トルコ鉄鋼企業のアフリカ戦略
トスヤルの事例から

2022年11月15日

トスヤル・ホールディングは、1952年にトルコ南東部ハタイ県イスケンデルンの町工場として始まったファミリー財閥だ。フアット・トスヤル氏(現会長)ら3人兄弟が、父親から家業を受け継いだ。1994年に、最初の鉄鋼工場を設立。現在は、熱延鋼板や鋼管を製造・販売する一大鉄鋼企業に成長した。海外展開としては、2011年、アルジェリアに最初の国外生産拠点を設立したのが皮切りだ。また、2012年には東洋鋼鈑と、合弁会社トスヤル・トーヨーをトルコ国内に設立した。同社では、冷延鋼板や表面処理鋼板を製造している。

ジェトロは今回、トスヤル・トーヨーの理事、カディル・トスヤル氏にインタビュー。トスヤルのアフリカ事業に向けた戦略について話を聞いた(10月14日)。なお、同氏はフアット会長の甥(おい)で、日本トルコ合同経済委員会の副委員長も務める。


トスヤル・ホールディングのフアット・トスヤル会長
(トスヤル トーヨー提供)

トスヤル・トーヨーのカディル・トスヤル理事
(トスヤル トーヨー提供)
質問:
トスヤルにとって、アルジェリアの位置付けは。
答え:
トスヤルがアフリカに投資するというアイデアを最初に検討したのは2000年代のことだった。多くの国を視察・調査した結果、アルジェリアの優位性を選択した。
アルジェリアは、欧州だけでなく西アフリカや米州にも近いという戦略的な位置にある。また、天然ガスなどの地下資源に恵まれる。若い人口が多く、雇用の面でも有利だった。こうして、第一歩として2007年にアルジェリアに会社を設立した。
その過程で、アルジェリアには、石油・天然ガス関連以外に産業志向の投資が少なく、鉄鋼など多くの分野に投資が必要なことに気付いた。さらに、市場分析の結果、効率やコスト、物流上の利点から、生産にふさわしいと判断。2011年に、同国第2の都市オランと工業都市ベティウアに、トスヤル・アルジェリア(TA)の投資を決定した。

