米国の消費を牽引するジェネレーションZとは

2023年1月10日

米国は、そのGDPの約7割を個人消費が占め、個人消費動向が米国経済の先行きを左右する。総人口3億3,200万人の中でも、今後、消費行動が本格化し、米国の消費動向において存在感を増すとみられるのが1997~2012年生まれの「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代だ。本稿では、米国の世代別人口動態をみた上で、ジェネレーションZの特徴や消費動向について紹介する。

ミレニアル世代が最多も高齢化が進む見通し

2021年の米国の総人口は3億3,200万人で、中国、インドに次いで世界で3番目に多い。人口構成を世代別にみると、2020年時点で「ミレニアル世代」(1981~1996年生まれ)が構成比22%と最多で、「ベビーブーム世代」(1946~1964年生まれ、21%)、ジェネレーションZ(1997~2012年生まれ、20%)、「ジェネレーションX」(1965~1980年生まれ、19%)が続く(図1参照)。

図1:米国における世代別人口の割合(2020年時点)
2023年時点の年齢が27~42歳のミレニアル世代は全体の22%と最多。次いで、人口割合が多い順に、59~77歳のベビーブーマーが21%、11~26歳のジェネレーションZが20%、43~58歳のジェネレーションXが19%と続く。その他、子供は11%、高齢者は全体の7%を占める。

出所:スタティスタ資料に基づきジェトロ作成

一方で、ボリュームゾーンのミレニアル世代が高齢化するにしたがって、米国でも日本や欧州の一部の国と同様に高齢化が進むと予想されている。米国商務省センサス局が2020年2月に公表した人口構成の将来予測によると、2060年までの間に、18~44歳の年齢層を筆頭に64歳以下が総人口に占める割合は年々低下する。一方、ミレニアル世代を中心とした65歳以上の割合は年々増加すると予想されている(図2参照)。

図2:米国における年齢別人口の推移(2016~2060年)
2016年の年齢別人口の推移は、18~44歳が35.2%と最多で、45~64歳が25.6%、18歳未満が22.3%、65歳以上が14.9%、85歳以上が2.0%。2020年は、18~44歳が35.1%、45~64歳が24.6%、18歳未満が21.8%、65歳以上が16.5%、85歳以上が2.0%。2030年の人口予測は、18~44歳が34.3%、45~64歳が22.3%、18歳未満が20.8%、65歳以上が20.1%、85歳以上が2.5%。2040年の人口予測は、18~44歳が32.6%、45~64歳が23.0%、65歳以上が20.8%、18歳未満が19.9%、85歳以上が3.8%。2050年の人口予測は、18~44歳が31.8%、45~64歳が23.4%、65歳以上が21.0%、18歳未満が19.2%、85歳以上が4.7%。2060年の人口予測は、18~44歳が31.3%、45~64歳が22.9%、65歳以上が22.3%、18歳未満が18.9%、85歳以上が4.6%。

出所:米国商務省センサス局資料に基づきジェトロ作成

米国の消費を牽引するミレニアルが高齢化する一方で、ジェネレーションZはその多くが未成年だ。米国労働省によると、2020年のジェネレーションZの年間平均所得額は3万8,635ドル、年間平均支出額は3万6,512ドルと、ミレニアル世代(それぞれ8万4,975ドル、6万1,236ドル)に比べて低いものの、今後、未成年のジェネレーションZが就業することで可処分所得を増加させ、消費者としての存在感は高まるとみられている。

また、米国社会の高齢化が進み、総人口に占める労働人口の割合は減少する一方で、労働人口に占めるジェネレーションZの割合は増加するため、市場におけるジェネレーションZの相対的な重要性は高まるとみられる。米国においてビジネス活動を行う企業にとっても、今後の消費を牽引するジェネレーションZの特徴や購買行動を理解することは、需要を捉える上で重要な要素となる。

