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新型コロナでECに商機、知財対策に万全を(香港)
模倣品取り締まりに当局も積極姿勢

2021年3月18日

新型コロナ禍で、電子商取引(EC)への注目が高まっている。香港は、海外向けECを利用する日本企業の約4分の1が販売する市場だ。この比率は、中国、米国、台湾に次ぐ4位となっている(ジェトロ「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査PDFファイル(1.93MB) 」)。すなわち、香港には日本産品への旺盛な需要があり、EC販売でも注目される市場ということになる。一方、EC上での模倣品のまん延は香港でも重大な懸念として認識されている。関係当局はその取り締まりに積極的な姿勢を示す。

本稿では、香港のECの現状や関係当局の対応状況、ECサイトの模倣品対策について概観する。

ステイホームで、消費者のEC需要に盛り上がり

小売り店舗密度が高い香港では、これまでECの利用率が比較的低いとされてきた。香港立法会が発表した「香港EC調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(231.45KB) 」では、2018年の香港の小売売上高全体に占めるEC小売売上高の割合は5.7%。世界平均の13.7%を大きく下回っていた。しかし、2020年8月の調査によると、香港のECウェブサイトやアプリについて「利用率が上がった」と回答した消費者は全体の43%を占めた。ECを目的としたSNSについては、同じく43%。海外ECウェブサイト・アプリについても28%がそう回答している(図参照)。ステイホームにより、香港のEC需要の潜在力があらわになってきたことがうかがえる。

図:ウィズコロナ時代における香港消費者ECチャネル利用状況の変化
(2020年8月)
香港のウェブサイト・アプリについて、「利用したことがない」という回答者は2%、「利用しなくなった」という回答者は1%、「利用率が下がった」という回答者は3%、「利用率に変化がなかった」という回答者は45%、「利用率が上がった」という回答者は43%、「初めて利用した」という回答者は6%。海外のウェブサイト・アプリについて、「利用したことがない」という回答者は2%、「利用しなくなった」という回答者は1%、「利用率が下がった」という回答者は13%、「利用率に変化がなかった」という回答者は52%、「利用率が上がった」という回答者は28%、「初めて利用した」という回答者は4%。SNSについて、「利用したことがない」という回答者は9%、「利用しなくなった」という回答者は1%、「利用率が下がった」という回答者は4%、「利用率に変化がなかった」という回答者は39%、「利用率が上がった」という回答者は43%、「初めて利用した」という回答者は4%。

出所:VISA CONSUMER PAYMENT ATTITUDES STUDY 2.0PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(8.51MB)を基にジェトロ作成

多種・多様なECサイトが市場を割拠

香港のECサイトは、一部のプラットフォームに独占される状況にはない。換言すればバラエティーに富んでいることになる。それらは、大きく以下の4つに分類することができる.(1)テナント店舗が入るECプラットフォーム(B2B2C)、(2)小売業直営ECサイト(B2C)、(3)個人の取引を扱うプラットフォーム(C2C)、(4)SNSサイト経由の個人・店舗販売(C(B)2C)。

B2B2Cとは、テナント店舗が第三者の提供するECプラットフォームを通じて、消費者に商品を販売する形式だ。アマゾンのAlexaランキング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2021年3月3日取得)による香港のアクセス数ランキングでは、トップ50位中にB2B2Cに属するECサイトが多い。すなわち、香港のECはB2B2Cが中心であるといえる。香港発のECサイトとしてはHKTV Mall(39位)がランクイン、また、中国のタオバオ(16位)、Tmall(29位)、および多国籍のAmazon(5位)など越境ECも積極的に利用されている。

B2Cは、小売業の企業が直営するECサイトだ。スーパーマーケット(PARKnSHOP、Wellcomeなど)、家電(FORTRESS、BROADWAY、YOHOなど)、衣料(ユニクロなど)、家具(IKEAなど)といった多くの企業が、ECサイトを運営している。実体店舗の補完で運営する企業も多い。日系では、イオンやOisix、香港を初めての海外EC展開拠点としたJA全農(2019年6月28日付ビジネス短信参照)など食品系が多く展開されている。

C2Cは、個人消費者間の取引を扱うECプラットフォーム。香港で多く利用されているC2C系ECサイトとしてはは、シンガポール発のCarousell(37位)が挙げられる。

最後にC(B)2Cについて。香港では、FacebookやInstagramなどのSNSを通じて、個人や店舗による代理購入(注1)を含む取引が頻繁に行われる。SNSの店舗機能(例えば、Facebookの「マーケットプレイス」機能)の活用だけではなく、個人や店舗が専用ページやアカウントを作り、コメントやダイレクトメッセージ経由で注文を受けることもある。また、近年注目されるライブコマースが行われるケースも見られる。

