GJ州政府が「新エレクトロニクス政策2022-2028」を発表(インド)
7月の「半導体政策」と連携

2023年1月4日

インド政府は、競争環境を整えることで半導体関連産業への投資を呼び込み、半導体製造を含む中核電子部品の開発能力強化の促進を試みている。これら電子部品の東アジア諸国からの輸入依存度を低減し、インドをエレクトロニクス産業の世界的なハブとすることが狙いだ。このような中央政府の動きに呼応する形で、グジャラート(GJ)州政府は10月30日、「新エレクトロニクス政策2022-2028」を発表した。本政策は、産業界とも連携しながら、最先端のインフラ整備、高付加価値製造業を促進するための先進的研究と技術革新、州政府による戦略的な政策介入などを通じて同分野の成長を加速し、GJ州をエレクトロニクス分野の国家的リーダーとして位置付け、2028年までの5年間で100万人の雇用機会を創出する考えだ。

「新エレクトロニクス政策2022-2028」によると、インド政府は、2025年までにインドのデジタル経済から1兆ドルの経済価値を生み出すという政府目標において、エレクトロニクス産業は重要な役割を果たすと考えている。さらに、モディ首相が掲げている、2026年までに3,000億ドルの持続可能なエレクトロ二クス製造・輸出を目指すというビジョンに基づき、インド政府はこれまで生産バリューチェーン全体をターゲットに、国内のエレクトロニクス製造能力の総合的な強化に向けイニシアチブを取ってきた。

その結果、電子製品の国内生産は2015/2016年(2015年4月~2016年3月)の370億ドルから2020/2021年には747億ドルへと大幅に増加し、年間平均成長率(CAGR)も17.9%に成長し、世界のエレクトロ二クス製造におけるインドのシェアは、2012年の1.3%から2019年には3.6%に拡大したとされている。

なお、GJ州は2022年7月には、インド国内で初めて「半導体政策2022-2027」を策定している。そして本政策によって、インドで半導体およびディスプレイ製造部門のグローバルバリューチェーンにおける電子機器製造エコシステムを構築し、同国の半導体製造の集積地となることを表明している(2022年10月12日付地域・分析レポート参照)。

今回の「新エレクトロニクス政策2022-2028」は、同半導体政策を補完する意味合いがあり、内外からの投資誘致を通じ、エレクトロニクス産業の製造バリューチェーン全体を総合的に振興することが目的だ。州政府が産業界と連携し、様々なインセンティブによって、エレクトロニクス製造における最新技術の採用、製造プロセスの最適化、高度人材育成などを促進し、エレクトロニクス産業の発展と、それを通じた雇用の創出に焦点が当てられている。同新政策の概要につき説明する。

新政策の主な目的

  1. バリューチェーン全体で、300億ドルの電子機器製造と輸出を創出し、輸入代替と輸出促進による外貨獲得の機会を創出する。
  2. 2028年までに、エレクトロニクス分野で100万人の雇用機会を創出する。
  3. エレクトロニクス部門に対する財政的・非財政的支援を強化することにより、製造業を促進する。
  4. エレクトロニクス産業の利害関係者との積極的な協力・提携を可能にし、熟練した人材の裾野を拡大する。
  5. エレクトロニクス産業のすべてのサブセクターにおいて、産業界主導の研究開発と イノベーションを奨励する。

「適格ユニット」について

本政策の「付属書1」 に記載される適格製品(随時更新)の生産のため設立される「新規ユニット」。もしくは、同「付属書1」に記載された適格製品(随時更新)の生産プロジェクトにおいて「業務拡張」もしくは「生産多角化」を行う「既存のユニット」。適格ユニットは、後述の事業のいずれかに従事している必要がある。

  1. 通信システム/携帯電話/IT システムおよびハードウエア/家電製品/医療用電子機器/航空電子機器/産業用電子機器、防衛・戦略用電子機器、自動車用電子機器、情報・放送機器などのエレクトロ二クス製品の製造。
  2. プリント基板/半導体/半導体部品/集積回路(ICs)/コンポーネント/部品等の中間部品。
  3. エレクトロニクス受託製造サービス(EMS)。
  4. インド政府が適宜発行する「エレクトロニクスに関する国家政策(NPE)」、またはその他の政策が対象とする、その他のエレクトロニクス分野・製品。

