木質バイオマス燃料、ヤシ殻(PKS)とウッドペレットに注目(インドネシア)
課題は安定的な供給体制構築

2021年1月19日

インドネシアには、注目されているバイオマス燃料がある。主要な輸出産品のパームオイルを絞ったあとのヤシ種殻(PKS、Palm Kernel Shell)や、豊富な森林資源を元にしたウッドペレットだ。現地政府も貿易収支の安定的な黒字化を期し、こうした産品を輸出することに意欲的だ。バイオマス燃料は日本でも注目度が上がっている。ジェトロが実施した商談会に参加した日系大手商社は、「日本でのバイオマス発電所計画数から推計すると、バイオマスに対する需要は、最低でも年500億円規模はある。15年程度の長期でみると1兆5,000億円規模になる」と期待を寄せる。

直近の商談会などを踏まえ、インドネシアが日本へのバイオマス燃料の供給元となりうるのかを考えてみたい。

2度目の商談会、改めてPKS産業の課題が浮き彫りに

ジェトロ・ジャカルタ事務所は、2019年6月に実施したPKS商談会(2019年7月17日付地域・分析レポート参照)の後、インドネシアPKS協会(APCASI)、パーム農園基金、在インドネシア日本国大使館、インドネシア商業省などの関係機関との意見交換を通じて連携を深化。PKSに関する日系企業のビジネス形成を試みてきた。2020年11月には商業省とともに、オンライン形式でPKSとウッドペレットを商材とした「バイオマス商談会」を開催した。


バイオマス商談会の様子 (ジェトロ撮影)

バイオマス商談会では、日本側バイヤー6社、インドネシア側サプライヤー5社による積極的な情報交換の結果、双方から将来的なビジネスに期待する声が挙がった。

一方で、改めて浮き彫りになった課題もある。まず、買い手である日本側の要求が、インドネシア側の供給意欲と能力を超えるようになってきている点だ。日本側は、収集から船積みまで対応できる優良なサプライヤーを探して、安定的な供給を受けたい姿勢をとる。しかし、インドネシアのサプライヤー数は限定されているのが実情だ。

次に、持続可能性の観点からの第三者認証取得の問題だ。資源エネルギー庁(日本)は、日本のバイオマス発電事業者が順守すべき事項を「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(660KB) 」(2020年4月改訂)で定めた。PKSについては、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」または「持続可能なバイオ燃料に関する円卓会議(RSB)」(注1)の認証により、持続可能性の確保が必要とされた。これにより、日本の発電事業者は2022年3月31日まで調達先が認証を得ていることを確認する必要がある。しかし、インドネシアでは、政府が独自に「持続可能なパーム油認証システム(ISPO)」を定めていた。その結果、RSPOの認証を受けたパームオイル工場などは限定的なのが実情だ。更に、取引価格上昇の問題もある。インドネシア財務省管理下のパーム農園基金が輸出課徴金制度を設け、最近、値上げが度重なっている。これらは主にPKSについて課題になる。

ウッドペレットへの注目高まる

課題の多いPKSに代わって注目を集めるようになったのが、ウッドペレットだ。インドネシアは、世界第8位、9,200万ヘクタールの森林面積を有する(Global Forest Resources Assessment 2020)。しかし、インドネシアのウッドペレット産出量は16万トン(2019年、国際連合食糧農業機関(FAO)推計値)で、世界全体の0.8%に過ぎない。ベトナム、マレーシアなど周辺国と比較しても、生産量が劣る(図参照)。

図:インドネシアと周辺国のウッドペレット生産量の推移
(単位:トン)
それぞれの年について、ベトナム1,000,000、1,350,000、1,647,000、3,050,000、3,100,000、マレーシア190,000、370,000、530,000、710,000 、710,000インドネシア、80,000、90,000、140,000、290,000、160,000、タイ40,000、40,000 、130,000、317,000、317,000、世界全体27,866,763、29,767,348、34,293,732、38,031,792、40,501,803。

出所:国際連合食糧農業機関(FAO)からジェトロ作成

森林面積から考えると、潜在的な生産余力は十分と思われる。西ジャワ州や中部ジャワ州では近年、新たな地場産業として現地企業が工場を立ち上げる動きなどが報じられている(2020年1月20日、2月27日、「ブリタ・サトゥ」紙)。持続可能性に関する認証についても、課題の重いPKSと異なる。森林管理協議会(FSC)などの国際認証を利用することでクリアできる点も魅力だ。

こうした点から、商談会に参加したインドネシア企業にも、ウッドペレットへの期待が高い。日本のAAI(注2)が出資するPT. Awina Sinergi Indonesia外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の平山祐吉専務取締役にバイオマス燃料の可能性をジェトロが聞いたところ、「PKSは認証問題で先行きに不安がある。ゆえにウッドペレットにより注力していく」「ウッドペレットの長所は、インドネシア企業でも対応可能な認証制度であるFSCをベースにした産業であることだ」とコメント。ウッドペレット事業に意欲的な姿勢を示した。

関係省庁などを巻き込んだ解決策の模索が必要

現状では、課題が多いPKSに比べ、産出量は限定的だが国際認証などの課題が少ないウッドペレットの方がサプライヤーと継続的な関係を構築しやすいだろう。しかし双方ともに、サプライヤー数が限られている。必要な調達量を確保するには、より良いサプライヤーを見つけるという以上に、現存のサプライヤーを育てていく姿勢が必要だ。そのために日本側から何をサポートできるか、が求められている。

インドネシア経済調整府、農業省、環境森林省などの関係省庁は、パームオイルに対する関心は強い。一方で、バイオマス燃料はその廃棄物に過ぎず、産業育成に取り組む意欲がいまだ弱い。この状況で日本側のニーズに合致するようなサプライヤーを育てるためには、地場産品の輸出促進を担う商業省を巻き込むことが重要だろう。現時点での課題は多いが、バイオマス燃料であるPKS、ウッドペレットはともに、インドネシアの生産能力は高く評価できる。日本側の需要も大きいことから、将来性が期待される産業で、官民の継続的な取り組みが期待される。


注1:
RSPO、RSBとも、パーム油の持続可能な生産・利用を目指す認証を担う国際的な非営利組織。
注2:
小型風力発電、淡水化装置などを本業とする福岡県の民間企業。2013年にインドネシアのパートナーとPT. Awina Sinergi Indonesiaを設立。離島や公共施設への太陽光発電パネルの設置や、水処理設備の導入などを手掛けてきた。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 経済連携促進アドバイザー
中沢 稔(なかざわ みのる)
1982年、総合商社に入社。1998年ジャカルタ駐在、2013年韓国駐在、2016年にインドネシアのプルワカルタの自動車部品メーカーへの出向を経て、2018年から現職。