生産などが新型コロナ前に届かず
2022年のメキシコ自動車産業(1)

2023年5月29日

メキシコで、2022年の自動車生産台数が前年比9.2%増の330万8,346台に達した。新型コロナ前の380万台の水準には、まだ程遠い。しかし、2023年に入り半導体調達が改善傾向にあるため、2023年はさらに回復しそうだ。

北米の自動車産業には、電動化の動きがある。メキシコでも欧米系メーカーを中心に電気自動車(EV)生産計画が相次いでいる。メキシコ政府も、2030年に自動車生産の50%以上をゼロエミッション車(ZEV)に転換する計画を発表済みだ。しかし、米国とは異なり、企業に対する税制インセンティブや補助金などは存在しない。企業側の投資判断に任せているのが現状だ。

2022年の国内販売は、前年比7.9%増の109万4,728台だった。2016年に実現した160万台の水準には程遠い。メキシコ連邦政府は、車検制度の創設に向けたメキシコ公式規格(NOM)を突如キャンセルした。それだけでなく、自動車業界の度重なる反対にもかかわらず、違法輸入中古車の合法化に向けた政令を乱発。業界の発展よりも、貧困層の支持を得るためにポピュリスト的政策に終始する印象を受ける。

2022年は米系メーカーの生産が好調

2022年の自動車(大型バス・トラックを除く)生産台数は、前年比9.2%増の330万8,346台だった(図1参照)。

メキシコの過去10年間の生産台数の推移をみると、2017年に過去最高の393万台に達した。その後、頭打ちとなり、新型コロナ前の2019年は381万台だった。2020年は、新型コロナの影響で3月末から2カ月ほど工場が停止したことを受けて304万台まで減少。2021年は、半導体不足の影響でさらに1万台ほど生産台数が減少した。2022年4月以降は回復基調に転じた。しかし、半導体調達難の問題が長期化。回復速度は緩慢だった。

一方で、メキシコにおける大型バス・トラックの生産台数は、相対的に好調に推移した。2022年は、前年比20.6%増の20万726台。20万台超えの水準を記録している(2023年1月19日付ビジネス短信参照)。

図1:メキシコの自動車生産・輸出・販売台数
生産台数は、2010年に226.1万台、2011年に255.8万台、2012年に288.5万台、2013年に293.3万台、2014年に322.0万台、2015年に339.9万台、2016年に346.6万台、2017年に393.3万台、2018年に391.9万台、2019年に381.1万台、2020年に304.0万台、2021年は302.8万台、2022年は330.8万台。輸出台数は、2010年に186.0万台、2011年に214.4万台、2012年に235.6万台、2013年に242.3万台、2014年に264.3万台、2015年に275.9万台、2016年に276.8万台、2017年に325.4万台、2018年に345.1万台、2019年に338.8万台、2020年に268.2万台、2021年は270.7万台、2022年は286.6万台。国内販売台数は、2010年に82.0万台、2011年に90.6万台、2012年に98.8万台、2013年に106.5万台、2014年に113.7万台、2015年に135.4万台、2016年に160.7万台、2017年に153.5万台、2018年に142.7万台、2019年に131.8万台、2020年に95.0万台、2021年は101.5万台、2022年は109.5万台。

注:大型バス・トラックを除く販売台数。
出所:メキシコ自動車工業会(AMIA)

2022年の輸出台数は、286万5,641台。前年比5.9%増だった。もっとも、コロナ前2019年の339万台の水準からは程遠い。需要面の問題よりも、半導体不足など供給面の制約が大きかった。輸出台数は生産の86.6%に及ぶ。中でも、米国の存在が大きい。輸出全体の77.5%が米国向けだ。また、カナダ向けが7.6%を占め、あわせて北米向けが85.1%を占める。その他、ドイツ、英国、イタリア、スペインなど欧州向けが7.9%、コロンビア、チリ、ブラジルなど中南米向けが4.4%、日本、オーストラリア、サウジアラビア、韓国、中国などアジア・大洋州向けが2.2%だった。

企業別に2022年の生産台数をみると、前年に不振だったゼネラルモーターズ(GM)が31.0%増の74万3,246台、ステランティスが2.0%増の41万4,952台、フォードが39.0%増の30万3,419台と好調だった。一方、日産は27.1%減の39万1,002台。大幅減で、前年の国内生産2位から4位に陥落した。フォルクスワーゲン(VW)グループ(アウディを含む、11.1%増の47万9,865台)とステランティスに抜かれたかたちだ(表1参照)。他の日系メーカーは、トヨタが20.7%増の26万8,344台と好調。マツダも、年後半に回復をみせて16.3%増加した。対照的に、ホンダは生産車種のモデルチェンジも影響して17.0%減少した。韓国の起亜は20.8%増の26万5,000台と好調だった。

