需要拡大などを背景に景況感は大幅なプラスに(カンボジア)
ポストコロナを見据えた進出日系企業の現状

2022年6月6日

2021年のカンボジアは、2020年に続き、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大による影響を受ける年となった。特に、2021年4月に首都圏で行われたロックダウンは、操業停止を余儀なくされるなど多大な影響を及ぼした。国際通貨基金(IMF)は、2021年のカンボジアにおける経済成長率が2.2%、2022年が5.1%になると予測している。

ジェトロが2021年8~9月に実施した「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)PDFファイル(2.23MB)」(以下、日系企業調査)によると、在カンボジア日系企業は、2020年に引き続き、新型コロナ禍での困難な事業環境で経営を余儀なくされたものの、徐々に回復の兆しが見え始めている。本稿では、日系企業調査の結果を基に、新型コロナ禍の在カンボジア日系企業の動向を分析する。

2021年の営業利益見込みは低調も、2022年の景況感は大幅なプラスに

2021年の在カンボジア日系企業の営業利益見込みは、「赤字」と回答した企業が43.0%と「黒字」と回答した企業(39.2%)を上回った(図1参照)。「赤字」と回答した企業の割合は新型コロナの流行が始まった2020年と比べて6ポイント余り増加した。企業の規模・業種別にみると、大企業では製造業、非製造業ともに約半数が「黒字」と回答した一方、中小企業で「黒字」と回答した企業は製造業で23.5%、非製造業で30.4%となり、いずれも低かった。

図1:営業利益見込みの推移(2017~2021年)(単位:%)

出所:ジェトロ「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

前年と比べた2021年の営業利益見込みについては、「悪化」と回答した企業(35.9%)が「改善」と回答した企業(24.4%)を上回った。「悪化」する要因としては、「現地市場での売り上げ減少(55.6%)」「稼働率の低下(48.2%)」「輸出低迷による売り上げ減少(37.1%)」が挙げられた。特に「稼働率の低下」については、2021年2月に新型コロナの大規模な集団感染の発生を機に市中感染が急速に広がり、4月から首都圏のロックダウン(都市封鎖)が開始され、多くの業種が操業停止を余儀なくされたことが影響したとみられる。

他方、2022年の営業見通しについては、「改善」と回答した企業は66.2%に上った。「悪化」すると回答した企業は3.9%にとどまったことで、景況感を示すDI値は、2022年は62.3と大幅なプラスになり直近5年で最も高かった(図2参照)。「改善」の理由として、製造業では「輸出拡大による売り上げ増加」(70.6%)、非製造業では「現地市場での売り上げ増加」(69.7%)が挙げられた。ジェトロが、在カンボジアの日系製造業関係者へ行ったヒアリングによると、2022年に入り、新型コロナによる行動規制が緩和され、取引先業種の需要回復による輸出拡大や、他国からの生産移管による増産が決まるなど、業績回復に向けた明るい材料が増えてきたという。

図2:DI値の推移(2017~2021年)
景況感を示すDI値は、2022年は62.3と大幅なプラスになり直近5年で最も高かった。

注:DI値とは「改善」すると回答した企業の割合から「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値。
出所:ジェトロ「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

従業員の賃金上昇が引き続き経営上の重要課題に

経営上の課題として最も回答が多かったのは「従業員の賃金上昇」(55.4%)で、「税務(法人税、移転価格課税などの負担)」(50.6%)、「従業員の質」(47.0%)が続いた(表1参照)。業種別でみると、製造業では、「従業員の賃金上昇」(65.4%)、「原材料・部品の現地調達の難しさ」(60.0%)、「人材(技術者)の採用難」(57.7%)が続いた。

表1:主な経営上の課題(単位:%)
順位 課題 2021年 2020年
1 従業員の賃金上昇 55.4 55.2
2 税務(法人税、移転価格課税など)の負担 50.6 52.5
3 従業員の質 47.0 45.7
4 新規顧客の開拓が進まない 46.6 32.6
5 通関など諸手続きが煩雑 40.0 33.7

出所:ジェトロ「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

カンボジアの最低賃金は急激な上昇を続け、2018年には前年比で11.1%引き上げられたが、2019年以降は上昇率が抑えられ、2020年と2021年は1.1%にとどまった。これは調査結果にも反映されているとみられ、「従業員の賃金上昇」の回答率を直近5年で比較すると、2019年までは7割以上だったのに対し、2020年以降は5割程度に下がっている。しかしながら、背景には、2023年に総選挙を控え、新型コロナ禍で賃金上昇が抑えられてきた反動が予想されることへの不安や、人材不足による賃金上昇への懸念などがあるとみられる。

また、「人材(エンジニア)の採用難」に関連して、業種・職種別に、2016年以降の基本給(月額)の推移をみると、製造業のエンジニアの基本給(月額)は、2018年から2020年にかけて下落したものの、2021年には大きく上昇した(図3参照)。在カンボジア日系企業によれば、こうした賃金の急上昇は、高度人材の転職防止のための措置と推測される。カンボジアでは、かねて、エンジニアなどの専門職やマネージャーが不足しているといわれてきた。特に2022年以降、営業利益の改善が見込まれる中、専門職およびマネージャー・クラスの人材不足への対処が、喫緊かつ中長期的な課題になると予想される。

