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新型コロナ感染第2波を受けたグジャラート州日系製造業の声(インド)
対策・操業状況の変化や一時退避判断

2021年6月15日

新型コロナウイルスの感染拡大第2波がインド全土に大きな影響を及ぼす中、インド西部のグジャラート州政府は2020年に実施した全土ロックダウンの悪影響を踏まえ、これまでのようなロックダウンを回避し、幾つかの行動制限を課すことで、第2波と対応してきた。州内の新型コロナ新規感染者数は、5月初旬のピーク時には1日当たり1万4,000人規模に達したが、同月中旬には1万人前後、月末には2,500人ほどに推移し、6月8日時点で695人にまで減少(回復者の割合は97%)している。主要医療機関の病床や集中治療室(ICU)にも空きが出るなど、落ち着きを取り戻しつつある。

同州最大都市アーメダバードの周辺に進出する日系製造業各社は、感染第2波の中、どのような課題に直面し、どういった対応を行ってきたのか。その動向を現場の声も交えながら報告する。

感染拡大受け、生産現場を守る対策実施

アーメダバード周辺には、スズキやホンダ二輪を中核とする輸送機器関連の部品・素材のサプライヤーが集積している。その多くは日本人が数人のみ駐在して工場運営する製造業だ。ジェトロでは同地域の「マンダル日本専用工業団地」(9社)、「サナンド工業団地」(10社)とのオンライン社長会を隔週開催し、企業間で情報交換を実施している。4月後半のコロナ感染急拡大から6月初旬までの日系進出企業の動向をまとめてみた。

アーメダバード周辺の日系進出企業各社では、4月後半からオフィスや製造現場、社員寮で数人規模の感染拡大がみられた。5月に入ると数十人単位に感染者が拡大し始めた企業もあり、クラスター化を防ぐ対策が急務となった。各社とも操業停止や減産、出勤制限、在宅勤務、製造現場でのソ―シャルディスタンス確保、フリーデスク制の導入、従業員へのワクチン接種促進など、特に生産現場を守ることに主眼を置いた対応に追われた。従業員の管理に関しては、州外に出た者や州内でも公共交通機関を利用した者には、PCR検査の受診や一定期間の自宅待機を命じるなどの対応を徹底した。また、日本人が感染した場合を想定し、社員寮を新たに借り上げて隔離用の部屋の確保、複数の私立病院とあらかじめ個別契約をする動きなども見られた。中には、少数だが、日本人の感染や従業員の重症化症例が出た企業もあり、5月前半に医療用の酸素不足が深刻化した時期には、自社工場から工業用の酸素ボンベを病院に持ち込んで対応するといった緊迫の事態も生じた。

ワクチン接種に関しては、当初は州政府が保健所などを通じた職場単位の集団接種を始めた。しかし、5月以降の感染急拡大局面では、人員とワクチン不足のため州政府の対応が追い付かなくなり、多くの日系企業従業員は職場単位の集団接種ではなく、住所を管轄する医療機関に個別に出向いて接種を受けざるを得なかった。この間、PCR検査結果が出るまで時間がかかるようになる一方、深刻なワクチン供給不足により「接種対象が18歳以上に拡大されたものの受け付けがストップ」「45歳以上グループへの2回目接種の中断」「インド政府による接種間隔の変更でアプリによる予約ができなくなる」など、州政府の対応や医療現場に大きな混乱が見られた。

6月初旬現在、大半の企業からは「新規感染者はほぼいなくなり、感染して療養していた従業員も既に職場復帰している」との声が聞かれており、ある企業は州政府に働きかけ、職場でのワクチン集団接種再開を調整中だという。当地の日本人駐在員のほとんどは1回目のワクチン接種を終えており、早急に2回目のワクチン接種をすることが優先課題だ。既に45歳以上グループへの2回目接種も再開されており、アプリでの事前予約をせず、医療機関に直接出向いて接種することも可能なため、この方法をとる駐在員も散見される。

一時退避の判断材料は昨年と違った要因も

5月初旬の感染急拡大下は、同月2日に日本の外務省のスポット情報による注意喚起外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、在留邦人の一時退避が推奨されたため、各社とも緊急の「日本への一時退避」方針決定の判断に迫られた。ジェトロ・アーメダバード事務所が同州の日系進出企業19社にヒアリングした結果(5月17日時点)では、「残留」(8社:42%)、「トップ以外は退避」(6社:32%)、「全員退避」(5社:26%)という状況だった。