表1:メキシコの企業別自動車(大型バス・トラック除く)生産・販売台数 (単位:台,%)(△はマイナス値、-は値なし)
企業名 生産 販売
2021年 2022年 2021年 2022年
台数 台数 構成比 伸び率 台数 台数 構成比 伸び率
GM 567,380 743,246 22.5 31.0 127,300 165,117 15.2 29.7
フォルクスワーゲン 431,908 479,865 14.5 11.1 130,096 109,120 10.0 △ 16.1
ステランティス 406,973 414,952 12.5 2.0 65,909 74,417 6.9 12.9
日産 536,323 391,002 11.8 △ 27.1 204,569 169,787 15.6 △ 17.0
フォード 218,289 303,419 9.2 39.0 41,735 42,690 3.9 2.3
トヨタ 222,346 268,344 8.1 20.7 91,145 98,087 9.0 7.6
ヒュンダイ・キア 219,400 265,000 8.0 20.8 119,249 130,497 12.0 9.4
階層レベル2の項目起亜 219,400 265,000 8.0 20.8 82,040 89,140 8.2 8.7
階層レベル2の項目ヒュンダイ 37,209 41,357 3.8 11.1
マツダ 127,293 148,098 4.5 16.3 46,901 48,275 4.4 2.9
ホンダ 152,187 126,319 3.8 △ 17.0 43,790 39,960 3.7 △ 8.7
メルセデス・ベンツ 74,337 87,562 2.6 17.8 13,751 15,515 1.4 12.8
BMW 68,919 63,465 1.9 △ 7.9 16,912 16,139 1.5 △ 4.6
JAC 3,126 17,074 0.5 446.2 8,203 16,357 1.5 99.4
MG Motor 16,358 48,112 4.4 194.1
スズキ 33,044 40,366 3.7 22.2
ルノー 28,218 36,598 3.4 29.7
三菱自動車 17,872 19,622 1.8 9.8
モーターネーション(BAIC等) 2,032 6,314 0.6 210.7
スバル 2,119 2,258 0.2 6.6
いすゞ 1,045 1,585 0.1 51.7
その他 4,487 5,242 0.5 16.8
日系企業合計 1,038,149 933,763 28.2 △ 10.1 440,485 419,940 38.7 △ 4.7
合計 3,028,481 3,308,346 100.0 9.2 1,014,735 1,086,058 100.0 7.0

注:系列ブランド(例えばフォルクスワーゲンはSEAT,AUDI,PORSCHE)を含む。
いすゞの販売台数はELF100/ELF200/ELF300の販売台数のみがAMIAに報告されている。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)

米系を中心に、北米向け車種に生産をシフト

改めて米国は、メキシコの自動車生産を牽引する最重要市場だ。2022年の輸出全体の77.5%、国内生産の69.3%を対米輸出向けが占める。

2022年の対米輸出は、約半数がSUV(スポーツ用多目的車)、3分の1がピックアップ・トラックになっている。乗用車は対米輸出全体の2割にも満たない(図2参照)。ピックアップの比率は毎年、対米輸出の3割前後を占め安定している。対照的に、乗用車の輸出比率が年々低下。逆にSUVの比率が上昇してきた。

図2:対米自動車(大型バス・トラック除く)輸出の車種別構成の推移
乗用車・バンの対米輸出は2016年に116万5,613台で全体の54.6%を占め、2017年は111万8,438台、47.9%、2018年は99万5,894台、42.3%、2019年は103万8,775台、39.3%、2020年は63万5,766台、29.8%、2021年は44万7,803台、21.6%、2022年は39万7,985台、17.9%と構成比が年々縮小。SUVの対米輸出は2016年に28万1,284台で全体の13.2%を占め、2017年は52万3,673台、22.4%、2018年は68万6,017台、29.1%、2019年は103万9,395台、39.3%、2020年は85万3,195台、40.0%、2021年は88万3,819台、42.7%、2022年は108万1,880台、48.7%と構成比が年々拡大。ピックアップの対米輸出は2016年に68万6,827台で全体の32.2%を占め、2017年は69万3,134台、29.7%、2018年は67万4,127台、28.6%、2019年は56万4,184台、21.4%、2020年は64万6,080台、30.3%、2021年は74万46台、35.7%、2022年は74万2,047台、33.4%と構成比は30%前後で安定。

注:データラベルは輸出台数。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

メキシコは、100カ国以上に自動車を輸出する自動車輸出大国だ。一方で近年は、米系を中心に、米国で売れる車種への生産転換が進んでいる。

メーカー別車種別の生産台数をみると(図3参照)、GMとフォードは、現時点で乗用車をメキシコでほとんど生産していない。両社とも、以前は国内販売向けに小型車を生産していた(GMはアベオ、フォードはフィエスタなど)。ステランティスも2022年に乗用車の生産は無くなっており、商用バンのプロマスターを生産しているものの、現在はSUVとピックアップを中心に生産にしている。米系3社(注1)は、メキシコ国内工場の生産をSUVとピックアップに集約していることになる。すなわちメキシコは、北米向けに両車種を生産する拠点として位置付けられているわけだ。

