米国の自動運転による物流サービス実用化に向けた企業動向

2023年10月19日

米国において、物流における輸送は大きく幹線輸送(Long haul=長距離)、域内配送(Middle mile=中距離)、末端配送(=Last mile/first mile=短距離)に分類される。自動運転を使った物流サービスも同様に、この3分類でアプローチが異なっている。幹線輸送では、完全自動運行によるトラック隊列走行の実現に向けた取り組みが見られてきたが、近年は単独走行への取り組みも増え、物流事業者との連携、自動運転向け貨物ターミナルの落成などが発表されている。域内配送では小売業者や物流業者と連携した活動が目立ち、末端配送では宅配業者と連携した活動および車道以外を走行する側道ロボットによる配送が目立っている。また、ここ2~3年でプレイヤーの入れ替わりが激しくなっているようだ。

幹線輸送

幹線輸送での自動運転物流サービスは、早期参入企業間では、明暗が分かれつつある。勝ち組は、2017年に創業したオーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)だ。一方で、2011年に創業し、車車間通信を使ったトラック隊列走行を推進していたペロトン・テクノロジー(Peloton Technology)は、2021年に活動を終了したほか、グーグル系のウェイモ(Waymo)も、自動運転トラックの開発を一時停止し、移動サービスに集中すると公表した。

新規参入は、ダイムラートラック系のトルク・ロボティクス(Torc Robotics)、スタックAV(Stack AV)である。ここでは、特徴的な動向を示したオーロラ・イノベーション、スタックAVを紹介する。

オーロラ・イノベーション(本社:ペンシルベニア州ピッツバーグ)は「2024年末までに、テキサス州のダラス・ヒューストン間で、運転手なしでの商用物流に必要な最終的な運転能力を導出した」と2023年4月3日に発表。4月13日には自動運転トラックの商業的運用可能な初めての貨物向けターミナル(テキサス州パーマー=南ダラス)の落成を発表し、4月27日には自動車部品製造のコンチネンタルと、商業的に拡張可能な自動運転トラックシステムの実現に向けた連携強化を発表した。さらに、冷凍トラック輸送のヒルシュバッハ・モーターラインズ(Hirschbach Motor Lines) と、ダラス・ヒューストン間での、商用の自動運転パイロットプロジェクトの開始を5月2日に発表している。これらの情報公開に先立ち、同社経営者は2023年2月15日開催の2022年第4四半期決算発表で、「同じ業界内で人員削減の努力が見られるが、当社は直近でレイオフをする予定はない」と述べている(ザ・ビジネスジャーナルズ2023年2月15日)。

これらの動きから、同社事業が順調に進んでいると推測できる。

新規参入者で特徴的な企業として、スタックAV(本社:ペンシルベニア州ピッツバーグ)が挙げられる。同社は2023年9月7日にソフトバンクから10億ドルの出資が発表されて注目を集めたスタートアップである。フォードやフォルクスワーゲン(VW)が出資して2016年に創業した、自動運転技術会社のアルゴAI(Argo AI)を源流に持つ。スタックAVは、2022年10月に解散したアルゴAIの創業者らが、自動運転トラックのスタートアップとして新たに設立した。業界内では、固定化されたルートや高速道路での走行は、自動運転実現の可能性が高いという意見があり、創業者らは自動運転の長距離トラックによる物流を目指している。

また、2015年に設立されたTuSimple(本社:カリフォルニア州サンディエゴ) は2017年にNVIDIA、2019年にUPSから出資 、2020年にはナビスターから出資を受けている。2019年にはUPS、米国郵政公社(USPS)と提携して自動運転トラックの実証実験をアリゾナ州フェニックスとツーソンの間で実施した。2020年7月には2024年までにペンスキーなどと提携して米国全土の自動運転トラック運行のネットワークを構築する計画を打ち出している。また、2023年6月には東京名古屋間の高速道路でレベル4相当の自動運転トラック走行テストに成功したと発表し、幹線輸送で成果を出している。

域内配送

域内配送の事業領域(中距離)は、ガティックAI(Gatik AI)とコディアック・ロボティクス(Kodiak Robotics)が小売り会社や物流会社との連携を進めており、抜きんでている。

ガティックAI(本社:カリフォルニア州マウンテンビュー)は2017年に創業した。同社はウォルマートと提携して、アーカンソー州とカナダのトロント市ロブローで、倉庫とショップの間で商品を定常運送していることを公開している。注目すべきは、他社のデモ運送と違い、定常運行という点である(フォーブス2022年12月23日)。同社は2023年3月15日に米国スーパーマーケットチェーンのクローガー(Kroger)とテキサス州ダラスで、顧客注文品配送の複数年にわたる商用連携も発表している(ビジネスワイヤー2023年3月15日)。さらに、同社は2023年9月6日に、アーカンソー州でのタイソンフーズのサプライチェーン効率の最適化のため、冷凍トラック運行ルートを強化する複数年の連携を発表した。自動運転トラックを1日18時間運行して、タイソンフーズの商品を、アーカンソー州の北西端に位置するロジャーズ市やスプリングデール市の配送センターや保管倉庫まで配送するものである。また、2022年3月8日にフォーブスの米国の2022年運輸分野ベストスタートアップ企業に選ばれたほか、2023年3月2日には米国ファスト・カンパニーが選ぶ2023年の世界で最も革新的な企業リストに掲載されている。同社は、2023年末までに従業員を倍増する予定という(ロイター2023年3月15日)

