2022年の新規登録台数が減少、生産台数は増加に転じる(ハンガリー)

2023年10月11日

ハンガリーの2022年の乗用車(新車)新規登録台数は減少した。減少は3年連続。また、中古乗用車の新規登録台数も減少した。一方、生産台数は2年間の減少を経て再び増加に転じたが、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の水準には達していない。電気自動車(EV)の新規登録台数は伸び続けているが、EV購入に対する政府の支援予算を使い切ったことが影響し、伸び幅は大幅に縮小した。

このほか、本稿では、国内大手自動車メーカー3社(アウディ、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキ)の2022年の動向と、現在建設中のBMW工場の状況も紹介する。

新規登録台数は新車・中古車ともに減少

ハンガリーの民間調査会社データハウスによると、ハンガリーの乗用車(新車)新規登録台数は、2020年と2021年(2023年1月24日付地域・分析レポート参照)に続き、2022年も減少した(図参照)。2022年の新車登録台数は11万1,524台で、2021年(12万1,920台)から8.5%減少し、2017年(11万6,265台)以下の水準にまで戻った。中古車登録台数は、2021年は前年比1.4%増と微増だったが、2022年は4.6%減の12万6,094台と減少に転じた。

図 :乗用車登録台数の推移(新車、中古車)
新車は、2012年は53,059台、2013年は56,139台、2014年は67,476台、2015年は77,171台、2016年は96,555台、2017年は116,265台、2018年は136,601台、2019年は157,906台、2020年は128,030台、2021年は121,920台、2022年は111,524台登録されました。中古車は、2012年は53,533台、2013年は70,700台、2014年は96,747台、2015年は122,620台、2016年は142,002台、2017年は155,414台、2018年は158,790台、2019年は156,475台、2020年は130,430台、2021年は132,205台、2022年は126,094台登録されました。

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

ハンガリー自動車輸入業者協会(MGE)の分析によると、特に2022年上半期の自動車市場に対しては、ロシアによるウクライナ侵攻や、2021年から続く半導体不足によるサプライチェーンの混乱に加え、現地通貨フォリントの対ユーロの急激な減価や、エネルギー価格の大幅な上昇も影響を及ぼしたという。

メーカー別では、スズキが7年連続で首位

新車登録台数をメーカー・ブランド別にみると、スズキが1万3,859台(前年比21.5%減、シェア12.4%)で、7年連続の首位を堅持した(表1参照)。スズキ・ブランドでは、ハンガリー北部のエステルゴム工場で生産する「SX4 S-CROSS」(7,187台)と「ビターラ」(5,509台)が人気だった。

なお、スズキはEU市場でハイブリッド車(HEV)のみを販売しており、輸入車と合わせて同社のHEV全モデルをハンガリーの顧客に提供している。

2位も同じく日系のトヨタで、新車登録台数は1万3,262台(前年比9.8%増、シェア11.9%)だった。ハイブリッド車やスポーツ用多目的車(SUV)を含む「ヤリス」が3,885台と最多、「カローラ」も3,525台と続いた。

3位のフォルクスワーゲン(VW)は1万311台(前年比46.2%増、シェア9.2%)。VWの大幅な伸びは、高級車と販売競争できる新型車「T-Roc」が人気だったことが大きな要因だった。

表1:ハンガリーでの新車登録台数(メーカー・ブランド別、2022年)(単位:台数、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 シェア 前年比
1 スズキ 13,859 12.4 △21.5
2 トヨタ 13,262 11.9 9.8
3 フォルクスワーゲン(VW) 10,311 9.2 46.2
4 フォード 8,516 7.6 △19.7
5 起亜 8,132 7.3 △10.9
6 シュコダ 6,916 6.2 △11.9
7 ダチア 6,117 5.5 △17.0
8 メルセデス・ベンツ 5,752 5.2 1.3
9 BMW 4,785 4.3 17.8
10 オペル 4,230 3.8 1.8
合計 (その他含む) 111,524 100.0 △8.5

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

EV新車登録台数の急成長はストップ

例年、国内乗用車市場の牽引役だったEVは、2021年を大きく下回る増加率だった。

2022年のバッテリー式電気自動車(BEV)の新車登録台数は4,710台(前年比9.2%増)、プラグインハイブリッド車(PHEV)は4,874台(15.1%増)だった(表2参照)。BEVとPHEVの合計は9,584台で、全新車登録台数(11万1,524台)の8.6%を占めた。欧州自動車工業会(ACEA)によると、EU26カ国(マルタを除く)では同割合が21.5%のため、EU域内でみると、ハンガリーでのBEVとPHEVのシェアは低い水準にとどまっている。