この傾向がみられるのは、米系だけではない。例えば、次に示すような例がある。

  • トヨタ:メキシコ2工場の生産は全量ピックアップ。
  • ホンダ:SUVの生産で100%。
  • マツダ:、欧州や中南米向けに、小型車の生産が今なおある。しかし、以前はもっと大きな比重を占めていた。現在は、米国向けのSUV生産が大きくなっている。
  • VW:以前はセダンタイプの生産が多かった。しかし現在は、SUVがほぼ9割を占める。

一方で、日産と起亜については、2022年時点でも国内や中南米市場向けの小型車を多く生産している。なお日産は、SUVやピックアップの生産もある。ただし、米国で主流のサイズより小さいタイプを生産している。

図3:企業別車種別自動車(大型バス・トラック除く)生産(2022年)
GMは、乗用車・バンを8,135台(全体の1.1%)、SUVを41万479台(55.2%)、ピックアップを32万4,632台(43.7%)生産。日産は、乗用車・バンを21万5,287台(全体の55.1%)、SUVを11万7,685台(30.1%)、ピックアップを5万8,030台(14.8%)生産。VWは、乗用車・バンを5万6,566台(全体の11.8%)、SUVを42万3,299台(88.2%)生産。ステランティスは、乗用車・バンを6万7,467台(全体の16.3%)、SUVを23万3,547台(56.3%)、ピックアップを11万3,938台(27.5%)生産。フォードは、SUVを21万1,985台(69.9%)、ピックアップを9万1,434台(30.1%)生産。起亜は、乗用車・バンを26万5,000台(全体の100.0%)生産。トヨタは、ピックアップを26万8,344台(100.0%)生産。ホンダは、SUVを12万6,319台(100.0%)生産。マツダは、乗用車・バンを4万6,979台(全体の31.7%)、SUVを10万1,119台(68.3%)生産。BMWは、乗用車・バンを6万3,465台(全体の100.0%)生産。ダイムラーは、SUVを8万7,562台(100.0%)生産。JACは、乗用車・バンを2,569台(全体の15.0%)、SUVを1万3,474台(78.9%)、ピックアップを1,031台(6.0%)生産。12社合計では、乗用車・バンを72万5,468台(全体の21.9%)、SUVを172万5,469台(52.2%)、ピックアップを85万7,409台(25.9%)生産。

注:データラベルは生産台数。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

メキシコの自動車産業は、全体的に北米向けの生産に依存する傾向がある。しかし、各社の戦略の違いにより、仕向け地にメーカー別の特色が出る(図4参照)。GM、フォード、ステランティスの米系3社、トヨタ、ホンダは北米向けが8割台から9割前後を占める。これに対し、日産や起亜は国内向けの生産比率が比較的高い。VW、BMW、ダイムラーといった欧州メーカーは、米国向け比率が高いものの、欧州にも一定割合を仕向けている。特にダイムラー(メルセデス・ベンツ)は、欧州向け生産比率が最も高いという特徴がある。マツダは、北米、メキシコ国内、中南米、欧州と様々な地域に一定程度を輸出。仕向け地の偏りが小さい。

図4:企業別仕向け地別自動車生産比率(2022年,国産車販売+輸出の合計に占める構成比)
GMは生産の83.3%が米国向け、3.9%が国内市場向け、9.6%がカナダ向け、1.0%が中南米向け、1.5%がアジア向け、残りがその他。日産は生産の41.8%が米国向け、39.3%が国内市場向け、4.9%がカナダ向け、11.8%が中南米向け、0.1%が欧州向け、1.5%がアジア向け、残りがその他。VWは生産の53.8%が米国向け、6.1%が国内市場向け、8.7%がカナダ向け、1.6%が中南米向け、27.2%が欧州向け、1.7%がアジア向け、残りがその他。ステランティスは生産の83.3%が米国向け、4.7%が国内市場向け、7.9%がカナダ向け、3.1%が中南米向け、0.7%がアジア向け、残りがその他。フォードは生産の84.1%が米国向け、2.0%が国内市場向け、4.6%が中南米向け、9.3%が欧州向け。ホンダは生産の84.9%が米国向け、6.4%が国内市場向け、7.9%がカナダ向け、その他0.8%については仕向地を発表していない。トヨタは生産の90.3%が米国向け、1.7%が国内市場向け、6.0%がカナダ向け、2.0%が中南米向け。マツダは生産の53.1%が米国向け、18.5%が国内市場向け、7.4%がカナダ向け、9.5%が中南米向け、11.1%が欧州向け、0.1%がアジア向け、残りがその他。起亜は生産の61.1%が米国向け、24.6%が国内市場向け、6.4%がカナダ向け、7.3%が中南米向け、0.5%がアジア向け、残りがその他。BMWは生産の49.6%が米国向け、1.1%が国内市場向け、2.7%がカナダ向け、1.2%が中南米向け、28.0%が欧州向け、12.6%がアジア向け、4.8%がその他。ダイムラー(メルセデス・ベンツ)は生産の30.0%が米国向け、0.8%が国内市場向け、2.3%がカナダ向け、2.5%が中南米向け、42.3%が欧州向け、18.3%がアジア向け、3.9%がその他。11社合計すると生産の69.3%が米国向け、10.6%が国内市場向け、6.7%がカナダ向け、4.0%が中南米向け、7.1%が欧州向け、1.6%がアジア向け、残りがその他。

