ライブコマース、健全な発展を見据えて(中国)
管理規制など強化の動き

2021年7月27日

中国では、新たなEC(電子商取引)ツールとして、ライブコマースが急成長している。ライブコマースは、ECとライブ配信を組み合わせた販売手法で、KOLや有名人などの配信者(ライバー)がライブ形式で視聴者に商品を紹介しながら販売するもの。通常のECでは写真やテキストなどが中心だが、ライブコマースは動画を活用することで多くの情報を伝えられることが最大のメリットである。ライバーの実演販売では、動画で使用感を分かりやすく伝えられることに加え、視聴者はチャット画面を通じてライバーとリアルタイムでコミュニケーションが取れるため、商品に対する不明点をその場で解消することもできる。こうした点が、消費者から評価され、中国のライブコマースは拡大の一途をたどる。

EC大手はじめ、各種プラットフォームの参入相次ぐ

2020年には、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で社会・経済活動が制限された。家にいながら楽しめるライブコマースは、社会生活の変化の中において、一層注目を集めることになった。商務部によれば、主要ECプラットフォームが2020年に実施したライブコマースは計2,400万回に上った(注1)。KPMGとアリババ集団傘下のアリ研究院が発表したレポート「1兆元市場に向かうライブコマース」によれば、2021年の中国のライブコマース市場は前年比90%増の1兆9,950億元(約33兆9,150億円、1元=約17円)に達する見込みである(図1参照)。

図1:中国のライブコマースの市場規模
中国におけるライブコマースの市場規模について、2017年は366億元、2018年は1,400億元、2019年は4,338億元、2020年(予測値)は1兆500億元、2021年は1兆9,950億元となっている。

注:(E)は予測値。
出所:KPMG、アリ研究院「1兆元市場に向かうライブコマース」を基に作成

ライブコマースは、大手EC企業が参入したことで一気に拡大した。2016年、アリババ傘下のECサイト淘宝(タオバオ)が「淘宝直播(タオバオライブ)」を開設した。同年には、EC大手の京東(JD.com)もサービスを提供し始めた。その後、微信(WeChat)や新浪微博(Weibo)などのSNS系のプラットフォーム、抖音(TikTok)や快手などのショート動画コンテンツ系のプラットフォーム上でも、専用チャネルが設けられるようになった。中国インターネット情報センターが発表したレポート「第47回中国インターネット発展状況統計報告」によれば、2020年末時点のライブコマースの利用者数は3億8,800万人となり、インターネット利用者の39.2%を占める。

ライブコマースの利用者をみると、性別では女性、年齢別では21~30歳が多かった(図2、3参照)。特に、年齢別では40歳以下が95%を占め、比較的若い世代によく利用されている。販売商品としては、アパレル(レディース、メンズ)、食品、バッグ類、化粧品・スキンケア用品などが上位にランクインしている(図4参照)。

図2:利用者の性別割合
利用者の性別割合について、女性が55.3%、男性が44.7%。
図3:利用者の年齢別割合
利用者の年齢別割合について、20歳以下が20.0%、21~30歳が58.1%、31~40歳が16.8%、41~50歳が3.9%、51~60歳が0.8%、61歳以上が0.4%。

出所:微熱点ビッグデータ研究院「2020年度ライブコマース業界ネット注目度分析報告」を基にジェトロ作成

図4:ライブコマースの売り上げ上位10商品
ライブコマースでの売り上げ上位の商品(上位10位)は、レディースアパレル(27.6%)、食品(19.6%)、バッグ類(19.6%)、化粧品・スキンケア用品(14.6%)、メンズアパレル(12.6%)、インテリア用品(9.5%)、インナーウェア肌着類(6.0%)、デジタル製品(6.0%)、スポーツ用品(5.5%)、生活用品(5.0%)の順になっている。

注:2020年7~8月にKPMGがライブコマースの事業者にアンケート(複数回答)を実施、回答数199社。
出所:図1に同じ

ライブコマースでは、商品の売れ行きを左右するライバーの存在が極めて大きい。ライバーは、決められた時間内で商品のセールスポイントを最大限アピールして販売につなげる。2020年のライバー別の販売額をみると、トップの薇婭(viya)氏が310億9,000万元、2位の李佳琦(Austin)氏が218億6,100万元となり、他のライバーを大きく引き離した(表参照)。

表:2020年のライバー別売り上げ総額(上位5位)(単位:億元)
項目 金額
薇婭(viya) 310.90
李佳琦(Austin) 218.61
辛巴 121.15
蛋蛋小朋友 75.26
雪梨 39.86

出所:図2、3に同じ

ライバーを支えているのは、MCN(Multi Channel Networkの略)機構と呼ばれるライバーの育成やマネージメント、コンテンツ作成などを行う企業である。MCN機構は、ライバーに商品販売を依頼する企業から手数料や広告費などを徴収することで収益を得ており、2019年末時点で全国に2万社以上ある(注2)。ライバーの人気は消費者からの信頼に支えられているため、MCN機構は、ライバーが消費者に実際に販売する商品に瑕疵(かし)がないよう品質管理も行う。李佳琦氏が所属する美腕(上海)網絡科技は、2019年から社内に商品選定や品質管理を行う専門チームを立ち上げている。同社の蔚英輝ライブ配信運営総経理によると、専門チームの人数は従業員全体の3分の2を占め、公的な品質監督検査機関である上海市質量監督検験技術研究院や規格認証を行う企業などと協力して品質管理を行っている(注3)。