当地日系進出企業の多くは日本人駐在員が数人の場合がほとんどで、1人のみという企業も少なくない。退避の判断は、本社主導でリスク判断をする企業もある一方、現地の判断に任されている企業もある。本社主導の企業は比較的早い段階で退避を決定した一方、現地判断の場合、残留もしくは一部残留の判断をする傾向があるように感じられた。

一時退避要否の判断に当たっては、スズキ、ホンダ二輪、その他客先の稼働状況に合わせて判断するという立場から、(1)「トップは残留し他の人員は適宜避難する」、その際は、(2)「既存の一時帰国休暇制度を柔軟に運用する」、(3)「あらかじめ再赴任の期限を想定しておく」という企業が多く、まずは管理職以外の駐在員や日本からの長期出張者、協力企業人員を優先的に帰国させる対応がなされた。

「全土ロックダウン」となった2020年5月の感染第1波では、進出日系企業が日本に一斉避難したが、この際に「再度現地に戻す際の判断が難しく、日本での一時退避が長引いてしまった」という経験があった。このため、今回は「トップは残留」することを選ぶ判断となり、特に、駐在員が1人のみの企業はその傾向が強かったように見られた。

ただ、2021年は、(1)インド国内線や国際線のフライトが継続運行、(2)ワクチン接種の進展、(3)ワクチン接種やPCR検査の受診に民間企業のサポート(日本語対応可)享受、(4)生活必需品を扱う店舗の営業が認められているため日用品や食料の確保が可能、といった諸点が2020年と比較して異なる判断材料となっている。

6月に入って、既に第1陣として退避していた人員をインドに再赴任させ、この間残留していた人員を交代で退避させるタイミングを見計らう企業も出ている。ただ、ある企業からは「(コロナが常態化するとすれば)当地の勤務環境を勘案すると、駐在員の健康管理や日本の家族に配慮する必要があり、今後は5カ月に1回程度の割合で定期的に一時帰国させローテーションするような態勢が必要と感じている」「現場の環境に対する本社の理解が必要」という意見も聞かれた。

一時停止の操業は再開、回復傾向へ

スズキは2021年4月に年間25万台の生産能力を持つC工場をグジャラート州で稼働したものの、コロナ感染第2波急拡大に対応し、5月初旬に操業を一時停止する局面があった(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。また、同時期にホンダ二輪も操業を一時停止した。このため、この2社を主な供給先とするサプライヤーの多くもこれに対応し、「操業停止や減産を行い、社内のコロナ対策を徹底した」「ラインは停止して部材の発送作業や棚卸しをした」「4月の感染者増加でフル稼働できなかった時期に減ってしまった在庫をこの機会に積み増した」など、この期間に各社とも必要な対応を行っていた。

この間のワーカー確保は操業継続の観点から重要な課題だった。感染が急拡大した局面では、ワーカー自身が感染したり、ワクチン接種の副反応が出たり、感染を恐れて出勤してこなかった時期があった。そのため、各社は人材派遣を通じた人員確保で不足を補わざるを得なかったが、それでも必要な人員が埋められないこともあったという。ある企業は「操業停止してしまうと、ワーカーが帰郷してしまって戻ってこない」ため、「余剰人員を別のラインの応援に回し、仕事を維持せざるを得なかった」という声もあった。従業員がコロナ感染で出社できない期間や、ワクチン接種の副反応が出た場合の休暇の扱いといった前例のない労務的判断も必要となった。

既に5月中旬からスズキ、ホンダ二輪の両社とも操業を再開しているものの、本来の生産計画に変更があり、各サプライヤーとも減産傾向のため主に2シフトでの操業とし、土曜は操業を止めるなどの対応をしてきた。しかし、直近では「6月に入ってスズキの増産に対応し、受注は毎週増えている。今後急ピッチで3シフトに移行するため、現在、ワーカーの新規採用や現場教育を進めている」という明るい話題も聞こえ始めている。

グジャラート州政府は6月5日、これまで民間企業の従業員の出勤上限を50%までとしていた規制を緩和、同月7日から100%の出勤を認めると通達した。土曜日に閉庁していた州政府事務所も5日から営業を再開した。これを受け、リモートワークや出勤制限を続けてきた各社は事務所への出勤態勢の見直しを始めている。一方、州内36都市で施行している夜間外出禁止令は、開始時間が午後8時から同9時に緩和されたものの、9日時点で継続している。

同州の新型コロナ感染拡大状況は、現在のところ落ち着きを取り戻しつつある。インド全土でみると、北部州ではロックダウンを徐々に解除しつつある一方で、南部州では感染拡大が続いており、依然として予断を許さない状況だ。ひとたび行動制限が緩和・解除されたとしても、今後、中長期間にわたり事態の推移を注意深く見守り、あらためて緊急対応への備えをしておく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。

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