図3:基本給(月額)の推移(2016~2021年)(単位:ドル)
業種・職種別に、2016年以降の基本給(月額)の推移をみると、製造業のエンジニアの基本給(月額)は、2018年から2020年にかけて下落したものの、2021年には大きく上昇した。

出所:ジェトロ「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

他方、非製造業のスタッフおよびマネージャーの基本給(月額)は2021年に下落。日系企業の経営者によると、新型コロナの影響を受け、業績が悪化したことにより、給与の引き下げに応じてもらう必要があったという。

人材については、カンボジア政府も注力すべき分野と位置づけている。特に人材育成については、企業に対し、人材育成にかかる諸費用に対し最大50%の助成金を出す能力開発基金(Skill Development Fund:SDF)が設立され、現地日系企業でも活用する事例が出始めている(2021年8月31日付ビジネス短信参照)。官民挙げての課題解決への取り組みに注目が集まっている。

安価な人件費が魅力も投資環境改善に期待

一方、投資環境上のメリットをみると、「人件費の安さ」および「市場規模/成長性」がいずれも53.1%と最も回答が多かった(表2参照)。製造業と非製造業を比較すると、製造業では「人件費の安さ」(62.5%)をメリットと考える企業が最多だった一方、非製造業では「市場規模/成長性」(59.6%)が最も高かった。このうち「人件費の安さ」については、前述のとおり、「従業員の賃金上昇」が最大の経営上の問題点とも位置付けられている。

賃金の上昇を懸念する声が強いのは、企業にとって賃金の年間実負担額の高さだ。製造業の作業員の場合、カンボジアは3,286ドルで、タイ(8,531ドル)やべトナム(4,571ドル)より低いが、カンボジアと同様、人件費の安さが投資環境上のメリットとされるラオス(2,164ドル)よりは高い。前述のとおり、最低賃金の上昇や人材不足に伴う賃金の上昇に加え、2019年1月から導入された年功補償(注)などが年間実負担額を押し上げている。「人件費の安さ」という投資上の魅力が相対的に薄れる懸念もあり、企業は人件費の動向を注視している。

表2:主な投資上のメリットおよびリスク (単位:%)

メリット
順位 項目 回答率
1 人件費の安さ 53.1
1 市場規模/成長性 53.1
3 安定した政治・社会情勢 42.0
4 言語・コミュニケーション上の障害の少なさ 30.9
5 安定した為替 29.6
リスク
順位 項目 回答率
1 法制度の未整備・不透明な運用 51.9
1 電力インフラの未整備 51.9
3 税制・税務手続きの煩雑さ 50.6
4 行政手続きの煩雑さ(許認可など) 48.2
5 人件費の高騰 46.9

注:有効回答数=81。
出所:ジェトロ「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

次に、投資環境上のリスクをみると、「法制度の未整備・不透明な運用」と「電力インフラの未整備」がいずれも51.9%と最も高かった。続いて、「税制・税務手続きの煩雑さ」(50.6%)、「行政手続きの煩雑さ(許認可など)」(48.2%)、「人件費の高騰」(46.9%)が挙げられた。製造業では「電力インフラの未整備」(58.3%)、「法制度の未整備・不透明な運営」(58.3%)、「人件費の高騰」(54.2%)、非製造業では「法制度の未整備・不透明な運用」(54.4%)、「税制・税務手続きの煩雑さ」(52.6%)などが挙げられた。

こうした投資上のリスクは、各社が直面する経営上の課題においても「税務(法人税、移転価格課税など)の負担」(50.6%)、「通関等諸手続きが煩雑」(40.0%)、「電力不足・停電」(36.0 %)などが挙げられており、行政手続きと法制度の不透明性や煩雑性の面での投資リスク軽減に向け、今後の新たな取り組みが期待される。

ウィズ・コロナの経済政策と新投資法施行による投資促進に期待

カンボジア経済財政省(MEF)は、フン・セン首相が2021年12月16日に署名した「The Strategic Framework and Programs for Economic Recovery in the Context of Living with COVID-19 in a New Normal 2021-2023」を発表。同プログラムでは、3つの段階(3R、回復:Recovery、再編:Reform、躍進:Resilience)に応じた、主要優先業種ごとの経済回復策が提示され、それぞれ具体的なアクションプランが明記されている。

併せて、2021年10月15日には、カンボジアへの投資誘致を促進するための、新投資法が施行され、サプライチェーンに資する自動車や電気・電子などの製造業や物流業など、18の優先業種が指定された(2021年10月21日付ビジネス短信参照)。同法に基づき、投資適格案件(QIP)を取得した企業には、税制などの優遇措置が適用されるため、新規投資企業のみならず、進出企業の拡張投資の一助となりうる。

カンボジアでは、2022年3月17日より海外からの全ての渡航者に対する入国規制が緩和された(2022年3月23日付ビジネス短信2022年5月2日付ビジネス短信参照)。新規投資を検討する企業がフィージビリティ調査を開始し、進出済みの現地日系企業が事業の拡大を見据えて動くなど、カンボジアへの投資拡大の動きが見え始めている。


注:
年功補償とは、毎年6月と12月に給与の7.5日分ずつ支払うことを義務付ける制度。無期契約の従業員の退職時に支払われていた解雇補償金に代わって導入された。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所 海外投資アドバイザー
井手 靖(いで やすし)
1986~2021年に国内外のメーカー4社で勤務、2013~2018年にカンボジアでの生産工場立ち上げ・運営の経験を経て、2021年から現職。

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