2020年新車販売台数は前年比20%減、生産台数も27%減(カナダ)

2021年8月25日

2020年のカナダでの新車販売や生産台数は、新型コロナウイルス感染拡大により大きく影響を受けた。上半期の感染拡大に伴う工場閉鎖による減産や販売減は、下半期には回復。しかし、相殺するまでには至らなかった。年間を通じると、販売数は前年比19.7%減、生産台数は同26.9%減を記録した。

こうした中でも、下半期には各メーカーがゼロエミッション車(ZEV)組み立て工場への投資計画を相次いで発表。新たな開発生産への動きがみられた。2020年のZEV需要は、まだ小さいものの拡大基調にある。そのマーケットシェアは3.5%となった。連邦政府は2021年6月、2035年までに販売される新車(乗用車とピックアップトラック)全てのZEV化を義務付ける方針を発表した。今後の動向が注目される。

販売台数減少の中、小型トラックへのシフト顕著に

調査会社デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント(DAC)が2021年1月6日に発表した統計によると、カナダの2020年の新車販売台数は153万7,388台。前年から19.7%減少し、2009年以来の低水準となった(表1参照)。1982年の22.7%減に次ぐ史上2番目の減少率だった。また、全メーカーで前年実績を割り込んだ。

表1:メーカー別新車販売台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(注1) メーカー 2019年 2020年 前年比
1(1) フォード 287,874 239,368 △16.8
2(2) GM 256,795 218,501 △14.9
3(3) トヨタ 237,091 191,420 △19.3
4(4) FCA(注2) 223,101 178,752 △19.9
5(5) ホンダ 188,828 140,243 △25.7
6(6) 現代 134,732 113,820 △15.5
7(7) 日産 134,729 88,450 △34.3
8(8) 起亜 76,630 72,452 △5.5
9(10) マツダ 66,420 57,773 △13.0
10(11) スバル 57,524 52,129 △9.4
11(9) VW 69,153 49,830 △27.9
12(12) メルセデス・ベンツ 46,090 35,397 △23.2
13(13) BMW 36,658 25,493 △30.5
14(14) アウディ 33,531 25,895 △22.8
15(15) 三菱 25,535 16,092 △37.0
その他(注3) 39,666 31,773 △19.9
合計 1,914,357 1,537,388 △19.7

注1:かっこ内は2019年。
注2:現ステランティス。
注3:その他はジャガー、ランドローバー、マセラティ、ミニ、ポルシェ、ボルボ。

セグメント別および地域別メーカーの新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 メーカー 2019年 2020年 前年比
セグメント 乗用車 484,687 308,593 △36.3
小型トラック 1,429,670 1,228,795 △14.1
地域 米系自動車メーカー 767,770 636,621 △17.1
日系自動車メーカー 710,127 546,107 △23.1
その他メーカー 436,460 354,660 △18.7

出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタントのデータを基にジェトロ作成

新型コロナウイルス感染拡大防止のため2020年3月以降行われた規制やロックダウンに伴って、同年3~6月に販売台数が落ち込んだことが響いた。中でも4月の下げ幅は、前年同月比で75%減と、過去最大の減少率となった。

メーカー別に上位5社はフォード、ゼネラルモーターズ(GM)、トヨタ、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA、現ステランティス)、ホンダ。順位は前年を維持したことになる。しかし、各社とも前年比2桁台の減少となった。一方、販売台数第8位の起亜や10位のスバルは前年比でそれぞれ5.5%減、9.4%減と1桁台の減少にとどまった。

セグメント別では、乗用車(セダン、クーペ、ハッチバック)の販売が36.3%減少した。一方、小型トラック〔スポーツ用多目的車(SUV)、クロスオーバーSUV(CUV)、バン、ピックアップトラック〕は14.1%減にとどまった。両セグメントを合わせた総販売台数に占める小型トラックの割合は79.9%と過去最高だった。乗用車からのシフト傾向は、なおも続いている。

また、カナダで販売する日系メーカー6社(トヨタ、ホンダ、スバル、日産、マツダ、三菱)の総販売台数は、54万6,107台。前年比23.1%減と落ち込んだ。米系メーカーの17.1%減、その他メーカーの18.7%減と比較しても減少幅が大きい。これに伴い、カナダにおける日系メーカーのマーケットシェアは、前年の37.1%から35.5%へと低下した。