EC上の模倣品取り締まりの実際とは

2020年に欧州委員会が発表した「模倣行為及び海賊行為ウォッチリストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(944.83KB) 」や米国発表の「2020年度模倣行為・海賊行為における悪質市場報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(513.56KB) 」では、知的財産権の侵害行為が頻発している市場が報告されている。これらの中に、香港発のECサイトには、とくに触れられていない。しかし、例えば、ECサイト上で、模倣品に「Not Real」「真假自辨(真贋(しんがん)は自己責任という意味)」などと表記された上で販売する事例などは散見される。こうしたことからも、越境ECおよびSNSなど海外のプラットフォームを利用した市場を中心に、模倣品問題が重大な課題として認識されていることが分かる。実際、2021年3月8日の香港税関の発表によれば、代理購入およびライブコマースが近年のECにおける主要な模倣品販売手法として取り上げられている。

ECサイト上を含め、模倣品の取り締まりを実行するのが香港税関だ。税関は、香港内で唯一、供給(輸入・製造・卸売り・流通)と小売り(ECを含む)段階での著作権・商標権侵害行為(注2)に対して刑事調査し告発・起訴できる政府機関だ。その所掌は水際での取り締まりだけにとどまらない。通報報奨金制度や、業界との連携、広東省・マカオ当局との越境模倣品を突き止めるための協力行動などを通じて、積極的な取り組みを進めている。例えば、ジェトロ香港事務所が税関と共催して実施する真贋判定セミナーは、「業界との連携」の一例だ。

香港税関は、ECで取り引きされる模倣品に対して以前から関心を示していた。早くも2005年には、複数の民間企業・法律事務所などと共同で設立した「保護知識産権大連盟」の名義の下、プロジェクトを開始。当該プロジェクトでは、Yahoo Hong Kongのオークションサイト(注3)やe-bayなどと協力し、侵害品を発見した権利者から通知を受けた後、香港税関およびサイト運営企業が侵害品の調査とテイクダウンに取り組んだ。

それから十数年を経た現在、EC上の模倣品対策にはより一層注力している。例えば、2017年12月には各ECプラットフォームを自動クローリング・分析収集するビッグデータシステムを導入し、実際に摘発につなげている。また、直近の2020年11月~2021年2月には、コロナを背景としたEC利用増加を踏まえてEC上の模倣品に特化した「雷網」プロジェクトを行い、代理購入およびライブコマース経由で販売される総額180万香港ドル(約2500万円、1香港ドル=約14円)の模倣品をビッグデータやおとり捜査を用いて摘発するなど、近年、香港税関は豊富な取り締まり実績を残した。

表:香港税関の知的財産権侵害品取り締まりデータ(2018-2019年)
項目 2018年度 2019年度
総摘発件数 950件
(うちウェブ関連:207件)
(うち商標権侵害:896件)
888件
(うちウェブ関連:203件)
(うち商標権侵害:846件)
総摘発金額 1.04億HKD(約14億円)
(うちウェブ関連:343万香港ドル)
(うち商標権侵害:0.98億香港ドル)
1.17億HKD(約16億円)
(うちウェブ関連:316万香港ドル)
(うち商標権侵害:1.14億香港ドル)
主な摘発品
(商標権侵害)
  • 衣服・アクセサリー47.5万個、2986万香港ドル(約4億円)
  • 靴22.8万対、1951万香港ドル(約2億円)
  • 電器・電子・パソコン27.1万個、1678万香港ドル(約2億円)
  • 皮革製品5.5万個、2129万香港ドル(約3億円)
  • 靴13.4万対、1818万香港ドル(約2億円)
  • 腕時計・部品4.1万個、977万香港ドル(約1億円)
水際摘発状況
  • 344件の宅配便利用、32件の郵送利用案件を摘発(主にEC関連)
  • 海外当局との協力で65件、1,650万香港ドル(約2億円)
  • 空港で34件、90万香港ドル(約1,200万円)
  • 陸路境界(輸入)で15件、540万香港ドル(約7,300万円)
  • 海路で32件、4760万香港ドル(約6億円)
  • 375件の宅配便利用、19件の郵送利用案件を摘発(主にEC関連)
  • 海外当局との協力で56件、710万香港ドル(約9,600万円)
  • 空港で30件、200万香港ドル(約2,000万円)
  • 陸路境界(輸入)で14件、1,160万香港ドル(約1億円)
  • 海路で16件、1730万香港ドル(約2億円)
その他
  • インターネット上の侵害調査人員を2014年から40人超に増員
  • インターネット上の侵害について、2018年12月までに累計1,532件、2,857万香港ドル(約3億円)摘発
  • 香港大学とウェブ監察システムを構築、2017年12月にビッグデータシステム導入、プラットフォームを自動クローリング・分析収集
  • ビッグデータシステムで62件(インターネット上侵害の31%)、140万香港ドル(約1,900万円)(同49%)を摘発
  • インターネット上の侵害について、2019年12月までに累計1735件、2,053人、3,137万香港ドル(約4億円)摘発

注:1香港ドル=約14円。
出所:香港税関年報(2018年度及び2019年度)を基にジェトロ作成


ビッグデータを用いて摘発後、押収された「代理購入」名義でSNSサイトに
おいて販売されたブランドバッグの模倣品(香港税関提供)

