2020年の乗用車販売・生産は大幅に減少も、EV・PHEVは着実に増加(スペイン)

2021年8月24日

スペインの2020年の乗用車新車登録は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた。その台数は、前年比32.3%減の85万1,211台。欧州債務危機時並みの減少となった。生産台数も19.7%減の226万8,000台となった。販売店や組み立て工場で休業・操業停止を余儀なくされたほか、国内景気・観光の低迷、国外の自動車需要が秋まで戻らなかったことが、主な減少要因だ。

一方、排出規制強化や購入補助が奏功し、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売・生産が力強く伸びた。

販売:新型コロナ禍を大きく受け3割減

スペイン自動車工業会(ANFAC)によると、2020年の乗用車新車登録台数は前年比32.3%減の85万1,211台。6年ぶりに100万台を下回った。新型コロナウイルス感染拡大後の移動・活動制限と水際対策の強化による観光低迷で、個人・企業・レンタカー向けの全部門で需要が縮小。供給面では、販売店も2~3カ月間の休業を強いられた。その結果、EUの4大市場(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)の中で最大の落ち込みとなった。2021年についても、ワクチン接種が普及する年後半までは本格的な回復は見込めないとみている。

主要メーカー・ブランドのうち、特にシェアを伸ばしたのは、登録台数の7割以上がハイブリッド(HV)で底堅さを見せたトヨタと、新型の電動のスポーツ用多目的車(SUV)が人気となった起亜(表1参照)だった。また、日系メーカー・ブランドの合計シェアは15.3%と前年から0.3ポイント上昇した。

表1:主要メーカー・ブランド別新車登録台数とシェア(2020年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス値、―は値なし)
メーカー・ブランド 登録台数 前年比 シェア シェア
(前年との差)
セアト 68,721 △ 38.6 8.1 △ 0.8
フォルクスワーゲン(VW) 66,817 △ 29.2 7.8 0.4
プジョー 65,697 △ 32.9 7.7 △ 0.1
トヨタ 57,580 △ 19.7 6.8 1.1
ルノー 56,138 △ 35.0 6.6 △ 0.3
起亜 47,624 △ 20.0 5.6 0.9
現代 45,405 △ 27.7 5.3 0.3
シトロエン 43,818 △ 34.7 5.1 △ 0.2
メルセデス 42,374 △ 21.1 5.0 0.7
ダチア 39,395 △ 29.3 4.6 0.2
アウディ 37,287 △ 27.1 4.4 0.3
BMW 35,229 △ 24.9 4.1 0.4
フォード 34,776 △ 39.2 4.1 △ 0.5
日産 34,761 △ 32.6 4.1 △ 0.0
オペル 30,224 △ 56.3 3.6 △ 1.9
フィアット 28,516 △ 39.5 3.4 △ 0.4
シュコダ 22,667 △ 22.9 2.7 0.3
その他 94,182 △ 34.9 11.1 △ 0.4
合計 851,211 △ 32.3 100.0

出所:スペイン自動車工業会(ANFAC)

代替燃料車市場急拡大も、EV・PHEVのシェアは依然5%弱

新車登録台数を燃料別のシェアでみると、ガソリン車は49.8%と前年から10.3ポイント減と減少に転じた。他方、近年減少傾向にあったディーゼル車は27.7%で、ほぼ横ばいだった。一方、代替燃料車のシェアは22.5%と、前年から10.5ポイント拡大した(図1参照)。

図1:乗用車新車登録の燃料別シェアの推移
ディーゼル車は、2015年62.9%、2016年56.8%、2017年48.3%、2018年35.8%、2019年27.9%、2020年27.7%と減少を続けた。ガソリン車は、2015年35.1%、2016年40.2%、2017年46.6%、2018年57.5%、2019年60.1%と増加したが、2020年に49.8%に減少した。代替燃料車は、2015年2.0%、2016年3.0%、2017年5.1%、2018年6.7%、2019年12.0%、2020年22.5%と増加を続けた。

出所:ANFACのデータを基に作成

2020年の代替燃料車の新車登録台数(表2参照)は19万1,743台。前年から26.7%増加した。このうち、EVとPHEVの新車登録合計台数は2.4倍。合計で4万1,234台となった。しかし、全登録台数に占めるシェアは4.8%と依然少ない。HV車(26.4%増、13万7,425台)と比べても3分の1弱だ。さらに、EUの二酸化炭素(CO2)排出規制(企業別平均燃費基準)により、各メーカーの出荷台数に課されるCO2平均排出量の上限が2020年に走行1キロ当たり95グラムに引き下げられたことから、罰金回避のために販売店・ディーラーによる自社登録も急増(注1)。EV・PHEVの新車登録台数全体の2割程度を自社登録が占めたとみられる。

表2:代替燃料車の新車登録台数の内訳と主要モデル(2020年) (単位:台)
項目 2019年 2020年 登録台数上位モデル
電気自動車(EV) 10,048 17,925 ルノー「ゾエ」、現代「コナ(EVモデル)」、プジョー「208(EVモデル)」、テスラ「モデル3」、VW「iD.3」
プラグインハイブリッド車(PHEV) 7,432 23,309 メルセデス「A250e」、プジョー「2008(PHEVモデル)」、起亜「ニロ(PHEVモデル)」、ルノー「キャプチャー(PHEVモデル)」
ハイブリッド車(HV) 108,683 137,425 トヨタ各種モデル、フォード「プーマ(マイルドHVモデル)」
オートガス車(LPG) 19,715 9,880 ダチア「サンデロ」、ルノー「クリオ」などのレトロフィット
圧縮天然ガス車(CNG) 5,476 3,204 セアト既存モデルのレトロフィット
合計 151,354 191,743