多様性に富んだ価値観を持つジェネレーションZ

一般に、ジェネレーションZは1997~2012年に生まれ、2023年時点で11~26歳の世代グループを指す。米国シンクタンクのブルッキングス研究所によると、2019年時点で各世代の人口構成を人種別にみると、ジェネレーションZに白人が占める割合は51.4%で、ミレニアル世代(55.0%)、ジェネレーションX(59.7%)、ベビーブーマー世代(71.6%)と比較して低い水準にとどまる。その一方で、ヒスパニックは24.6%、黒人は13.8%と、ミレニアル世代(それぞれ20.9%、13.8%)、ジェネレーションX(18.7%、12.6%)、ベビーブーマー世代(10.7%、10.9%)と比較して高く、人種的に多様性に富むことが特徴だ(図3参照)。

図3:米国における世代別・人種別人口の割合(2019年)
年齢層が高い順に、ベビーブーマーにおける人種別人口の割合は白人人口が71.6%と全世代の中で最も高く、黒人は10.9%、ヒスパニックは10.7%、その他は6.8%と続く。ジェネレーションXの白人人口は59.7%、ヒスパニックは18.7%、黒人は12.6%、その他は9.0%。ミレニアル世代の白人人口は55%、ヒスパニックは20.9%、黒人は13.8%、その他は10.3%。最後に、ジェネレーションZの白人人口は51.4%、ヒスパニックは24.6%、黒人は13.8%、その他は10.2%。

出所:ブルッキングス研究所資料に基づきジェトロ作成

人種問題に関しても、ジェネレーションZは先行世代と異なる価値観を持っているとされる。米国シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが実施した人種問題の価値観に関する調査では、ジェネレーションZの回答者の66%は「米国社会における黒人の扱いが『公平でない』」と考えており、その回答割合は先行世代のジェネレーションX(53%)やベビーブーマー(49%)と比較しても高い。

また、ジェンダー問題についても、ジェネレーションZは先行世代と比較してオープンな価値観を持っているとされる。また、ピュー・リサーチ・センターの調査では、ジェネレーションZの回答者の74%が、ジェンダー多様性を尊重する観点から中立的な代名詞〔「He(彼)」や「She(彼女)」の代わりに「They」など〕を使う人が「周りにいる」または「よく耳にする」と回答している。加えて、ジェネレーションZの回答者の57%がそれらのジェンダー中立的な代名詞を使うことに「心理的抵抗がない」と回答しており、その回答割合はベビーブーマー世代(50%)やジェネレーションX(49%)と比較して高い割合となっている。

ジェネレーションZの購買行動は実用・現実的

人種やジェンダーについては、先行世代と比較して多様でオープンな価値観を持つとされるジェネレーションZだが、購買行動においては、先行世代よりも堅実的で慎重な特徴を持つとされる。米国金融情報サイトのインディペンデント・バンカーは、ジェネレーションZの多くがリーマン・ショック(2008年)後の景気後退期間に幼少時代を過ごし、先行世代が住宅ローンや学生ローンに苦労した姿を目の当たりにしたことから、債務やローンを嫌う傾向がある、と指摘している。また、米国調査会社のデータ・アクセルの調査によれば、ジェネレーションZの回答者の65%が商品購入の判断にあたって「割引の利用可否や買い得であるかが重要な判断材料になる」と回答しているとしており、購買行動においては保守的であり、買い得感のあるセールを好む傾向が比較的強いと指摘している。さらに、米国の各世代研究やコンサルティングを行うセンター・フォー・ジェネレーショナル・キネティクス(CGK)代表のジェイソン・ドーシー氏は、ジェネレーションZは購買行動において現実的かつ実用的な考え方をするため、商品やサービスの金額に対する価値を重視する傾向があると述べており、ジェネレーションZが節約志向を持つと同時に、多少金額が高くても価値あるものを購入するという側面もあるとも指摘される。

