内需や物流の改善で、自動車販売・生産ともに前年比増(フィリピン)
EV普及の機運が急速に高まる

2023年10月5日

2022年のフィリピンにおける自動車の販売・生産台数は、いずれも前年から増加し、新型コロナ禍からの確実な回復を見せた。新車販売台数は、底堅い需要が見られ、2023年も増加が見込まれる。一方、自動車の生産環境については、2022年前半はロシアのウクライナ軍事侵攻に起因した燃料価格の高騰が物流コストの上昇など、供給サイドに負の影響が生じたが、2022年後半になると物流事情は改善し、船舶などの運賃の値動きも安定している。電気自動車(EV、注1)については、2022年に「EV産業育成法PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(864KB)」が成立した。加えて、フェルディナンド・マルコス大統領がEV完成車の輸入関税を撤廃する「大統領令」に署名するなど、政府としてEV産業を強く後押しする姿勢を明確にしている。

2022年の新車販売台数は前年比で増加

2022年の新車需要は、新型コロナの影響から大幅に回復した。フィリピン自動車工業会(CAMPI)の発表では、2022年の新車販売台数は35万2,596台であり、前年比22.4%の増加となった(図1参照、注2)。特に2022年12月は3万7,259台と、月間の販売台数で過去最高値を記録した(「ビジネス・ワールド」紙2023年1月12日)。

CAMPIは2023年1月12日、2022年の新車販売台数が同工業会の予想値(33万6,000台)を上回ったことについて、「自動車業界が新型コロナ禍やその他の外部ショックの影響から回復したことを示す強力な証しである」とコメントした。CAMPIは2023年も、底堅い需要の増加が販売台数を押し上げると見込んでいる。

図1:フィリピンの新車販売台数
2005年は97,063台。2006年は99,541台。2007年は117,903台。2008年は124,449台。2009年は132,444台。2010年は168,490台。2011年は166,496台。2012年は185,049台。2013年は212,682台。2014年は270,312台。2015年は323,210台。2016年は404,710台。2017年は473,943台。2018年は401,624台。2019年は412,106台。2020年は245,222台。2021年は288,006台。2022年は352,596台。

出所:フィリピン自動車工業会(CAMPI)、自動車輸入流通業者協会(AVID)の発表データを基にジェトロ作成

フィリピンの自動車情報サイト、オートインダストリア・ドット・コムによると、2022年のブランド別の販売台数では、トヨタが首位で17万3,245台であった(市場シェア46.6%)。第2位は三菱自動車の5万3,211台(同14.3%)、第3位はフォードの2万4,710台(同6.6%)と続く(表参照)。また、前年比でみると、上位3社を中心に各社とも大幅に販売を伸ばした。中でも、中国の吉利汽車(ジーリー)は52.4%増と販売台数の伸びで群を抜いている。吉利汽車については、2019年7月に双日がフィリピンにおける販売代理店権を取得した。双日100%出資の双日ジーオートフィリピンが同ブランドを輸入販売する形で展開している。

表:フィリピンの新車販売台数(ブランド別)
順位 ブランド 販売台数 市場シェア 対前年比
1 トヨタ 173,245 46.6% 34.2%
2 三菱自動車 53,211 14.3% 41.7%
3 フォード 24,710 6.6% 23.5%
4 日産自動車 21,222 5.7% 8.3%
5 スズキ 19,942 5.4% 2.8%
6 いすゞ 17,639 4.7% 22.3%
7 ホンダ 13,923 3.7% 9.8%
8 ジーリー 9,302 2.5% 52.4%
9 エム・ジー 8,858 2.4% 39.7%
10 起亜 5,012 1.4% 33.7%

出所:「オートインダストリア・ドット・コム」2023年2月16日付を基にジェトロ作成

生産環境も改善傾向に

2022年のフィリピンでの生産台数は、前年比10.0%増の9万2,223台となった。新型コロナ災い前の2019年の9万5,094台に迫る水準に改善しつつある。

図2:フィリピンの自動車生産台数
2008年は63,621台。 2009年は62,523台。 2010年は80,477台。 2011年は64,906台。 2012年は75,413台。 2013年は79,169台。 2014年は88,845台。 2015年は98,768台。 2016年は116,868台。 2017年は141,252台。 2018年は79,763台。 2019年のは95,094台。 2020年は67,297台。 2021年は83,846台。 2022年は92,223台。

出所:ASEAN自動車連盟の発表を基にジェトロ作成

2022年前半は、ロシアのウクライナ軍事侵攻に起因した燃料価格の高騰が物流コストの上昇をもたらし、物流事情を悪化させた(「フィルスター」紙2022年6月14日)。

