メキシコの日本食人気、さらなる売り上げ増のポイントは?
新型コロナ禍で物流混乱の影響も

2022年8月12日

メキシコには現在、1,000店舗ほどの日本食料理店があるといわれている。そのほとんどが現地のメキシコ人の経営するフュージョン料理を提供する日本食料理店で、本格的な日本食を提供するレストランの数はそれほど多くない。ただ、メキシコ人の日本食への関心は高い。本レポートでは、メキシコで最近流行している商品やその人気の背景、メキシコで日本の製品や食品の売り上げ増加につながるポイントについて紹介していく。また、新型コロナウイルス禍が及ぼしている世界的な物流の混乱がメキシコのインポーターや小売業者などに与えている影響についても解説する。

日本食人気の背景はアニメ、販売価格が障壁に

海外で人気の日本食品というと、すしやラーメン、天ぷらなどを想像する人も多いだろう。メキシコも例外ではなく、特にラーメンは大変な人気だ。メキシコの首都メキシコ市に所在する現地のメキシコ人が経営するラーメン店も、昼時には行列ができている。これに加えて、現在、飲み物のラムネや大福などの餅も人気だ。メキシコで日本の食品などを扱う小売店などでは、さまざまな味のラムネが販売されている。また、マンゴーや抹茶などのソースが中に入った大福の菓子なども多く取りそろえられている。これらの商品は日本を訪れたことのないメキシコ人の人気も大変高いようだ。


店頭で売られている大福(ジェトロ撮影)

メキシコで日本の雑貨などを取りそろえた店舗を全土に展開している企業(以下、小売店A)の担当者に話を聞いたところ、その理由は「日本のアニメ」だという。同氏によると、メキシコ人の中には日本のアニメに出てくる日本の食べ物に興味を持ち、「この食べ物」は何だと訪れてくる人もいるそうだ。例えば、日本製マヨネーズの人気が高いのも、アニメが影響を与えているようだ。メキシコで販売されているマヨネーズは酸味が強く、油分も多いものが多い。他方、日本製のマヨネーズはクリーミーで味わいのある食材であることに加え、日本のアニメのさまざまな場面で見かける、たこ焼きやお好み焼きにマヨネーズをかけるシーンがあり、その「日本のアニメの中で出てくるマヨネーズ」に需要があるのだという。

メキシコ市には「Friki Plaza(フリーキプラザ)」という、メキシコのアニメ好きが集まるビルがあり、ここでは日本のアニメ関連雑貨や、コスプレ、マンガ、ゲーム、日本料理(フュージョン料理)などが楽しめる。Friki Plazaは、平日でも多くの若者でにぎわっている。このように、インターネットだけでなく、Friki Plazaなどで日本アニメを知ることで、日本の文化に触れ、日本食に興味を持った人がメキシコにある日本食材店などに日本の食材を探しにくるのだという。

ただ、日本食材の価格は高く、なかなか手が延びないという現状もある。特に日本製の酒類などはそうだ。メキシコで日本酒や日本製の酒を取り扱っている小売店Aの担当者によると、レストランではなく、小売店で日本製ビールや日本製ウイスキーなどを購入するのは、日本を一度でも訪問したことがあり、日本で酒を飲んだことがある人がほとんどで、メキシコで初めて日本製の酒に挑戦する人はあまりいないのだという。実際、メキシコでは輸入時に、関税に加えて 16%の付加価値税(IVA)が課税され、それに加えて、アルコール度数 14 度以下のものには生産サービス特別税(IEPS)として26.5%、アルコール度数 14 度超 20 度以下は 30%、アルコール度数 20 度超については53%の課税がされる。つまり、日本からメキシコにアルコール度数が40~43度といわれているウイスキー(HS 2208.20.99.00)を輸出すると、関税の20%に加えて、16%のIVAと53%のIEPSがかかる。実際、メキシコの高級スーパー「City Market」では日本製ウイスキーなども販売しているが、日本での小売価格が4,620 円のウイスキーが2,850 ペソ(約 1万8,383 円、1 ペソ=約6.45 円)で販売されているものもある。つまり、日本の小売価格の 4 倍以上だ。その他の日本食品についても、酒類ほど高価にはならないものの、多くは日本の小売価格の2~3倍の価格で販売されている(表参照)。国立統計地理情報院(INEGI)が2021年11月に発表した「2010年~2020年のメキシコにおける中間層の定量化(スペイン語)」と題した調査レポートによると、国民の6割超は平均月収が6万円にも満たない低所得層に属しているという。低所得層に属するメキシコ人の所得からすると、日本の食材や酒類は、高額でなかなか手が出ないというのが実態だ。

表:メキシコの小売店での日本食の販売価格例
日本食 メキシコでの販売価格 日本での販売価格例(注1)
サトウのごはん(200g・1パック) 63.34ペソ(約409円) 約190円
(20食パックで3,780円)
日清 お好み焼き粉 148.05ペソ(約955円) 約400円
ヤマサ醤油 1L 135.20ペソ(約872円) 約280~300円
タカノ おかめ納豆 63.34ペソ(約409円) 約80~100円
マルちゃん正麺 担々麺 108.25ペソ(約698円) 約250円
キットカット 14枚入り 89ペソ(約574円) 約270円
キユーピーマヨネーズ500g 138.85ペソ(約896円) 約450円
咖喱屋カレー レトルトカレー 47.37ペソ(約306円) 約170円
(10食パックで1690円)
すき家 CURRY JAPONES(注2) 40ペソ(約258円) N.A.

