社会課題解決型ビジネスの可能性
アーメダバード市の交通渋滞緩和実証プロジェクトに学ぶ(前編)

2022年5月9日

経済発展の著しいインドでは、特にデリーやムンバイなどの大都市圏で、人口や所得が増加し、自動車市場が拡大している。また、経済活動の伸長に伴う物流の増大により交通量が急増し、交通インフラの整備が追いついていない。そのため、都市における交通渋滞の常態化や、それに伴う排ガスの影響による環境悪化、交通事故の増加などが社会問題となっている。比較的、都市インフラが整っているアーメダバード市内も例外ではない。

道路情報、道路安全に関する領域で事業展開する名古屋電機工業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、2016年に科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が手掛ける、新興国を対象とした「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(SATREPS)」に採択された。約1年間の調整期間を経て、インド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)、日本大学、アーメダバード市などと連携したモデル実証事業を、 2017年から5年間にわたり展開してきた。アーメダバード市で実施されてきた同実証事業は、(1)交通解析によるマルチモーダルシフト(注)の確立と低炭素社会の実現、(2)インドでのモーダルシフト加速と持続可能な取り組みの構築、を大きな目標に掲げている。

同実証事業における取り組みは、2つある。1つは、アーメダバード市内の要所に設置した最新の画像センシング技術を活用して情報収集を行い、ビッグデータの解析によってリアルタイムの交通状況を把握し、スマートフォンアプリによる効果的な情報提供を通じて公共交通を含む交通手段のマルチモーダル化を促進するシステムの構築。もう1つは、市内要所に設置した「電子交通情報表示板(Variable Message Sign)」を通じ、運転マナーの啓発や他の交通機関の利用を促進する広告などの交通情報を提供することにより、運転手の行動変容や、自家用車から公共交通機関への転換を促すことで渋滞緩和につなげる、という取り組みである。


マルチモーダル スマートフォンアプリの例(名古屋電機工業提供)

マルチモーダルアプリケーション 解析例(名古屋電機工業提供)

具体的には、アーメダバード市内で運行されているバス専用路線(BRT)の運行状況と、バス停からの「ラスト・ワンマイル」として重要な役割を果たすリキシャ、タクシーへの接続を想定し、全体の所要時間や料金をリアルタイムで検索可能な携帯アプリを独自に開発した。そして、住民に実際に活用してもらい、公共交通機関の利用を促進するという試みを行った。また、この実証事業の目標には「モーダルシフトによる低炭素社会の実現」が掲げられているため、アプリでは、使用する交通機関に応じた二酸化炭素(CO2)排出量に基づく「エコ指数」アイコンが表示される特徴がある。

このような携帯アプリの利便性が高まれば、今後、中期的に開通が予定されているメトロの新区間や高速鉄道といった、新たな都市交通手段も含めた多様な交通機関の組み合わせを瞬時に検索できるようになる。BRTといった既存の交通機関は、「利用者に積極的に使ってもらうこと」が非常に重要であるため、同アプリのようなシステムの普及によって公共交通機関の活用につながる大きな行動変容が起こるのではないか、と期待されている。


電子交通情報表示板(車間距離注意表示例、名古屋電機工業提供)

以上のような取り組みを通じ、名古屋電機工業は、インド全土に共通する交通量把握の手法を確立し、都市交通問題の緩和対策を講じることで、将来的には低炭素スマートモビリティを実現する。また、5年間に及ぶ実証事業から得られたデータ分析結果、システムやモデルとなる仕組み、インドでの連携諸機関との事業運営を通じた経験を生かし、今後、インドをはじめ新興国でのビジネス領域の拡大に取り組んでいく。


注:
複数の交通手段の連携と活用。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。

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