表2:ハンガリーでのEVの新車登録台数の推移(2020~2022年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
EVの種類 2020年 前年比 2021年 前年比 2022年 前年比
充電可能なEVの合計 6,042 105.6 8,548 41.5 9,584 12.1
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 3,046 66.2 4,312 41.6 4,710 9.2
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV、注1) 2,996 170.9 4,236 41.4 4,874 15.1
ハイブリッド車(HEV、注2) 31,772 246.5 48,145 51.5 42,499 △ 11.7
EV合計 37,814 212.3 56,693 49.9 52,083 △ 8.1

注1:レンジエクステンダー自動車(EREV)を含む。EREVとは、エンジンを走行用ではなく発電用に搭載しているPHEV。走行時には電気モーターを利用する。通常のPHEVより、航続距離が長くなる。
注2:マイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
出所:ACEAの資料を基にジェトロ作成

韓国の起亜のゼネラルマネージャー、ナジ・ノルベルト氏は「ベゼシュ」ニュース(2023年1月16日付)に対して、EVの新規登録減少の背景には、2022年はEV購入に対する政府の補助金予算を使い切ったため補助金給付がなかったことや、エネルギーやバッテリー価格、充電コストの上昇、原材料の供給能力の制約によるEV生産能力の低下など、複数の要因があると話した。この記事は、EV価格が前年比20%上昇したとのポルシェ担当者のコメントも紹介している。

ここで、BEVのモデル別に新車登録台数を追ってみよう。前述の「ベゼシュ」ニュースによると、最も人気があったモデルは、テスラの「モデル3」で397台(前年比2.4倍)、2位と3位は起亜の「ニロEV」とダチアの「スプリング」でどちらも386台(前者は36.0%減、後者は46.8%増)だった(表3参照)。

表3:モデル別EV新車登録台数(上位10モデル、2022年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 モデル 台数 前年比
1 テスラ・モデル3 397 137.7
2 起亜 ニロEV 386 △36.0
2 ダチア・スプリング 386 46.8
4 シュコダ・エ二ヤック 204 10.9
5 日産リーフ 184 △57.8
6 テスラ・モデルY 183 1120.0
7 フィアット500 171 △ 10.0
8 BMW iX 167 496.4
9 現代 アイオニック5 120 57.9
10 メルセデス EQA 118 26.9

出所:「ベゼシュ」ニュース(vezess.hu)の2023年1月16日付記事 ”A Tesla mindenkit lenyomott Magyarországon Itt vannak a legfrissebb villanyautó-értékesítési toplisták外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”を基にジェトロ作成

前述の「ベゼシュ」ニュースによると、テスラとダチアの人気は手頃な価格にあるという。ダチアの「スプリング」はハンガリー市場で実質的に最も安い新型EVだ。テスラの場合、大幅下落した株価の回復のために値下げを世界で進めており、ハンガリーにもその影響が及び、値ごろ感が広がっている。

前年同様、2022年も中古車の登録台数が新車上回る

前述のデータハウスによると、2022年の中古車の登録台数は12万6,094台(前年比4.6%減)。新車の登録台数の11万1,524台を上回った。

メーカー・ブランド別にみると(表4参照)、VWが前年比5.8%増の1万5,159台だった。VWは2021年に1万4,326台で1位、2020年は1万5,216台で1位と、安定した人気がある。これに、オペルの1万2,509台(6.6%減)、フォードの1万865台(8.1%減)が続いた。中古車で人気があったモデルは、VWのゴルフ(登録台数4,316台)、フォードのフォーカス(3,874台)、VWのパサート(3,416台)の3種だった。

表4:メーカー・ブランド別の中古車登録台数(上位10メーカー・ブランド、2022年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 ブランド 台数 シェア 前年比
1 フォルクスワーゲン(VW) 15,159 12.0 5.8
2 オペル 12,509 9.9 △ 6.6
3 フォード 10,865 8.6 △ 8.1
4 アウディ 7,370 5.8 4.2
5 トヨタ 7,298 5.8 △ 20.0
6 BMW 6,844 5.4 △ 0.1
7 現代 6,535 5.2 △ 9.0
8 メルセデス・ベンツ 6,422 5.1 1.7
9 起亜 5,196 4.1 △ 10.7
10 ホンダ 4,539 3.6 △ 16.9
合計 (その他含む) 126,094 100.0 △ 4.6

