新車市場、牽引するのは日本車(ジンバブエ)
販売回復傾向に

2022年7月13日

外務省の海外進出日系企業拠点数調査によると、ジンバブエ国内に日本企業の拠点数は2社と少ない(2020年)。その中で、日系メーカーを含めて自動車の販路拡大に取り組んでいる。そこで、日本車の代理店にインタビュー。その結果を交えつつ、ジンバブエでの新車販売について動きをまとめた。

新車販売台数は上向き傾向

ジンバブエで、大手日系メーカー2社と欧州メーカー1社の代理店を務める担当者によると、「ジンバブエは、人口規模からしても国内マーケットが小さい。そのうえ、中古車が市場に多く出回っている。新車販売実績は大きくないのが現状だ。中古車は、日本をはじめ諸外国から大量に輸入されている。2019年を境に、新車販売実績は一時下がった」。しかし、こうした状況も「徐々に回復しており、積極的に様々なモデルを販売している」と付言した。

当該代理店から入手した情報によると、2021年度の新車販売台数(トラック、バスを含む)は4,941台、前年比63%増だった(2020年度は3,030台、図1参照)。2022年1月から3月までの販売台数(1,402台)はすでに前年同期(1,060台)を上回っている。しかしメディア報道によると、ジンバブエの新車年間販売は2013年に7,860台を記録していた。当時の実績には、まだ及ばない。

図1:年間新車販売台数(トラック・バスなどを含む)
2018年は4,335台、2019年は2,724台、2020年は3,030台、2021年は4,941台。

出所:代理店などへの聴取結果から、ジェトロ作成

日系企業が新車販売を牽引、サプライチェーンの回復が待たれる

さらに聴取したところ、サプライチェーンの混乱がジンバブエ市場にも影響を与えている。ジンバブエ国内では自動車が生産されていない。その結果、南アフリカ共和国(南ア)の製造拠点から輸入されることが多い。担当者は「近年の年間新車販売では、トヨタがトップを走っていた。ハイスペックの車種を展開しているのが、同社の特徴」とする。しかし、「半導体やその他の関連部品の世界的な不足が原因で、南アでのOEM生産が停滞。需要に対して新車の供給が遅れている。さらに、ダーバンでの大洪水(2022年4月21日付ビジネス短信参照)により、トヨタの生産工場が大きな被害にあった。そのため、2022年1月から3月までの販売台数では、日産が初めてトヨタを上回った。特に小型商用車が好調」とした。あわせて、すべてのメーカーに共通する問題として「供給が完全に正常化するには、まだ時間を要することが予想される」とのことだった。

同担当者によると、小型商用車セグメントの中で最も好調なのは、日産のNP200とNP300。これらはいずれも、小型商用ピックアップトラックだ。2021年全体の販売実績をみると、ピックアップトラックが70%近くを占めた。別のメーカーの代理店担当者も同様に、「商用車の販売が好調」とする。一般乗用車の販売については、数台しか輸入実績がなかったという(図2、図3参照)。新車を輸入している国としては、南ア以外に、タイやインドなどが挙がった。

図2:2021年に販売された新車のタイプ(バス・トラックなどを含む)
最も大きな割合を占めるのがシングルキャブの42%。次に、ダブルキャブ29%、大型SUV15パーセント、小型SUV、ハッチバックが4%、中型SUV1%、セダン、キングキャブ、ミニバス&バンが1%。

出所:代理店などへの聴取結果から、ジェトロ作成

図3:2021年メーカーシェア (新車に限り、バス・トラックなどを含まない)
トヨタが35%、次にいすゞ24%、日産18%、フォード6%、ハーバル&GWM4%、ヒョンデ3%、キア3%、ランドローバー、ルノー、メルセデスベンツ、スズキ1%、そのほか3%。

出所:代理店などへの聴取結果から、ジェトロ作成

中古車輸入に原則、事前ライセンス取得を義務付け

2014年にジンバブエ経済が悪化し、中古車ニーズが高まった。以降、依然として中古車が主流だ。実際、ンスーリ・ンキューベ財務経済相は2021年の国家予算に関する演説で「2015年から2020年9月までの中古車輸入額は13億ドルに上った」と報告した。そのような状況下で、政府は2020年4月に中古車輸入に関して、規制を変更(一部商用車は除く)。具体的には、製造から10年以上の自動車を輸入する場合は、輸入毎に、工業・商業省へ事前申請し輸入ライセンスの取得を要することになる。

この改正は、政府の国家開発戦略に基づく。その目的は、環境に配慮し安全基準を満たした自動車の購入を奨励するところにある。

長期的には、非商用新車販売にも期待

同国で最大の総合見本市と言えば、「ジンバブエ国際貿易展(ZITF)」(2022年5月24日付ビジネス短信参照)だ。その第62回展示会で、出展日系メーカー代理店のマネージャーらに聴取した。一様にジンバブエ国内での販路拡大に意欲的で、今後の市場の拡大に期待を寄せていた。なお、新車販売の多くは商用車で占められるという。

一方、市民にとっては、中古車が当たり前の生活だ。財務省の貿易統計によると、2021年に日本からジンバブエに輸出された乗用自動車は3,000台に上る。新車輸入のサプライチェーンに鑑みると、多くが中古車と想定される。実際、日本の社名が印字されたままの車を、町中でしばしば見かける。また、筆者が現地で借りた車にも、日本のレンタカー会社のシール(10年以上前の日付)が添付されていた。一方で、輸入ライセンスの導入によって中古車マーケットが大きく縮小するような状況にもなさそうだ。

そう考えると、当面、新車販売は依然として商用車が主流と考えられる。換言すると、一般乗用車については、現在の経済状況や市民生活を考慮に入れても短期的な市場拡大が見込めない。もっとも、長期的には成長の可能性が大いにある点、付言しておきたい。


ZITFのトヨタブース(ジェトロ撮影)

ZITFのいすゞブース(ジェトロ撮影)

ZITFの日産ブース(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。