民主党、共和党の攻防が続く2022年州知事選注目11州(米国)

2022年10月21日

11月8日の米国中間選挙と同時に、36州で州知事選挙が行われる。中間選挙を目前に、物価高騰などで低迷するジョー・バイデン大統領の支持率は、「インフレ削減法」や学生ローン債務免除などの経済対策でやや持ち直してきた(2022年9月1日付ビジネス短信参照)。ガソリン価格の高騰で経済が最重要項目といわれているが、2022年6月には、最高裁判所が女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄したことが、移民問題などと並んで中間選挙の重要争点の1つとなっている。

36州の予備選挙が終了し、民主党、共和党の各候補者が確定したところで、注目の11州の状況を選挙予想(注1)と併せて概観する。

共和党現職優勢のフロリダ、テキサス

フロリダ、テキサス州において、共和党現職は独自の移民政策を推し進め、州内の支持基盤を固めている。

フロリダ州

共和党の現職ロン・デサンティス氏は、2024年大統領選挙の立候補もうわさされる人物である。USAトゥデイとサフォーク大学が2022年9月に実施した世論調査では、本選を想定した設問で、デサンティス氏の48%に対し、民主党候補のチャーリー・クリスト氏(元・同州知事、現・連邦下院議員)は41%と、デサンティス氏が7ポイントリードしている(2022年9月22日付ビジネス短信参照)。

デサンティス氏は、移民をマサチューセッツ州に移送するなど、州内の共和党支持者に焦点を合わせた選挙キャンペーンを展開しているといわれる。一方のクリスト氏は、以前に共和党員として同州知事を務めた経験があり、その後、民主党員に転向している。クリスト氏は8月31日、州知事選挙に専念するため連邦下院議員を辞職すると発表した。

テキサス州

10月のマリスト世論研究所の世論調査(注2)では、本選を想定した問いで、必ず投票するという有権者を対象にした場合、共和党の現職グレッグ・アボット氏が52%の支持を得たのに対して、民主党ベト・オルーク氏(元・連邦下院議員)は44%と、アボット氏が8ポイントリードしている。

アボット知事は、メキシコとの国境で増加した移民の問題を強調するため、9月に1万人以上の移民をテキサス州から首都ワシントンやニューヨークなどにバスで送った。この措置について、9月のキニピアク大学(注3)の世論調査では51%が支持するも、47%は不支持と答え、意見が分かれている。

共和党現職やや優勢のジョージア

共和党の現職ブライアン・ケンプ氏は、予備選でドナルド・トランプ前大統領が支持する候補者を破り、共和党候補となった。2018年の州知事選で戦った民主党候補のステイシー・エイブラムス氏(元・州下院議員)と再び対戦する。

エマーソン大学が10月に実施した世論調査(注4)では、ケンプ氏とエイブラムス氏が51%対46%とケンプ氏がリードしたが、10月12日にキニピアク大学が発表した世論調査(注5)では、ケンプ氏とエイブラムス氏が50%対49%と拮抗(きっこう)しており、目が離せない展開となっている。両者は2018年の州知事選で大接戦を演じていたが、エイブラムス氏にとっては当時よりも形勢不利とみられている。エイブラムス氏の選挙キャンペーンは州外からの寄付金に支えられており、共和党側は、地元有権者とのつながりを疑問視すると指摘している。

民主党優勢のミシガン、ペンシルベニア

ミシガン、ペンシルベニアの各州の世論調査では、民主党候補が10ポイント以上のリードを保っている。

ミシガン州

米国メディアのフリープレスが9月に実施した世論調査(注6)では、本選を想定した設問で、民主党の現職グレッチェン・ホイットマー氏が55%で、トランプ氏が支持する共和党チューダー・ディクソン氏(保守系メディアパーソナリティー)の39%より、16ポイントリードした。8月の同社調査の11ポイント差からリードを広げた。

ペンシルベニア州

フォックス・ニュースが9月に実施した世論調査(注7)で、本選での投票について聞いたところ、民主党候補のジョシュ・シャピロ氏(州司法長官)が51%と、共和党候補のダグ・マストリアーノ氏(州上院議会議員)の40%を11ポイントリードした。他方、候補者の見解が極端過ぎるとする割合は、マストリアーノ氏の49%に対し、シャピロ氏は35%にとどまった。

