住友商事に聞く、経済特区開発の今(バングラデシュ)
人口1億7,000万人の巨大マーケットとモノづくりの拠点としての魅力

2021年9月17日

日系企業がアジア各国に進出する中、総合商社の住友商事はバングラデシュの経済成長に着目。工業団地開発に乗り出している。同社は2019年、「バングラデシュ経済特区」(以下、BSEZ)と呼ばれる工業団地の開発について、バングラデシュ経済特区庁(以下、BEZA)と合弁契約を締結した。インフラ開発工事開始は2021年11月を予定。2022年度中の稼働を目指している(2019年5月31日付ビジネス短信参照2021年3月12日付ビジネス短信参照)。

ジェトロは、BSEZの現在の開発状況やバングラデシュの魅力などについて、住友商事海外工業団地部の第三チーム部長付兼バングラデシュ経済特区(Bangladesh SEZ Ltd.)社長の河内太郎氏と、海外工業団地部第三チーム部長付の大井俊明氏に聞いた(8月18日)。

ダッカ中心部から車で1時間の好立地

質問:
バングラデシュ経済特区(BSEZ)の概要について。
答え:
首都ダッカの中心地から東へ直線距離20キロに立地する。現状、車移動で1時間の距離だ。国内の工業団地候補地を数十カ所調査して見つけた。工事中の道路が完工すると、ダッカ市内から通勤するも1時間を切るほどの好立地だ。現時点では、港に関してはチョットグラム港の活用がメインと考えられる。将来的にマタバリ港の開発が完了すると、その利用も見込まれる。
面積は、第1期開発エリアとして約190ヘクタール(ha、約1.9平方キロ、東京ドーム約40個分)を開発する予定だ。そのうち約80haの区画を先行開発区画として優先的に開発する。 2020年8月からバングラデシュ経済特区庁(BEZA)が円借款を活用し、洪水対策を目的に埋め立て造成工事が進む。1日2万立方メートルの量の川砂をポンプで運んでいる。例えると、8コースの25メートルプール50杯分が休みなく供給されているイメージだ。このスキームで周辺インフラも順次整備さている。
2021年11月からは、バングラデシュ経済特区社による先行開発区画のインフラ開発工事を開始。2022年の年末には工業団地の運営を開始する予定だ。それと前後して、日本とバングラデシュは、国交樹立50周年を迎えることになる。

BSEZのアクセス(住友商事提供)

BSEZの第1期開発エリア(住友商事提供)

BSEZの盛り土(住友商事提供)

BSEZの開発スケジュール(住友商事提供)

設立の決め手はバングラデシュの将来性

質問:
なぜバングラデシュで経済特区開発を決めたのか。
答え:
モノづくり拠点としての魅力と、同国のマーケットや経済のポテンシャルが開発の決定要因となった。人口1億7,000万人、労働人口は6,000万人。さらに、平均年齢が27.6歳と、大変若い国だ。労働者の給料もベトナムやフィリピンの半分以下、インドネシアと比べると約3分の1以下だ(注1)。進出している製造業からは、「従業員を募集するとすぐに膨大な数の応募があり、採用が容易」などの評価も受ける。モノづくり拠点としての魅力があると考えている。
また、1人当たりGDPは2020/2021年度に2,000ドルを超えた。この水準はミャンマーより高く、インドに迫る。1970年ごろの日本に及ぶほどだ(注2)。将来に目を向けても、2026年には後発開発途上国(LDC)を卒業すると見込まれる。また、HSBCは2030年までに経済規模で世界26位にまで成長すると予測している。
こうした観点から、将来にわたって経済成長が期待できると考え、経済特区開発を決定した。
質問:
BSEZの特徴は。
答え:
3点あると考えている。1点目は、周辺インフラ整備に関して、日本政府の円借款による支援を受けていること。2点目は、BEZAが設置したワンストップサービスセンター(以下、OSSセンター、注3)を通じた進出企業向け政府支援があること。3点目は、日系企業が開発する同国初の国際水準インフラが整備された経済特区であることだ。
これらの強みに注目した日系製造業を中心に、現在約30社から入居に関する問い合わせを受けている。バングラデシュにはほかに輸出加工区(EPZ)があるものの、入居は輸出向け製造業に限られる。BSEZには輸出向けに加え、国内市場向けの企業も入居できる。そのため、問い合わせでは、成長著しい同国の国内市場向け事業の案件が比較的多い印象を受ける。業種は自動車(二輪・四輪)や家電、機械部品、建材、食品、物流など多岐にわたっている。

行政支援に加えて法人税減税も

質問:
BSEZに進出する際の行政手続きや税務上の恩恵などは。
答え:
同区のOSSセンターが会社設立からビザの手配を含め、企業進出に関連する諸手続きを全面的に支援する。具体的手続きとしては、投資登録申請と企業登録申請を経て、営業許可証が発行される。その後、課税識別番号を取得し付加価値税(VAT)事業者登録などに進む。手続きは明文化され、諸手続きに要する期間は3カ月程度と見込まれる。
税務に関しては、BSEZへの進出企業は法人税の減免措置を受けることができる。具体的には、入居後3年間は免税、4年目は80%減税、5年目は70%減税と年次を経て低減していき、10年目には20%減税となる。加えて、工場に必要な輸入建材や設備に対する関税免除、電気などユーティリティーに掛かるVATの免除など、製造業受け入れのさまざまな恩典が与えられる。また、EPZと同様、輸出加工を前提とした企業は保税認定を受けることができる。

夜明け前のバングラデシュ、日本への好感度も高い

質問:
日系企業のバングラデシュ進出の現状と課題は。
答え:
バングラデシュに現在進出している日系企業320社のうち70社が製造業と言われている。進出事例がそこまで多くないため、現時点では日本におけるバングラデシュのビジネス拠点としての認知度は高くはない。しかし、同国には豊富で安価な労働力があり、マーケットや経済成長のポテンシャルも高い。さらに、日本に対する国民の好意的な感情は東南アジアに近い。日系企業がビジネス拠点として考える際の必要な素地は十分に備わっていると言える。そのため、今後の海外進出拠点の選択肢になり得ると考えている。
一方で、日系製造業の進出が少ないため、日本の生産方式に精通した経験値の高い現地従業員の数が少ないという課題がある。この点は今後、日系企業の進出が増えることで解消されると期待している。バングラデシュには親日の方が多く、日系企業の印象も非常に良い。日系企業への就職は、1つの憧れにもなっている。
バングラデシュ政府は、今回のBSEZを同国の経済特区のフラグシップモデルにしたい意向だ。長期的には、国内に100カ所ほどの経済特区を設立するビジョンがある。こうしたハード面の整備に加えて、今後は企業が事業を行う際に必要な法制度整備による投資環境改善などのサポートが必要となっていくだろう。

注1:
2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)によると、製造業・作業員に関して基本給・月額はベトナム250ドル、フィリピン272ドル、インドネシア360ドル、バングラデシュ115ドル。
注2:
GDPの時系列比較は容易でなく、ほかにも計上結果が考えられる。
注3:
投資登録、会社登録、営業許可、税務登録、ビザ・労働許可取得、環境クリアランス、消防安全クリアランスなど多岐にわたる手続きを1カ所で行ってくれる事務所。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
髙野 祐樹(たかの ゆうき)
2011年、明治安田生命保険相互会社入社。2021年から現職。