アフリカにクリーン成長投資を(英国)
第2回「アフリカ投資会議」開催

2022年2月21日

英国国際通商省(DIT)は1月20日、第2回「アフリカ投資会議」(英国政府プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を開催した。本会議はアフリカへの投資に向けた議論の場として1年前から開催されており、第1回(2021年1月29日付ビジネス短信参照)と同様、オンラインでの開催となった。

英国政府は、2017年にクリーン成長(温室効果ガスの削減と経済成長の達成・両立)を打ち出している。同会議でも、アフリカ大陸のクリーン成長への移行を支援するため、持続可能な投資に焦点が置かれた。

ボリス・ジョンソン首相は開会あいさつで、アフリカとの結びつきを強調した。その一例として、(1)アフリカ諸国との間で英国は既に9つの自由貿易協定(FTA)に署名していることや、(2)英国大使館の支援を通じて英国企業が2021年度に25億ポンド(約3,900億円、1ポンド=約156円)をアフリカに投資したことを紹介した。首相はまた、「クリーン・グリーン・イニシアチブ」に触れた。このイニシアチブは、2021年10~11月に英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で発表したものだ。その上で、今後は気候変動対応や環境保護の分野でアフリカ各国を支援していきたいと述べた。

アン・マリー・トレビリアン国際通商相も、英国がアフリカで「選ばれる投資パートナー」になるという野心がこれまでにないほど強まっているとした。

英政府はアフリカとの関係強化に向けた支援発表

アフリカとの連携強化に向け、英国は新たなデジタルツール「Growth Gateway」(成長への入り口)のサービス開始を発表。英国政府は、これを貿易・投資・融資関連サービスと結びつけ、アフリカと英国、双方の企業を支援するとしている。このサービスは、新たな企業支援ツールとして2020年1月のアフリカ投資サミットで構築計画が発表されていた。

関係機関からも発表があった。英国輸出信用保証局(UKEF)はガーナで洪水の影響を受けた地域向けの応急組み立て橋の建設を英国企業が受注したと発表。同プロジェクトには同局の4,200万ポンドの保証が提供される。また、輸出・国際貿易研究所(IOE&IT)は、ケニアに同研究所初の外国拠点を設立すると発表した。同研究所は企業に対してアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の活用を支援していくという。

ビッキー・フォード・アフリカ担当相は「英国政府はアフリカ各国と協力し、クリーン、持続可能かつ弾力性のある開発を支援する」と発言。あわせて、ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメント(BII、2021年12月3日付ビジネス短信参照)を通じて、今後5年間でアフリカや南アジア向けに30億ポンド規模の気候資金を投じることなどに言及した。同担当相は「気候変動を乗り越え、アフリカ諸国の巨大な経済的潜在力を発揮するには、あらゆることに対して各国政府や企業が協力しなければならない」とした。

オープニング・セッションの後は、3つのパネルディスカッションが実施された。

パネル1:インフラやクリーン分野への投資促す

セッション1つ目のテーマは、「クリーン成長投資への提携」。モデレーターを務めたのは、英国の法律事務所ホーガン・ロベルズのアンドリュー・スキッパー氏だ。パネリストとして、(1)アフリカ連合(AU)でインフラ・エネルギー・情報通信技術(ICT)部門コミッショナーのアマニ・アブ=ザイド氏、(2)アルコールメーカーのディアジオ・アフリカ(Diageo Africa)でサプライチェーン分野の責任者のコリン・オブライエン氏、(3)マンダリス・エナジー(Mandulis Energy)最高経営責任者(CEO)のピーター・ニェコ氏、(4)ユニリーバ・アフリカ(Unilever Africa)で財務担当副代表を務めるミカテコ・トゥシェトゥシェ氏、が参加した。

まず、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)に関連し、アフリカの投資機会が話題に上った。とくに、求められる要素と同地域での英国ビジネスの役割について議論された。アブ=ザイド氏は「アジェンダ2063」がAfCFTAを促進するとしつつ、大陸統合に向けては、インフラやエネルギー、デジタル分野の協力が求められるとした。また、各国・地域の規制や政策を調和させ、投資を容易にすることが必要と語った。さらに、アフリカの産業化に向けた技術移転も重要になるとした。

インフラ分野については、トゥシェトゥシェ氏がAfCFTAの重要性を指摘し、アフリカに製造拠点を持つことと同時に、道路や鉄道、航空輸送といったインフラ部門への投資が同枠組みを機能させる重要な要素とした。あわせて、それが都市部と農村部との間にあるギャップの解消にもつながると述べた。オブライエン氏も、輸送インフラの整備がアフリカ地域の効率的なオペレーション構築につながるとした。

クリーン分野については、ニェコ氏が、農業廃棄物によるバイオマス発電と太陽光発電を組み合わせた安価かつ高品質な電力供給など、同社が取り組む事業を例として紹介した。オブライエン氏は、サプライチェーンの観点から、電力供給が困難な市場で再生可能エネルギー(再エネ)を活用する重要性を指摘。それによって、最終的にはサプライヤーによる地域全体に向けた輸出が容易になり、域内市場の競争的かつ持続的な輸出機会の創出につながると説いた。

