2020年に景気は底入れ、2021年回復の見通しも(香港)
新型コロナ禍による影響、徐々に収まる

2021年1月28日

香港の2020年通年のGDP成長率は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、2019年(マイナス1.2%)を下回る見通しだ。2020年第3四半期(7~9月)には回復の兆しが見えていた。しかし、11月後半から始まった第4波(注1)の感染拡大により、飲食業などに対する規制が再度強化され、経済活動が停滞。失業率も上昇した。こうしたことなどから、香港特別行政区政府(以下、香港政府)と各金融機関は急速な回復は望めないと見る。2020年のGDP成長率は、マイナス6.1%という予測だ。一方、2021年の成長率については、不確実性が高いものの、ワクチン接種の普及が経済回復を後押しするとの見方が強い。

香港政府、各金融機関ともに2020年通年成長率は底打ちと予測

2020年第1四半期(1月~3月)、第2四半期(4~6月)は、前年同期比マイナス9%台の景気後退が続いた。しかし、第3四半期(7~9月)は同マイナス3.5%と、第2四半期に比べ5.5ポイント改善した。一方で、第3四半期は、海外からの観光需要が喪失。サービス輸出が同34.6%減と大きく低下した。

香港政府は第4四半期(10~12月)の成長率について、中国本土の経済回復基調が強まるなど外部環境の影響により、若干改善すると予測する。同時に、防疫措置や出入境制限が緩和されない限り、失業率は改善せず、個人消費活動が制約され、不確実性の高い環境が投資にも影響を与えるとの見通しを示した。

表:主要経済指標(△はマイナス値)
項目 2019年
(実績)
2020年
(見通し)
2021年
(見通し)
(1)実質GDP成長率(%) △1.2 △6.1 3.7
階層レベル2の項目民間最終消費支出 △1.1 n.a. n.a.
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.1 n.a. n.a.
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 △12.3 n.a. n.a.
階層レベル2の項目財貨の輸出 △4.6 n.a. n.a.
階層レベル2の項目財貨の輸入 △7.3 n.a. n.a.
階層レベル2の項目サービスの輸出 △10.2 n.a. n.a.
階層レベル2の項目サービスの輸入 △2.4 n.a. n.a.
(2)消費者物価指数上昇率(%) 2.9 0.3 2.4
(3)賃金上昇率(%) 3.6 1.4 1.7
(4)失業率(%) 2.9 5.2 4.4
(5)国際収支:経常収支(億香港ドル) 1,708 n.a. n.a.
(5)国際収支:貿易収支(億香港ドル) △1,260 n.a. n.a.
(6)その他重要指標:対外債務(億香港ドル) 130,460 n.a. n.a.
(7)為替レート(1ドル=現地通貨) 7.84 7.75 7.75~7.85

注:(3)の2020年は10月時点の数値。(7)の2021年は金融政策上の目標数値。
出所:(1)(2)の2020年、(1)、(2)、(4)~(7)の2019年は香港政府特別行政区統計処。(1)(2)の2021年、(4)の2020・2021年はIMF。(3)は香港人力支援管理学会(HKIHRM)調査

香港政府は11月13日発表の「2020年第3四半期経済報告」で、2020年通年の実質GDP経済成長率をマイナス6.1%と予測した(2020年11月18日付ビジネス短信参照)。

図1:香港GDP成長率推移(2009第1四半期~2020年第3四半期)
2019年第3四半期から10年ぶりにマイナス成長に転じ、2020年第1~2四半期は更にマイナス9.0%台に下落し、第3四半期はマイナス3.5%に改善した。

出所:香港政府統計処データを基にジェトロ作成

一方、HSBC、中国銀行、スタンダードチャータード銀行は2020年通年の経済成長率について、それぞれマイナス7.9%、マイナス6.0%、マイナス5.8%と予測している。スタンダードチャータード銀行の大中華地区シニアエコノミストの劉健恒氏は、「第2四半期で景気は底を打ち、第3四半期には回復のサインを示しているため、第4四半期も回復する」との見通しを示している。

足元の地場企業の景況感は弱めに推移

このように、経済成長は2020年に底を打つとの見方がある。一方で、企業規模を問わず地場企業には足元の業績について、変わらない、ないし悲観的に見る向きもある。複数の調査結果で、それが確認できる。

