GJ州独自の「半導体政策2022-27」を発表(インド)
ドレラに集積地を構築

2022年10月12日

インドのグジャラート(GJ)州政府・科学技術省は7月27日、ブペンドラ・パテル州首相の立ち会いの下、「GJ州半導体政策2022‐27」を発表した。この種の発表は、州レベルでは初。GJ州のジトゥ・バガニ科学技術相は「この政策は、国内半導体チップ製造部門の迅速かつ包括的な成長促進に向けた州政府によるコミットメント」と述べた。GJ州としては、州独自の優遇策を他州に先駆けて発表することで、半導体製造関連企業の新規投資をいち早く呼び込みたい構えだ。この政策により、今後5年間で約20万人の雇用創出効果が期待されている(「アーメダバード・ミラー」紙7月28日)。

その背景には、中央政府が講じていた7,600億ルピー(約1兆3,680億円、1ルピー=約1.8円)規模の支援パッケージがある。中央政府は、貿易不均衡の是正や経済安全保障などの理由から、半導体分野への投資誘致を最重視。支援パッケージは、その内製化や安定供給を急ぐのが狙いだった。GJ州の新政策は、中央政府の政策を補完し、半導体のハブ州になることを目指すものだ。

同政策では、要件を満たす投資案件に対して、(1)工業用地取得費用に対する助成、(2)電気、水道料金の軽減、(3)印紙税や登録費の還付、(4)手続き迅速化のための一括処理窓口(single window:シングル・ウィンドウ)の設置などの優遇措置を講じることが骨子になっている。また、特に(5)ドレラ特別投資地域(DSIR)に半導体産業を集積させていく方針が打ち出されている点も、注目される。

半導体産業強化策に基づき企業誘致

GJ州政府は、州内に半導体関連製造業の強靭(きょうじん)なインフラを開発することにコミットしている。そのため、DSIR内に「ドレラ・セミコン・シティー」を設置。半導体関連産業に必要な共用施設(注1)を備えたエコシステムを構築する。開発計画は、産官学の協力によって策定・実行する意向だ。ただし、同産業の発展の初期段階では、(DSIRだけでなく)GJ州内であればどのロケーションのプロジェクトでも、この政策に基づく全てのインセンティブを適用するとしている。

図:グジャラート州地図
インドの西部に位置するグジャラート州にて、同政府は、州内に半導体関連製造業の強靭(きょうじん)なインフラを開発することにコミットしている。そのため、同州ドレラ地域に、半導体産業を集積させていく方針を打ち出している。

出所:CraftMAPを基にジェトロ作成

DSIRは 、ドレラ産業都市開発公社(DICDL、注2)が開発する産業スマートシティーだ。面積は、約920平方キロ。都市計画に基づいて、グリーンフィールドから整備が進められている。交通、水、電力、排水など、持続可能な基礎インフラを備え、産業区画と居住区画から成る。産業区画に進出計画のある企業の分野は、重工業、自動車・同付属品、防衛、エレクトロニクス、ハイテク技術、農業・食品加工、物流パーク、ソーラー発電パークなど幅広い。同地域は、国家プロジェクトの「デリー・ムンバイ産業回廊(DMIC)」計画の中でも戦略的に位置づけられる。その結果、アーメダバードまで4車線の高速道路やメトロ(注3、7駅、60分)で接続される予定だ。また、国際空港の建設も計画されている。なお、2022年度時点で、工業団地区画の価格は1平方メートル当たり2,750ルピー(99年リース)になっている。

今回の半導体政策の中で、州政府はDSIRに「ドレラ・セミコン・シティー」を設置する方針を明確にした。そのため、DICDLは今後、日系企業への情報提供を強化していくという。狙いは、半導体関連産業が進出する有望な集積地として工業団地区画を売り込むことにある。最近では、当構に対しても、日系企業関係先への情報提供の依頼があった。また、9月8日には、インド進出日系企業駐在員を対象とした「NICDICドレラ工業団地視察会」ツアーを実施(注4)。基礎インフラや分譲状態、今後の計画などについて説明があった。

GJ州による「半導体関連産業の誘致政策」とDSIRが結びつくことによって、新たな動きが期待される。今後も注視が必要だ。

ここで、この州新政策が適用されるプロジェクトについて、要件や優遇措置など概要を確認しておく。

1.応募資格

インド政府の電子情報技術省(MeitY)の各スキーム〔1~3〕に申請し、GJ州で事業を立ち上げる企業/コンソーシアム/JVによるプロジェクト。

  1. 「インドにおける半導体工場設立のためのスキーム」(MeitY:2021年12月30日付「FileNo.W-38/30/2021-IPHW)
  2. 「インドにおけるディスプレー工場設立のためのスキーム」(MeitY :2021 年 12 月 30日付「File No.W-38/6/2021-IPHW」)
  3. 「インドにおける化合物半導体/シリコンフォトニクス/センサー製造/半導体組み立て、テスト、マーキング、パッケージング(ATMP)/ OSAT施設設立のためのスキーム」(MeitY:2021年12月30日付「File No.W-38/23/2021-IPHW」)