出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

米国のEV税額控除制度がメキシコでのEV生産を後押し

米国のジョー・バイデン大統領は2021年8月、環境配慮車に関する大統領令を発令した。2030年までに、販売される新車(乗用車と小型トラック)の50%以上を、電気自動車(EV、注2)または燃料電池車(FCV)にするという。また、2022年8月には、インフレ削減法(IRA)に署名した。IRAには、EVやFCVなどZEVを購入する消費者に対し、最大7,500ドルの税額控除(EV税額控除)が盛り込まれた。このEV税額控除は、EV普及が中国や欧州と比べると遅れていた米国で、普及促進に向けた大きなインセンティブになっている。EV税額控除は、北米で最終組み立てしたEVの購入が条件になる。さらに最大限の控除を享受するためには、バッテリー構成部品が北米産という要件も加わる(2022年12月14日付2023年4月3日付ビジネス短信参照)。メキシコは北米と見なされるため、米国のEV税額控除は、メキシコでのEVの最終組み立てやバッテリー構成部品の生産・調達に向けたインセンティブとして機能する。

メキシコを北米向け車両生産拠点として強く位置付ける米系完成車メーカーは、IRAの成立に先立ち、EVの生産計画を発表。例えばフォードは、既にメキシコでEVを生産済みだ(表2参照)。また、VWやBMWなど欧州系メーカーも、メキシコでのEV生産に向け、投資を相次いで発表している。2023年3月には、EV専業メーカーのテスラも、北東部ヌエボレオン州にEV工場を設立することを発表した。さらに、北部や北東部を中心に、EV用自動車部品メーカーの投資も相次いでいる(GMとステランティスに納入するサプライヤーや、テスラのサプライヤーなど)。

表2:メキシコでの電気自動車(EV)生産に関する投資
発表
時期
車両メーカー 本社所在国 工場所在地 投資額 投資内容
2020年7月 フォード 米国 メキシコ州 11億ドル スポーツ用多目的車(SUV)タイプの「マスタング・マッハE」の製造。
2021年7月 ゼネラルモーターズ(GM) 米国 コアウイラ州 10億ドル ラモス・アリスぺ工場を2023年3月からEV生産工場に変更。
2022年10月 フォルクスワーゲン
(VW)
ドイツ プエブラ州 7億6,350万ドル 新塗装工場建設。2024年末に新型SUVの製造開始。2026年以降にEVの組み立て開始。
2023年2月 BMW ドイツ サンルイスポトシ州 8億ユーロ EV生産とメキシコ初の高電圧バッテリー製造工場の新設。
2023年2月 ステランティス オランダ コアウイラ州 2億ドル EVバン「RAM ProMaster EV」を、2023年末に生産開始。EVピックアップ・トラック「RAM1500 REV」の生産も検討。
2023年3月 テスラ 米国 ヌエボレオン州 非公表 北米輸出向けに、EV車両組立工場を建設。

出所:各社プレスリリースなどからジェトロ作成

中国メーカーの安徽江淮汽車(JAC)も、EV生産に取り組んでいる。同社は現在、イダルゴ州でメキシコ資本のジャイアント・モーターズと提携して、車両をセミノックダウン(SKD)生産。その生産車両14車種のうち、4車種がEVなのだ。中国メーカーのEV生産は、さらに増える可能性もある。ジェトロ・メキシコ事務所が2023年4月11日にメキシコ自動車工業会(AMIA)のホセ・ソサヤ会長から聴取したところ、JAC以外に中国メーカー1社がメキシコにおけるEV生産を検討し、AMIAへの加入プロセスを進めている。

一方、日系メーカーや韓国メーカーからは、2023年4月末時点で、メキシコでのEV生産計画が発表されていない。

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は2022年6月17日、「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(注3)に参加。そこで、メキシコの気候変動対策10カ条を発表した。この中で、2030年までに自動車生産の50%をZEVにするという目標を掲げた。「新車販売の50%以上」ではなく「生産の50%」のため、米系メーカーを中心に対米輸出向け生産車種のEV化が進むと、達成は不可能でない。ただし、連邦政府は、目標達成に向けインセンティブや投資誘致策を一切講じていない。そうした中で、マルセロ・エブラル外相は2023年2月1日、「自動車産業の転換に向けた現状と提言」と題した報告書を発表。産業界全体で環境に優しい自動車を生産していくため、メキシコが取り組むべきステップを示した。同報告書は、外務省が米国カリフォルニア大学の支援を受けて作成したもので、合計で28の提言から成る。このように提言はあっても、それを今後どのように実行に移すのか、具体的な計画がない。こうしてみると、最大の仕向け地・米国市場のEV化が進むのに伴い、当地自動車生産のEVシフトは政策と直接関係ないかたちで進んでいくことになりそうだ。

