2022年米国中間選挙に向けた世論調査の見方

2022年4月20日

2022年の米国内政の中で、最も注目されるイベントが中間選挙だ。中間選挙では毎回、連邦上院議員の3分の1と連邦下院議員の全議席が改選となる。中間選挙が近づくにつれ、各種世論調査も増えることが予想される中、本稿では、その見方について考察したい。

今年の中間選挙における注目点は、民主党が連邦議会で多数派を維持できるか否かだ。民主党は、僅差ながら上下両院で多数派を占める現在(注1)でさえ、党内対立により重要法案を成立できないことがある。ビルド・バック・ベター法案や投票権保護法案はその一例といえる(2021年12月23日付2022年1月21日付ビジネス短信参照)。もし民主党が中間選挙を通じて上院または下院、または両院の多数派を奪われることになれば、分割政府またはねじれ議会が誕生し、バイデン政権下の法案審議は今以上に停滞するだろう。民主党は、中間選挙の敗北によるバイデン政権のレームダック化を避けなければならない。

中間選挙は11月8日に実施される予定で、それに向けた予備選挙は5月から本格化する(注2)。各州や各選挙区の予備選挙が近づくにつれ、世論調査を実施する学術機関や調査会社が増えてくるだろう。メディアや有権者だけでなく、候補者の陣営もこれらの調査を参考にしながら選挙情勢を分析しているが、近年、世論調査と実際の選挙結果には大きな乖離が生じていると考えられており、その信頼性が揺らいでいる。

世論調査の実施方法による違い

世論調査の方法は実施主体によって異なり、電話調査とオンライン調査に大別される。電話調査の中には、オペレーターが直接質問する場合と自動音声応答システムを使用する場合があり、電話とオンラインを組み合わせるハイブリッド型の調査方法もある。ピュー・リサーチ・センターによると、オペレーターを活用するか、自動音声応答システムを使用するかにかかわらず、電話調査のほうがオンライン調査より正確なようだ。ハイブリッド型は電話のみの場合と比べて、正確性に欠けるという分析結果も出ている。

オンライン調査は、回答項目が多かったり質問が理解しづらかったりした場合に、手抜き回答を誘発してしまう可能性がある。また、調査結果は民主党に有利になりやすいといわれる。インターネット環境を整え、オンライン調査の回答能力を有する人は、都市部居住者や若年者など民主党支持層に多いからかもしれない。なお、電話調査で自動音声応答システムを採用するメリットとして、オペレーターがいないため、より素直な回答を引き出せる点が挙げられる。このように、世論調査の結果を参考にする際、その実施方法を確認することが大切だ。

2016年と2020年の大統領選挙を通じ、世論調査の信頼性は低下

2016年の大統領選挙では、本選挙の直前に行われた世論調査の多くが民主党のヒラリー・クリントン候補の勝利を予想していたため、共和党のドナルド・トランプ候補の勝利は驚きをもって受け止められた。選挙情報サイトのリアルクリアポリティクス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、本選挙の直前1週間(11月1~7日)に発表された世論調査で、クリントン候補とトランプ候補の支持率の単純平均は46.8%対43.6%と、クリントン候補が3.2ポイント上回っていた。別の世論調査とりまとめサイト、ファイブサーティーエイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは過去の実績や回答者数、調査実施時期などに基づき、独自に世論調査の重みを変えているが、同サイトでも、本選挙当日の支持率でクリントン候補(48.5%)がトランプ候補(44.9%)を3.6ポイント上回っており、クリントン候補が勝利する可能性は71.4%と算出されていた。しかし実際には、トランプ候補が選挙に勝利し大統領に就任した。

2020年の大統領選挙では、リアルクリアポリティクスやファイブサーティーエイトで示された見通しのとおり、ジョー・バイデン候補が勝利を収めたが、州別にみれば見通しと本選挙の結果は大きく乖離していた。ウィスコンシン州やオハイオ州、アイオワ州などでは、トランプ候補の実際の得票率が直前1週間に公表された世論調査の単純平均に比べて6ポイント以上高かった。これらを背景に、近年の世論調査は実際の有権者の投票行動を反映しておらず、見通しを誤らせる一因ともいわれてきた。

標本誤差を考慮に入れると、世論調査の見方は変わる

他方、世論調査の結果が正しいかたちで報じられていないと主張する者もいる。それは、世論調査が標本誤差を考慮せずに利用されることが多いからだ。標本誤差は、母集団から一部の標本を抽出して行われた調査が実際の母集団の値にどれだけ沿えているかを表している。一般的に、世論調査で示される標準誤差は95%信頼区間から求められており、無作為標本抽出を繰り返した場合、母集団の平均が100回に95回の割合で収まる範囲を示している。例えば、世論調査である政治家の支持率が50%、標本誤差が±3%だった場合、「特定の母集団に世論調査を100回実施したら、95回は支持率が47~53%の間に収まるだろう」と解釈する。しかし、メディアなどでは、このような調査に関して、支持率50%だけが報じられることも多く、標本誤差はあまり重視されない。標本誤差を考慮した世論調査の見方は、その結果のより正確な理解に寄与すると考えられる。

2016年の大統領選挙で、クリントン候補がトランプ候補に対して直前1週間の世論調査で単純平均3.2ポイント上回っていたことに関し、標本誤差を考慮した場合の結果は表1のとおりとなる。