注:販売店・ディーラーによる自社登録も含まれる。
出所:ANFAC

電動化以前に経年車両の問題も

政府はEUの復興基金を活用し、今後3年間で最大8億ユーロの予算を投入して、電動モビリティーをテコ入れしている(2020年10月14日付ビジネス短信参照)。EV・PHEVと燃料電池車(FCV)の購入には、1台1,600~最大7,000ユーロ(注2)の補助金を支給する。このほか、充電インフラ設置費用の30~80%を助成。また、5月に施行した気候変動法により、2023年までに人口5万人以上の都市に従来燃料車の乗り入れ制限導入を義務付けるなど、規制と支援の両面でEV普及を推進する。

一方、これまで断続的に実施してきたHVと従来燃料車への購入補助は2020年で打ち切りになった。スペインの全保有車両数の平均車齢は13.1年とEUの中でも高い。経年車両は6割強を占め、これがもたらす排出・汚染の問題もある。当地自動車業界はゼロエミッションへの移行について、「国の実情や自動車産業の中期的な雇用・生産を考慮しつつ、経年車両の買い替え促進と並行して段階的に進めるべき」と主張している。

生産:秋以降の輸出回復で2割減に食い止める

ANFACによると、2020年の自動車生産台数は前年比19.7%減の226万8,000台となった(図2参照)。新型コロナ禍により、PSA、フォルクスワーゲン(VW)、ルノー、フォード、ダイムラー・メルセデス・ベンツ、日産、イベコの組み立て拠点14カ所が1カ月半にわたる操業停止を余儀なくされた。加えて、主要市場の欧州の需要が秋まで回復しなかったことなどが主な要因だ。2021年の見通しについては、新型コロナ感染状況や行動規制次第としている。2020年末から、半導体の世界的な需給逼迫の影響も出ていることにも要注意だ。

国際比較では、2020年のスペインの自動車生産台数はブラジルを抜いて世界8位となった。両国の明暗を分けたのが輸出比率だ。スペインは輸出が生産台数の86%と非常に高く、国内市場の低迷がある程度相殺された。2020年の輸出台数は、秋以降の欧州向けの回復に支えられ、前年比15.5%減の195万1,000台になった。

図2:四輪車生産・輸出の推移
乗用車、小型商用車・バン、トラックを含む四輪車の生産台数は、2016年289.2万台、2017年284.8万台、2018年282.0万台、2019年282.3万台、2020年226.8万台。このうち、輸出向けの台数は、2016年234.4万台、2017年231.8万台、2018年230.4万台、2019年231.0万台、2020年195.1万台。四輪車の生産台数の内訳は、乗用車が、2016年236.0万台、2017年229.1万台、2018年226.7万台、2019年224.8万台、2020年180.1万台。小型商用車・バンが、2016年46.7万台、2017年49.5万台、2018年49.7万台、2019年52.5万台、2020年43.1万台。トラックが、2016年6.5万台、2017年6.2万台、2018年5.5万台、2019年5.0万台、2020年3.7万台。

出所:ANFAC

EV・PHEVの生産台数が前年の8.2倍に

スペインの自動車生産は従来、小・中型ディーゼル車の生産が主力だった。その後、近年はSUVの受注拡大を通じて付加価値向上を図ってきた。欧州全体で排出規制への対応が進み、従来燃料車の需要は構造的に頭打ちだ。その中で、各メーカーの組み立て拠点ではEV・PHEVへの生産移行が生き残りのカギとなっている。日系メーカーで唯一スペインに組み立て拠点を置く日産は、スペインでいち早くEV生産を始めた。しかし、欧州での生産最適化として英国拠点に生産を集約し、バルセロナ工場を2021年末で閉鎖する。

現在、スペインではPHEV生産が中心だ。その生産台数は2019年の272台から2020年は8万3,965台と大幅に増加。生産が本格化している。その主な車種は、ルノー「キャプチャー」やセアト「レオン」、フォード「クーガ」など従来の生産車種のPHEVモデルになる。また、EVも前年から3.3倍となり、5万5,992台だった。オペル「コルサe」やプジョー「2008(EVモデル)」など、PHEVと同様に従来の生産車種のEVモデルが中心だ。生産が軌道に乗ったとはいえ、生産台数に占める割合は、PHEVが3.7%、EVが2.4%と依然低い。要となるバッテリー生産も、PSA工場の組み立てラインに限られている。

政府は復興計画の中で、EVとバッテリー生産をセットにした官民連携プロジェクトへの支援を行う(2021年7月29日付ビジネス短信参照)。既にVWグループ傘下のセアトと政府が中心となった官民連合がVWグループにとって欧州3カ所目となるバッテリー工場を建設する計画を明らかにした。2025年以降、年間50万台のEV生産、充電スタンドの大規模展開、リースを含むEVの幅広い販売モデルの運用、コネクテッドカーの開発など、総合的なモビリティーの電動化を目指す。

新型コロナによる打撃を強く受けた自動車産業。復興基金は、電動モビリティーを一気に進めるチャンスとなっている。


注1:
段階的な規制で、2020年に新車の95%、2021年には新車の100%でCO2排出量上限の達成が求められる。各メーカーは達成できなかった場合、1台当たり超過1グラムにつき95ユーロの罰金が科される。燃費測定基準は従来の「新欧州ドライビングサイクル(NEDC)」から、2021年以降は新方式の「国際調和排ガス・燃費試験法(WLTP)」に移行した。
注2:
個人によるEV・PHEV・FCV(WLTPに基づく航続可能距離が90キロ超)購入で、車齢7年以上の経年車を廃車にする場合は最高額の7,000ユーロを支給。
執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。