国内市場でEV販売は伸びるのか

一方で、国内販売市場のEV化を進むためには、メキシコ政府による何らかの推進策が必要不可欠になるだろう。メキシコに現存するEV向けインセンティブとしては、以下のものがある。米国など他国と比べて、メキシコの消費者向けインセンティブは乏しいのが実情だ。

  • 消費者を対象にしたもの:連邦が課する新車税(ISAN、注4)の免除、州が課する自動車所有税(Tenencia)の減免。
  • 駐車場などの運営事業者を対象にしたもの:EVの充電スタンドを設置した場合、その投資額の30%を当該年度の法人所得税(ISR)から税額控除できる。
  • 一般関税率の減免:国内でEVの普及を進めるため、2020年9月4日から2024年9月30日までの間、新車EV(バス、乗用車、トラック)に限って無税化。

いずれにせよ、現行のEV車種は、販売価格が内燃機関エンジン(ICE)自動車に比べるとかなり高い。所得水準が低く、自動車の世帯保有率が4割程度というメキシコ国民にとっては、なおさら高い買い物になる。

また、充電スタンドの設置を、民間事業者による投資に依存している。連邦政府や州政府が積極的に充電スタンドを設置するような動きもない。

さらに、EVの普及は電力需要を増加させることになる。しかし、AMLO政権は、電力市場の中で国営電力庁(CFE)の役割を過度に重視。換言すると、民間投資を阻害するような政策を推進している。そのため、過去に民間事業者を中心に進められてきた再生可能エネルギーを中心とした発電能力の増強は、今後は短期的に望めない。現政権下、送配電網への投資はCFEにだけ認められ、しかも滞っている。中長期的に全国で安定した電力を利用できるインフラが確保できるか、疑わしい状況だ。

確かに、メキシコのEV販売台数は年々、増加傾向にはある。しかし、2022年時点で、ハイブリッド(HEV)まで含めても国内新車販売台数の4.7%に過ぎない(図5参照)。当面のところ、飛躍的な伸びは期待しにくいだろう。

図5:メキシコにおけるハイブリッド・電気自動車の販売台数
2016年はハイブリッド(HEV)が7,490台、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)が521台、電気自動車(EV)が254台。2017年はHEVが9,349台、PHEVが968台、EVが237台。2018年はHEVが1万6,022台、PHEVが1,584台、EVが201台。2019年はHEVが2万3,964台、PHEVが1,339台、EVが305台。2020年はHEVが2万1,970台、PHEVが1,986台、EVが449台。2021年はHEVが4万2,447台、PHEVが3,492台、EVが1,140台。2022年はHEVが4万859台、PHEVが4,575台、EVが5,631台。電動車(HEV、PHEV、EVの合計)の国内販売総数に占める比率は、2016年に0.5%、2017年に0.7%、2018年に1.2%、2019年に1.9%、2020年に2.6%、2021年に4.6%と右肩上がりで上昇。2022年は4.7%と横ばい。

注:テスラを除く販売台数。
HEV:ハイブリッド、PHEV:プラグインハイブリッド、EV:電気自動車,xEVはHEV,PHEV,EVの合計。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

中国からの輸入が急増、太平洋岸の港が飽和状態に

2022年の国内販売台数は、前年比7.9%増の109万4,728台にとどまった。過去最高を記録した2016年(160万7,165台)やコロナ前の2019年(131万7,931台)と比べると、依然として低い水準だ。低迷した根本的な要因としては、半導体不足の問題が長期化したことが大きい。その結果、ディーラーへの新車供給が滞り、十分に販売できない状況が続いた。

企業別に国内販売台数(表1参照)をみると、日産が14年連続で、国内販売1位の座を保った。もっとも、前年比17.0%減の16万9,787台と、販売実績は大きく減った。GMの16万5,117台(前年比29.7%増)をかろうじて上回ったかたちだ。

また、2022年はVW(系列ブランド含む)が16.1%減の10万9,120台と販売を落とした。その結果、12.0%販売を伸ばしたヒュンダイ・起亜(13万497台)の後塵を拝した。

日産以外の日系メーカーは、トヨタが7.6%増の9万8,087台と堅調。マツダが2.9%増の4万8,275台、ホンダが8.7%減の3万9,960台、スズキが22.2%増の4万366台、三菱自動車が9.8%増の1万9,622台、スバルが6.6%増の2,258台、いすゞが51.7%増の1,585台になった。前年同様、スズキの販売好調が目立った。

2022年に躍進が目立ったのは、中国系ブランドだ。MGモーターは前年比2.9倍の4万8,112台、JACが99.4%増の1万6,357台、モーターネーション(重慶長安汽車と北京汽車の輸入販売会社)が3.1倍の6,314台。いずれも販売が急増している。