民主党やや優勢のニューメキシコ

ニューメキシコ州では、民主党現職候補は大きなリードを奪えていないため、挑戦者の入り込む余地があるとみられる。

ニューメキシコ州

エマーソン大学の9月の世論調査(注8)によれば、本選を想定した設問で、民主党の現職ミシェル・ルーハン・グリシャム氏が48%と、共和党候補のマーク・ロンケッティ氏(気象予報士)の43%を5ポイントリードした。エマーソン大学世論調査担当のスペンサー・キンボール事務局長は「知事選の投票先をまだ決めてない人のうち30%は、ロンケッティ氏に対して意見がないか、同氏を知らない」と述べ、投票日までに同氏の知名度を上げることで、投票に影響を与えられる、との見解を示している。

民主党現職で接戦予想の4州

ネバダ、カンザス、ウィスコンシン、オレゴンの各州は、厳しい接戦とみられる。

ネバダ州

民主党の現職スティーブ・シソラック氏がわずかに優勢という予想だったが、9月に予想が接戦に変更され、厳しい戦いとなっている。エマーソン大学の9月の世論調査では、シソラック氏とトランプ氏が支持する共和党候補のジョー・ロンバルド氏(クラーク郡保安官)がともに40%の同率であった(2022年9月15日付ビジネス短信参照)。

ロンバルド氏は、2011年11月のバージニア州知事選挙で、共和党のグレン・ヤンキン氏が勝利したことに倣って(2021年11月4日付ビジネス短信参照)、教育に焦点を当てる作戦とみられている。

カンザス州

同州で2022年8月2日に行われた中絶法改正に関する住民投票で、中絶禁止に反対する票が59%という結果であったが、民主党候補の現職ローラ・ケリー氏はあえて、中絶問題を取り上げない戦略である。同州の登録有権者は民主党支持者約50万人に対し、共和党支持者は約86万人と多く、ケリー氏が再選されるためには、民主党支持者、無党派層および穏健な共和党支持者の票を獲得する必要があり、中道的であることが求められるという。

エマーソン大学の9月の世論調査(注9)によれば、本選を想定した設問で、ケリー氏が45%、トランプ氏が支持する共和党候補のデレク・シュミット氏(州司法長官)が43%と2ポイント差である。

ウィスコンシン州

民主党の現職トニー・エバース氏は、トランプ氏が支持するティム・ミシェルズ氏(実業家)と対戦する。フォックス・ニュースが9月に実施した世論調査(注 10)では、もし今日州知事選挙が行われたら誰に投票するかという問いに対して、エバース氏、ミシェルズ氏ともに47%と拮抗している。

エバース陣営は、ミシェルズ氏の会社におけるセクシャルハラスメントや人種差別の申し立てがあったことから、同氏の指導者としての適格性に疑問を投げかけた。一方のミシェルズ氏は、同州の仮釈放政策についてエバース知事を非難するなど、揺さぶりをかけている。

オレゴン州

民主党現職ケート・ブラウン氏は任期制限により、出馬できない。民主党候補ティナ・コテク氏(元州下院議員)、共和党候補クリスティナ・ドラザン氏(元州下院議員)の上位2名と第3の候補で無所属のベッツィ・ジョンソン氏(元州下院議員)で支持が割れている。

当初、コテク氏が先行していたが、9月下旬からドラザン氏の追い上げが目覚ましく、9~10月に実施したエマーソン大学の世論調査(注11)では、本選を想定した問いにおいて、ドラザン氏が36%、コテク氏が34%でドラザン氏が2ポイント上回り、ジョンソン氏が19%の支持を得た。共和党候補のドラザン氏がリードしたことから、 同州では、40年振りに共和党知事が誕生する可能性も出てきた。

