ポーランドIT人材に見いだす商機
マイナビワルシャワ駐在員事務所長に聞く

2022年1月5日

ポーランドは、2019年に発表されたハーバード・ビジネス・レビューの「テクノロジー・データサイエンス・ビジネススキル」の国別ランキングにおいて、テクノロジー部門で5位、データサイエンス部門で10位にランクインした。ポーランド企業開発庁(PARP)の2019年の資料によれば、ポーランドの主要な都市にはIT教育を提供する大学が複数あり、毎年約2万人の大学入学者がITに関連する分野を専攻する。

2020年5月には、米国マイクロソフトが、ポーランドでイノベーションとデジタルトランスフォーメーションを加速するための10億ドルの包括的な投資計画を発表。米国グーグルも2021年4月に、中・東欧地域で初の「グーグル・クラウド・リージョン」をワルシャワに設置し、同年10月には欧州最大のクラウド技術開発センターを開設している(2021年11月1日付ビジネス短信参照)。

世界的なIT企業による投資が相次いでいるポーランドに、初めての欧州進出先として2020年2月から事務所を構えている大手人材・広告企業のマイナビ。なぜ同社初の欧州進出先としてポーランドを選んだのか、そして、ポ―ランドのIT人材に見いだす商機について、マイナビワルシャワ駐在員事務所長の島森浩一郎氏に聞いた(2021年11月26日)。

IT人材のコストパフォーマンスと地理的な利便性が拠点設立の決め手に

質問:
なぜ欧州初の進出先としてポーランドを選んだのか。
答え:
実は最初は進出先候補として、ITに優れた人材がいるということで北欧という話があった。2019年6月に現地調査や人脈構築のため1カ月間の出張に出ることになったが、その際に周辺のバルト3国や中・東欧諸国も一緒に視察したいと経営陣の了解を得て、ポーランドも訪れたことが始まり。さまざまな角度から検討したが、ポーランドの(1)IT人材のポテンシャルの高さ、(2)コストパフォーマンスの高さ、(3)地理的な利便性などが、拠点設立の決め手となった。
(1)のIT人材のポテンシャルの高さについては、ポーランドの人口は約3,800万人で中東欧諸国の中では最大で、若年世代の層が厚い。さらに、社会主義時代に力を入れた理数系教育の伝統が今もしっかりと根付いており、数学的センスに優れた優秀なIT人材が育ちやすい土壌がある。
(2)のコストパフォーマンスの高さについては、もちろん北欧には優秀なIT人材が多くいるが、給与水準は極めて高い。一方で、ポーランドは日本や北欧・西欧諸国に比べると、賃金を幾分抑えても優秀なIT人材を確保することが可能だ。例えば、ポーランドでは若くて優秀なデータアナリスト系人材も豊富で、あくまで私の感覚値だが、新卒(学部卒)であれば年収500万円台から採用できることもある。これは西欧や北欧で同レベルの人材を採用する際の給与水準の50~70%であり、コストパフォーマンスの点で高い優位性を持つ。
(3)の地理的な利便性については、ポーランドは中・東欧の中心に位置し、周辺国へのアクセスが大変良い。北はフィンランドなど北欧諸国・バルト3国から、南はブルガリアなどバルカン諸国までカバーでき、ワルシャワからは各都市に直行便が出ている。ポーランドだけでなく欧州全域への将来的なビジネス拡大を視野に入れた際に、最初の拠点として最適と判断した。

将来的にはアジアと欧州をIT人材でつなげることを視野に

質問:
IT人材ビジネスを欧州で展開する背景は。
答え:
日本ではIT人材の不足が深刻だ。特にデータ解析やサイバーセキュリティーの分野は企業ニーズが非常に高く、人材の奪い合いが給与の高騰につながっている。多くの日本企業ではIT人材の不足を補うため、フィリピンやベトナムをはじめとする東南アジア諸国で、日本語能力検定の資格を持ち日本語での意思疎通ができる人材を活用するケースが増えている。しかし今後、人工知能(AI)による翻訳技術の向上などで英語へのハードルが下がり、同時にリモートワークが普及し勤務地に縛られる条件がなくなっていけば、日本語能力に関係なくハイレベルの人材を世界中から採用し、遠隔で活用する流れが到来するとみている。その時を見越して、欧州のITやAI企業や高度人材とのコネクションを今のうちに増やしていくことが重要だ。ちなみにポーランドの若い世代は、英語でのコミュニケーションがほぼ完璧で、加えてドイツ語やロシア語、フランス語なども話せる人が多い。
質問:
2021年11月12日にIT人材サービスに特化したチャレンジロケット[CHALLENGEROCKET(英語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]への出資をプレスリリースで公表していた(同社プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。初の欧州企業への出資ということだが、この出資の狙いは。
答え:
チャレンジロケットとは、2020年夏以降、ロックダウンの最中もビジネスモデルに関する意見交換を継続的に重ね、2021年秋に出資契約締結に至った。同社に出資した一番の目的は、ポーランドや中・東欧のITやAI系人材市場へのアクセスだ。同社はIT人材に特化した採用サービスを開発・提供するが、その理念は非常に独自性があり優れている。
通常は履歴書提出が最初のステップであるところを、同採用サービスでは応募者は「オンラインスキルチャレンジ」という、各募集案件に応じたプログラミングなどのオンラインテストに挑戦する。結果は即座に判明し、応募者も募集企業も時間や手間を大幅に省ける。理系人材の中には自身の能力を文章で表現しアピールすることを苦手とする人も多い。しかし、オンラインスキルチャレンジではAIが正確かつ客観的にスキルを評価してくれる。ゲーム感覚で応募できる仕組みは、若いテック系人材に非常に好評のようだ。
また同採用サービスでは、人種やジェンダーなどによる固定概念を排除して公平な選考を実施できる点は、特に北米系の大手企業から高く評価されている。企業にとっては、初期選考の労力を削減しながら、それまでリーチできなかった層へのアクセスが可能となる点は魅力的だ。7月には、東大発のスタートアップが同社のサービスを利用して、ポーランドからリモート開発を担うIT人材の採用に成功した。欧州の高度IT人材の登用を検討する日本企業に対し、同社のサービスを活用した幅広い選択肢を提供できる可能性を感じている。

ブロツワフ市内の公証役場で行われた契約締結の様子。
チャレンジロケットのメンバーや既存株主、弁護士らと一緒に。(マイナビ提供)
質問:
今後の展開について。
答え:
まずは、チャレンジロケットのスキルチャレンジの仕組みを活用した「ハッカソン・イベント」(注)をオンラインで実施し、参画いただく日本企業が、好成績を収めたポーランドの優秀な人材とマッチングできるような場をつくりたいと考えている。 また将来的には、ヨーロッパの高度人材を日本企業につなげるだけでなく、アジアとヨーロッパの人材と企業を双方向で結ぶことも視野に入れたい。例えば米国に留学した東南アジア出身の理系学生が、卒業後はビザの問題で自国に戻らざるを得ないケースも少なくないと聞く。こういった優秀な人材に欧州企業や日本企業というキャリアプランも提示できるよう、さまざまなサービスの可能性を探っていきたい。

注:
ハッカソンとは、ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語。ソフトウエア開発者などが、 短期間に集中的な開発作業を行うイベントを指す。
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所
今西 遼香(いまにし はるか)
2018年、ジェトロ入構。イノベーション・知的財産部知的財産課を経て、2021年9月から現職。