日本食事情、アプリ宅配(インド)
アーメダバード地域の生活実態(2)

2022年8月30日

インド料理は非常においしいが、毎日インド料理を食べるのもいずれ限界が来る。駐在員にとって、毎日の食事は健康維持に直結しており、死活問題である。当地にあっても、3食日本食を食べている駐在員は多いものと思われる。日本食へのアクセスの容易さは、工業団地周辺と市内では事情が異なり、むしろ工業団地周辺の方が充実しているといえるだろう。

5.日本食環境について

「マンダル―ベチャラジ地域」のいくつかの小規模ホテル内には日本食レストランがあり、社員寮は、日本食の賄い付きである。ここでいう日本食レストランとは、日本の「居酒屋」の風情をイメージすればよい。肉料理(鶏・豚肉中心、ヒンドゥー教徒ゆえ牛は食べないことが前提)からラーメン、丼もの、食後のどら焼きまでメニューは豊富だが、正確には 「居酒屋」ではない。グジャラート(GJ)州は禁酒州であるため、アルコールを提供していないからだ(お酒の調達については後述する)。しかし、これらのレストランから、日々、お弁当のデリバリーなどを受けている駐在員も多く、その存在はありがたい。味の品質を担保するため、グルグラムの系列店から日本人料理人が定期的に巡回指導している場合もあるという。恐らく今後も、この地域に居住する日本人の生活関連ビジネスは徐々に充実していくだろう。

マンダル地域の日本食レストランのメニューと料理(ジェトロ撮影)

一方、アーメダバード市内の日本食レストラン事情は非常に心もとない。ホテルのみならず路面店も含め、市内には東南アジア諸国で見られるような、いわゆる「日本食レストラン」「日本居酒屋」「日本定食屋」といったカテゴリーは、以下で紹介する「YUHI」の他にはほぼ皆無と言える。有名ブランドホテルの一部には「日本料理メニュー」が存在するが、中には新型コロナ禍で、日本人の客足が減ったため提供をやめてしまったホテルもある。また、値段が相対的に高い傾向にあり、駐在員の常食には向かない。一般的にインドでの日本食レストラン経営は、日本人駐在員・家族相手のみならず、インド人客も取り込み、リピーターとなる顧客層の拡大が重要だ。また、酒類の提供も利益の源泉となる。このためGJ州が菜食主義かつ禁酒州であることを踏まえると、提供するメニューも限られるうえ、酒類の提供ができないことから、日本人駐在員が少ないアーメダバード市内では経営が難しいのではないかと思われる。

市内にある日本食レストラン「夕日(YUHI)」から、毎日のように和食弁当の配達してもらう駐在員も多い。同レストランは、ハリアナ州グルガオンに拠点を置き、ホテルやゲストハウス、日本人を顧客にした不動産仲介業、レストランなどを手掛けるYUHI HOSPITALITY SERVICES が運営している。この弁当は、値段[400~600ルピー(約680~1,020円、1ルピー=約1.7円)程度]もボリュームも味も次第点で、市内居住者の生命線となっている。また、市内のルネッサンスホテル内の「クロ(KURO)」という高級アジアン・フュージョン・レストランは、長らくコロナ禍で休業していたが、2022年7月現在は営業を再開している。同店は寿司(すし)や刺し身といったメニューを提供しているため、当地駐在員は営業再開を喜んでいる。

市内居住者の生命線「YUHI」の和食弁当(ジェトロ撮影)

以上のように、「日本食環境」に関してのみいえば、むしろ「マンダル - ベチャラジ地域」の方が市内より充実しているといえるのが実情だ。

6.カフェ、ベーカリーなど

禁酒・菜食主義を貫き、食に関してはインドの中でも特に保守的といえるGJ州だが、アーメダバードなどの都市部では近年、若者向けの地場のカフェ・レストランがオープンしている。例えば、インド北部を中心に19店舗(2022年5月時点)を展開するカフェチェーン「モカ(Mocha)」や、アーメダバードの中心街で経営する「ターコイズ・ビラ(Turquoise Villa)」などがその代表だ。こうしたカフェでは、モダンな内装とともにピザ、パスタなどノン・ベジタリアンの洋食メニューも提供している。決して価格的に安価とはいえないものの、特に休日の食事時には、地元の若者でにぎわっている。

こうしたカフェ・レストランの中には、日本食や東南アジア料理にインスパイアされたとみられる、アジアン・フュージョン料理を提供するところもある。ピュア・ベジタリアン向けの店も多く、いわゆる「日本食」というわけではないが、一部のノン・べジタリアンメニューのある店で提供されるパッタイやタイカレー、韓国風のビビンバなどは、食事の目先を変えたいときに重宝されている。

また、菜食主義ゆえ、パンにも基本的に卵は使用されていないため、卵を使用した市販のパンを探すのは困難である。そうした中、近年アーメダバード市内にオープンした「ウィー・ニード・イット(We Kneed It)」「リトスフィア(Lithosphere)」といった地場のカフェベーカリーでは、卵を使用しているパンやケーキにはノン・ベジタリアンマークを付けて販売しており、日本人駐在員のコミュニティ内では口コミで評判が広まっている。

7.デリバリー・アプリによる食事宅配サービス

現在、アーメダバード周辺地域の新型コロナ感染状況は鎮静化し、ようやく日常が戻りつつある。しかし、2020年5月以降、3波におよび、当地の生活はコロナ禍の多大な影響を受けてきた。この間の度重なる行動規制により、駐在員の間では、EC(電子商取引)によるネット購入を介した食材調達やデリバリーがすっかり定着している。

「ゾマト(Zomato)」「スウィギー(Swiggy)」といった、近年急成長している食事宅配業者は数社ある。それら店舗では、スマホアプリを利用して注文すれば、配達料が上乗せされるものの、登録された店舗からの配達を受け取ることができ、料金は銀行口座から自動的に引き落とされる。しかし、配達可能地域はほぼアーメダバード市内に限定されており、「マンダル - ベチャラジ地域」では利用できないが、市内居住者が注文するには便利だ。

これら宅配業者には、様々な店舗が登録されているため、各地方のインド料理はもちろんのこと、中華、イタリアン、多国籍など料理のバリエーションは非常に多い。毎日ランチの都度、外出する煩わしさを考えると、携帯から注文して、様々な料理が手元までデリバリーされる便益は大きい。

ちなみに、デリバリー品質は高いとはいえず、注文した料理がこぼれている、注文した品物の一部が欠品して配達される、などの問題が割とよく起こる。アプリで管理センターにクレームを入れれば、当該金額の払い戻しや、次回使用できるクーポンを受け取ったりできるシステムがあるものの、カスタマーセンターから電話がかかってくることもあり、やり取りは非常に面倒だ。

一方で、アーメダバード市内であれば、レストランからの食事のデリバリーだけでなく、野菜などの生鮮品やお菓子などの加工食品を「ブリンク・イット(blinkit、旧:Grofar)」というアプリで注文することも可能だ。ただし、こちらは即日配達をうたっているものの、競合他社のアプリと比較しても、デリバリーの質が安定せず、運が悪いと配達員が見つからず、いつまでたっても商品が届かない、というケースもある。また、特に野菜などの生鮮品は、市内のスーパーマーケットなどに比べると品質が劣ることも多い。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる)
2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。