工業部門500社の2022年総売上高、ドル建てで17.6%増(トルコ)

2023年12月28日

トルコのイスタンブール工業会議所(ISO)は2023年9月26日、2022年の工業部門500社(ISO500社)の売上高を公表した〔ISOウェブサイト参照(トルコ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕(注1)。上位を占めたのは、例年どおり、エネルギー、自動車、家電、鉄鋼の4分野だった。首位はテュプラシュ(石油精製)、2位に前年3位のスター製油所(石油精製)が入り、石油精製が上位2社を占めた。前年2位のフォード・オトサン(自動車)は3位だった。

500社の総売上高は、4兆4,848億9,800万トルコ・リラだった。リラ建てでは、前年比2.2倍と大きく伸びている。一方で、ドル建てになると、2022年も年間を通じた通貨下落の影響を受け、17.6%増の2,708億2,700万ドルだった(注2、表1参照)。なお、ISO500のうち、上位10社が売上全体の27.3%、上位50社では52.0%と全体の半分強を占める。また500社のうち上場企業数は前年から8 社増加し、73 社となった。

ISOのエルダル・バフチュバン会頭は記者発表(ISOウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、2022年の売上高が好調だった背景に言及した。世界がインフレの再燃、ロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギーや食品分野で顕著にみられた価格ショック(高騰)、そして、サプライチェーンの混乱の中、トルコは上半期の堅調な輸出と年間を通じて持続した内需を要因に、5.5%の高成長を達成したと述べた。他方、この成長は、物価の高騰や経常赤字の拡大といった大きな痛手を伴ったものであった。政府の低金利を主軸とした「新しい経済モデル」は合理的な経済政策から逸脱し、金融の安定と経済の持続可能性への疑念をもたらし、実体経済の財務状況に悪影響を与えたと主張した。会頭は、持続的で質の高い成長とその前提条件である金融の安定を再確立するために、経済指導者が講じる措置が重要であると強調し、産業界はトルコ政府が合理的な経済政策へ転換したことを支持しているとした。

表1:ISO500社トルコ工業部門(売上高順)上位20社2022年(単位:100万トルコ・リラ、100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 企業名 前年順位 売上高
(生産ベース、ネット)
伸び率 外資比率 輸出額による順位 輸出額(注2)
2021年
ドル建て輸出額 伸び率
リラ建て ドル建て(注1) リラ ドル
1 テュプラシュ(トルコ石油精製会社) 1 418,386 25,265 205.9 64.2 0 1 3,787 7,489 97.8
2 スター製油所 3 189,155 11,422 242.8 84.0 0.01 22 637
3 フォード・オトサン(自動車) 2 140,075 8,459 108.1 11.7 41.04 2 5,868 6,250 6.5
4 イスタンブール金精錬所 87,779 5,301 0 28 512
5 エルデミル(エレーリ製鉄工場)(鉄鋼) 7 69,492 4,196 88.9 1.4 0 35 630 464 △ 26.3
6 イスデミル(イスケンデルン製鉄工場)(鉄鋼) 5 66,937 4,042 73.1 △ 7.1 0 27 831 525 △ 36.8
7 トヨタ・トルコ(自動車) 4 65,894 3,979 42.8 △ 23.4 100 3 3,839 3,429 △ 10.7
8 アルチェリキ(家電) 8 64,089 3,870 79.1 △ 3.9 0 5 2,429 2,321 △ 4.4
9 オヤク・ルノー(自動車) 9 62,664 3,784 82.1 △ 2.2 51 4 2,764 2,530 △ 8.5
10 トファシュ(トルコ・フィアット:自動車) 10 59,818 3,612 125.2 20.9 37.86 7 1,629 1,812 11.2
11 トルコ発電公社 52 53,875 3,253 619.7 0
12 イチダシュ(鉄鋼) 11 52,481 3,169 103.7 9.4 0 11 1,346 1,294 △ 3.9
13 チョラクオウル金属加工(鉄鋼) 12 46,991 2,838 84.4 △ 1.0 0 31 775 498 △ 35.7
14 シシェジャム(ガラス製品) 22 42,772 2,583 190.9 0 17 628 871 38.7
15 メルセデス・ベンツ(自動車) 16 42,222 2,550 120.4 18.3 84.99
16 ヒュンダイ・アッサン(自動車) 13 40,871 2,468 90.9 2.5 97.0 6 1,980 2,112 6.7
17 トスチェリキ(トスヤル鉄鋼)(鉄鋼) 14 40,100 2,421 94.9 4.6 0 12 1,194
18 エレン・エネルギー(発電) 53 37,307 2,253 400.2 0
19 ヴェステル白物家電 18 33,678 2,034 93.6 3.9 0
20 アセルサン・エレクトロニク(防衛産業) 17 32,978 1,991 81.8 △ 2.4 0 99 111 223 100.5
ISO 500社合計 4,484,898 270,827 119.0 17.6 85,848 97,927 14.1

