ハノーバーメッセ開催 日系出展企業にビジネス好機(ドイツ)
ドイツは日本との協業や日本企業誘致に関心

2022年7月8日

産業技術の専門展示会ハノーバーメッセが2022年5月30日~6月2日、ドイツ・ニーダーザクセン州ハノーバーで開催された。2022年は、3年ぶりのリアル開催、そしてオンラインをあわせたハイブリッド開催となった。2020年は「新型コロナ禍」により中止され、2021年はオンラインのみで開催された。今回は60カ国から約2,500社がリアル出展し、来場者数は約7万5,000人だった。デジタルでの来場者は1万5,000人に上り、カンファレンスと出展者のライブストリームのスピーカーは600人以上、視聴回数は約2万4,000回となった。

ハノーバーメッセの主催者であるドイツ・メッセのヨッヘン・ケックラー最高経営責任者(CEO)は「サプライチェーンの混乱、エネルギー価格の上昇、インフレ、気候変動に直面する中、新型コロナのパンデミック発生後2年を経て、再び展示会場で実際に顔を合わせ、最新の技術トレンドを把握し、未来を拓(ひら)く窓を開くことは、より一層重要な意味を持つ」と、リアル開催の重要性を強調した。

75周年となるハノーバーメッセのメインテーマは「デジタル化と持続可能性」とされた。会期前日の5月29日夕刻に開催された開会式典で、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、気候変動問題やロシアによるウクライナ軍事侵攻への対応に関連して、経済変革が喫緊の課題であることを訴えるとともに、協働こそが様々な課題を解決すると述べ、各界に協力を呼び掛けた。

日独フォーラムで日独連携強化が示唆される

メッセの初日5月30日には、「第15回日独経済フォーラム」がハイブリッドで開催された。「Mission Net Zero:日独の産業界はどのように変革を達成できるか?」と題し、日独の産業界と政官の専門家による議論が行われた。ここでは主に、ドイツ政府関係者によるコメントを紹介する。

ドイツ経済・気候保護省のベルンハルト・クルッティヒ産業政策局長は、ドイツ政府は「気候中立と産業部門のデジタル化をドイツの近代化推進プロジェクトの中核」に据えていると説明。政府の取り組みを紹介した。1つは、国内外のサプライチェーンにおける人権・環境問題に関するデューディリジェンス実施を義務付ける法律の制定(2021年6月30日付ビジネス短信参照ドイツ サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンス義務に関する法律(参考和訳))だ。これを実践するには、サプライチェーンを可視化するデジタルソリューションが求められる。また、先行的な取り組み事例として、自動車業界の関連企業間のデータ共有を可能にするアライアンス「カテナ-X自動車ネットワーク(Catena-X Automotive Network)」(2021年5月11日付ビジネス短信参照)を挙げ、さらに他の製造業にも拡張する「Manufacturing as a Service(ドイツ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が紹介された。また、欧州統合データ基盤プロジェクト「ガイア-X(GAIA-X)」(2021年2月3日付ビジネス短信参照)については、G7枠組みも考慮した国際規格が必要だとして、2023年にG7議長国となる日本は重要な役割を果たすことになる、との期待が示された。

パネルディスカッションでは、気候中立をドイツでは2045年、日本では2050年に達成するとの目標を掲げており、両国による協業可能性が高い分野として水素が挙げられた。また、日独政府による水素エネルギー市場創出支援のアプローチの違いが指摘された。経済・気候保護省のマークゥス・ヘス産業政策局・未来モビリティ担当部長は「ドイツでは、化石燃料から水素エネルギーへのトランジションコストについて、国が個別にプロジェクトを審査して補助金を提供する。企業の個別の取り組みを通じて、全体として気候中立を目指す。他方、日本は産業別ロードマップを策定し、国が枠組みを整える方法をとっている。両国の政府による支援の手法に違いはあるが、気候中立達成という目標は同じだ」と述べた。

日本の出展企業がドイツでの新たなビジネス展開に意欲

今回、日本からの出展は13社(デジタル出展を含む)、海外現地法人による出展15社を含めると計28社が出展し、自社商品のPRや商談に取り組んだ。

高石工業(大阪府)は、水素ステーション向けのゴムパッキンを供給するメーカー。ハノーバーメッセには7回目の参加となる。同社の耐水素ゴムパッキンは、リーク防止に優れ、これまでにフランスやスイスで採用された実績がある。ドイツでも数社にサンプル出荷し、一部からは高評価を得ているという。高石秀之代表取締役は「水素ステーションで必要となる70~90メガパスカル(MPa)の高圧水素専用の研究開発を実施しているのは当社くらい。世界的にも珍しいオンリーワン技術を目指す」と意気込みを見せた。


ハノーバーメッセ出展は7回目の高石秀之代表取締役(ジェトロ撮影)

