輸出入とも、統計開始以来最高を記録(スイス)
2021年の貿易

2022年9月2日

スイスの貿易(2021年)は、輸出が前年比15.3%増の2,597億8,000万スイス・フラン(約37兆1,485億円、CHF、1CHF=約143円)。輸入が10.4%増の2,013億1,900万CHFだった(注)。その結果、貿易収支は584億6,100万CHFの黒字になった。新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けて落ち込んだ2020年から一転。輸出額、貿易黒字額ともに、1885年の統計開始以来、過去最高額を記録したかたちだ(2022年2月15日付ビジネス短信参照)。

化学品・医薬品の拡大が輸出増に大きく貢献

まず、輸出を品目別にみる(表1参照)。構成比の約5割を占め最大なのが、化学品・医薬品だ。前年比12.4%増となり、輸出の拡大に大きく貢献した。特に、免疫学的製品の伸びが顕著だった。時計(構成比8.6%)も31.2%増と大きく伸びた。スイス時計協会によると、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻ったのが、2021年9月。その後の第4四半期に輸出が拡大したことにより、2021年年間の輸出額は過去最高額の223億200万CHFを達成した(2022年1月27日付プレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(650KB))。特に、米国および中国での需要急増が貢献した。

国・地域別にみると(表2参照)、欧州、北米、アジアの3主要経済圏すべてで拡大した。アジア大洋州(構成比17.4%)では、前年比9.2%増。同地域最大の輸出相手国が中国(6.0%)で、5.7%増と伸び、過去最高額となった。そのほか、シンガポール(2.1%)は13.5%増、香港(1.7%)23.1%増、韓国(1.2%)12.2%増、インド(0.6%)20.4%増と、それぞれ2桁を超える伸びを示した。中国への輸出は、機械および電気・電子機器、精密機器、時計が牽引した。日本(2.9%)も9.0%増で、主に化学品・医薬品、精密機器、時計が伸びた。

これまでスイスにとって最大の輸出相手国だったドイツ(17.0%)は、9.3%増(化学品・医薬品、金属、機械および電気・電子機器、精密機器などが増加)。しかし、米国(18.1%)がドイツを上回る18.9%増で、過去最高額に伸びた(化学品・医薬品が牽引)。その結果、1954年以来初めて米国が最大の輸出相手国になった。

輸入を品目別にみると(表1参照)、化学品・医薬品(構成比27.3%)が前年比7.3%増となり、特に免疫学的製品の伸びが貢献した。また、食品・飲料・たばこ(6.0%)は8.0%増で過去最高額を記録したほか、燃料・エネルギー(5.0%)は価格高騰の影響により、78.1%増と大幅な増加となった。

国・地域別にみると(表2参照)、EU(構成比67.5%)が前年比12.3%増と拡大。中でも、燃料・エネルギーの伸びに牽引されたドイツ(27.4%)とフランス(7.6%)がそれぞれ、11.4%増、19.7%増。また、化学品・医薬品の増加により、スペイン(4.1%)が21.7%増と大きく伸びた。

表1:スイスの主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100 万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
化学品・医薬品 116,424 130,877 50.4 12.4 51,272 54,995 27.3 7.3
階層レベル2の項目医薬品 99,107 108,967 41.9 9.9 39,438 41,058 20.4 4.1
精密機械・時計・宝飾品 40,330 50,230 19.3 24.5 19,264 19,667 9.8 2.1
階層レベル2の項目時計 17,000 22,302 8.6 31.2 2,613 3,277 1.6 25.4
階層レベル2の項目精密機械 15,601 17,372 6.7 11.4 7,857 8,433 4.2 7.3
階層レベル2の項目宝飾品・貴金属製品 7,729 10,556 4.1 36.6 8,794 7,957 4.0 △9.5
機械および電気・電子機器 28,452 31,200 12.0 9.7 29,970 32,820 16.3 9.5
階層レベル2の項目産業用機械 15,676 17,320 6.7 10.5 11,290 12,104 6.0 7.2
階層レベル2の項目電気・電子機器 10,161 11,240 4.3 10.6 11,171 12,672 6.3 13.4
金属製品 12,066 14,635 5.6 21.3 13,000 16,353 8.1 25.8
農林水産物 9,625 10,582 4.1 9.9 14,864 16,447 8.2 10.6
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 8,686 9,468 3.6 9.0 11,140 12,029 6.0 8.0
輸送用機器 4,611 5,283 2.0 14.6 17,409 17,749 8.8 2.0
繊維・衣料製品 4,679 4,861 1.9 3.9 12,350 12,484 6.2 1.1
燃料・エネルギー 1,904 3,898 1.5 104.7 5,629 10,023 5.0 78.1
階層レベル2の項目電力 1,547 3,562 1.4 130.2 1,254 3,819 1.9 204.6
階層レベル2の項目原油・石油製品 348 328 0.1 △5.8 3,578 4,817 2.4 34.6
合計(その他含む) 225,291 259,780 100.0 15.3 182,312 201,319 100.0 10.4