注1:1ドル=16.56リラ(中銀2022年買い平均値)で算出。
注2:輸出額(ドル建て)を公開する企業に限ったデータ。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

石油精製が企業ランキング上位を占める

1993年以来、首位を堅持し続けているのが、テュプラシュだ。トルコ最大のコチ財閥系に属する。また、第2位のスター製油所は、SOCARトルコ(アゼルバイジャン系)傘下で、両社ともに世界的な資源価格の上昇によって、ドル建ての売上高が2桁の上昇をみせた。

鉄鋼セクターは、世界的な需要減もあり、エルデミルが5位、イスデミルが6位、イチダシュが12位、チョラクオウル金属加工が13位、トスチェリキが17位と、エルデミルを除き前年より順位を下げている。

一方、2022年の自動車産業は、前年からの半導体や原料の不足などは続いたが、状況は大きく改善しており、2019年から続いた減少基調から上昇に転じた(2023年5月8日付地域・分析レポート参照)。コチ財閥傘下のフォード・オトサン(3位)とトファシュ(トルコ・フィアット、10位)は好調で、ドル建てでも2桁の上昇だった。他方、トヨタ・トルコ(7位)、オヤク・ルノー(9位)は、生産停止期間の影響が響き、ドル建ての前年比ではマイナスだった。

なお、ISO500社の2022年の輸出額は、前年比14.1%増の979億2,700万ドルとなり、ISO500社ランキング史上の最高値を更新した。同年のトルコ全体の輸出額は12.9%増の2,541億7,000万ドルで、ISO500社は全体の38.5%を占めている。

産業別売上高では基礎金属や化学品が好調

ISO500社を産業別にみると、食品(101社)、基礎金属・機械(96社)、化学品・プラスチック・ゴム(71社)、電気・電子機器(56社)、陸上・海上輸送機器(50社)、鉱物・採石(37社)、繊維(32社)、木材・紙・家具・印刷物(26社)、金属加工製品(20社)、衣料品(11社)で、売上高で最大のシェアを持つのが基礎金属・機械(23.4%)と化学品・プラスチック・ゴム(23.3%)となっている。次いで、陸上・海上輸送機器(14.0%)が3 位、電気・電子機器(12.6%)が4位、食品(11.7%)が5位だった。2021年と比較すると、電気・電子機器が企業数(50社→56社)、売り上げのシェア(10.5%→12.6%)ともに増加した。他方、繊維が企業数(46社→32社)、売り上げのシェア(4.0%→2.7%)ともに減少した(表2参照)。

表2:ISO500社産業別企業数・売上高シェア
産業 企業数 総売上(ネット)に
おけるシェア(%)
2021年 2022年 2021年 2022年
基礎金属・機械 96 96 26.4 23.4
化学品・プラスチック・ゴム 72 71 19.9 23.3
陸上・海上輸送機器 48 50 15.4 14.0
電気・電子機器 50 56 10.5 12.6
食品 99 101 11.8 11.7
鉱物・採石 32 37 5.2 6.2
木材・紙・家具・印刷物 26 26 3.7 3.3
繊維 46 32 4.0 2.7
金属加工製品 18 20 2.3 2.1
衣料品 13 11 0.9 0.7
合計 500 500 100 100

