17歳で起業の若手経営者、脱炭素化に向けた挑戦と期待(マレーシア)

2023年2月27日

マレーシアのアイハンダル・エナジー・ソリューションズ(iHandal Energy Solutions Sdn Bhd、以下、アイハンダル)は、2009年に設立。同社は、自然冷却ヒートポンプによる熱回収ソリューションを提供し、独自のソリューションとビジネスモデル、グローバルな顧客基盤を強みに事業を拡大してきた。産業分野の炭素排出削減を通じ、東南アジアの脱炭素に貢献したい考えだ。

17歳で同社を設立した最高経営責任者(CEO)のアーロン・パテル氏に、スタートアップとしての考え方や今後の戦略について聞いた(2022年10月21日)。この数年で改めて戦略的連携の重要性を認識する中、技術面での日本企業との協業にも期待をのぞかせた。


アイハンダルのアーロン・パテルCEO(同社提供)

独自技術とビジネスモデルで海外にもグリーンビジネスを積極展開

アイハンダル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、次世代のための環境改善を運営理念に事業を展開する、モジュール型ヒートポンプのソリューションプロバイダーだ。同社のソリューションは、従来型の暖房・換気・空調(HVAC)機器やボイラーを、二酸化炭素(CO2)・アンモニア・プロパンを使用する自然冷媒ヒートポンプに置き換え、熱エネルギーの循環効率を高め、不要な排出熱を再利用することで、電力供給削減と脱炭素化を同時に実現するもの。節電保障や運用効率化モデルといったオプションを組み合わせることも可能で、導入企業は約60~80%のエネルギーコスト削減を実現している。

同社の強みは、高温水による自然冷媒を使用した、地球温暖化係数(GWP、注1)の低いヒートポンプ設計と、エネルギーコスト削減実績に基づき利用料を課するターンキービジネスモデル(注2)だ。必要に応じて容量をアップグレードしたり、契約期間中の節約分を共有したりすることで、パフォーマンスの最大化を保証する。同社はプロジェクトの提案から、アプリケーション開発、エンジニアによる運用保守、効果検証までを内製化しており、それによってこのようなビジネスモデルが可能となっている。

加えて、同社独自の自然冷媒ヒートポンプから熱効率ソリューションを提供するのみならず、他のHVAC企業や、人工知能(AI)を用いた最適化に強いデジタルソリューションプロバイダーとの戦略的提携を通じて、補完ソリューションの提供を可能としている。顧客が全産業分野に及ぶのは、こうした他社との連携によるところも大きい。

アイハンダルは、海外はアジア大洋州、北米、欧州など14カ国で事業を展開。米国では、ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)による脱炭素化支援パートナーの1社にも選出された。今後も、商業用・工業用向けヒートポンプの先進的メーカーとしてグローバル展開を加速すべく、更なる技術開発に取り組んでいる。既存顧客からの収益拡大に向けた補完ソリューションも開発することで、とりわけ東南アジアのエネルギー効率化と脱炭素化に貢献したい考えだ。

苦労乗り越え、若手起業家として注目

質問:
起業のきっかけは何か。
答え:
家庭の事情で、家業である太陽熱温水システムの貿易事業を引き継がなければいけなくなったことがきっかけ。当時は高校生だったため、学業機会を最大限活用し、物理、化学、コンピュータなどほぼすべての科目を履修して知識を集約し、貿易以外のビジネスチャンスを探った。最終的に、熱回収と動力学にビジネスチャンスを見いだした。最初は複数人でプロジェクトの発掘に取り組み、機器を利用して経験を積むうちに、未開発の分野を見つけ、高校最後の年に起業に至った。
質問:
起業において直面した課題は何か。
答え:
2つある。1つ目は、実際に名刺交換して顧客を開拓することに苦労した。15年前は10代の大学生が起業するなど誰も信じず、当時は年齢を隠しながら顧客開拓を行った。今は10代での起業も歓迎されるようになり、起業家を支えるエコシステムも成熟し、当時と比べてかなり起業しやすくなったと思う。
2つ目は、資金調達である。起業してから9年間、外部からの資金調達を受けずに自力でビジネスをしていた。資金調達のために、収益性があり、持続可能なビジネスモデルを考える必要があった。
質問:
資金調達のきっかけは。また、どのように投資家にリーチしたか。
答え:
国内は競争が激しいため、まずは東南アジア、その後他地域へのビジネス展開を目指し、資金調達を行った。昨今、エネルギー効率性や持続可能性に大きな注目が集まるなか、独自の技術でこれらの課題に直接アプローチする当社のビジネスはビジビリティ(可視性)が高いため、投資家から連絡が入ってくる。
アーロン氏はこれまで、2017年にエンデバー・アントレプレナー(注3)、2018年にEYアントレプレナーシップ・オブ・ザ・イヤー、2019年にフォーブス(注4)から受賞したほか、同社は2021年にアジア・アントレナーシップ・アワードに参加するなど、ビジビリティを上げてきた。

