2015年から日本企業とイスラエル企業との協業等が増加傾向

2022年2月18日

2021年に日本の対イスラエル投資額が過去最高を記録

イスラエルの投資コンサルティング会社の1つであるハレル・ハーツインベストメント・ハウス(HIH)が1月12日に発表した調査結果(Japanese Investments In Israel 2021 Yearly Report)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.59MB)は、日本・イスラエル間の投資や新規ビジネス関係者の間を駆け巡った。これによれば、2021年の日本の対イスラエル投資額は29億4,500万ドルに上り、2020年(10億310万ドル)に比べて約2.9倍となったという。

個別の投資案件についてジェトロが調べたところ、旭化成の子会社であるZOLL Medical Corporationによる医療機器メーカー、イタマー・メディカルの買収(5億3,800万ドル)、ルネサス エレクトロニクスによるWi-Fiソリューションプロバイダーのセレノ・コミュニケーションの買収(3億1,500万ドル)、さらには、オリンパスによる医療機器メーカー、メディテイトの買収(2億6,000万ドル)など、大型買収案件が目立つ。そのほかにも、三井住友海上火災保険による、自動車向けサイバーセキュリティ事業を行うアップストリームセキュリティへの3,600万ドルに上るラウンドCへの出資が行われるなど、HIHの調査が示すとおり、日本企業によるイスラエル企業への出資はますます活況を呈しているといえる。

注目すべきは「協業等」の事例の増加傾向-新型コロナ禍の影響からも回復か

日本企業からの過去最高といわれる投資額に関心が集まる一方で、同様に注目すべきなのが日本企業とイスラエル企業との「協業等」の動向である。イスラエルに拠点を有する日本企業の多くが、イスラエル企業が開発する先端的な技術やソリューションを探索し、「協業等」を通じて自社事業とのシナジー効果を見いだそうとしていることから、投資と並んで2国間ビジネスの重要な焦点となっているためである。

図1は、日本企業とイスラエル企業との協業等の事例を集計したものである(注1)。事例の件数は、新型コロナ禍以前の2019年に最大(44件)となっているが、2021年においても、2019年とほぼ同等の実績(42件)となっていることが分かる。新型コロナ禍発生以前からある程度の関係性が成り立っていた案件が複数あった可能性もあるが、2年近くも渡航制限が続く中で、新たな協業等の事例が数多く公表されていることを考えると、リモートの環境にあっても相当なビジネス関係が構築・発展されてきたとも考えられる。

図1:日本・イスラエル企業間の協業等動向
2015年の5件以降増加傾向にあり、2019年には44件を記録、2020年に30件と一時的に減少したものの2021年には42件となった。

出所:各種データベース、各社プレスリリース、ウェブサイト等からジェトロ作成

日本企業はイスラエル企業にとってグローバル市場開拓のパートナー

続いて図2は、日本企業が協業等を発表したイスラエル企業を調達ラウンド別に整理したものである。これを見ると、2018年以降、シードからラウンドA、B、Cくらいまでのステージの企業を対象とした協業等が拡大しているのが分かる。初期投資を受けてサービスやソリューションなどの開発が一段落し、これから本格的に市場に打って出ようとする段階の企業、あるいは北米や欧州などで先行し、ある程度市場での評価が定まってきて、日本を含むアジア市場などにおいてさらなる成長を目指そうとする段階の企業に、日本企業が着目している可能性が高い。

図2:イスラエル企業の調達ラウンド別協業・連携動向
2018年以降シード、A、B、Cラウンドの企業の割合が多くなった。

出所:各種データベース、各社プレスリリース、ウェブサイト等からジェトロ作成

さらに、図3は日本企業とイスラエル企業との協業等について、目的別に整理したものである。2018年までは、日本企業が、イスラエル企業が開発したサービスやソリューション、デバイスなどを日本国内あるいは第三国市場で販売する「販売代理店」となるものが過半を占めていたが、2019年以降次第にこの割合が下がる一方で、具体的なビジネス案件に共同で取り組もうとする「業務提携等」の割合が高まっていることが分かる(注2)。このデータからも、日本企業はイスラエル企業にとって、日本やアジア市場を含むグローバル市場開拓や事業開発におけるパートナーとなっている可能性が高いことが分かる。

図3:日本企業とイスラエル企業の協業等の動向(目的別)
2018年までは「販売代理店」目的が過半を占めていたが、2019年以降「業務提携等」を目指すものの割合が増えた。