中国ブランドに加え、GM、フォード、ステランティスなどの米系企業も、中国からの輸入を増やした(主に小型車)。その結果、2022年の中国製自動車輸入販売台数は、前年比約2.2倍の17万3,583台に達した。米国、ブラジル、日本、インドなど他の主要国を上回り、輸入車販売全体の23.8%、国内販売全体の16.0%を占めた。なお、中国から最も多く輸入したのはGMだった(10万7,772台、前年比83.6%増、図6参照)。

図6:企業別・原産国別輸入車販売台数(2022年)
GMは米国から1万964台、ブラジルから1万7,062台、中国から10万7,772台、その他から845台を輸入して販売した。日産は米国から1,816台、日本から1万2,904台を輸入して販売した。VWは米国から1,930台、EU・英国から2万7,045台、ブラジルから2万9,752台、アルゼンチンから845台、その他から20,395台を輸入して販売した。ステランティスは米国から9,817台、カナダから1,656台、EU・英国から9,142台、ブラジルから1万9,286台、中国から9,581台、その他から7,092台を輸入して販売した。フォードは米国から2万651台、カナダから880台、EU・英国から2,870台、ブラジルから281台、アルゼンチンから6,465台、中国から2,033台、その他から3,715台を輸入して販売した。ホンダは米国から1万6,490台、カナダから1,221台、ブラジルから1万477台、その他から3,508台を輸入して販売した。トヨタは米国から2万5,454台、カナダから1万2,074台、日本から7,650台、EU・英国から29台、その他から4万8,460台を輸入して販売した。マツダは日本から2万3,772台を輸入して販売した。ヒュンダイ・起亜は米国から3,801台、EU・英国から8,359台、ブラジルから1,320台、その他から5万1,580台を輸入して販売した。ルノーは、EU・英国から50台、ブラジルから2万897台、アルゼンチンから4,386台、コロンビアから8,679台、その他から2,586台を輸入して販売した。BMWは米国から6,205台、EU・英国から8,985台、中国から238台を輸入して販売した。ダイムラーは米国から4,505台、EU・英国から1万330台を輸入して販売した。その他のメーカーは、米国から230台、日本から3万1,221台、EU・英国から7,971台、中国から5万3,959台、その他から3万109台を輸入して販売した。

注:「その他」はインドやタイ、韓国など。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

中国から自動車輸入が急増したことで、物流上の問題も出ている。ミチョアカン州ラサロカルデナス港(太平洋岸最大の自動車貿易港)では、自動車専用ターミナルとヤードが飽和。日本からの輸入を含め、同港に到着する完成車の輸入通関が大きく遅延している。日系船会社へのヒアリングによると、この状況は2022年後半に深刻化した。以前は長くても2日程度の滞船だったのが、2022年8月には最長7日、9月には同30日に達したという。その後、混雑を避ける目的で船会社が同港への寄港を減らし、滞船日数はやや改善した。しかし、2023年1月には最長11日、2月には、同21日と再び悪化した。遅延の原因としては、(1)急速な取扱量増加により、自動車専用ヤードが逼迫したことに加え、(2)税関の処理能力、(3)鉄道の貨車および便数、(4)車両運搬用トレーラーおよびトラック運転手、それぞれの不足など、さまざま考えられる。それ以前の実体的要因として、中国から自動車輸入が急増したことがあるのは間違いない。もちろん、太平洋岸の港湾ならほかにもある。しかし、その中で最大のコリマ州マンサニージョ港は、総敷地面積ではラサロカルデナス港よりむしろ狭い。そのことから、コンテナの取り扱いだけで既に飽和状態にあり、自動車の取扱量を増やすことはできない。シナロア州マサトラン港などの代替港の活用も進んではいる。それでも、メキシコにおける中国製メーカーの販売拡大のスピードに、太平洋岸の処理能力が追い付いていないというのが、現状だ。今後も、アジアからの自動車輸入通関の遅延が続く見通しと考えざるを得ない。

もちろん、ラサロカルデナス港当局も無策ではない。この状況を受け、(1)自動車に関して、特別な場合には(注5)週7日・24時間の通関を認める特例措置や、(2)臨時自動車ヤードの設置など、対策を講じている。また、(3) 16.7ヘクタールにおよぶ新自動車ヤードの開発運営入札プロセスを、2023年3月6日に開始した。

違法中古車合法化や車検制度廃止に、業界が強い懸念

当地では、違法に輸入された中古自動車の扱いも問題になっている。

AMLO大統領は2021年10月、行政命令に署名。国境地帯で違法輸入の状態にある中古車を合法化する措置を適用するよう、関連省庁に命じた。2022年1月19日には、当日付官報で具体的手続き事項を定める政令を公布した。より具体的には、手数料を支払うことで、違法状態の輸入中古車を合法化させるというものだ。その狙いは、(1)合法的なナンバープレートを付し、車両に公式登録(REPUVE)することにより、違法車両を利用した犯罪を防止すること、加えて(2)非合法車両を所有する貧困層に、法的安心感を与えること、とされている。大統領はさらに、2022年2月27日付政令でこの手続きを大幅に簡素化した(2022年3月2日付ビジネス短信参照)。これにより、車両所有者は確定輸入申告をする必要がなくなった。また、税関当局が対象車両を検認する必要もなくなった。違法車両所有者は2,500ペソ(約1万8,900円、1ペソ=約7.56円)の手数料を支払い、定型宣誓文書に所定事項を入力して送付する。それだけで、同文書が税関に対しても車両の輸入ステータスと合法的な所有を示す文書として認められることになる。