※インド政府の「Designated Linked Incentives:DLI」で承認されたプロジェクトは対象外になる。ただしその場合も、別途、GJ州の「IT/ITeS Policy(2022-27)」(2022年3月31日付調査レポート参照)のインセンティブが適用される可能性がある。

2.適用される資本支出

  1. 半導体製造プロジェクトの場合: MeitYの2021年12月30日付「FileNo.W-38/30/2021-IPHW」2.5.1項の実施ガイドライン(随時改正)に記載された諸活動に関して発生した設備投資/投資。
  2. ディスプレー製造プロジェクトの場合: MeitY の 2021 年 12 月 30 日付「File No.W-38/6/2021-IPHW」第 2.5.1 項の実施ガイドライン(随時改正)に記載された諸活動に関して発生した設備費/投資額。
  3. 化合物半導体/シリコンフォトニクス/センサー工場/半導体組み立て・試験・マーキング・パッケージング(ATMP)/OSAT施設プロジェクトの場合:
    MeitYの2021年12月30日付「File No.W-38/23/2021-IPHW」2.8.1項の実施ガイドライン(随時改正)に記載された諸活動に関して発生した設備投資/投資。

3.資本援助

  1. MeitYの「インド半導体ミッション(ISM)」(注5)によって承認されたプロジェクトは、インド政府による設備投資補助額の40%に相当する追加資本支援を受けることができる。
  2. 当初予定として、半導体製造プロジェクトとディスプレー製造プロジェクトをそれぞれ1件ずつ支援する。
  3. 申請案件については、ハイパワー委員会(High Powered Committee)に送られて承認される。

4.土地調達への補助金

  1. DSIRで設立されるプロジェクトにのみ当該の補助金を適用する。ただし、州政府は他の場所で設立されるプロジェクトにもこの補助金を適用する権限を留保する。
  2. 取得した土地のうち最初の200エーカーに対して75%の補助金を付与する。
  3. 当該プロジェクト、または上流・下流のエコシステムのために、さらに土地を追加取得する場合は50%の補助金を付与する。
  4. 適格事業には印紙税と登録料の100%を1度限り払い戻す。

5.水利用のインセンティブ

  1. 飲用水は5年間、1立方メートル当たり12ルピーで供給する。
  2. その後の5年間は、水道料金は毎年前年比10%増となる。
  3. 10年後には、当局が決める通常の水道料金を適用する。
  4. 海水淡水化プラントの建設費(土地代を除く)の50%を補助。 プロジェクト費用算出法として、容量1MLD(日量100万リッター)当たり8千万ルピーを適用する。

6.電力料金と電力税に関する優遇措置

  1. 1ユニット当たり2ルピーの電力料金補助を10年間付与する。
  2. 国際競争力のある電力料金を保証するため、外国直接投資や国外からの移転プロジェクトには、より高い電力料金補助を提供する。
  3. 1958年グジャラート電気料金法(Gujarat Electricity Duty Act)に基づき、電気料金を免除する。
  4. 電力補助金は、自家発電で消費するエネルギーと海水淡水化プラントで消費するエネルギーには適用しない。
  5. 州政府は操業開始に必要なクリーンルーム、共同施設、その他の建物を短期間で建設することができる。そのような設備が特定ユニット専用の設備の場合、その建設費用は資本援助からは控除されるものとする。

7.州政府による非財政的インセンティブ

  1. ビジネス活動のしやすさと許認可窓口の一元化。
  2. 共同排水処理施設(CEPTs)と処理・貯蔵・処分施設(TSDFs)を通じた州政府による排水・有害廃棄物管理。
  3. 中断することのない電力と水の供給。
  4. 土地調達の円滑化。

注1:
半導体関連産業に必要な共用施設としては、IoT(モノのインターネット)倉庫、マーキング、パッケージ施設、先進検査ラボが例示された。
注2:
DICDLは、中央政府とGJ州政府がDSIRプロジェクト推進のために設立した特別目的会社(SPV)。
注3:
インドでは、地下鉄だけでなく、「大都市」における「大量輸送旅客鉄道」の総称を意味する。
注4:
「NICDICドレラ工業団地視察会」ツアーは、国際協力銀行(JBIC)と国営産業回廊開発公社(NICDIC)、DICDLが共催した。
注5:
インド半導体ミッション(ISM)は、デジタルインディア社内の独立専門事業部門。インドがエレクトロニクス製造・設計の世界的なハブとして台頭できるようになることを期すために組織された。その目的は、半導体やディスプレーの製造に関して、活気あるエコシステムを構築するところにある。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。