トスヤル・アルジェリア工場(トスヤル トーヨー提供)
質問:
TAの事業内容は。
答え:
TAは、トルコ企業による投資としてアルジェリア最大だ。それだけでなく、石油・天然ガス関連を除いて同国最大の製造業・輸出企業だ。
TAでは、スクラップと直接還元鉄(DRI)およびスクラップを原料に鋼材を生産している。その液体鋼の年間総生産能力は約400万トン。原料のDRIは、生産能力が250万トンに上る。ちなみに、アルジェリアのDRI生産施設は世界最大級で、世界最大規模のDRI駆動アーク炉(電炉)も備えている。TAでは、最新鋭のDRI施設や、平鋼施設に対する投資を継続している。この投資によって新たに約400万トンの平鋼生産が可能になり、また水素製鉄技術の導入も視野に入れるものだ。トスヤルは、トルコ企業として初めて、水素を活用した事業を展開する企業になるだろう。
またアルジェリアへの投資が完了すると、TAは世界有数の統合プラントの1つになる。フラット・ロング製品で850万トンの生産能力を持つ予定だ。
質問:
アフリカ事業の拡大について。
答え:
アルジェリアに次いで、当社は2019年にセネガルにも進出した。西アフリカへの扉を開いたかたちだ。セネガルでは2億ドル投資し、鉄筋と線材の生産に向けた多機能製鉄所と圧延設備を設立。年間75万トンの生産能力を目指している。また、2020年からは、セネガル政府の要請を受けて、経済特区の設立を進めている。この特区は、トルコの投資家に開放されることになる。
このほか、アンゴラでは、将来的な事業の統合に向けた最も重要なステップとして、鉱業に焦点を当てている。アンゴラ最大の鉄鉱石埋蔵量の1つを擁するカッシンガ地域での鉄鉱石鉱山(推定埋蔵量20億トン)の運営に向け、同地への投資を加速。2020年に、鉄鉱石の処理に必要な作業を開始した。
また、アンゴラでのプロジェクトでは、年間400万~500万トン規模の鉄鉱石処理から手を付けた。短期間のうちに、これを1,000万トンに引き上げることを目指している。
トスヤルの長期戦略計画によると、アルジェリア、セネガル、アンゴラへの投資は今後5年間で55億ドル相当規模になる予定だ。
質問:
トスヤルのアフリカでの優位性は。
答え:
トスヤルは付加価値の高い生産に重点を置くため、投資先を決定する際には、市場、原材料、人材の3つを優先する。アフリカは、まさにわれわれの付加価値を必要とする地域とみている。アフリカ大陸は発展と開発の中、変革の途上にあるからだ。鉄鋼セクターは、それを進める上で最も重要なセクターの1つになる。鉄筋や水道システム、天然ガス分配システムなどは、全て鉄鋼に依存している。さらに、開発が順調に進むと、自動車・同部品、白物家電、デジタル機器など、あらゆる分野に適合する鉄鋼が必要になってくる。
アフリカの総人口は現在、約12億人。これが、2050年までに25億人に達すると推定されている。人口増の80%は、都市部に集中するだろう。これは、大陸全体で大規模なインフラ開発が加速化することを意味する。
アフリカでは原材料の調達では問題がない。問題は、原材料を製品に変え価値を付加すること。これを可能にするのは、技術やイノベーション、研究開発だけだ。そのためには、これらの分野に強く、付加価値の高い製品を生み出す人材が必要になる。トスヤルは、人材、技術、イノベーション、R&Dで強い会社と自負している。
質問:
アルジェリアなどでの地域貢献について。
答え:
われわれは、既に世界有数のグリーン鉄鋼(注)メーカーの1つだ。
また、人材育成と持続可能性を志向する質の高い鉄鋼生産でも成功している。その点で、アルジェリアはわれわれにとって最良の例になる。その生産施設で、われわれはこの国の富にさらに多くの価値を付加することができた。その社会発展を支援するため、常に環境・社会・企業統治(ESG)の原則をもって活動。そのことで、この国の価値を創造する努力を重ねてきた。アルジェリアへの技術移転に伴い、クラスターも徐々に拡大している。
さらに、セネガルとアンゴラへの投資を通じて、同様の事例をアフリカに広めている。
質問:
アフリカ、アルジェリアでのビジネスの課題は。
答え:
アフリカでビジネスを行うに当たって、もちろん、課題がないわけではない。例えば、貿易で競争力を高めるためのインフラ整備に重点を置くことが急務。中でも重要なのは、積地港と積載環境の強化だ。一方でトスヤルは、国際港湾投資と運用に豊富な経験を持つ。われわれがアルジェリアで投資した港は、アルジェリアでの工場施設と統合され、現在20万トン規模の船舶が接舷できる国内最大の港になっている。このノウハウを共有する準備ができている。
なおアフリカでは、銀行制度も望ましい水準にない。さまざまな問題を避けるため、事前に予防策を講じる必要がある。
しかし、アフリカではあらゆる分野にチャンスがあるのも事実だ。トルコには、アフリカでの生産に必要な全ての技術、革新、人材がある。重要なことは、ビジネスを行う際の課題を正しく評価し、それぞれの国の利害関係者と協力して解決策を見つけることだ。
質問:
ロシアのウクライナ侵攻による影響は。
答え:
新型コロナウイルスのパンデミックによって引き起こされた問題の幾つかは、ロシアによるウクライナ侵攻によって悪化した。エネルギーや原材料価格の上昇、サプライチェーンの課題の増加などは、戦争の初期には全ての部門への負担になった。
しかし、トスヤルは柔軟に乗り越えたといえる。そもそもロシア、ウクライナで生産していない。原材料の供給を1つの国や地域に依存することもなかった。また、太陽光エネルギーへの投資を通じて、独自のエネルギー生産への取り組み強化にもつながった。
質問:
日本企業への期待は。
答え:
アフリカには既に多くの日本企業が進出している。新たにアフリカ市場を狙う企業に対しては、(1)日本企業は長期的で恒久的な価値を創造する仕事を生み出していること、(2)それこそまさにアフリカが必要とするものということ、を伝えたい。
日本企業は、鉄鋼や自動車などの分野で、世界トップクラスのビジネスを展開している。これらの企業は、アフリカ地域でのクラスター化のモデルを動員し、付加価値を創造する投資を実現することができる。トスヤルは、常にこの地域でのノウハウを日本の友人と共有し、協力する準備ができている。

注:
温室効果ガスを極力発生しない方法で製造した鉄鋼。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ)
1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊

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