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

なぜ、ハンガリーでは、2022年も中古車登録台数が新車登録台数を上回ったのか。ハンガリー自動車輸入業者協会(MGE)と自動車関連企業大連合(ANK)の両団体で会長を務めるクネジック・イシュトバーン氏は、ハンガリーのニュースサイト「インデックス」(2022年12月30日)に対して、2022年には新車、中古車ともに大幅な値上げがあったが、主に対ユーロでの現地通貨フォリント安によるということや、一方で、半導体不足と供給網の問題により、市場に出回る新車は十分ではなく、あったとしても長い時間待たなければならず、その結果、購入者は中古車に目を向けるようになったことをその理由として説明した。とはいえ、自動車取引ウェブサイト「ヨー・アウトーク」(2023年5月15日)は、ユーロ相場の上昇に加え、家庭用エネルギー価格の上昇とインフレのために、中古車需要も2022年末にかけて急減したと指摘した。

国内の全自動車メーカーで生産実績上向く

ハンガリー国内の自動車生産は、2022年まで続いた新型コロナウイルス禍の影響や、エネルギー問題、原材料・部品供給問題といった困難な状況に直面していたにもかかわらず、好調に推移した。ACEAによると、2022年のハンガリーでの乗用車生産台数は45万3,350台。2021年の41万3,750台を9.6%上回った。

メーカー・ブランド別にみると(表5参照)、アウディが17万1,134台で前年に続き首位、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキが続いた(それぞれ15万2,000台、12万9,022台)。2022年は3メーカーがそろって増産に転じた。アウディは0.1%増にとどまったが、その一方で、メルセデス・ベンツは10.1%増、マジャールスズキは19.5%増と大きく伸びた。

表5:メーカー・ブランド・モデル別生産台数(2019~2022年)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
車種・モデル 2019年 2020年 2021年 2022年 前年比
アウディ・ハンガリア  164,817 155,157 171,015 171,134 0.1
階層レベル2の項目Q3 120,230 94,659 102,833 98,665 △4.1
階層レベル2の項目Q3 スポーツバック 15,300 47,232 59,693 64,343 7.8
階層レベル2の項目TT クーペ 11,791 6,793 6,534 6,291 △3.7
階層レベル2の項目TT ロードスター 3,208 1,853 1,955 1,835 △6.1
階層レベル2の項目A3 カブリオレ 7,302 4,620 (生産なし) (生産なし)
階層レベル2の項目A3 リムジン 6,986 (生産なし) (生産なし) (生産なし)
メルセデス・ベンツ
(CLAクーペ、CLAシューティングブレーク、Aクラス、EQB、メルセデスAMG )(注1)
190,000 160,000 138,000 152,000 10.1
マジャールスズキ
(ビターラ、S-Cross)
168,774 112,475 107,974 129,022 19.5
合計(注2) 523,591 427,632 416,989 452,156 8.4

注1:メルセデス・ベンツの生産台数は概数。
注2:「合計」は各社発表の生産台数の合計のため、ACEAの発表とは一致しない。
出所:各社発表からジェトロ作成

大手自動車メーカー・ブランド4社の動向

ここからは、ハンガリー国内に乗用車の生産拠点を持つアウディ、メルセデス・ベンツ、マジャールスズキの2022年の動向をまとめる。併せて、BMW新工場の工事の進捗状況や、新工場の生産で活用するデジタル技術についてもみていく。

アウディ(VWグループ)

アウディ・ハンガリアは北西部のジェールに工場を持つ。同工場では、2022年に乗用車17万1,134台(前年比119台増)を生産した。この生産台数は同工場として過去最多だった。また、同工場は世界最大級のエンジン工場も併設している。2022年はガソリンエンジンとディーゼルエンジンを合計156万9,448基(前年比4万5,657基増)生産した。

2022年にアウディはジェール工場に2億2,000万ユーロを投資し、主に電動化(EV用駆動モーターの生産)に充てたが、新世代の4気筒エンジンなどの生産の準備も行った。

ジェール工場では、EV用駆動モーターの生産を2018年に開始し、アウディ全体のEV用駆動モーター生産の中心拠点にもなっている。2022年は10万8,097基(前年比1万1,121基増)を生産した。なお、アウディは既に2021年6月、内燃機関を搭載した車の製造を原則として2033年までに終了する意向を示している(2021年7月5日付ビジネス短信参照)。