注:「貴金属・宝石、芸術品、骨董(こっとう)品」(貨幣またはその代替品として流通可能なもの)は含まない。
出所:スイス連邦財務省関税局

表2:スイスの主要国・地域別輸出入(通関ベース)(単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 108,786 130,258 50.1 19.7 120,936 135,807 67.5 12.3
階層レベル2の項目ユーロ圏 98,790 119,051 45.8 20.5 111,086 124,952 62.1 12.5
階層レベル3の項目ドイツ 40,412 44,176 17.0 9.3 49,471 55,133 27.4 11.4
階層レベル3の項目イタリア 12,983 15,527 6.0 19.6 16,799 18,893 9.4 12.5
階層レベル3の項目フランス 11,829 14,937 5.7 26.3 12,797 15,319 7.6 19.7
階層レベル3の項目スペイン 7,483 12,596 4.8 68.3 6,709 8,165 4.1 21.7
階層レベル3の項目ベルギー 4,067 4,422 1.7 8.7 3,017 3,416 1.7 13.3
アジア大洋州(注) 41,449 45,271 17.4 9.2 33,595 37,313 18.5 11.1
階層レベル2の項目ASEAN 7,760 8,240 3.2 6.9 8,560 8,758 4.4 2.3
階層レベル2の項目中国 14,734 15,573 6.0 5.7 16,096 17,948 8.9 11.5
階層レベル2の項目日本 6,953 7,582 2.9 9.0 3,688 3,936 2.0 6.7
階層レベル2の項目シンガポール 4,857 5,515 2.1 13.5 3,469 4,174 2.1 20.3
階層レベル2の項目香港 3,627 4,464 1.7 23.1 1,242 944 0.5 △24.0
階層レベル2の項目韓国 2,860 3,208 1.2 12.2 838 1,926 1.0 130.0
階層レベル2の項目インド 1,391 1,675 0.6 20.4 1,655 1,955 1.0 18.2
米国 39,493 46,952 18.1 18.9 11,474 12,149 6.0 5.9
英国 7,802 7,821 3.0 0.2 5,110 4,339 2.2 △15.1
カナダ 3,710 3,629 1.4 △2.2 660 818 0.4 23.9
ロシア 2,779 3,213 1.2 15.6 204 270 0.1 32.6
ブラジル 2,110 2,165 0.8 2.6 593 671 0.3 13.2
メキシコ 1,273 1,399 0.5 9.9 591 683 0.3 15.5
合計(その他含む) 225,291 259,780 100.0 15.3 182,312 201,319 100.0 10.4

注:アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
出所:スイス連邦財務省関税局

2022年に入ると貿易はさらに拡大。第1四半期には、輸出入とも、四半期で過去最高額を記録した〔2022年4月26日付スイス連邦財務省関税局プレスリリース(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。輸出は654億2,500万CHFで前期比1.2%増、輸入は566億9,400万ユーロで同6.7%増だった。輸出については、時計、金属製品が主に拡大に貢献した。輸入については、宝飾品・貴金属製品、繊維・衣料製品、精密機械を除く全ての分野で増加した。輸入で最も増加幅が大きかったのは、エネルギー関連製品で、18億CHF増加した。もっともこれは、ウクライナ情勢に伴うエネルギー関連製品の価格上昇が原因だ。輸入量では0.8%増と、大きく変化していない。

日本との貿易や科学技術分野での関係強化を期待

スイスはEUに加盟していない。しかし、世界各国と個別に、または同国が加盟する欧州自由貿易連合 (EFTA)を通じて、自由貿易協定(FTA)を締結。貿易条件の優位性維持を試みている(表3参照)。現在、発効しているFTAは35件外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに上り、輸出の75.2%、輸入の88.1%がこれらのFTAでカバーされている。

スイス連邦経済省経済事務局(SECO)はFTAの利活用を推進する立場を取る。2020年からはEFTAと合同で、スイスと各国との貿易におけるFTAの活用状況に関する分析調査を開始した。2022年6月に公表された報告書(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2020年には、FTAの活用により、スイスへの輸入関税が約23億CHF削減された。

日本とのFTAは2009年9月に発効した。同報告書によると、スイスへの輸入のうち、主に自動車などでFTAの利用率が高い。同時に、FTAの特恵税率の利用がさらに期待できる品目として、自動車部品や精密機械を挙げた。日本はスイスにとって、世界で5番目、アジアにおいては中国に次いで2番目に大きな貿易相手国だ。イグナツィオ・カシス大統領は2022年4月に日本を訪問。貿易やデジタル化、科学技術分野での両国のさらなる連携への期待を示した(2022年4月28日付ビジネス短信参照)。

