英国の最新の食トレンドと進化する日本食

2022年7月4日

英国では、環境への配慮や持続可能性に関する取り組みが根付き、発展している。また、近年の新型コロナ感染拡大の影響を受けて食トレンドが一層大きく変化してきている。本稿では、英国における最新の食トレンドと、現地で進化する日本食を紹介する。

「持続可能性」や「健康的」がキーワード

2021年11月に、フードサービス業界や食品小売業者などの商品開発などに係るコンサルタントのザ・フード・ピープルが2022~2023年の英国の食トレンドトップ10を紹介した。このうち、「脱炭素に向けて」「研究室から食卓まで」「海の農業」「そのままでより健康的に」「東に目を向けよ」の概要を紹介する。

1.食における炭素の実態(Carbon Truths

カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Productsの略称)は、販売される農産物や食品の現地調達から生産・流通、廃棄・リサイクルの全行程で排出された温暖化効果ガスの排出量を合計し、それを二酸化炭素(CO2)と排出量に換算して商品に表示し、排出削減の意識を高めようとするものである。測定が困難にもかかわらず、販売される農産物・加工商品などに対する、二酸化炭素の見える化を促進する動きが増えている。また、カーボンニュートラル(気候中立)(注1)という観点も注目される。

昨今、二酸化炭素に係る情報を食品の包装に表示する動向がみられる。NPO法人のファウンデーション・アースは2021年秋、環境(炭素、水の使用、水質汚染、生物多様性)への影響に関する評点を商品に表示し、消費者の反応をテストするパイロット事業を開始。ネスレなどの大手食品企業やセインズベリーズ、マークス&スペンサー、コープなどの大手スーパーマーケットも同スキームに賛同している(2021年8月24日付「ファウンデーション・アース」発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。


調理済み食品のパッケージに表示された、環境への影響に
関する評点(ジェトロ撮影)

環境への影響に関する評点は8段階、最も高いのが「A⁺」(ファウンデーション・アース提供、許可を得て掲載)

2.研究室から食卓まで(Lab to Fork)(注2)

培養肉は、食肉の供給不足や世界の人口増加、環境保全の観点から、早いペースで開発が進んでいることもあり注目されている。ザ・フード・ピープルのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (最終アクセス日:2022年6月7日)によると、培養プロテインは、規制やコストの面で販売は開始されていないが、近い将来に商業化は可能。肉のほか、乳、ハチミツ、チーズ、チョコレートなどの食品についても商業化が模索されている。


「罪悪感のないソーセージ」(アイビーファーム提供、許可を得て掲載)

2020年にシンガポール食品庁が、米国スタートアップのイート・ジャストが製造する培養鶏肉の販売を世界で初めて承認したことは、食品業界にとって画期的だった。従来の動物由来の農業と比べると、倫理や環境への影響、安全性、コスト面、規制関連の障害などさまざまな課題があるものの、細胞農業(注3)は実現しつつある。

多くのスタートアップ企業が培養肉の商品開発事業に参入している。例えば、培養肉のスタートアップのアイビーファームは、培養肉で製造された「罪悪感のないソーセージ(guilt-free sausage)」を2023年までに商業化する予定だ。

3.海の農業(Sea Farms

海藻などの海の植物は、従来の魚、穀物、肉に取って代わる、食品の持続可能性課題への解決策として期待されている。英国においては、一部の地域を除いて従来は海藻類を食する文化がなかったものの、海藻類はうまみや豊富な栄養分を含み、マーケティング的にもインパクトがある食材として、ダルス、キープ、サンファイアなどが、ファーストフード店だけでなく高級レストランのメニューにまで登場している。海藻類は、塩やふりかけの調味料などとして使われるほか、スナック、菓子類、パスタ、スムージーなどの飲料商品の原材料として利用されつつある。さらに、「海のコメ」と称されるアマモ(甘藻)は、コメよりプロテインを50%以上多く含み、また、オメガ6と9を多く含むため、グルテンフリーのスーパーフードとして期待されている。

4.そのままでより健康的に(Same but Healthier

超加工食品や高脂肪、高糖質、高塩分の食品(HFSS)に抵抗を感じる消費者が増え続ける一方で、健康を気にするが依然として自分の好む食品を楽しみたいと考える消費者も多く、妥協することなく栄養面も考慮された食事を毎日の生活に組み込めるよう情報が発信されている。また、特にプラントベースフード(注4)の分野においては、可能な限りクリーンラベル(注5)にすることや、商品を少ない原材料で製造する、または全てを天然素材の原材料にする動きが高まっており、毎日の食事における健康への利点、機能性や栄養素密度について学び続ける消費者もいる。

5. 東に目を向けよ(Look East

東アジアの文化的影響力は急速に高まっており、特に日本と韓国の食べ物、ファッション、映画、音楽などは引き続き人気を集めている。2021年には韓国語の26単語が新たにオックスフォード辞典に追加されたことからも、その浸透がうかがえる。既に世界的に人気のある日本食についてはさらに探求されており、中でも特に他国の料理との融合(例:日本-イタリア料理が融合した創作料理)、デザートや菓子(餅、アジア風ドーナツなど)や調味料などが人気だ。このほか、餅、ふりかけ、かんずり、ゆず胡椒(こしょう)も人気だ。日本食以外では、韓国のトッポッキ、プルコギ、韓国式フライドチキンやコーンドック、台湾のノンフライの天日干し麺、台湾風フライドチキン、タピオカミルクティー、中国の各地域の料理、スパイシー麺、西安のストリートフードなどが消費者の関心を引いている。