ジェトロが2022年6月に在フィリピンの自動車関連メーカーにヒアリングしたところ、物流費上昇の勢いが増しており、他国からフィリピンに部品を調達する際、調達先から値上げ申請が多く発生している、とのコメントがあった。また、2022年3月以降、中国が厳しい新型コロナ対策を実施したことによって、中国での経済活動は大きく下押しされ、中国からの部品調達に遅延が見られるとの指摘もあった。

こうした物流事情の悪化も、2022年後半には徐々に改善されていった。ジェトロが2022年12月にフィリピンの自動車関連メーカーにヒアリングしたところ、「船便の遅れ状況もかなり落ち着いてきた」「輸送費の高騰が穏やかになっている」とのコメントがあった。さらに、2023年8月にヒアリングを再度行うと、「物流面で特段の問題は発生していない」との回答があった。物流事情は既に平時へと戻りつつあると推察できる。

EV普及の機運が高まる

ロドリゴ・ドゥテルテ大統領(当時)は2022年4月15日、EVの生産・導入を促進するための制度的なフレームワークとなる「EV産業育成法」(共和国法第11697号)に署名した(2022年5月11日付ビジネス短信参照)。同法は、EVを「化石燃料への依存を低減させる適切な輸送手段」と位置付け、EV産業を振興させることを趣旨としている(2022年4月22日付地域・分析レポート参照)。2022年5月11日に成立した同法の概要は以下の通り。

  • EV産業の振興や、EVの商用化および導入を目的とした、国家的な産業開発計画である「包括的なEV産業ロードマップ(CREVI)」を策定する。
  • 貨物物流会社、食品宅配会社、旅行業者、ホテル、電気事業者、水道事業者などは、保有もしくはリースする車両のうち最低5%をEVとする必要がある。EV車両導入にあたっての具体的なタイムスケジュールはCREVIにおいて定める。
  • 公共交通機関を運営する事業者や政府機関においても、保有もしくはリースする車両のうち最低5%をEVとする必要がある。
  • 本法の成立以降に建設される建物、施設はEV専用の駐車スペースを設置しなければならない。加えて、20台以上の車両を収容可能な駐車スペースを有する場合、最低5%はEV専用とする必要がある。
  • EVの製造・組み立てや充電スタンド、バッテリー、部品の製造およびEVの研究開発などついて、「戦略的投資優先計画(SIPP)」における各種優遇措置の対象となり得るのか、今後評価する(2022年6月にEV関連事業は優遇措置の対象となった、注3)。

フィリピン政府はEVの普及加速へ向けて、追加的な施策を打ち出している。例えば、マルコス大統領は2023年1月13日、暫定的に2023年から5年間、EVの輸入関税を撤廃する「大統領令第12号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(395KB)」に署名した。同令では、乗用車やバス、ミニバス、バン、トラック、オートバイ、三輪車、スクーター、二輪車のうち、EVは5年間、輸入関税率が0%となる(政府通信社2023年1月19日付)。ただし、ハイブリッド車は関税撤廃の対象となっていない。また、いくつかのEV生産に必要な部品についても、関税率の引き下げを定めている。

民間企業でもEV導入が進展しつつある。フィリピンの大手財閥、アヤラコーポレーションは2023年9月1日、中国EV大手の比亜迪(BYD)のフィリピンでのディストリビューターとなることを正式に発表した(「ビジネス・ミラー」紙2023年9月1日)。フィリピン財界の中で大きなプレゼンスを有するアヤラコーポレーションがBYDと連携することで、EVをビジネス戦略に取り入れる動きがフィリピン国内で大きく広がる可能性がある。

また、フィリピンの主要財閥企業の1つであるアボイティス・パワーは2023年9月1日、社用車をEVへと切り替えていくと発表した(「ビジネス・ミラー」紙2023年9月1日)。EV産業育成法において指定された業種については、保有車もしくはリースする車両の最低5%をEVとすることが規定されており、今後、社用車のEV化を進める企業が増えていくと推測できる。


注1:
本稿では、電気トライシクルや電動バイク、電気ジプニーなどを含めた広義の「電気自動車」を「EV」と表記する。
注2:
2021年までの新車販売台数は、自動車輸入流通業者協会(AVID)に加盟しているブランドの台数を加算した推計値。2022年はAVIDより情報公開がなかったため、CAMPIで発表された台数のみを計上している。
注3:
2021年4月に発効した「CREATE(法人のための復興と税制優遇の見直し)法」では、SIPPに該当する新規事業について、一定期間の法人所得税免税などの各種優遇措置を受けることを定めている。その後、SIPPが発表され、EV関連の事業は優遇措置対象となった(2022年6月10日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
吉田 暁彦(よしだあきひこ)
2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月から現職。