ジェール工場では2024年に、新ブランドモデル「クプラ・テラマール」(クプラはVWグループ傘下セアトの高性能車ブランド)を生産開始の予定だ。新モデルは既存の生産ラインに統合される。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツは、中部のケチケメートに工場を擁する。2022年は乗用車15万2,000台超(前年比1万7,000台増)を生産した。

メルセデス・ベンツは、2021年7月にBEV時代に向けた計画を発表(2021年8月3日付ビジネス短信参照)、2030年までに市場動向によっては全新車販売をBEVにする可能性も視野に、生産車両のBEV化を進めている。2022年7月、同社はケチケメート工場でのBEV生産を強化するため、10億ユーロを投資すると発表した。同工場では、新しいBEV用アーキテクチャー(プラットフォーム)のMMA(メルセデス・モジュラー・アーキテクチャー:小型・中型車用)とMB.EA(メルセデス・ベンツ・エレクトリック・アーキテクチャー:中・大型乗用車用)をベースとしたBEVが2020年代半ばから生産されることになる。これに向けて、新たに工場建屋と生産設備が設置される。

2022年11月には2万3,000平方メートルの新しいプレス工場(2020年に計画発表)での生産を開始した。ここから各種金属部品をメルセデス・ベンツの世界的な生産ネットワークに供給する。

将来的には、ケチケメート工場は、バッテリー組み立て工場としても拡張する予定だ。

マジャールスズキ

マジャールスズキの工場は、首都ブダペストから北西40キロ余りのエステルゴムに位置する。2022年の生産台数は12万9,022台(前年比2万1,048台増)だった。うち76.6%がHEVだった。なお、HEVのシリーズ生産を開始したのは2019年12月のことだ。

エステルゴム工場では「ビターラ」と「S-CROSS」の2つのモデルを生産しており、これらにはマイルドハイブリッドとハイブリッド仕様もある。ハンガリー国外の市場では「ビターラ」が最も人気のあるモデルだったが、国内では「S-CROSS」が最も売れたモデルだった。すなわち、マジャールスズキの発表では、国外では「ビターラ」の販売台数7万3,417台に対し、「S-CROSS」が3万8,020台だったのに対して、国内では「ビターラ」が5,786台で、「S-CROSS」が7,338台という結果だった。

マジャールスズキは、エネルギーや原材料、部品の価格高騰の影響で、新型コロナ禍前の売り上げ水準に達したにもかかわらず、2022年度の利益は半減した。

BMW

BMWは現在のところ、ハンガリー国内に生産拠点は持っていない。同社は2018年、東部のデブレツェンに工場を開設予定と発表したが、工事が開始されたのは2022年に入ってからだった(6月に定礎式)。もともとは、2019年末までに着工の予定だった(2018年8月3日付ビジネス短信参照)。しかし、新型コロナ禍の影響を受け、2020年春に経営陣がスケジュールを見直した。

新工場は、プレスや車体溶接、塗装、組み立てなどの工程を備えた完成車工場になる。また、電動化に向けてBMWが転換する上でも、重要な役割を果たすと見込まれている。例えば、ノイエ・クラッセ(BEVモデル)を二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロで生産する予定だ。

加えて、2022年11月末には、同工場内にEV用高電圧バッテリーの組み立て施設を構築する計画も追加発表した。これで総投資額20億ユーロ超、新規に1,500人を雇用する予定になった。

新工場での生産には最新のデジタル技術が活用される。新工場では車両のシリーズ生産に先立って、2023年3月、米国の半導体大手エヌビディアの仮想空間内で共同作業を行うためのプラットフォーム(基盤)「オムニバース」を導入し、デジタル ツイン(注)を利用するバーチャル生産方式を稼働した。デブレツェン工場は完全なバーチャル空間での生産を可能にするBMW初の工場として設計されている。

工場建屋の建設工事は順調に進んでおり、ハンガリーの建設業関連ニュースポータルの「マジャール・エーピーテゥ―ク」(2023年4月6日)によると、建設業者は2023年4月には建屋のフレーム、壁、屋根まで完成させた。


注:
デジタル ツインとは、「デジタル上の双子」の意で、物理的なモノと空間をデジタル上に再現し、シミュレーションや管理などを行う技術。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。