対象となる資本的支出

A. 工場、機械、設備および関連するユーティリティに発生した支出

  1. 本政策の対象となる商品の設計、製造、組み立て、試験、包装、加工に使用される工場、機械、設備、関連設備、およびそれらの工具、金型、治具、備品(それらの部品、付属品、コンポーネント、予備品を含む)に対する支出。工場、機械、設備、関連ユーティリティの試運転にかかる支出もこれに含まれる。
  2. 関連ユーティリティには、自家発電や排水処理設備、クリーンルーム、エアカーテン、空調・空気品質管理システム、圧縮空気、水・電力供給、制御システムなど、オペレーションエリアに必要な重要設備が含まれる。
  3. 関連するユーティリティには、サーバー、ソフトウェア、基幹システム(ERP)ソリューションなど、製造に関連するITおよび国際産業製造技術(ITES)インフラも含まれる。

B. 建設に要する支出

適格ユニットによる製品またはサービスの生産に必要な工場の建設に要した支出。ただし、土地代や建物の購入に要した支出は除く。

※前述のAおよびBに関連して発生した資本的支出は、商業運転・生産の開始日から2年までの期間に発生した支出に限り対象とする。

インセンティブ

適格な事業体に対して供与される、後述のインセンティブは、別途インド政府から供与されるインセンティブに加えて適用可能である。一方、特に明記しない限り、GJ州政府の他の振興政策が提供するインセンティブは、同時に申請できない。

A.財政的インセンティブ

  1. 資本的支出補助
    表1:資本的支出補助
    項目 補助内容
    (1)100億ルピー(注2)以下の資本的支出 20億ルピーを上限として、適格資本的支出額の20%までを資本補助。
    (2)100億ルピー以上の資本的支出
    • 100億ルピーまでの適格資本的支出に対し、20億ルピーを上限として、適格資本的支出額の最大20%の資本補助を行う。
    • 100億ルピーを超える適格資本的支出の増加分に対して、最大15%の資本補助を行う。

    注1:資本的支出補助は、適格ユニットの商業運転・生産開始日から5年間にわたり、均等に分割し年賦で支払われる。
    注2:約170億円、1ルピー=約1.7円。
    出所:グジャラート州政府「新エレクトロニクス政策2022-2028」からジェトロ作成

  2. 土地のリース、売買、譲渡に関する印紙税、登録税を100%還付(1回に限る)
  3. 利息補助
    1. 適格ユニットは、年間1億ルピーを上限として、タームローンの利息につき、 7%または実際の支払い利息のいずれか低い方の金額で、金利補助が受けられる。
    2. 適格ユニットは、実際の利払い開始日から最長5年間、この奨励金を毎年請求でき る。ただし、利払い日が本政策の実施期間内であることが条件となる。
    3. 適格ユニットは、インド準備銀行(RBI)が承認したインドの金融機関のインド支店 〔ノンバンク(NBFC)を除く〕から借りたタームローンの実際の利息返済(元本返済を除く)に対する利息補助を受けることができる。
    4. 銀行・金融機関によるタームローンの金利は、最低2%であること。
    5. 利息補助の支払いは、四半期ごとに行われる。
  4. 物流補助金
    州政府は、中核的な製造活動に必要な物品・原材料・機械の輸送について、後述の支援を行うことで、適格ユニットの運営コストの削減を促進する。
    表2:物流補助金
    項目 内容
    物流(輸入)支援 適格ユニットは、5年間、年間5,000万ルピーを上限として、輸送費用の25%の補助を受けられる。
    インド国外からグジャラート州への生産拠点の移転を1回のみ支援 製造設備の輸入にかかった費用の50%を、最大5,000万ルピーを上限に払い戻し。