出所:各種データベース、各社プレスリリース、ウェブサイト等からジェトロ作成

日本企業のイスラエル企業との協業等の事例における1つの特徴的なパターンとして、複数回に及ぶ出資や協業等を通じて、イスラエル企業との戦略的な関係性を構築している点が挙げられる。

例えば、保険大手のMS&ADインシュアランスグループホールディングス(MS&AD HD)は、IoT(モノのインターネット)機器を対象としたサイバーセキュリティ診断ソリューションを提供するビドゥ・コネクテッド・トラスト(ビドゥ)に対して、傘下のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるMS&ADベンチャーズを通じて2019年に出資。翌2020年には同じくグループ会社であるMS&ADインターリスク総研とともにビドゥとの共同研究・開発の実施を発表し、さらに2021年にMS&ADベンチャーズを通じて出資を行っている。MS&AD HDにおいてビドゥとの協業を担当するMS&ADインターリスク総研の土井剛新領域開発部長は、ジェトロの取材(2022年1月30 日)に対して、「今後数年で、インターネットに接続されるIoT機器は350億台を超えると言われており、そのセキュリティリスク対策は急務。そのような中で、IoT機器のセキュリティリスクの特定、防御と検知を世界トップ水準の技術で実現できるビドゥとの協業は、リスクマネジメントサイクルを完結させるために必然だった」と語る。また同社は、2020年11月に傘下の三井住友海上火災保険がイスラエルのダイレクト損害保険会社IDIインシュランスと提携してイスラエル国内にイノベーションハブの設置を発表(2020年11月5日付ビジネス短信参照)、2021年1月にこれを正式に設置した上で同年9月から3人の日本人駐在員を派遣しており、現地拠点を活用したさらなる協業等の可能性を模索している。

 他の事例としては、自動車部品大手の武蔵精密工業が、2019年に発電用フリーピストンエンジンの開発を手掛けるアクエリアス・エンジン(Aquarius Engines)に出資(ラウンドC)を行い、その後2021年1月には5G(第5世代移動通信システム)基地局をはじめとするテレコミュニケーションや、モビリティーなどの領域で共同開発を進めるべく、戦略共同契約を締結したと発表している。また、総合電子部品メーカーのTDKは、燃料電池を開発するジェンセル(GenCell)に対して、傘下のCVCであるTDKベンチャーズを通じて、2020年8月に100万ドルを出資、その後2021年2月にはグリーンアンモニア生産を主眼とした業務提携を発表し、さらに金額は非公開ながら2021年4月にTDKベンチャーズからの再出資が行われている。

 ここまで見てきたように、2021年に日本からイスラエルへの投資額が過去最大となったことと同時に、日本企業とイスラエル企業との間の協業等の事例も、2015年以降件数のアップダウンはあるもののおおむね増加傾向がみられ、新型コロナ禍にあってもむしろその勢いは衰えていない。また、日本企業がイスラエル企業の「販売代理店」となることを中心とする形から、ともに製品やサービスを開発・改良するとともに新たな市場を創っていく「業務提携等」へと、その関係性の在り方が変化してきていることも特徴として挙げられる。今後も、日本とイスラエルとの間のビジネスアライアンスの成長可能性に注目されたい。


注1:
「日本企業」は日本企業の海外子会社などを含む。「イスラエル企業」はイスラエルで起業され、本調査の情報収集段階でイスラエルに本社あるいは主要研究開発拠点など物理的な拠点を有する企業とし、かつ報道などで一般に公開された事例を集計対象としている。そのため他の同様の調査などと比較して数値が異なる可能性がある。
注2:
「協業等」の目的については、原則として各社のプレスリリースなど公開情報に記載された内容によって整理している。「販売代理店」については契約目的として「販売代理店契約」あるいは「ディストリビューター契約」などと明記されているもののほか、契約名が明記されていないものについても記載されたパートナーシップの目的の趣旨から判別して整理。「業務提携等」については、「協業」あるいは「提携」「業務提携」「戦略的パートナーシップ」などと記載されていて、かつ内容面で「販売代理店」に整理すべき案件を除いたものとしている。
執筆者紹介
ジェトロ・テルアビブ事務所
吉田 暢(よしだ のぶる)
2004年、ジェトロ入構。アジア経済研究所、ERIA支援室、英サセックス大学開発研究所客員研究員、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年8月から現職。

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