東カリマンタン州におけるヤシ殻バイオマス(PKS)産業の実情と課題(インドネシア)
政府が輸出支援、サプライヤーの発掘と育成が課題

2021年6月10日

インドネシアで注目のバイオマス燃料である、パームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS、Palm Kernel Shell)の主要産地の1つが、ボルネオ島東岸の東カリマンタンだ。インドネシア商業省も輸出拡大に注力する、PKSの実際の生産状況はどうか。現地視察の結果、品質、供給、価格面で具体的なビジネス課題がみえてきた。現地視察と商談会の結果をもとに、日本企業との協業事例も触れつつ、PKS産業の現状と課題を報告する(現地視察日:2021年4月10日)。

東カリマンタン州で進むPKS生産

パームヤシ殻であるPKSは、パーム油製造の副産物と位置付けられている。インドネシア中央統計庁によると、2019年のパーム原油(CPO)生産量は4,840万トンで、そのうちスマトラ島リアウ州が20%を占める。その次に、中部カリマンタン州(15%)、北スマトラ州(14%)、西カリマンタン州(10%)と続く。こうしたスマトラとカリマンタンに広がるパーム農園におけるPKSの生産状況を知るべく、ジェトロは2021年4月初旬、インドネシア商業省の協力の下、東カリマンタン州の州都サマリンダで現場視察した。インドネシアPKS事業協会のデータによると、東カリマンタン州のPKS生産量は年間174万トン(インドネシア全体1,100万トン)とされている。

現地視察の結果、判明したのは、東カリマンタン州でPKSはまだ国内消費が主体であり、今後、輸出促進をはかっていく段階にあることだ。サマリンダ市は南洋材の輸出基地として知られた商業都市であるが、海港はなく、マハカム川を使った河川物流のため、大型船は入ることができないなど物流上の課題がある。そのため、PKSはいったん艀(はしけ)(注1)で集積地まで運んで、大型船に移しかえる。この結果、中間作業が増え、コストと時間が余計にかかる。


サマリンダのPKS中間保管場、このあと艀(はしけ)で輸送する(ジェトロ撮影)

艀(はしけ)によるPKSの輸送風景(ジェトロ撮影)

インドネシア企業と日系企業による協業が不可欠

また、東カリマンタンのバイオマス燃料サプライヤーは中小企業が多い。そのため、実際に取引を考えるうえでは、輸出手順の指導や持続可能性に関する認証問題対応へのサポートが求められる。日本におけるバイオマス発電の拡大を受け、日本のバイヤーからの、インドネシアのPKSに対する注目度は高い。加えて、原料供給先として大手サプライヤーのみならず、新しい中小サプライヤーの開拓のニーズが高まっている。しかし、中小サプライヤーでは、依然として品質管理の面で十分な設備を有していないなどの課題がある。そのため、原料の品質を維持するための保管倉庫(ストックパイル)の建設を支援するなど、バイヤー側からの支援も今後の安定供給確保のために必要だ。実際、倉庫の建設を支援した事例もあり、こうした協業を進めていくことが、今後のビジネスの展開において重要だと考えられる。

協業を進めた結果、日本とのビジネスにつながる事例も出てきている。2020年11月にジェトロ・ジャカルタ事務所が主催した第2回バイオマス商談会(2021年1月19日付地域・分析レポート参照)に参加した、リアウ州の現地企業プリマ・ハストゥリスティワ・シネルギ(PT. Prima Khatulistiwa Sinergi)は、商談会後、日本向けに毎月1万トンの受注に成功した。同社によれば、2021年6~7月に船積みを予定しており、取引がうまくいった場合には、さらに年間15万トンの追加注文が期待できるとのことだ。成功した理由の1つとして、同社は、PKSの品質向上に欠かせない設備である保管倉庫(ストックパイル)、スクリーニングマシン(選別機)、および重機2台を保有しており、品質管理を強化していることがある(注2)。こういった設備を自社だけで用意するのは難しく、同社は日本企業2社と協業している。


ストックパイル

スクリーニングマシン

重機

(プリマ・ハストゥリスティワ・シネルギ提供)

このような協業事例をつくっていくためには、継続的に優良なサプライヤーを発掘していくことも重要だ。インドネシアの中小サプライヤーと日本のバイヤーとのマッチングを図るため、ジェトロは2021年4月7日、インドネシア商業省と共催で3回目の「バイオマス商談会」(オンライン)を開催した。PKSとウッドペレットを扱うインドネシアのサプライヤー6社と日本のバイヤー2社が参加し、活発な商談が行われた。

可能性は十分、一方で継続的な課題も

東カリマンタンへの現地視察と商談会を通じ、改めて浮き彫りになったのは、(1)品質面、(2)安定供給面、(3)価格面、の課題だ。まず、(1)品質面は、生産工程における金属など異質物の除去、水分(モイスチャー)含有率のコントロールが課題として挙げられる。さらに、国際的な環境認証である「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」とインドネシア独自の環境認証である「持続可能なパーム油認証システム(ISPO)」について、認証取得に向けた取り組み状況や見通しが不確定であることが多い。次に、(2)安定供給面では、PKSを引き取る搾油所の数と引き取り量、トラックでの国内輸送力、ストックパイル保管場の保管量能力などが課題だ。最後に、(3)価格面をみると、インドネシアではPKS輸出税と課徴金が31ドル(1トン当たり)まで高騰している。そのため、マレーシア産のPKSに比べて、価格競争力が落ちている。この点について、インドネシア商業省は、管轄官庁ではないものの輸出促進の観点から、今後インドネシア財務省、およびパーム農園基金にヒアリングし、サポートできる事項を模索していく意向だ。バイオマス発電の燃料は、長期間の契約が期待されるため、質、量、価格ともに安定した売買ができるような信頼構築が必要である。


注1:
河川や運河などの内陸水路や港湾内で重い貨物を積んで航行するために作られている平底の船舶。
注2:
ストックパイルは、屋根があるコンクリート敷の一時保管場のことで、PKSの乾燥度の維持や品質維持に必要である。また、スクリーニングマシンは、金属片や小石などの異物除去でネットや磁石を通して除去する機械であり、ブルドーザーやエクスカベーターはPKSの移動または乾燥度を高めるためにかき混ぜる用途で使用する。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 経済連携促進アドバイザー
中沢 稔(なかざわ みのる)
1982年、総合商社に入社。1998年ジャカルタ駐在、2013年韓国駐在、2016年にインドネシアのプルワカルタの自動車部品メーカーへの出向を経て、2018年から現職。