出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

ISO500社を地域別でみると、イスタンブール工業会議所に所属する企業は152 社で最大、次いでコジャエリ工業会議所が40社、アンカラ工業会議所が39 社、イズミルが38 社などとなっている。なお、2023年2月のトルコ南東部大地震の被災地11県からは66社(前年72社)が名を連ねている。

外資との協力による高付加価値化に期待

ISO500社のうち、外資系企業数は前年から1社減の108社となり、2009年(153社)以来、最低に落ち込んだ。日系企業は18社があげられている。うち5社が前年から順位を上げ、12社が下げた(表3参照、注3)。

表3:ISO500社における日系企業の順位(-は値なし)
社名 ISO500順位 出資比率
2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
トヨタ・トルコ 3 3 4 4 7 トヨタ90.0%、三井物産10.0%
トスヤル・トーヨー 72 73 64 40 58 東洋鋼鈑49%
ブリサ 56 54 55 60 62 ブリヂストン43.63%
サルテン 108 102 84 84 77 三井物産15%
ダイキン・トルコ 216 175 152 111 113 ダイキン工業100%
ベテック・ボヤ *130 165 115 126 121 日本ペイント99.68%
JTI 82 75 78 101 122 JTI 100%
矢崎自動車部品 118 273 139 127 132 矢崎100%
日立エナジー 175 日立エナジー99.98%
アナドル・いすゞ 202 180 284 196 205 いすゞモーターズ16.99%、伊藤忠商事12.74%
インジGSユアサ 207 183 200 194 233 GSユアサ60%
住友ゴムAKOタイヤ 281 178 203 240 246 住友ゴム80%
関西アルタン・ペイント 259 262 257 294 282 関西ペイント51%
トヨタ紡織トルコ 170 187 206 256 348 トヨタ紡織欧州90%、三井物産10%
タト食品 180 194 185 414 365 カゴメ3.7%、住友商事1.5%
サンケミカル 341 342 334 400 372 DIC米子会社サンケミカル100%
日立アステモ *273 *274 *341 384 458 日立製作所66.6%、本田技研33.4%
ポリサン関西ペイント 342 299 351 382 486 関西ペイント50%

注:*は日系企業による投資前の順位。
出所:イスタンブール工業会議所(ISO)からジェトロ作成

ISO500社のうち、研究開発(R&D)に取り組む企業の数は2021年の265社から260社に減少した。売り上げに対するR&D支出の割合は0.36%となり、2019年の0.58%から年々縮小する傾向にある。ただし、R&D支出はリラ建てでは前年比81.8%増だった。

欧州共同体経済活動統計分類(NACE、注4)をベースにISO500社の技術レベルをみると、2022年の付加価値創生に最も貢献したのは「中の下」(前年32.4%→37.7%)8とされ、「低」技術レベルに分類される企業の割合は減少し(33.3%→28.9%)、両者の間で移行がみられる。「中の上」(28.3%→27.2%)はわずかに減少したが、「高」レベル技術の企業の割合は、前年並み(6.1%→6.2%)で、「高」レベルへの移行が今後の課題となっている。

バフチュバン会頭は、「政府の「中期計画(2023年9月19日付ビジネス短信参照)」の効果的な実施が外国からの資源の流入を促進させ、テクノロジー主導の高品質な新しい産業ベンチャーをもたらすことを望む」と期待を述べた。


注1:
ISO500社ランキングには、工業セクターのうち、希望する企業が参加する。年によって参加しない企業や、参加しても企業名を非公開にする企業がある。
注2:
ドル建ては、2022年のドル為替レート平均値をベースに計算した。
注3:
日系企業名は、ISO500で記載されている名前による。
注4:
NACEは、1970年にEUが開発した分類法。さまざまな経済活動を指標化するために利用される。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ)
1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