表3:スイスのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)(-は値なし)
項目 国・地域 発効日 スイスの貿易に占める構成比
(2021年)
往復 輸出 輸入
発効済み EU 1973年1月1日 57.7 50.1 67.5
中国 2014年7月1日 7.3 6.0 8.9
英国 2021年1月1日 2.6 3.0 2.2
日本 2009年9月1日 2.5 2.9 2.0
シンガポール 2003年1月1日 2.1 2.1 2.1
湾岸協力会議(GCC)諸国 2014年7月1日 1.6 2.3 0.8
香港 2012年10月1日 1.2 1.7 0.5
カナダ 2009年7月1日 1.0 1.4 0.4
トルコ 1992年4月1日 0.8 0.7 0.8
韓国 2006年9月1日 1.1 1.2 1.0
メキシコ 2001年7月1日 0.5 0.5 0.3
インドネシア 2021年11月1日 0.2 0.1 0.2
EFTA(注1) 1960年5月3日 0.3 0.3 0.2
合計(注2) 80.8 75.2 88.1
署名済み グアテマラ 署名日2015年6月22日 0.0 0.0 0.0
交渉中 南米南部共同市場(メルコスール、注3) 0.8 1.1 0.4
インド 0.8 0.6 1.0
ベトナム 0.5 0.2 0.9
タイ 0.4 0.3 0.5
マレーシア 0.3 0.3 0.4
モルドバ 0.0 0.0 0.0
FTAカバー率(交渉中も含む) 83.7 77.8 91.3

注1:EFTA:ノルウェー、アイスランドのみ計上(リヒテンシュタインを含まない)。
"注2:「発効済み」の合計値は、表に記載された以外で発効済みのFTAに含まれる国・地域も含めた合計。
具体的には、以下のFTAがこの「合計」に含まれている。
イスラエル、フェロー諸島、パレスチナ、モロッコ、北マケドニア、ヨルダン、チリ、チュニジア、レバノン、南部アフリカ関税同盟〔SACU:ボツワナ、レソト、ナミビア、南アフリカ共和国、エスワティニ(旧スワジランド)〕、エジプト、セルビア、アルバニア、コロンビア、ペルー、ウクライナ、モンテネグロ、中米諸国(パナマ、コスタリカ)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ジョージア、フィリピン、エクアドル(協定締結順)。
"

注3:南米南部共同市場は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ。
出所:スイス連邦経済省経済事務局「FTA一覧」、スイス連邦財務省関税局貿易統計

対日貿易は輸出入ともに増加

2021年の対日貿易は、輸出が前年比9.0%増の75億8,200万CHF。輸入が6.7%増の39億3,600万CHFになった(表4参照)。その結果、貿易黒字は前年より3億8,100万CHF拡大し、36億4,600万CHFだった。

主な対日輸出品目をみると、最大品目の医薬品(構成比50.0%)が前年比9.6%増。次いで構成比が大きい腕時計(17.8%)も、19.7%増だった。一方で輸入をみると、最大品目の医薬品(37.1%)が、前年の約2倍の大幅増から減少に転じた(4.6%減)。次いで構成比が大きい乗用車(10.4%)も13.7%減と縮小した。

表4:スイスの対日主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
医薬品 3,461 3,794 50.0 9.6
腕時計 1,129 1,351 17.8 19.7
医療機器 456 479 6.3 5.1
宝飾品 307 403 5.3 31.3
一般機械 300 290 3.8 △3.5
化学原材料 138 131 1.7 △5.2
検査・計測機器 131 126 1.7 △4.2
飲料 123 95 1.3 △22.6
電気・電子機器 120 129 1.7 7.5
金属部品 108 117 1.5 8.0
たばこ 67 43 0.6 △35.9
合計(その他含む) 6,953 7,582 100.0 9.0
輸入(CIF)(単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
医薬品 1,532 1,461 37.1 △4.6
乗用車 472 408 10.4 △13.7
一般機械 230 282 7.2 22.7
電気・電子機器 209 264 6.7 25.8
化学原材料 141 209 5.3 48.3
光学機器 94 114 2.9 22.0
宝飾品 93 120 3.0 28.5
建設機械 70 81 2.1 16.0
検査・計測機器 51 62 1.6 20.2
医療機器 49 55 1.4 13.5
自動車部品 48 56 1.4 16.7
合計(その他含む) 3,688 3,936 100.0 6.7

出所:スイス連邦財務省関税局


注:
輸出入額は、「貴金属・宝石、芸術品、骨董品」(貨幣またはその代替品として流通可能なもの)を除いた合計値。スイス税関が貿易統計を発表するに当たっては、通常、これら品目の取引量・金額を除外して計上する。当該品目は金額の変動が大きく、貿易推移を把握する上で困難が生じるため。なお、貴金属・宝石などを加工した製品「宝飾品・貴金属製品」は、統計に含まれる。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所(執筆時)
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から2022年7月までジュネーブ事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。