この措置に、メキシコ自動車工業会(AMIA)やメキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)は強く批判的だ。新車市場と正規中古車市場に大きな悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。特に、輸入申告を不要にし、車両所有者の宣誓だけで合法化が認められるということは、申告文書を審査する主体(税関)がなくなることを意味する。本来なら輸入が認められるはずもない車両(注6)まで合法化されてしまう可能性が高いという。また、この措置は元々、2021年10月19日以前に対象州内に存在した車両だけを対象にするものとして設計されていた。ところが、チェック機能が働かないため、それ以降に違法輸入された車両でも合法化対象になり得てしまう。この手続きの簡素化は、メキシコで走行する車両の老朽化につながる。さらに、合法的なナンバープレートが一度取り付けられることで、対象州以外で走行したり、販売されたりされ得る。AMDAは、この措置によって、類似の新車や正規中古車の販売を20%減少させる可能性があると懸念している。

当該政令は制定時点で、2022年7月20日が期限とされていた。しかし、実際にはその後何度も延長された。現時点では、2023年6月末の期限で実施されている。また、対象となる州も拡大されてきた。4月末時点では、15州(バハカリフォルニア、南バハカリフォルニア、チワワ、コアウイラ、ドゥランゴ、ハリスコ、ミチョアカン、ナヤリ、ヌエボレオン、サンルイスポトシ、シナロア、ソノラ、タマウリパス、トラスカラ、サカテカス)まで広がった。

半導体不足などの影響を受けて新車が供給不足ということもあり、2022年のメキシコの中古車輸入台数は前年比19.3%増の19万9,224台に達した。これは、同年の新車販売台数の18.2%に相当する規模ということになる(図7参照)。AMLO政権の違法中古車に寛容な政策によって、犯罪組織などによる中古車の違法輸入がさらに増加してしまい、新車市場・正規中古車市場にも悪影響を与えかねない。

図7:新車販売と中古車輸入の推移
2010年の新車販売台数は82万台、中古車輸入台数は47万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は57.3%。2011年の新車販売台数は90.6万台、中古車輸入台数は59.7万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は65.9%。2012年の新車販売台数は98.8万台、中古車輸入台数は45.8万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は46.4%。2013年の新車販売台数は106.5万台、中古車輸入台数は64.6万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は60.7%。2014年の新車販売台数は113.7万台、中古車輸入台数は45.5万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は40.1%。2015年の新車販売台数は135.4万台、中古車輸入台数は18万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は13.3%。2016年の新車販売台数は160.7万台、中古車輸入台数は14.8万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は9.2%。2017年の新車販売台数は153.5万台、中古車輸入台数は12.4万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は8.1%。2018年の新車販売台数は142.7万台、中古車輸入台数は14.2万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は9.9%。2019年の新車販売台数は131.8万台、中古車輸入台数は15.9万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は12.1%。2020年の新車販売台数は95万台、中古車輸入台数は12.4万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は13.1%。2021年の新車販売台数は101.5万台、中古車輸入台数は16.7万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は16.5%。2022年の新車販売台数は109.5万台、中古車輸入台数は19.9万台、中古車輸入台数の新車販売台数に占める比率は18.2%。

出所:メキシコ自動車販売ディーラー協会(AMDA)

なお、当地では2022年5月、メキシコ公式規格(NOM-236-SE-2021)が公布されていた。この規格は、全国的な車検制度を導入することを狙いにするものだった。しかし、「貧困層の家計に悪影響を与える」というAMLO大統領の考えに基づき、2022年11月、突如廃止されてしまった(2022年11月9日付ビジネス短信参照)メキシコ公式規格には、自動車業界・政府間で15年以上にわたる議論を経てようやく策定されたという経緯がある。それだけに、自動車業界の強い失望を招いた。

その結果、AMDAは2022年11月7日、AMIA、自動車部品工業会(INA)とともに共同記者会見。(1) NOM-236-SE-2021の廃止は交通事故防止の観点から、完全な後退を意味する、(2)車両の買い替えを遅らせる、(3)それだけでなく、交通安全という国民の基本的権利を阻害する、と表明。そうしたことから、アンパロ(注7)の提訴を検討することを明らかにした(AMDAプレスリリース2022年11月7日付)。

国内販売は、今後減速の可能性も

2023年第1四半期(1~3月)は、(1)自動車生産、(2)輸出、(3)国内販売とも、好調だった。(1)は前年同期比8.6%増の92万2,177台、(2)は8.9%増の74万1,306台、(3)は24.4%増の31万5,126台だ。2023年3月末時点で過去12カ月を累計すると、(1)が338万1,479台、(2)が292万5,955台、(3)が115万6,472台の水準に達したことになる(図8参照)。生産の回復は、半導体の調達が改善したことが大きく影響した。この問題の余波を受けて、前年不振だった日産も、前年同期比43.4%増の14万9,908台と大きな回復をみせた。