コディアック・ロボティクス(本社:カリフォルニア州マウンテンビュー)は2018年4月に創業。幹線輸送、域内配送といった分類にこだわるのではなく、長距離用トラックを使用して域内配送サービスを目指しているように見受けられる。2022年10月18日には、イケア(IKEA)と提携し、テキサス州ベイタウン市にある物流倉庫とフリスコ市にある店舗の間(約482キロ)を、セーフティードライバーが同乗した大型自動運転トラックが、8月8日から週7日、試験運行していると発表した。また、2023年3月16日には、物流会社のフォワード・エアーとの専用契約締結を発表した。この契約に基づき、テキサス州ダラスとジョージア州アトランタ間で1日24時間・週6日(週3往復)の自動運転トラックによる貨物運行サービスを行うという(PRニュース2023年3月16日)。さらに、6月22日には、荷主と物流業者を接続する市場であるロードスミス・トランスポーテーション(Loadsmith Transportation)と、ロードスミスのプラットフォーム(運搬する荷物の検索、予約、配達証明を管理するシステム)に800台のコディアック・ロボティクスの自動運転機能搭載トラックの接続を契約したと発表した。つまり、800台の自動運転トラックの運用管理まで視野に入れていることを示している。

ガティックAI、コディアック・ロボティクスとも商品を移動したい顧客を巻き込んだ活動を活発化させており、実用化時の出口を準備した上での物流サービス用自動運転車開発を着実に進めているといえそうだ。

末端配送

末端配送の中では、事業領域が大きく2つに分かれる。一般道走行による宅配(個人宅前までの配送)と、側道や私有地内を走行する小型自動運転ロボット(側道ロボット)による配送である。

一般道走行による宅配では、ニューロ(Nuro)とクレボン(Clevon)がよく挙げられる。ニューロは2016年に創業し、カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置く。同社は2021年以前に、ドミノピザやウォルマート、フェデラルエクスプレス、セブンイレブンと提携済みだ。2022年9月8日には、ウーバーと米国内(カリフォルニア州とテキサス州)での10年間の自動運転による食品配達の提携を発表した。ただし、2022年11月に全従業員の20%、2023年5月に残る全従業員の30%の人員削減を実施している上、2023年以降、実証開始のプレスリリースは出ておらず、失速している可能性はある。

クレボンは2022年に創業したエストニア発ベンチャーで、テキサス州フォートワース市に米国本社を置く。同社は2023年4月18日に、米国での無線優先接続プロバイダーとしてTモバイルとの提携を発表した。7月21日にはテキサス州ノースレイク市で配送サービスを開始、8月21日にはジョージア州ピーチツリーコーナーズ市のスマートシティ・テスト・サイトであるキュリオシティ・ラブス(Curiosity Labs)での運用テストに参加することを発表するなど、2023年に入っても精力的に活動を進めている。

側道ロボットによる宅配では、アマゾン、スターシップ・テクノロジー(Starship Technology)、サーブ・ロボティクス(Serve Robotics)が目立つ。ただし、アマゾンは2022年に入り、2019年に開始していたアマゾン・スカウト(Amazon Scout)という名称の側道ロボットのテストを停止し、開発規模を縮小する、と報道された(ロイター2022年10月7日)。

一方、2014年に創業し、サンフランシスコに本社を、エストニア、フィンランド(ヘルシンキ)、英国に技術開発拠点を持つスターシップ・テクノロジーは、2022年7月6日に全従業員の11%の人員削減を発表するも、サービス拡大が続く。最近では、2023年8月14日にカンサス州のウィチタ州立大学で、8月16日にはテキサス州のアンジェロ州立大学でサービスを開始するなど、大学内でのフードデリバリーサービスを拡大している。

2017年にフードデリバリーの米国ポストメイツのロボット部門として設立され、2021年2月に分離独立したサーブ・ロボティクス(本社:カリフォルニア州ロサンゼルス)は、ウーバーやセブンイレブンなどが投資している。2023年5月30日にはウーバーイーツと提携し、米国内でウーバーのプラットフォーム経由で2,000台の側道ロボットを実装すると発表した(2023年6月16日付ビジネス短信参照)。

幹線輸送や域内配送と比較して、末端配送は走行速度が遅いため、1台当たりの自動運転車両のコストが安く、新規参入事例が多い。一般道走行による宅配、側道ロボットによる宅配の双方とも、自動運転による物流サービスのプレイヤーの浮き沈みがあるが、人員削減しながらもサービス拡大をしているスターシップ・テクノロジーの例が見られ、今後の動向が注目される。

またこれまで見てきたように、自動運転は自家用車、移動サービス、物流サービスでそれぞれ動向が異なる。これは車両の走行速度の差異、走行ルートの差異、自動運転車両を取り巻く他の交通参加者の差異が主な要因だ。従って、今後も用途に応じた動向把握が重要である。


変更履歴
文章を一部修正しました。(2023年10月26日、2024年1月11日)
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
見並 一明(みなみ かずあき)
1980年から自動車部品業界、2016年から高度道路交通システムの業界連携活動に従事し、2023年4月に常勤嘱託としてジェトロ入構、自動車関連の北米動向調査を担当。