注1:Amazonなどのオンラインショップなどでの小売価格を参考。
注2:すき家が販売するレトルトカレー1食分。メキシコで製造してメキシコのみで販売している製品のため、日本での販売価格との比較はなし。
出所:現地での調査に基づいてジェトロ作成

高級食材の日本食、日本産明記と用途の明確化で売り上げ増

高額かつ外国の商品で中身の想像ができないものなどでも、手に取ってもらいやすくなるポイントは幾つかある。

  1. 「MADE IN JAPAN」の表記
  2. 商品説明の日英表記
  3. 英語訳が難しいもの、使用方法が分かりづらいものについては、完成形がわかる写真の掲載
  4. 販売員がレシピを客に教える

小売店Aの担当者によると、こういった対応をするかしないかでは、売れ行きが全く違うのだという。

「MADE IN JAPAN」の表記の有無については、日本製に対する信頼がメキシコでは厚いためだ。「商品説明の日英表記」については、商品名、商品の原材料の説明や調理方法の説明などを日本語と英語どちらでも表記するということだ。生産ラインで日英併記されたパッケージで印字することができるのが理想的だが、生産量が少ない場合には、既存の日本語表記のパッケージに英語表記されたシールを貼り付けるという方法でも良いだろう。

また、日本国内で流通している商品をそのまま海外の小売店で販売しているものがあり、それらの商品は用途が良くわからず、売り上げにつながりにくい。そういった場合に役に立つのが3と4の対応だ。3のように、完成形がわかる写真をパッケージに掲載するとイメージが湧きやすくなり、購入につながりやすくなる。また、4のように、販売員がその食材の用途をお客さんに伝えることができると、さらに購入されやすくなる。小売店Aの担当者によると、例えば、日本から輸入した少し高い野菜があったとしても、「この野菜は『すき焼き』に入れて食べるとおいしい」「『みそ汁』の具材として合う」など、メキシコ人が知っている日本料理の材料として紹介することができると、多少高くても購入につながりやすくなるという。

ただ、販売店の店員が商品の内容を十分に理解する必要があり、そのための教育や説明コストは必要だろう。

新型コロナ禍で客足減少のみならず、物流混乱の影響も

こうして日本食人気が高まる中、取扱企業を悩ませているのが、新型コロナウイルス感染拡大などに起因する世界的な物流の混乱だ。海上輸送費の高騰に加えて、コンテナ不足の影響を受け、もともと海上輸送で仕入れていた企業が空輸での仕入れに変更したという声も聞かれる。世界の主要コンテナ船航路運賃の加重平均であるフレイトス・バルチック国際コンテナ指数(FBX)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、40フィートコンテナ1個当たりの価格は7月22日に6,319ドルを記録している。新型コロナ感染が拡大する以前の2019年末(2019年12月27日時点)のFBX(1,446ドル)と比較すると、約4.4倍となっている。こういった輸送費の増加が販売価格にも影響している。

また、メキシコで販売されている日本食材の多くは、米国を介してメキシコに輸入されているが、小売店Aの担当者によると、米国から輸入していた日本食材が米国での新型コロナ禍からの回復により、急激に米国国内で消費されてしまい、メキシコに輸出する分が余っていないという事態が発生しているようだ。米国から輸入できなくなった商品に関して、日本から直接輸入することで対応している企業もあるようだが、仕入れ先を新たに探すのも難しい。さらに、商流の中で中国を通していた物については、香港から出港する商流に変更するなど、3月27日から6月1日まで続いた上海のロックダウンの影響を受けた企業もあるようだ。

また、日本人がシェフをしている日本食料理店Aに話を聞くと、利用者が主に日本人駐在員という店舗もあり、新型コロナ感染が拡大する中で日本に緊急帰国する日本人もいたこともあって来客数自体が大幅に減少したという影響も出ていたそうだ。特に来客数が減少していた時期は、車を持っている社員で分担しながら配達業務も行っていたそうだが、現在は一時期と比べると来客数が元に戻ってきたため、配達業務は行っていないという。ただ、まだ完全回復というわけではないという。

新型コロナ禍の影響受け、インフレ進む

本レポートを通して、メキシコでの日本食人気や、売り上げの増加につなげる方法に加え、世界全体で引き続き大きく影響を受けている新型コロナ感染拡大の影響などについて紹介してきた。メキシコに拠点を置き、ビジネスをすることを考えると、治安問題などが頭をよぎる人も少なくないだろう。ただ、現時点で既にメキシコ人には日本食がある程度浸透しており、販売方法の工夫によってはさらなる販路の拡大にもつながる可能性があるというメリットがあることも理解されたのではないだろうか。

一方で、世界的にインフレが進んでいるように、メキシコもたがわずに、2022年6月のインフレ率は7.99%〔国立統計地理情報院(INEGI)、2022年7月7日時点〕とインフレが進んでいる(図参照)。メキシコでは高級料理である日本食がインフレの影響などでさらに価格が高騰すると、メキシコ人の手にいっそう取ってもらいにくくなるという問題がある。物流の混乱なども続いており、一刻も早い回復が必要なことは変わりない。先行きを見通しづらい世の中ではあるが、引き続き注視していきたい。

図:過去10年のインフレ率の推移(2012年1月~2022年6月)
2022年6月時点のインフレ率は7.99%でインフレが進んでいる。

出所:INEGIデータからジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
髙氏 朋佳(たかうじ ともか)
2020年、ジェトロ入構。2020年4月から現職。