価格面で優位性を持つも、品質やサービス面で懸念

中国消費者協会が2020年3月に発表した「ライブコマースショッピング消費者満足度オンライン調査報告」によれば、消費者がよく利用するライブコマースのプラットフォームは、淘宝(タオバオ)(68.5%)、抖音(TikTok)(57.8%)、快手(41.0%)の順となった。また、ライブコマースで商品を購入する理由について、「商品のコストパフォーマンスが良い」(59.6%)、「価格が安い」(53.9%)、「タイムセールや限定セールがある」(43.8%)など、価格に関する回答が目立つ結果となった(図5参照)。ライブコマースでは時間的な制約があるため、販売する商品の種類を、販売者側があらかじめ絞り、特定の商品を大量に仕入れることで、割安な価格帯を実現している。

図5:ライブコマースで商品を購入する理由
「商品のコストパフォーマンスが良い」が59.6%、「販売されている商品を気に入っている」が56.0%、「価格が安い」が53.9%、「タイムセール、限定セールがある」が43.8%、「ライバーの説明が商品価値を高めた」が35.1%、「フォローしているライバーが出演している」が27.7%、「ライブコマースの雰囲気が盛り上がっている」が22.7%、「他の人が購入している」が15.3%、「ライバーとコミュニケーションが取れる」が14.4%、「好きな有名人が出ている」が12.9%となった。

出所:中国消費者協会「ライブコマースショッピング消費者満足度オンライン調査報告」を基に作成

一方、ライブコマースを積極的に利用しない層もいる。前述の調査によれば、ライブコマースを利用しない理由として、「品質が保証されないリスクがある」(60.5%)、「アフターサービスが心配」(44.8%)が上位にランクインし、ライブコマースで購入する商品の品質やサービスに対して消費者が不安を感じているという結果になった(図6参照)。

図6:ライブコマースを利用しない理由
「品質が保証されないリスクがある」が60.5%、「アフターサービスが心配」が44.8%、「そもそも利用したことがない(ライブコマースがよくわからない)」が30.9%、「支払いが安全でないリスクがある」が26.4%、「権利が守られているのかわからない」25.3%、「ライブコマースを信頼できない」23.1%、「ライバーを信頼できない」が17.5%、「その他」が4.4%となった。

出所:中国消費者協会「ライブコマースショッピング消費者満足度オンライン調査報告」を基に作成

消費者の権益保護が課題

中国消費者協会は、ウェブサイトでライブコマースのトラブル事例を公開している(注4)。具体的には、中国消費者権益保護法(第25条)で定める7日間クーリングオフ期間中にもかかわらず、販売者が消費者の返品要求を拒否する事例が紹介された。また、ライブコマース配信中に、ライバーが消費者をライブコマース以外のSNS系プラットフォームに誘導して物品を販売するなどの事例も報告されている。後者の場合、取引が個人間のものであるため、販売者の責任を追及することが難しく、消費者が不利益を被るケースもある。

ライブコマースが健全に発展する上で、消費者の権益を保護するシステムや関連法の整備は不可欠である。中国政府は2021年5月、ライブコマースの監督管理を強化すべく「インターネットライブコマース管理弁法」(試行)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(以下、弁法)を施行した(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。弁法は、プラットフォーム運営者や出品企業だけでなく、ライバーやMCN機構も適用対象である。弁法では、プラットフォーム企業に対し、健全なアカウントの登録、情報の安全管理、営業行為の規範化、未成年者保護、消費者の権益保護、個人情報の保護、インターネットとデータの安全管理スキームの構築を求めるほか、消費者保護の面において、プラットフォームの運営者に対し消費者の権益保護に責任と義務を負うとした。

管理弁法への対応として、独自の管理規定を設けるMCN機構も現れた。前述の美腕(上海)網絡科技は21年5月、「ライブコマースの商品品質と規定管理規範」(以下、規範)を発表した。規範では、商品選定のルールを明確にし、また、ライブコマース禁止商品をリスト化したネガティブリスト方式を導入するとしている。上海財経大学EC研究所の崔麗麗執行所長は「業界を代表する企業による業界初の規範は、ライブコマースの現状に即したもので実行可能性が高い」と評価した(「北京商報」2021年5月23日付)。

中国政府は、ライブコマースが就業促進や内需拡大などの面で、中国経済に積極的な効果を与えている、と評価している。広東省広州市や浙江省杭州市など中国の地方政府もライブコマースの発展を支援する政策を発表している(注5)。中国の地方政府の政策的な後押しを受け、今後も中国のライブコマース市場は拡大を続けていくとみられているが、業界全体の健全な発展のため、中国政府は管理を強めており、業界、企業においても独自の規範や法整備の動きが進むだろう。


注1:
商務部が重点観測しているECプラットフォーム上で実施された回数。
注2:
KPMG、アリ研究院「1兆元市場に向かうライブコマース」。
注3:
網経社ウェブサイト「史上最厳」監管令落地満月、直播電商行業影響幾何」
注4:
中国消費者協会ウェブサイト「インターネットライブコマースによる消費者権益の侵害の主な形式および事例分析」(2020年11月6日付)。
注5:
広東省広州市は2020年3月、「広州市ライブコマース発展行動方案(2020~2022年)を発表。浙江省杭州市は2020年7月、「ライブコマースの経済発展を加速させるための若干の意見」を発表。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
方 越(ほう えつ)
2006年4月、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、金沢貿易情報センターを経て2013年6月から現職。