    出所:グジャラート州政府「新エレクトロニクス政策2022-2028」からジェトロ作成

  5. 電気料金、電力税の補助
    1. 適格ユニットは、5年間、電気料金1ユニット当たり1ルピーの補助が受けられる。
    2. すべての適格ユニットは、1958年GJ州電力税法(Gujarat Electricity Duty Act)の規定に従い、電力税の支払い免除申請ができる。
    3. 既存の拡張・多角化ユニットは、拡張・多角化によって消費される追加電力に対してのみ、電力料金の補助と電力税の払い戻しを受けることができる。
    4. 電力料金補助および電力税払い戻しは、年賦で行われる。
  6. 「自立したグジャラート雇用支援政策」
    グジャラート州内の事業所に勤務する従業員に対する従業員準備基金(EPF)の法定拠出金を、5年間払い戻しすることができる。この払い戻しは、後述の基準に従うものとする。
    1. GJ州で働く女性従業員の場合、雇用主の法定拠出金であるEPFの100%。
    2. GJ州で働く男性従業員の場合、EPFによる雇用主の法定拠出額の75%。
    3. 従業員1人当たりの奨励金の上限は、従業員の基本給に、該当する勤勉手当(DA)および保持手当を加えたものの12%とする。

B.価値主導型エレクトロニクス開発のためのインセンティブ

GJ州政府は、州内のエレクトロニクス産業における州内部の様々な生産能力の構築と、価値観主導型の成長促進を加速させることを重視し、同産業のエコシステムの総合的な発展のための強固な基盤構築のため、様々な機関を通じて後述の活動を行う。

  1. インフラ整備による成長促進
    GJ州政府は、GJ産業開発公社(GIDC)やドレラ特別投資地域開発局など 12の機関を通じて、今後5年間に州内の戦略的な立地に「エレクトロニクス製造クラスター」(GEM)を設立する予定。産業界と協力し、バリューチェーンを構築するために必要な工業団地、レンタル工場、電力、水、ガスの安定供給、港湾、空港、内陸コンテナデポ(ICD)などの物流インフラを特定し、開発を行う。また、最先端の設備を持つ「エレクトロニクス共同施設」(E-CFC)も設立し、製造クラスター企業の操業支援を行う。
  2. スキル開発の促進による州内高スキル人材の育成
    1. グジャラート・エレクトロニクス・トレーニング(GET)セルの設立
      政府は、エレクトロニクス産業で即戦力となる人材の育成を目指し、州内の一流大学と協力して関連カリキュラムを開発し、産学間のスキルギャップを縮小するための支援を行う産業志向のセルを設立して、エレクトロニクス産業向けに高スキル人材を育成する。
    2. エレクトロ二クス産業研修所(E-ITIS)
      GJ州政府は、エレクトロニクス部門の技能開発を促進するため、既存の職業訓練校(ITI)のプログラムを強化し、即戦力となる人材の主要な供給源として発展させる。
    3. 「トレーナー育成」プログラムの構築による内部能力の向上
      国内外の教員のインドへの渡航・滞在費など、インド人教員・トレーナーが研修プログラムのために負担した費用への補助を行う。
  3. GJ州のエレクトロニクスの研究開発促進
    GJ州政府は、1.共用の研究開発施設の設置、2.最先端のエレクトロニクス研究・イノベーション・ラボの設立、3.学識経験者や産業界の専門家で構成される研究開発専門家委員会の設立と有望案件の評価、4.有望案件への補助金とインフラ支援、5.高等研究機関で有望研究を担うポスドク研究員への給与補助、などを通じ、GJ州のエレクトロニクス分野の研究開発エコシステムを推進する。

C.非財政的インセンティブ

GJ州政府は、投資家のための継続的で良好なエコシステムの構築にも注力しており、Ease of Doing Businessおよび投資家の利便性を重視する。このため同州政府は、1.操業に係る諸法律に基づいた各種支援、2.ファストトラック承認のための「シングルウィンドウ設置」(デジタル申請プラットフォームによる透明性と効率性の担保および承認プロセスのモニタリング)、3.工業用地紹介・割り当ての効率化のためのデジタル情報バンク構築、4.許認可プロセスの迅速化のための専用デスク設置、5.産業人材育成のための社会インフラ整備、6.エレクロト二クス産業の集積に向けた州政府による国内外でのプロモーション活動、など様々な支援策を講じながら介入を行っていく。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。