図8:自動車生産・輸出・販売台数の推移(過去12ヵ月の累計)
生産台数は2016年5月以降右肩上がりとなり、2018年2月に397万台の水準に達した後、ほぼ横ばいで推移。2019年7月の395.6万台を境に緩やかな減少傾向に転じ、新型コロナ感染拡大前の2020年2月には392.6万台の水準であった。その後、新型コロナの影響を強く受けて、2020年9月には296.8万台の水準まで下落した。その後はほぼ横ばいも半導体調達難に苦しみ、2021年1月以降2月まで下落、2021年2月時点では289.4万台の水準まで下落した。その後6月まで回復も、2021年7月以降再び減少に転じ、2022年1月には302.4万台の水準まで低下していた。その後4月まではほぼ横ばい、5月以降回復に転じ、2023年3月時点では338.1万台の水準まで回復している。輸出台数は2016年8月以降右肩上がりとなり、2019年7月には355.4万台の水準に達した。その後緩やかな減少傾向となり、新型コロナ感染拡大前の2020年2月時点では338.4万台の水準であった。その後、新型コロナの影響を受け、2020年9月には260.9万台まで下落、その後はほぼ横ばいも半導体調達難に苦しみ、2021年1月以降3月まで下落、2021年3月時点では256.8万台の水準まで下落した。その後6月まで回復も、2021年7月以降再び減少に転じ、2022年2月には268.8万台の水準まで低下していた。その後4月まではほぼ横ばい、5月以降回復に転じ、2023年3月時点では292.6万台の水準まで回復している。国内販売台数は2017年3月の163.8万台をピークに緩やかな減少傾向が続き、新型コロナ感染拡大前の2020年2月時点では131.2万台の水準にあった。その後新型コロナの影響を強く受け、2021年2月には90.5万台の水準まで下落した。その後2021年7月までは回復傾向にあり、104.3万台の水準まで戻したが、その後は新車の供給不足の影響もあり2022年7月までは横ばいに推移した。2022年8月以降増加に転じ、同年末以降加速、2023年3月時点では115.6万台の水準まで戻している。

注:過去12ヵ月の累計台数。例えば、「2018年1月」は2017年2月~2018年1月の累計。 出所:メキシコ自動車工業会(AMIA)データから作成

特に好調だったのが、(3)の国内販売だ。これには、ディーラーに対する新車供給の回復が寄与している。ジェトロ・メキシコ事務所が2023年4月19日にAMDAのギジェルモ・ロサレス会長から聴取したところ、2022年は半導体調達難などの影響で自動車メーカーからディーラーへの供給が滞った。この時期、新車の購入契約から車両の引き渡しまでに平均4カ月を要していた。しかし、現在は2カ月程度に短縮しているという。

では、こうした好調は今後も続くのかというと、疑問符も付く。その要因を列挙すると、次の通りだ。

  • 2023年第1四半期に販売された車両には、前年の秋ごろに契約されたものが多く含まれている。すなわち、引き渡しができずにたまっていた分が積み重なるかたちで販売台数が多くなったという側面もあるようだ。
    しかし、2023年後半には、ディーラーの新車在庫が落ち着きをみせると考えられる。そうなると、販売台数の伸びが緩慢になると想定できる。
  • 国民の購買力にも、余裕がない。国民の所得水準が大きく改善していない一方で、車両販売単価は上昇傾向だからだ。
  • インフレ抑制のために政策金利が11.25%まで引き上げられた影響で、自動車ローンの金利も上昇傾向にある。2022年の国内販売では、全体の59.2%が自動車ローンを利用して販売していた。 このことを考慮すると、金利の上昇も今後の国内販売を減速させる要因になり得る。

注1:
ステランティスの本社は、フィアット・クライスラー(FCA)とプジョー・シトロエン(PSA)の合弁を経てオランダに置かれている。ただし、メキシコで生産されている車種は、旧クライスラーのブランドによる。そのため、本レポートでは米系として扱う。
注2:
ここで言うEVには、プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む。
注3:
「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」は、米国のバイデン大統領がオンライン開催した。
注4:
新車の販売価格に応じて、2~17%が課税される。
注5:
完成車メーカーまたは正規販売会社が税関の特別許可を取得した場合。
注6:
例えば、(1)メキシコや北米で合法的に走行できない、(2)安全基準や排ガス基準などを満たさない、(3)盗難された、(4)犯罪に使われた、などの事情のある車両。
注7:
行政府や立法府、司法府による行為が憲法の定める基本的権利を侵害すると判断される場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。

2022年のメキシコ自動車産業

  1. 生産などが新型コロナ前に届かず
  2. 部品産業好調の要因と課題を探る
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。