日東精工(京都府)は、産業用各種ねじメーカー。CPグリップという、ねじを締めた時に切粉が出ない特殊コーティングを塗布したねじや、コンタミ防止の自動ねじ締め装置を展示し、来場者にアピールした。同社の小雲康弘執行役員は「これまでも日本やアジア各国、米国などで多くの採用実績がある当社のCPグリップを、欧州でも電子部品の基板用や電動化が進む自動車部品用などに売り込んでいきたい」と話し、ドイツの自動車関連サプライチェーンへの参入に向けて意欲を示した。


ハノーバーメッセに初出展の日東精工ブース(日東精工提供)

東京理科大発ベンチャーのイノフィス(東京都)は、重量物を持ち上げたり、中腰姿勢での作業などで腰を補助したりする、マッスルスーツを開発・製造するスタートアップ企業。同社のブースでは、装着すれば最大補助力25.5キログラムフォース(kgf)で動作をアシストするというマッスルスーツ「Every」が注目を集めた。折原大吾代表取締役社長は「近々、ドイツを軸にヨーロッパでの販売を強化したい」と述べ、ドイツでの拠点設立へ向け急ピッチで準備を進める考えを示した。ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)のジェローム・フル機械・設備担当シニア・マネージャーは、イノフィスの製品について、「高齢化社会に必要不可欠な機器である」と高く評価した。


マッスルスーツ「Every」を試装着する来場者(イノフィス提供)

前述に加え、日本から出展した各企業や在独日系企業がそれぞれ存在感を示した。住友重機械工業のドイツ現地法人、住友サイクロドライブ・ドイツ(バイエルン州)は、ロボットの関節駆動に必要な機能を一体化したアクチュエータ「ツアーカ(TUAKA)」が評価され、ハノーバーメッセの技術賞である「HERMES AWARD 2022」を受賞した。このほか、日本ゼオン(東京都)は電池などの多分野で応用が期待される単層カーボンナノチューブ、京セラ系のドイツ現地法人キュロス・ハイドロジェン・ソリューション(テューリンゲン州)は水素製造用の水電解装置、ヤスカワ・ヨーロッパ(ヘッセン州)は各種制御機器について展示するなど、各社が来場者にアピールした。

ドイツは日本企業との協業や日本企業誘致に強い関心

今回のメッセを通じ、ドイツは日本企業との協業・連携や日本企業の誘致に強い関心を示していることが見て取れた。

例えば、ニーダーザクセン州政府のブースでは、ロボットアーム、ドローン、3Dプリンタ関連の繊維材料リサイクルなど、同州所在の多数のスタートアップ企業が熱心に自社の技術を紹介しており、同州経済・雇用・交通・デジタル省のラルフ・ポスピッヒ貿易・投資促進・市場・展示会部長は、日本企業とのマッチングに期待する旨を述べた。また、テューリンゲン州やザクセン・アンハルト州の経済振興公社は、日系企業の進出事例を挙げつつ、日本企業の更なる進出を歓迎しており、誘致活動に力を入れていくとの考えを示した。このように、日本企業との協業や日本企業の誘致など、日本への関心は強く、こうした熱視線に機敏に応えていくことが肝要であろう。

メッセでの日本のプレゼンス拡大と日本企業の更なるメッセ活用に期待

今回のハノーバーメッセは、新型コロナ感染拡大の影響で中国本国からの参加が縮小されたため、メッセ施設全体の半分程度を使用するにとどまったが、その中でアジアからは韓国の出展が目を引いた。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が取りまとめる大型ブースが各所に設置され、32の韓国企業・団体が出展する中、韓国本国からと見られる出張者が多数来場していた。ドイツ・メッセのバジリオ・トリアンタフィロス国際課長は「2008年のメッセでパートナー国(注)となった日本との連携には、多くのポテンシャルを感じている。来年2023年のメッセには、もっと多数の日本企業に参加してほしい」と日本への期待を示した。

ハノーバーメッセをはじめドイツ各地で実施される見本市は、各国・各地の産官学関連機関が多数参加していることから、日本の産官学にとってもそれぞれのプレゼンスを示すとともに、効率的なネットワーキングや具体的な商談活動など日本のビジネスを前進させるまたとない好機となりうる。実際、今回日本から出展した企業は工夫を凝らし、それぞれのビジネスを着実に進めていた。ジェトロとしても、新型コロナ関連の規制が緩和され、今後続々と開催される見本市を最大限活用し、日本企業の海外展開・国際協業を支援していく。

次回のハノーバーメッセは2023年4月に、インドネシアをパートナー国として開催の予定だ。次回は日本のプレゼンスを一層大きく示し、日本のビジネスを飛躍させる絶好の機会として、大いに活用することが期待される。


注:
毎年1カ国に焦点を当てて、その国の技術、製品などをハノーバーメッセの中で集中的にプロモーションする制度。2022年のパートナー国はポルトガル。インドネシアは2021年にパートナー国となり(2021年4月22日付ビジネス短信参照 )、2023年は2回目。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所長
和爾 俊樹(わに としき)
1993年、通商産業省(現経済産業省)入省。復興庁参事官、貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課長などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
中村 容子(なかむら ようこ)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て現職。