なお、2020年上半期の販売台数は、前述のとおり記録的な落ち込みを示した。しかし、12月は前年同月比2.6%の減少にとどまった。これを受け、DACのマネジング・パートナーのアンドリュー・キング氏は「(この1年の)19.7%という市場の落ち込みを希望的に捉えることは難しいかもしれない。しかし、4月にはディーラーの閉鎖が相次ぎ、売り上げが75%減少していた。こうしたことを考えると、年末の業績は、春に業界の多くが懸念していたほど悪いものではなかった」と述べた。

生産減の背景は新型コロナ感染拡大による工場閉鎖や生産移管

2020年は生産台数も大きく減少した。DACが1月31日発表した統計によると、前年比26.9%減の144万816台。1982年以来の低水準となった(表2参照)。

表2:メーカー別自動車生産台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(注1) メーカー 2019年 2020年 前年比
1(2) トヨタ 468,002 427,321 △8.7
2(3) ホンダ 407,764 355,513 △12.8
3(1) FCA(注2) 534,539 351,592 △34.2
4(4) GM 311,705 160,858 △48.4
5(5) フォード 247,879 145,532 △41.3
セグメント 乗用車 485,897 336,831 △30.7
小型トラック 1,483,992 1,103,985 △25.6
合計 1,969,889 1,440,816 △26.9

注1:かっこ内は2019年。
注2:現ステランティス。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント

新型コロナ感染拡大による工場閉鎖に伴う減産に加え、北米内での生産移管が進んでいることが押し下げ要因となっている。DACによると、カナダの生産台数がピークを記録した1999年当時は、北米の生産台数に占めるカナダのシェアは17%を超えていた。しかし、2020年には約11%まで低下したという。

メーカー別には、2019年に首位だったFCAが、前年比34.2%減に落ち込んだことで3位へ順位を落とした。結果、トヨタが首位、ホンダが2位と、それぞれ1つ順位を上げた。全メーカーとも前年割れを記録する中、日系メーカー2社の減少率はFCAやGMに比べて低かった。このことから、日系メーカーの生産シェアは前年の44.5%から54.3%へと拡大した。

セグメント別では、乗用車の生産台数は前年比30.7%減だった。これに対し、小型トラックは25.6%減にとどまった。全生産台数に対する小型トラックの生産シェアは、前年の75.3%から76.6%へと上昇した。

生産体制に変化の兆し

記録的な生産台数減少の一方、生産体制には新たな兆候もみられた。

米国自動車大手フォード・モーターは2020年9月28日、オンタリオ州のオークビル工場の電気自動車(EV)生産設備への18億カナダ・ドル(約1,548億円、Cドル、1Cドル=約86円)の投資を発表(2020年10月1日付ビジネス短信参照)。このほか、FCAも同年10月19日、ハイブリッド車とEVの両方を生産する最先端設備に最大15億Cドルの投資を発表した。また、GMは2019年末にオシャワ工場での生産を終了し、自動運転車試験場などへの転換を表明(2019年5月10日付ビジネス短信参照)していた。それが一転して、2020年11月9日、13億Cドルを投じて同工場をフルサイズピックアップの組み立て工場として再稼働すると発表。さらに、2021年1月15日には、オンタリオ州インガーソルの工場を大規模商用EV製造工場へ転換するため10億Cドルを投じると発表した。各社とも、概ねゼロエミッション車(ZEV)の生産に向けたかたちだ。

ZEV販売台数は増加基調

消費者のZEV需要も徐々に高まっている。カナダ統計局が4月22日に発表した新車登録統計によると、2020年のバッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などのZEVの新規登録台数は5万4,353台。全新車登録台数に対するシェアは3.5%となった。いまだに低い数字にとどまるのは事実だ。しかし、2016年のZEVの新規登録台数は1万2,009台に過ぎなかった。それから5年で4.5倍に増加たことは、評価に値するだろう。

このトレンドを後押しするように、連邦政府は6月29日、2035年までに販売される新車(乗用車とピックアップトラック)全てのZEV化を義務付ける方針を発表した(2021年7月8日付ビジネス短信参照)。購入補助金制度の拡充と充電インフラ整備によって目標達成を計画している。もっとも、業界では具体的な施策に乏しいとして、国家的な自動車用電池戦略の策定や業界内のパートナーシップ形成の必要性を訴えている。

執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
飯田 洋子(いいだ ようこ)
民間企業勤務を経て2007年からジェトロ・トロント事務所勤務。