ライブコマースが有効な販促手法の1つに

また、ジェネレーションZは、スマートフォンやタブレットなどのデバイスが身近にあり、個人が情報発信の主体となりユーザー間で相互に情報交換が行われる「WEB2.0」環境下で育った、デジタルネイティブな世代であることも特徴の1つだ。ジェネレーションZは写真・動画共有アプリのインスタグラムやユーチューブ、ティックトックなどのSNSを日常的に使用しており、全米小売業協会(NRF)によると、ジェネレーションZは1日平均4.5時間程度をSNSの閲覧・投稿などに費やしているとされる。そのジェネレーションZをターゲットとした新たな販促手法として注目されるのが、SNSなどでライブ配信をし、視聴者と配信者がコミュニケーションを取りながら商品やサービスの宣伝および販売を行う「ライブコマース」だ。ライブコマースは中国をはじめとするアジアの国・地域では以前から有力な販促手法とされてきたが、近年は米国でもその手法が広まりつつある。米国小売り大手のアマゾンや、SNS大手のフェイスブックなどでもライブコマースのサービスが提供されているほか、米国小売り大手のウォルマートやノードストロームなどの実店舗事業者もライブコマースを活用した販売に参入している。米国マーケティング会社のザ・インフルエンサー・マーケティング・ファクトリーが、ミレニアル世代およびジェネレーションZを対象に2021年12月に実施した調査によると、回答者の57%が「ライブコマースを利用したことがある」と回答しており、日常的にSNSを活用する若年層を中心にライブコマースが支持されていることがうかがえる。米国調査会社のコアサイト・リサーチによると、2023年までに、米国のライブコマースなど同時配信を活用した小売市場は250億ドル規模となるとされ、ジェネレーションZを中心に今後の市場拡大が見込まれている。

インフルエンサーの行動が購買行動の判断材料に

ジェネレーションZは、ライブコマースなどを通じてオンラインで商品やサービスを購入する機会も多い一方で、実店舗と異なり商品を手に取る、または体験する機会が減少することから、商品やサービスに対して懐疑的な傾向を持つ可能性も指摘されている。購買行動に際しては、SNSにおいて多数のフォロワーを獲得する「インフルエンサー」など第三者のユーザーとつながり、第三者から得た体験情報やアドバイス、口コミ、レビューを判断材料として信頼する傾向も見られる。米国調査会社のモーニング・コンサルトが、ジェネレーションZとミレニアル世代の2,000人を対象に実施した2019年の調査では、ジェネレーションZを含む13~25歳の回答者の72%がいずれかの「インフルエンサーをフォローしている」と回答している。また、回答者の56%が「インフルエンサーの商品推薦を信用している」、50%が「SNSを通じて新商品を知る機会を得たことがある」、さらに、56%が「第三者の投稿を見たことを契機に商品を購入したことがある」と回答している。

マーケティングには透明性も重要に

また、米国メディアのビジネスインサイダーは、ジェネレーションZにブランドへのロイヤリティー(選好度)を求めるのは難しいと指摘する。同社によれば、ジェネレーションZは企業のブランドネームバリューよりもむしろ、企業の事業活動に対する透明性と信頼性を重視する傾向があり、企業も商品やマーケティングの透明性を高めるために、さまざまな取り組みを行っていくことが必要であるとしている。マーケティングの透明性を高める取り組みの例として、米国の下着ブランドのエアリー(Aerie)は、2014年にデジタル技術により広告写真に写るファッションモデルの体形を加工するなど処理を打ち切ることを宣言し、「女性のありのままのリアルな美しさを尊重し、全ての女性を応援する」とのメッセージを発信した。また、標準的な体形や多様な人種の女性を同社製品のモデルに起用し、商品展開サイズを大幅に広げることなどを通じて、多くのジェネレーションZを中心とする若年層の顧客を獲得してきた。

世代別の価値観や購買行動を把握することがポイントに

ジェネレーションZの特徴や消費動向は前述のとおりであるが、ジェネレーションZに限らず、ミレニアル世代やジェネレーションX、ベビーブーマー世代など各世代もそれぞれ異なる特徴や消費動向を持つ。企業にとっては、自社製品のターゲット購買層の特徴や消費動向などを把握することが重要なポイントとなり得るだろう。

なお、米国の消費市場の外観やジェネレーションZ、ミレニアル世代、ジェネレーションX、ベビーブーマー世代の各特徴や消費動向については、ジェトロの米国の消費市場の最新動向をまとめた調査レポート「米国における消費者動向と個人消費の今後の展望」を参照。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
樫葉 さくら(かしば さくら)
2014年、英翻訳会社勤務を経てジェトロ入構。現在はニューヨークでのスタートアップ動向や米国の小売市場などをウォッチ。