2022年4月3日~4日にロンドン市内で開催された、オーガニックなどの自然派食品展示会「ナチュラル&オーガニック プロダクツ ヨーロッパ」では、前述のトレンドのうち、「そのままでより健康的に」と「東に目を向けよ」に関連する商品も数々見受けられた。「そのままでより健康的に」に関して、展示会の開催期間中に行われた商品のコンペの各部門で優勝またはノミネートされた多くの商品が、天然原料を使い環境へ配慮した商品である旨の表示を行っていた。例えば、同コンペの新規食品商品のカテゴリーでファイナリストの商品の1つとなった食品会社ノッティ―ズのピーナッツバター&バナナのスプレッドには、保存料などが含まれない可能な限りクリーンな原料を使用し、「高オレイン酸」「食物繊維豊富」に加えて「パームオイルフリー」と表示がある。一般のピーナッツバターと比較し食品添加物が少なく体に良いだけでなく、環境や社会面で様々な問題を抱えているといわれているパーム油を使用しないことでも、消費者に訴求する表示となっている。

また、「東に目を向けよ」に関して、キムチやキムチ関連商品の出展が目立った。ザワークラフト商品と並び多くのキムチ商品を製造するスーアの販売担当員に、現地の消費者の同商品の楽しみ方を聞いてみたところ、「白米やサラダ、サーモンのグリルなどのトッピングなどとして食されるのはもちろん、ホットサンドイッチの具材として楽しむ消費者も多くいる」とのことであった。2022年4月現在において、同社の商品はロンドンを中心にチェーン展開する自然派スーパーマーケットのプラネットオーガニックなどで既に取り扱われている。さまざまなフレーバのキムチ商品の数々を製造するカルチャーコレクティブの商品も、上述のプラネットオーガニックなどの自然派小売店のほか、大手オンラインスーパーのオカドで取り扱われており、既に英国内で流行していることがうかがえる。

イギリス人にとりイノベーティブな日本食材、現地で進化

この他、前述の「東に目を向けよ」で言及されているふりかけは、展示会での出展は確認できなかったが、英国内で浸透しつつある。数年前より英国の高級レストランなどでじわじわと注目され、前菜などにふりかけて楽しむ自由なスタイルで提供されている。イングランドの北部リーズ所在のミシュラン星付きレストランの「ザマンビハインドカーテン」では、メニューにもふりかけがトッピングされたメニューが提供されている。

また、新型コロナ禍のロックダウンで自炊をする消費者多くなったことを背景に、食関連のウェブサイトなどでふりかけのレシピが投稿されている。英国放送協会(BBC)が運営するBBCレシピでは、英国人が大好きなフライドポテトに海苔(ノリ)、ニンニク、唐辛子、ゴマを使ったふりかけをかけて食べるレシピが紹介されている。また、プロのシェフやグルメな消費者向けの料理サイト「グレートブリティッシュシェフ」では、シェフのディーン・パーカー氏による、ケール、乾燥アンチョビ、海苔、ゴマ、ヒマワリの種を使ったふりかけのレシピが紹介されている。

大英帝国時代の影響などにより、極めて多様な異文化との接触を得てきた背景もあり、英国、特に人口の約37%が外国生まれ[英国国家統計局(ONS)が2021年11月に発表した、2020年5月~2021年6月の人口における推計値]のロンドンにおいては、他国の料理を融合させる料理手法が現れてきており、日本料理の技術や日本食材の利用も多く見られる。例えば、イタリア料理と日本料理を融合したスモウサントゥイガのシェフお勧めコースメニューでは、イタリア特産品のフレッシュチーズであるブッラータチーズとダッテリーノトマトを使用した前菜、タリアテッレのボロネーズパスタの後に、味噌(みそ)田楽、カリフォルニアロール、マグロや鮭の刺し身をメインとするコースを提供。ロンドン市内には日本料理とメキシコ料理の融合、既に定着しているニッケイ料理(日本料理とペルー料理の融合)も多くみられる。ロンドン以外でも、西洋料理と西洋料理以外の様々な料理を融合したシェフ独自の料理を提供している南ウェールズのレストラン、ウニンシアー(Ynyshir)は、可能な限り地元産の食品を使用しつつ、隠し味や味付けなどに多くの日本産食品を使用した創作料理を提供している。


ウニンシアーのメニュー例 (同店の許可を得て掲載)

現地トレンドなど、市場が求めるものを理解する重要性

価格帯ではアジア諸国で製造された食品にはかなわないものの、特に高級路線やPRの仕方次第で、海外における日本食市場拡大の余地はまだまだあると思われる。例えば、日本人さえ知らない日本産の伝統的食材が数多くあることや、日本人には見慣れた食品が外国人にとっては大変魅力的となるケースがたくさんある。実際に日本に訪れた外国人バイヤーの外国人などから、そのような声を頻繁に聞く。このように、日本産食材は大変魅力的なものが多いが、常に変化している現地トレンドを把握し、マーケットインの視点でさらなる輸出拡大を目指すことが重要である。


注1:
カーボンニュートラル(気候中立)とは、環境中で、二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであるという意。
注2:
研究室から食卓まで (Lab to Fork)とは、欧州(EU)の農業政策におけるキャッチフレーズ「農場から食卓まで(Farm to Fork)」を模したもの。
注3:
細胞農業とは、従来のように動物を飼育することなく、生物を構成している細胞そのものを、その生物の体外で培養することによって行われる新しい生産の考え方(細胞農業協会関連資料より引用)。
注4:
動物性原材料ではなく、植物由来の原材料を使用した食品のこと。
注5:
食品パッケージの表示内容が明確で分かりやすいこと、またはその表示の仕方が簡潔であること。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
尾崎 裕子(おざき ゆうこ)
2008年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。