取り締まりの根拠となる法制度は、「商品説明条例外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」および「版権(著作権)条例外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(以下、「著作権条例」)だ。越境ECの場合、当該サイトが明確に香港消費者向けであれば、香港法の管轄になる。「商品説明条例」によると、偽造商標や既存商標と酷似する商標を用いた商品の販売または展示、および偽りまたは消費者を誤導する商品資料を提供することは犯罪に当たる。有罪と決まれば最高で50万香港ドルの罰金または懲役5年の刑が科される。「著作権条例」では、著作権利者の許可なしに、権利侵害におよぶ程度の模倣品を頒布、展示、販売することは違法だ。有罪と決まれば最高で侵害品ごとに5万香港ドルの罰金または懲役4年の刑が科される。

ECサイト自体も対策を講じる

ECサイト側でも、それぞれ対策を進める。まず、香港発の代表的なB2B2C系ECサイト「HKTV Mall」では、販売商品について100%正規品保証に「commit」することをサイト上で明記。ブランド権利者・公認の代理店・卸売業者・小売業者とだけ契約するとしている。また、ユーザーが模倣品を発見した場合、当該サイト上のフォーマットに記入し、権利品と侵害品の写真をアップロードすることで模倣品の報告が可能となっている。また、越境ECでは、ECプラットフォームの運営元・商品の送付元での対策も検討すべきだ。具体的には、ジェトロ作成「中国 EC プラットフォームおよび SNS での知的財産権侵害問題への対策マニュアル(2019年1月)PDFファイル(3.74MB) 」が参考になるだろう。

小売店直営のB2C系ECサイトについて、一部の運営企業は、香港知識産権局の「正版正貨承諾(正規商品承諾)」プロジェクトに加入している(参加リスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。「正版正貨承諾」とは、当局が1998年から実施しているプロジェクト。9つの業界別公認団体メンバーの小売業者だけが参加可能とされる。メンバーの参加要件は、香港税関が模倣品を発見した場合、通知を受けた日に商品を取り下げ、かつ供給元の資料を提供することだ。


参加メンバーに授与する「正版正貨承諾」ステッカー(香港知識産権局提供)

C2Cではどうか。シンガポール発のCarousellは、ブランド権利者と提携して、権利者が直接サイト上の侵害商品を削除する「Carousell権利者プログラム(CROP)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を実施。3カ月で香港版サイト上の模倣品の半数を削減したとされている。香港Carousellはさらに、2018年および2019年に香港のMilan StationおよびKen’s Watches(注4)とパートナーシップを結び、高級ブランドのバッグや腕時計の真贋鑑定サービスを提供している。

SNSでは、投稿記事が期間限定のため情報が消滅しやすい、個人間メッセージが多用される、など模倣品対策として証拠をつかむ上で困難な面がある。しかし、SNSプラットフォームでは模倣品摘発・テイクダウン・システムを構築して対策に当たっている。FacebookやInstagramでは、ユーザー向けに模倣品の定義を明確に示し、模倣品摘発に用いる専属フォーマットを準備している。最近では、複数のFacebookアカウントまたはページで模倣品が多数販売されているのを日本企業が発見し、Facebookの侵害報告ポータルを利用して侵害を行っているアカウントに対する削除リクエストを提出。その結果、関連する投稿とページがFacebookによって即座に削除されたという成功例があった(バード&バード法律事務所が代理人となった事例)。

新たな商機を迎える香港EC市場、知財面でも万全の態勢で

ウィズコロナ時代にEC市場の成長の兆しを見せる香港では、ECプラットフォーム上の模倣品問題が懸念される。これに対し、香港税関は、ゼロ・トレランス(不寛容)方針掲げて対策を進めている。また、商品の生産地や品質にこだわる香港の消費者は、特に「メイド・イン・ジャパン」の商品に対して非常に信頼を置く。また、利用ECサイトの選択には注意を払っているようだ。一方、ECでは並行輸入品(香港商標条例外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では原則合法とされる)が多くを占め、その真偽に対する判断が消費者の悩みのタネとなっている。

この機会をとらえ、商標権の取得や自社でのEC上の模倣品監視体制などブランド維持のための方策を万全なものとした上で、ECを活用して香港市場進出を積極的に進めることが大切だろう。


注1:
「代理購入」とは、SNSなどのチャネルで消費者の注文を受けた代理購入業者が海外で直接商品を購入し、消費者に発送する、または手渡すビジネス。
注2:
特許権や意匠権の侵害は香港税関の取締り対象外のため、民事訴訟によることになる。
注3:
2020年5月から、運営が中止された。
注4:
Milan Stationでは高級ファッションブランドの新品・中古を、Ken’s Watchesでは高級ブランド品の腕時計の新品・中古を、それぞれ販売する。いずれも香港発のチェーン店。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所
ユミ・ラム
2020年香港中文大学日本研究学科卒業。2020年12月から現職。

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