2020年の新車販売は23万台、前年比26.8%の大幅増(エジプト)
新型コロナで一時期減少も、下半期は急速に回復

2021年3月3日

エジプト自動車市場情報委員会(AMIC)の2021年1月の報告によると、2020年の新車販売台数は23万1,238台で、前年比26.8%の増加となった。2019年は18万2,713台で同5.8%減だったが、2020年は、新型コロナ禍にもかかわらず大幅に回復した。

新型コロナ禍の影響は確かにあった。感染症対策で外出規制や在宅勤務が行われたこともあり、4~5月は大幅に落ち込んだ(2020年8月7日付ビジネス短信参照)。しかし6月以降は急速に回復し、過去2年間の各月販売数を上回った(図1参照)。

図1:エジプトの月別自動車販売台数(台)
2018~2020年のエジプトの月別自動車販売台数。2020年は4~5月にかけて大幅に落ち込んだが、6月以降は急速に回復し、各月で過去2年間を上回った。

出所:AMIC

車種別では乗用車とミニバスの伸び顕著

車種別の内訳は、乗用車が約17万台で前年比31.7%増、バスは約2万6,000台で29.6%増、トラックは3万7,000台で6.1%増となった(図2参照)。バスでは、マイクロバスやミニバスの割合が多く、中型・大型バスは少なかった。エジプトでは地下鉄や路線バス網が十分に整備されておらず、乗用車や乗り合いのマイクロバスが市民の足として使われている。トラックでは、小型トラック(ピックアップトラック)が多く、貨物の輸送用などで利用される。

図2:2020年エジプト新車販売台数(台)
2018~2020年のエジプトの新車販売台数。2020年は乗用車が約16万台、トラックは約3万7,000台、バスは約2万6,000台で、いずれも過去2年間を上回った。

出所:AMIC

輸入完成車の販売増加、現地組み立ては横ばい

輸入乗用車の販売台数は前年比53.3%増と、大幅に増加した。バスは38.6%増で、日本などからマイクロバスの輸入が増えたことなどが要因だ。トラックの輸入は前年比15%減だったが、完成車全体では、48.7%増と大幅な増加を見せた。

一方で、現地組み立て車の販売台数は3.9%の微増にとどまった。バスが24.3%、トラック9.5%と大きく増加したが、乗用車は5.1%減となった(表参照)。現地では日産が組み立て工場を有し、その他の大手自動車メーカーも委託生産や合弁事業を行っている。しかし、欧州からの完成車輸入には関税がかからないため、現地進出自動車メーカーへのインセンティブ不足が課題となっている。また、2020年は新型コロナの影響による役所の閉鎖などで新車登録手続きなど滞ったという。

表:2020年組立・完成車別の販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
車種 2019年 2020年
組み立て車 完成車 組み立て車 前年比 完成車 前年比
乗用車 47,248 80,195 44,821 △ 5.1 122,971 53.3
バス 12,812 7,584 15,921 24.3 10,512 38.6
トラック 30,235 4,639 33,109 9.5 3,904 △ 15.8
合計 90,295 92,418 93,851 3.9 137,387 48.7

出所:AMIC

乗用車の販売台数は前年比26.8%増で、うち欧州ブランドが63.5%増となり、全体の伸びに大きく貢献した。欧州との関税協定によって2019年にEUからの輸入車が無税となり、2020年に入ると販売価格に反映されて安価になったことが背景にある。中国も96.5%と大幅に増え、日本は4.2%増、韓国は10.5%増、米国は4.8%減となった(図3参照)。

図3 :2020 年の国・地域ブランド別販売台数(台)
2019~2020年の国・地域ブランド別販売台数。2020年は欧州は約5万6,000台と、前年の約3万4,000台から大きく増加した。中国も約3万台と、前年からほぼ倍増した。日本は4.2%増の約3万9,000台だった。

注:現地組み立て車・完成車の合算
出所:AMIC

登録車数も増加傾向

2014~2015年の新車販売は、30万台超を記録したが、2016年以降は20万台を下回ってきた。2020年、5年ぶりに20万台超えとなった要因としては、新型コロナ対策の中央銀行の利下げの効果や、2020年の消費者物価上昇率が5%台まで落ち着き、近年の物価上昇で委縮していた市民の消費意欲が回復したこと(2021年1月19日付ビジネス短信参照)などが考えられる。

エジプトの人口は2020年時点で1億人のところ、2030年には1億2,000万人に達すると予測されており、中間層も徐々に増えれば、長期的な需要増が期待される。カイロなどの都市部では、地下鉄など公共交通機関の整備も進むが、市民の移動に乗用車や乗り合いバス利用がなくなることはないだろう。

また近年、政府は中国との協力による電気バスの現地製造など、電気自動車(EV)普及を進めており、EVとその部品などの関税を引き下げた。また、国内で天然ガス生産が拡大しているため、天然ガス車の普及も目指す。政府は大気汚染や二酸化炭素(CO2)排出の削減にも取り組でおり、製造から20年以上の車の買い替えに特別金融支援を提供し、買い替え需要を喚起する方針も示した。

中央動員統計局によると、エジプト交通情報管理システムに登録されている車数は2019年時点で1,126万台となっており、2009年の513万台から倍増している。2019年時点では私有乗用車が523万台、二輪車が368万台、トラック(大型、小型を含む)が156万台、タクシーが37万台、バスが15万台となっている。人口増加や所得水準の向上、政府の施策などにより、今後も登録台数の増加が見込まれる。

図4:エジプトの車登録数(台)
2009~2019年のエジプトの車登録数。2019年は乗用車は約520万台、トラックが156万台など、全体で1,126万台。2009年の約510万台から、ほぼ倍増している。特に乗用車と二輪自動車の伸びが顕著だ。

出所:エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。