着実にプロジェクトが加速
インド高速鉄道の進捗状況(前編)

2023年8月7日

ムンバイ~アーメダバード高速鉄道(Mumbai - Ahmedabad High Speed Railway:MAHSR)は、長期間に及んだ新型コロナ禍の影響や政治的要因もあり、2023年には開通ともいわれていた当初の操業計画から大幅に遅れていた。現在、2027年までの運転開始を目指しているともいわれている。インドでは、2022年7月にマハーラーシュトラ(MH)州側の政権交代後(2022年7月29日付ビジネス短信参照)、同州側の用地買収が急速に進んだといわれており、それに伴い、同プロジェクト全体の進捗が加速している印象がある。最近の進捗状況につき、国家高速鉄道公社(National High Speed Rail Corporation Limited:NHSRCL)の発表や各種報道を基に報告する。

インド初の全長7キロの海底鉄道トンネルの契約締結

NHSRCLは2023年6月8日、MAHSRの「C-2パッケージ」において、インド初となる全長7キロメートル(km)の海底鉄道トンネルを含む全長21kmのトンネル建設工事につき、インド大手インフラ建設会社であるアフコン・インフラ(Afcons Infrastructure Limited)と639億7,000万ルピー(約1,151億4,600 万円、1ルピー=約1.8円)の契約を締結したと発表した。今回の契約には、タネ・クリークにおけるインド国内初の7kmの海底鉄道トンネル建設区間が含まれており、MAHSRの中でも技術的に最も困難な開発区間の1つだといえる。トンネルの建設には、3台のトンネル掘削機と「新オーストリア・トンネル工法」(NATM、注)が使用される。同トンネルは単管トンネルで、上り線と下り線の軌道に対応する。また、トンネルに隣接する37カ所、39の設備室の建設がパッケージに含まれる。

全長21kmのトンネルは、MH州側の起点となるバンドラ・クルラ・コンプレックス(Bandra-Kurla Complex:BKC)の地下駅とシルファタ(Shilphata)を結ぶ。また、タネ・クリークの約7kmの海底トンネルは、国内初の海底鉄道トンネルとなる。このトンネルの深さは、地下約25~65メートル(m)となり、建設工事には、直径13.1mのカッターヘッドを持つ全断面トンネル掘進機(TBM)が使用されるが、この直径は、通常の地下鉄システムで都市トンネルに使用されるものの2倍以上ある。

過去1カ月で3つの河川橋が完成

NHSRCLは7月2日、グジャラート(GJ)州内の工区において、直近1カ月の間に3つの河川橋を完成させたと発表した。いずれもGJ州ナブサリ県のビリモラ駅―スーラット駅の間にある、(1)プルナ川に架かる360mの橋、(2)ミンドホラ川に架かる240mの橋、(3)アンビカ川に架かる200mの橋である。

NHSRCLによると、同河川橋の建設プロセスにおける主な課題として、建設中、アラビア海の潮位の差(5~6m)が激しく、常にモニタリングを行う必要があり、基礎工事は困難を極めたという。その他にも、川岸の急勾配、杭打ち時の地下の岩層の硬さ、約26m(10階建てビルの高さに相当)での高所作業など、様々な困難があったとしている。

MAHSR全体では、今後、合計24カ所の河川橋が計画されており、そのうち20カ所がGJ州内、4カ所がMH州内にある。7月2日時点で、過去6カ月に、4つの河川橋が完成した。各州で最長の河川橋は、GJ州内のナルマダ川に1.2km、MH州内のバイタルナ川に2.28kmの橋が建設される予定である。

24編成、総額1,100億ルピーの新幹線車両の入札を公示

7月6日付「タイムス・オブ・インディア」紙によると、NHSRCLは2027年の運転開始を目指し、総額1,100億ルピーにのぼる、「E5系新幹線」(注2)24編成の調達に関する入札を公示したとしている。

また、NHSRCLによると、新幹線は1編成は10両からなり、690人の旅客を収容する。車両には、高温で過酷な天候や粉じんの多さなどインド特有の環境条件に適応するような仕様変更が求められる。なお、応札する企業は10月末までに応札を行う予定だという。

MAHSRの全長508kmのうち、約349kmがGJ州内の工事区間であり、GJ州側の進捗が先行しているため、第1段階としてはGJ州側の区間から運用が始まるのではないかと予測される。また、総工費は約1兆ルピーの予定であったが、約1兆6,000憶ルピーを超えるのではないかという情報もあるようだ。

全長508km区間に関する11件の全ての土木パッケージを発注

7月20日にNHSRCLは、MH州側の7つのトンネルと、バイタルナ川に架かる最長2kmの橋梁を含む、ムンバイ~アーメダバード間135kmの最後の土木パッケージ(C3)の建設の発注を行ったと発表した。これにより、MH州側のBKC駅の建設(C1)、7kmの海底トンネルを含む21kmのトンネル工事(C2)、135kmの線路敷設工事(C3)の3つの土木工事パッケージの発注が全て完了したことになる。

MAHSRプロジェクトは全部で28の契約パッケージに分かれており、そのうちの11の契約が土木パッケージで、これらは33カ月のスパンで発注された。同公社によると、全長465kmの高架橋、12の駅、3つの車両基地、10kmの高架橋からなる28の鋼鉄橋、24の河川橋、全長7kmのインド初の海底トンネルを含む9つのトンネルからなる、全長508km区間に関する11件の土木パッケージ契約は全て、既に落札されたとしている。


注1:
掘った部分をコンクリートで固めながら、山自体の保持力を利用し、トンネルが崩れるのを防ぐ方法。
注2:
最先端の技術を結集し、走行性能と信頼性、環境性能、快適性のすべてを高いレベルで融合させた新世代の新幹線車両。

インド高速鉄道の進捗状況

  1. 着実にプロジェクトが加速
  2. 日印連携の新たな可能性も
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。