高級腕時計展示会をリアルで初開催(スイス)
SIHHの後継「ウォッチズ&ワンダーズ」

2022年6月9日

高級腕時計展示会「ウォッチズ&ワンダーズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が3月30日~4月5日、スイス・ジュネーブのパレクスポ展示場において開催された。スイスでの主要な時計展示会としては、かつて、2つの代表的な時計展示会が開催されていた。「バーゼル・ワールド(注1)」と 「SIHH(注2)」だ。ウォッチズ&ワンダーズは、そのうち、「SIHH」 の後継として位置づけられる。主催は、高級時計財団(FHH)。

SIHHは2020年にウォッチズ&ワンダーズに名称変更するとともに、体制も一新した。ウォッチズ&ワンダーズは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により2年連続でオンライン開催とされていた。リアル開催は、今回が初めてとなる(2021年6月4日付ビジネス短信参照)。主催者の発表によると、会期全体で約2万2,000人が来場した。

各ブランドが新作モデルを発表

従来の出展者は、リシュモングループ傘下のブランドが中心だった。今回は合計38のブランドが一堂に会した。例えば、LVMHグループ傘下のブランド、さらにはスイスを代表する時計ブランドとしてパテック、ショパール、ロレックスなどが参加した。趣向を凝らしたブースで、各ブランドが新作モデルをPRした。例えばエルメスは「Time travels the world」と題し、旅と時間をコンセプトにした新作を発表した。また、ヴァン クリーフ&アーペルは、プラネタリウムをモチーフに、装飾性の高いからくり時計を披露した。

今回の展示会で特徴的だったのは、従来の伝統的な時計のほか、「持続可能性」を意識してつくられた時計も紹介されたことだ。会場内には、リサイクル素材によってつくられた時計を紹介するスペースが特設された。その中で、パネライは、ペットボトル素材から作った時計バンドを、オリスはペットボトルを溶解してデザインした文字盤を組み込んだ商品を紹介した。また、ボーム&メルシエも、文字盤に再生材を活用した時計を紹介した。この文字盤は、プロスケートボード選手が使っていたスケートボードから切り出した木材を再利用したものだ。

また、ショパールは金鉱山労働者の環境改善に取り組む。2018年4月には、7月以降の時計生産にあたり、追跡可能な供給元から仕入れ環境・社会基準を満たすことが確認できるゴールドだけを使うことを決定していた(ショパールの2018年4月の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。今回の展示会でも、倫理的に配慮された原料の使用を商品説明に明示した。

グランドセイコーが初出展

セイコーウオッチが展開する高級腕時計ブランド「グランドセイコー」は、今回、ウォッチズ&ワンダーズに初出展した。この展示会で安定した高精度を実現する複雑機構を搭載する機械式時計「Kodo(鼓動)」を発表。2022年10月から世界限定20本を発売する。ジェトロは会期中、セイコーウオッチ マーケティング統括室の平岡孝悦氏、成瀬啓子氏、武内真央氏にインタビューした。

グランドセイコー Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン(セイコーウオッチ提供)

質問:
久しぶりのリアルイベントに出展しての印象は?
答え:
コロナ禍の2年は厳しい期間だったが、一方、オンラインでできることを模索しながらやってきたため学びも多かった。しかし、腕時計は光の当たり方一つで印象が変わり、写真では決して本物を再現することができない。時計の本質はリアルで見てこそ体感できる。今回、満を持して完成した自信作をこのような場でお披露目できたことはとても良かった。お客様に実際に手に取ってもらい、質感や、独特の音色を体感してもらうことができて、大変うれしく感じている。
質問:
今回の新作のポイントは?
答え:
時計内部の「コンスタントフォース(注3)」と「トゥールビヨン(注4)」を、同軸に一体化して組み合わせる世界初の複雑機構を搭載し、高精度を追求する中でたどり着いた複雑機構が、独創的な動きと音を併せ持つ世界に類を見ない時計を生み出すことになった。開発した技術者が音楽家出身であり、音楽でいう16ビートを刻む独創的な音色もポイント。
これまでグランドセイコーは北米市場で特に好調に推移しているが、欧州・アジア市場にも積極的に売り込んでいく。
質問:
今回の展示会では「持続可能性」を意識した商品も紹介されていたが、グランドセイコーがその点で意識していることはあるか?
答え:
グランドセイコーの2大製造拠点は、全て再生可能エネルギーで稼働している。また、グランドセイコーの機械式時計を製造する工房は岩手県雫石に所在するが、地方創生および持続可能な地域社会の実現に向けた活動を協働で推進することを目的に、岩手県とセイコーウオッチ、盛岡セイコー工業の3者で統括連携協定を締結し、平庭高原の白樺林をはじめとした岩手県内の環境保全活動を実施している。

注1:
バーゼル・ワールドは、かつて世界最大の時計・宝飾品展示会。1917年から2019年まで開催。各大手ブランドが新作を発表する大規模展示会として知られていた。運営方針の転換などから、2020年以降、開催中止(2020年5月12日付ビジネス短信参照)。
注2:
SIHHは、高級時計に特化した展示会。1991年にカルティエ、ピアジェなど5社(後のリシュモングループ)などが中心となって発足した。通称「ジュネーブサロン」。
バーゼル・ワールドが入場料を支払うことで誰もが入場できたのに対し、SIHHの来場者は招待客が中心。
注3 :
動力ぜんまいの巻き上げ量(ぜんまいのトルクの大小)にかかわらず、「てんぷ」に一定したエネルギーを届ける機構(グランドセイコーのプレスリリースから引用)。「てんぷ」は、機械式時計の精度を司(つかさど)る部品で、「テンプ」「天府」「天桴」などと表記されることもある。
注4:
「てんぷ」と周辺の部品を一定速度で回転させることにより、重力によって生じる精度誤差を取り消す機構(グランドセイコープレスリリースから引用)。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
高橋 努(たかはし つとむ)
日系企業国際法務、エジンバラ大学国際公法(国際経済法)博士号取得、1997年からジュネーブを拠点にWTO(法務部、技術協力支援部法務担当)、WIPO(仲裁・調停センター)、スイス企業日本代表を経て2016年から現職。