周囲との良好な関係がビジネス拡大のステップに

質問:
顧客ネットワークはどのように構築してきたか。
答え:
当社は業種を問わず、数多くの多国籍企業と協業している。これらの企業はグループ企業を抱えているため、案件が1つにとどまらず、グループ企業からの受注により継続して案件がある状況。そのおかげで、新規顧客の開拓をせずとも、安定してビジネスを行うことができ、また自社の成長にもつながっている。また、3~4年ほど前から、既存顧客からの紹介でビジネスが拡大している。既存顧客が案件の結果に興奮し、新たな顧客をどんどん紹介してくれるようになった。自社の海外展開の際も、自ら進出先を決めて現地で顧客を探すのではなく、既存顧客が他国の案件を紹介してくれた。
質問:
会社のメンバーはどのように見つけたのか。
答え:
創業メンバーは、世界最大の起業家支援コミュニティであるエンデバーのメンターからの紹介。自身のメンターはヘイズやロバート・ウォルターズなどの人材紹介会社のリクルーターとも人脈があり、候補者の選定から実際につなぐところまでサポートしてもらえた。エンデバーのメンバーになり、メンターを含め関係者と良好な関係を築いていたからこそ、自分に必要なメンバーを紹介してもらえ、つながることができたと思う。
質問:
結束力の強いチームを作るには。
答え:
自社のエンジニアリングチームには、知識にハングリーでいること、限界を超えて学ぶ意欲を持っていることが非常に重要だと伝えている。それは起業家だった父親から学んだことで、彼は常に好奇心を持ち、学ぶことを重視していた。当社は現在のところ従業員が50~60人程度と、会社の規模が大きくないため、フォーマルな研修プログラムは持っていないが、チームメンバーの間で学び合う姿勢ができている。20~30人の時は自分自身からマインドセットを直接伝えることが容易だったが、規模が拡大すると会社の構造が変わり、伝わりにくくなる。そのため、繰り返し会社のバリューやDNAを伝えてチームメンバーの意識がそろうようにメッセージを発信している。

相互利益のある協業を目指す

質問:
今後のビジネスの展望は。
答え:
多くの企業がサステナビリティに注目している。同時に、コストを抑えることも重要な視点である。グリーンと効率性の両立が求められている。国際的にカーボンタックスなどの規制ができている中、当社は具体的なソリューションを持っており、有望視している。
また、資金調達面では、地場アフィン銀行系資産管理会社、アフィン・ホワン・アセットマネジメントのプライベートエクイティ部門である、ビンタン・キャピタル・パートナーズから出資を受けている。今後、東南アジア地域での新規株式公開による企業規模拡大を目指したい。
質問:
日本企業と協業する可能性はあるか。
答え:
ある。東南アジア地域の日系製造業は、生産性やエネルギー効率改善のために自然冷却ヒートポンプを採用する余地があるのではと考えている。また、大手日系企業との協業を通じて、部品・圧縮機・熱交換器などの設計を統合することで、当社の設計を改善、あるいはソリューションの拡充につなげられるとも期待している。資本提携だけではなく、協業において何かの相互利益があることが重要だと考える。

注1:
二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字。
注2:
製品やシステムをすぐに稼働できる状態で顧客に納品するビジネスモデル。
注3:
世界最大の起業家支援コミュニティであるエンデバーは、優れたアイデアと実行力のある起業家を「エンデバー・アントレプレナー」として選出している。
注4:
フォーブス・アジア版の製造業およびエネルギー部門における「30アンダー30(世界を変える30歳未満30人)に選出された。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(2018~2019年)を経て現職
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人日本経済研究センター出向、海外調査部国際経済課を経て、2021年9月から現職。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』(ジェトロ)、共著『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)、編著『FTAの基礎と実践-賢く活用するための手引き-』(白水社)など。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
圓口 雄平(えんぐち ゆうへい)
2012年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ山形にて、製造業・ファッション・日用品・食品等の海外展開プログラムに従事。2020年9月から現職。