共和党現職で接戦予想のアリゾナ

民主党候補のケイティ・ホッブス氏(州務長官)とトランプ氏が支持する共和党候補のケイリ・レーク氏(元テレビ・キャスター)は、9月7日にアリゾナ商工会議所が主催する州知事候補者フォーラムで、討論形式でなく、おのおのへのインタビュー方式で意見を述べた。共和党側が、2020年の大統領選挙で票が盗まれたという主張を続けるため、ホッブス氏はレーク氏と直接議論を行うテレビ討論会への出演を拒否した。

CNNの9~10月の世論調査(注12)では、本選を想定した問いに対して、ホッブス氏が49%、レーク氏が46%となり、接戦の状況である。

現職の党が当選確実あるいは優勢と予想される州は、カリフォルニア、アラスカなどである(表参照)。

表:2022年州知事選挙予想の状況
所属政党 州名 現職知事 再出馬 現職
政党
当選
確実
現職
政党
優勢
その他
民主党 カリフォルニア ギャビン・ニュ―サム
コロラド ジェアド・ポリス
コネチカット ネッド・ラモント
ハワイ デビッド・イゲ ×
イリノイ J.B. プリッツカー
カンザス ローラ・ケリー 接戦
メーン ジャネット・ミルズ 現職政党やや優勢
ミシガン グレッチェン・ホイットマー
ミネソタ ティム・ワルツ
ネバダ スティーブ・シソラック 接戦
ニューメキシコ ミシェル・ルーハン・グリシャム 現職政党やや優勢
ニューヨーク キャシー・ホークル
オレゴン ケート・ブラウン × 接戦
ペンシルベニア トム・ウォルフ ×
ロードアイランド ダニエル・マッキー
ウィスコンシン トニー・エバース 接戦
共和党 アラスカ マイク・ダンリービ
アラバマ ケイ・アイビー
アーカンソー エイサ・ハッチンソン ×
アリゾナ ダグ・デューシー × 接戦
アイダホ ブラッド・リトル
アイオワ キム・レイノルズ
フロリダ ロン・デサンティス
ジョージア ブライアン・ケンプ 現職政党やや優勢
マサチューセッツ チャーリー・ベーカー × 民主党当選確実
メリーランド ラリー・ホーガン × 民主党当選確実
ネブラスカ ピート・リケッツ ×
ニューハンプシャー クリス・スヌヌ
オハイオ マイク・デワイン
オクラホマ ケビン・スティット
サウスカロライナ ヘンリー・マクマスター
サウスダコタ クリスティ・ノーム
テネシー ビル・リー
テキサス グレッグ・アボット
バーモント フィル・スコット
ワイオミング マーク・ゴードン

注:「×」は任期切れの後、規定に基づき再出馬ができないあるいは本人に出馬の意思がないことを意味する。
出所:270toWin(2022年10月19日現在)


注1:
選挙予想は、選挙情報サイト270トゥウィンが発表するサバトズ・クリスタル・ボール、クック・ポリティカル・レポート、インサイド・エレクション、スプリット・チケット、ファイブ・サーティエイト各社の総合判定に基づく(10月19日現在)。
注2:
実施時期は、10月3~6日。対象者はテキサス州の登録有権者1,226人。
注3:
実施時期は、9月22~26日。対象者はテキサス州の投票予定者1,327人。
注4:
実施時期は、10月6~7日。対象者はジョージア州の投票する可能性の高い有権者1,000人。
注5:
実施時期は、10月7~10日。対象者はジョージア州の投票予定者1,157人。
注6:
実施時期は、9月15~19日。対象者はミシガン州の投票予定者600人。
注7:
実施時期は、9月22~26日。対象者はペンシルベニア州の登録有権者1,008人。
注8:
実施時期は、9月8~11日。対象者はニューメキシコ州の投票予定者1,000人。
注9:
実施時期は、9月15~18日。対象者はカンザス州の投票予定者1,000人。
注10:
実施時期は、9月22~26日。対象者はウィスコンシン州の登録有権者1,012人。
注11:
実施時期は、9月30日~10月1日。対象者はオレゴン州の投票する可能性の高い有権者796人。
注12:
実施時期は、9月26日~10月2日。対象者はアリゾナ州の登録有権者900人。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。