セッションの総括として、欧州をはじめとする世界中の地域と協力関係を結びアフリカからの輸出を確保することが、同地域の雇用創出や持続可能な経済発展につながるという認識で一致した。インフラ分野やクリーン分野への投資は、安価で収益性が高いものであると強調され、民間企業による投資が促された。その上で、企業間や官民のパートナーシップの形成が重要になるとされた。

パネル2:クリーン成長の投資分野に言及、プロジェクト構成がカギ

2つ目のセッションでは、「成長を促進する英国の資金提供」がテーマ。GCA(適応に関するグローバルセンター)のアンソニー・ニョン氏がモデレーターを務めた。パネリストとして、(1)英国輸出信用保証局(UKEF)で副局長を務めるジュリア・ベック氏、(2)CDCグループのクリス・チューチュトミー氏、(3)投資会社アクティスのリサ・ピンズリー氏、(3)民間インフラ開発グループのマルコ・セレーナ氏、(4)スタンダードチャータード銀行のファルク・モハメド氏が登壇した。

冒頭、クリーン成長の投資分野について議論があった。需要のある分野はインフラプロジェクトが大半とし、カイロに建設されたモノレール事業やウガンダのバイクタクシー、ケニアの物流(電気タクシーなど)が例に挙がった。そのほか、ガーナの飲料水プロジェクトやコートジボワールの病院建設といったヘルスケア分野、農林業やアグリテック、eモビリティー、クリーン燃料に加え、デジタルインフラの整備も今後重要な分野になるとした。

クリーン成長分野の核であるインフラ事業の投資について、サービスに対価を払えない人がインフラを必要としているため、投資する際はPPPプロジェクトを利用して官民でリスクを分担することや、長期かつ低利な融資にする必要があるとした。また、ピンズリー氏はアフリカのエネルギープロジェクトに言及。それらプロジェクトは政府系企業や有力企業など信頼できる買い手とうまく構成されているため、開拓市場に投資する場合よりも実際のリスクがはるかに低いと述べた。

最後に、投資家とプロジェクトがうまくマッチしない事例が多いことについて、チューチュトミー氏は、過去に南アフリカ共和国で投資した再エネプロジェクトを例に挙げ、「投資家は、予測可能で再現性があり、信頼の置けるプロジェクトを好む。これが投資することの本質」と指摘した。こうしたプロジェクトを作成するために政府や経験豊富な投資家が参画する必要がある点で、パネリストの見解が一致した。

パネル3:投資に適したプロジェクト条件を議論

セッション3つ目では、「投資に適したプロジェクトの条件と投資可能なプロジェクトの募集」がテーマになった。

同セッションでモデレーターを務めたのは、カラ・キャピタル・アフリカCEOのマーク・テイラー氏。パネリストとして、アフリカ市場で活動している出資側の投資家3人と、投資を受ける側のキャピタルシーカー2人が登壇した。投資家としては、(1)デベロップメント・パートナーズ・インターナショナル(DPI)社長のジアッド・アバザ氏、(2)ナイフ・キャピタルでパートナーを務めるキート・ファン・ゼイル氏、(3)アクイティ・ベンチャー・パートナーズのマネジングパートナー、レクシー・ノビツキ氏。キャピタルシーカーは、(1)リス・クラのオルタナティブ投資サービス部長、ヘリーン・グサード氏、(2)MNT-ハランCEOのムニア・ナハラ氏だ。

初めに、投資家の視点から、アフリカで活動する企業に求められることについて議論された。「決済など、より多くの人々が対象になるビジネスであること」「複数国の市場で拡大可能なこと」「市場をリードしていること」などが、例として挙げられた。

キャピタルシーカーからの視点としては、出資を求めていく際、投資家のアフリカに対する関心を理解することが重要な点、指摘があった。具体的には、リスクとリターンを判断する姿勢にとどまらず、インパクト投資の観点から行われているか、ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みへの必要性から行われているのか、まで考慮する必要が生じる場合もあるとした。

セッション後半では、ESGに重点が置かれた。アフリカへの投資では、「インパクト」や「ESG」が重要な要素になる。その観点から、ジェンダー平等や雇用創出への注目が高まりつつあると説明された。また、エジプトを含む一部アフリカ諸国では、企業に対しESG投資の情報開示義務が課していることも紹介された。

セッションの最後に、各参加者がキャピタルシーカーに対し助言した。「短期的な利益よりも、長期的な持続可能性のあるビジネスモデルを追求すること」「重要業績評価指標(KPI)を用いて実績評価し、その結果を通して投資の具体的な成果やインパクトを把握すること」「自社情報を検証可能なかたちでまとめたデータルームを整備すること」などの重要性が、ここで言及された。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
オステンドルフ・七海・ありさ(おすてんどるふ・ななみ・ありさ)
2021年8月、ジェトロ・ロンドン事務所入所。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
梶原 大夢(かじわら ひろむ)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
小林 淳平(こばやし じゅんぺい)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。