車検制度導入を視野に入れた自動車公式規格の発効を断念、業界は反発、提訴の動きも

(メキシコ)

メキシコ発

2022年11月09日

メキシコ経済省は11月8日、ツイッターの公式アカウントを通じてプレスリリースを出し、6日に同省の品質インフラ委員会がメキシコ公式規格(NOM-236-SE-2021)の廃止を決定したと発表した。同NOMは、車両総重量3,857キロ以下の自動車に対する物理的・機械的安全規格で、総合的車検制度の全国的制定を視野に入れたもの(2022年5月17日記事参照)。2022年5月3日付官報で公示し、180日後の10月30日に発効するはずだったが、経済省の10月28日付官報公布省令に基づき、発効が12月1日まで延期されていた(2022年10月31日記事参照)。今後、連邦官報で同NOMの廃止を正式に公示する見通し。

経済省は廃止の理由として、同NOMが自動車を仕事の道具として利用する家庭の収入に悪影響を与える内容で、車検に合格するための検査費用や必要となる修理費用など予定外の費用負担を家計に強いることになるため、廃止することにより、仕事や家族用途に自動車を利用している国民の家計に恩恵を与えることになると説明している。

ディーラー協会はアンパロ提訴の検討を開始

同NOMの廃止を巡っては、野党議員や自動車業界が強く反発していた。メキシコ自動車販売ディーラー協会(AMDA、2022年10月31日記事参照)のほか、野党・市民運動(MC)のサロモン・チェルトリブスキー下院院内総務が11月4日、ラケル・ブエンロストロ経済相を下院に召喚し、同NOM廃止についての説明を求める提案書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを下院執行部に提出した。同要請書は、このようなNOM廃止は事前に十分な議論と相談が行われるべきだとし、交通安全に関わる規格は選択的でも自主的でもあるべきではなく、強制規格のNOMの廃止は、交通安全が確保された移動の自由という国民の権利を侵害すると指摘している。さらに、交通・道路安全一般法第54条は、連邦や州、市町村の当局に対して車両の安全検査を実施することを義務付けているため、同NOM廃止は同法にも違反するとしている。

メキシコ自動車販売ディーラー協会(AMDA)は11月7日にメキシコ自動車工業会(AMIA)、自動車部品工業会(INA)と共同記者会見を開き、同NOMの廃止は交通事故防止の観点で完全な後退を意味し、車両の買い替えを遅らせるだけでなく、交通安全という国民の基本的権利を阻害することから、アンパロ(注)の提訴を検討することを明らかにした(AMDAプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます11月7日付)。AMIAのファウスト・クエバス会長も同NOM廃止に明確な反対意見を表明し、INAも交通安全の後退を意味すると批判している(「レフォルマ」紙11月8日)。

(注)行政府や立法府、司法府による行為が憲法の定める基本的権利を侵害すると判断される場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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