香港政府統計処が1月12日に発表した「中小企業景況月次調査報告書(2020年12月)」(注2)によると、2020年12月の収益状況の動向を示す「現状指数」は前月比7.4ポイント減の35.6だった。11月後半からの感染拡大第4波の影響で、中小企業の景況感が2020年8月以来の水準まで悪化した。業種別では、飲食業が14.3と苦しい状況が続いている。また、1カ月後の景況感を表す「展望指数」も、前月比でほぼ横ばいの39.7だ。

図2:中小企業の当月の収益状況に関する「現状指数」の推移(2018年1月~2020年12月)
全体の「現状指数」では、2018年から2019年4月までは50を下回り、安定していたが、2019年5月から下落傾向にあり、それから上下動しており、2020年1月、6月、10月にそれぞれ3回のピークを迎えた。11月から再び下落傾向に戻った。飲食業の推移は全体と一致しており、変動幅は全体より大きい。2020年5月、6月、9月、10月は50を上回った。

出所:香港政府統計処データを基にジェトロ作成

また、1月22日に香港政府統計処が大企業を対象にまとめた「企業景況調査報告書(2021年第1四半期)」(注3)では、2021年第1四半期(1~3月)の業績見通しについて、前期(2020年第4四半期)比で「変わらない」との回答が64%と最多だった。「改善する」とした企業は前期の17%から9%に減少した。業種別では、特に宿泊・飲食や運輸、建築で「悪化」が「改善」を大きく上回った。

2021年の香港経済、回復傾向との見通し

2021年の香港経済の展望について、各金融機関はある程度の回復を予測している。新型コロナウイルスワクチン接種開始による感染収束への期待に加え、2020年の数値が低かったためだ。J.P.モルガン・アセット・マネジメント、HSBCプライベート・バンク、スタンダードチャータードは、それぞれ通年の成長率を4.8%、4.3%、4.0%とした。その他、IMFやシティバンク、香港総商会、上海商業銀行、華僑永亨銀行もいずれも、3%台の見通しを示している。

華僑永亨銀行のエコノミストの李若凡氏は、2020年の数値が低いことに加え、(1)ワクチン接種開始、(2)中国経済回復、(3)米国・EUの新たな景気刺激策、(4)バイデン米国大統領の就任による米中関係の緩和への期待などの好材料により、2021年の香港経済は回復に向かうと予想する。ただし、(1) 新型コロナウイルス感染拡大第4波に対応した政府の防疫措置強化(2020年第4四半期~)、(2) 第2期香港政府補助金「保就業計劃 (Employment Support Scheme:ESS)」の終了(失業率上昇の可能性)、(3) 欧米の感染拡大長期化など、外部需要の減少が懸念されるとした。

香港総商会の梁兆基CEO(最高経営責任者)は、2021年第1四半期に企業は倒産やリストラのピークを迎えるとした。もっとも、ワクチン接種が進めば、2021年通年のGDP成長率は3.5%に回復するだろうとの見方も同時に示している。


注1:
香港では一般的に、2020年1月の新型コロナウイルス感染拡大開始を「第1波」、3月中旬以降の輸入症例拡大を「第2波」、7月中旬以降の域内感染拡大を「第3波」と呼ぶ。11月後半以降は「第4波」が到来しているとされる。
注2:
「中小企業景況月次調査報告書」は、香港の中小企業(従業員50人以下)約600社を選定して意見を収集し、「現状指数」(前月に比べた収益状況)と「展望指数」(1カ月後の収益状況の見通し)で中小企業の景況感を表す調査報告書。指数が50を超えると「景気が回復する」、50を下回ると「景気が後退する」を意味する。
注3:
「企業景況調査報告書」は、香港の10主要産業(製造、建築、輸出入・貿易、小売り・卸し、宿泊・飲食、運輸・倉庫・配達サービス、IT、金融・保険、不動産、プロフェッショナルサービス)から大規模な企業・組織約550社を選定し、四半期ごとに企業の管理職層の意見を収集し、迅速に経済見通しを行う調査。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所
カン カレン
2016年香港大学文学部日本研究学科卒業。2016年9月より現職。