表1:2016年大統領選挙における直前1週間の各種世論調査結果 (-は値なし)
対象の世論調査 調査実施期間 クリントン トランプ 標本誤差 標本誤差を考慮した
支持率
調査結果
クリントン トランプ
Bloomberg 11/4 - 11/6 46 43 3.5 42.5~49.5 39.5~46.5 引き分け
IBD/TIPP Tracking 11/4 - 11/7 43 42 3.1 39.9~46.1 38.9~45.1 引き分け
Economist/YouGov 11/4 - 11/7 49 45 不明
LA Times/USC Tracking 11/1 - 11/7 44 47 4.5 39.5~48.5 42.5~51.5 引き分け
ABC/Wash Post Tracking 11/3 - 11/6 49 46 2.5 46.5~51.5 43.5~48.5 引き分け
FOX News 11/3 - 11/6 48 44 2.5 45.5~50.5 41.5~46.5 引き分け
Monmouth 11/3 - 11/6 50 44 3.6 46.4~53.6 40.4~47.6 引き分け
NBC News/Wall St. Jrnl 11/3 - 11/5 48 43 2.7 45.3~50.7 40.3~45.7 引き分け
CBS News 11/2 - 11/6 47 43 3 44~50 40~46 引き分け
Reuters/Ipsos 11/2 - 11/6 44 39 2.3 41.7~46.3 36.7~41.3 クリントン勝利

出所:リアルクリアポリティクス

すなわち、クリントン候補の1勝8引き分け(1不明)だ。標本誤差を考慮した場合、少なくとも8割の世論調査は、両者は拮抗(きっこう)しており、勝敗はわからないと結論づけていたことになる。支持率の単純平均と比べて、見え方が大きく変わってくる。ロイターとイプソスが共同実施した11月2~6日の世論調査はクリントン候補の勝利を予想していたものの、それ以外の世論調査の結果を見る限り、トランプ候補の勝利はさほど驚くものではなかったかもしれない。

また、クリントン候補は選挙には敗れたものの、得票数ではトランプ候補を約287万票上回っていた。トランプ候補がミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州などラストベルト(さびついた工業地帯)の接戦州を制したことで勝利を確実にしたが、世論調査はこのような大統領選挙特有の選挙人制度を反映しておらず、実際の結果を左右する投票率も加味されていない点に留意が必要だ。

中間選挙での世論調査の利用方法

中間選挙は大統領選挙と違い、選挙区ごとに異なる候補者が擁立されるため、国全体で支持率が算出されることはない。一方で、中間選挙全体を見通すことが目的の場合、各レースの世論調査をフォローすることは非現実的だ。従って、有力な選挙予想を基に動向を概観し、接戦区の状況をより細かくみるのが望ましいと思われる。米国でよく参考にされる選挙予想は、サバト・クリスタルボール、クック・ポリティカルレポート、インサイド・エレクションズだ。ウェブサイト270toWin外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、これら3つの選挙予測を基に上院議員選挙と下院議員選挙のコンセンサス予想を公表しているため、現時点での見通しを確認しやすい(表2、表3参照)。

表2:上院議員選挙の見通し(3月7日更新データ)(-は値なし)
項目 民主党 共和党 接戦
現在 50 50
選挙なし 36 29
改選 14 20
改選35議席の勝敗予測 11 20 4
改選後の議席 47 49 4

注1:民主党寄り無所属議員の2議席は、民主党の議席としてカウント。
注2:改選35議席のうち1議席は、ジム・インホフェ議員(共和党、オクラホマ州)の引退に伴う特別選挙。
出所:270toWin

表3:下院議員選挙の見通し(3月9日更新データ)(-は値なし)
項目 民主党 共和党 空席 接戦 不明
現在 222 210 3
勝敗予測 187 169 20 59

出所:270toWin

3月上旬時点で、上院では共和党が49議席、民主党が47議席を獲得し、残りの4選挙区は接戦になるとみられている。接戦の4選挙区とは、アリゾナ州選出のマーク・ケリー議員(民)、ジョージア州選出のラファエル・ワーノック議員(民)、ネバダ州選出のキャサリン・コルテス・マスト議員(民)、ペンシルベニア州選出のパット・トゥーミー(共、立候補せず)の選挙区を指しており、民主党が現状を維持するためには、このうち3選挙区で勝利しなければならない。世論調査は、このような接戦州の動向を把握する上で特に有意義と考えられる。

それに対して、下院の見通しは依然不透明だ。選挙区割りの変更作業などにより、59の選挙区が見通し不明で、20の選挙区が接戦になると予想されている。ただし、コンセンサス予想の地図を確認する限り、見通し不明の59選挙区に、共和党優位のフロリダ州、オハイオ州、ルイジアナ州、ミズーリ州などが入っているとみられ、民主党が厳しい選挙戦を強いられるのは間違いなさそうだ。

世論調査は、政治家や政党の支持率だけでなく、有権者の関心事項やその推移を確認する上でも有益だ。特定の州を対象に世論調査を実施する現地の学術機関や調査会社も多いため、これらを参考にすれば、より地域的な政治的関心や課題を知ることができるだろう。


注1:
上院議会の議席数は現在、民主党50、共和党50。下院議会は民主党222、共和党210。
注2:
テキサス州の予備選挙は3月1日に実施された。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
片岡 一生(かたおか かずいき)
経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館などでの勤務を経て、2022年1月から現職。