の調査は北米以外でも、中南米、欧州、アジア大洋州など、主要地域別に実施している。全地域で共通化した項目に関しては、地域横断した調査結果を参照することもできる(その最新版は、「2022年度海外進出日系企業実態調査(全世界編)」を参照)。
注2:
Diffusion Indexの略。
ここでは、営業利益が前年から「改善」する企業の割合(%)から前年から「悪化」する企業の割合を差し引いた数値。
注3:
営業利益見込みが前年比で「改善」するとした企業の割合は37.5%と、2021年度調査(39.4%)から1.9ポイント減少した。しかし、この減少幅よりも「悪化」を見込む割合の減少幅が大きかったため、DI値が上昇した。
2021年度調査時点で前年に当たる2020年は、新型コロナ禍での経済停止による影響が特に大きかった。この年度の調査で「改善」したと回答した割合が多かった理由としては、営業利益見込みをそのような年と比較していたためと考えられる。
注4:
営業利益見込みが改善する主因として、「新型コロナに起因する反動増」(28.0%)、「新型コロナに起因する行動制限緩和の影響」(16.0%)を挙げる企業が多くみられた。

在カナダ日系企業実態調査を読む

  1. ビジネスは回復の途上に
  2. コスト増対策が課題
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
滝本 慎一郎(たきもと しんいちろう)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。