海南省、自由貿易港実現に向けたゼロ関税政策により輸入が拡大(中国)

2021年4月16日

中国の海南省統計局が発表した2020年の経済指標によると、同省の2020年の貿易総額は前年比2.9%増の135億3,943万ドル、うち輸出は同19.5%減の40億1,461万ドル、輸入は同16.6%増の95億2,482万ドルだった(表1参照)。海南省の貿易総額の伸び率は全国より1.1ポイント高く、国内17位となった。

2020年6月に、島内全域で関税ゼロとするなど、貿易の自由化を実現する計画「海南自由貿易港建設総体方案」(2020年6月12日付ビジネス短信参照)が発表されて以降、島内全域での運用開始に先駆け、一部の輸入商品に対して先行的に輸入関税と輸入増値税、消費税を免除する政策が打ち出され、海南省の貿易額は輸入が牽引する形で大幅に伸び、2020年下半期の貿易総額は前年同期比15.2%増と上半期実績を下半期が大幅に上回った。特に、海南省住民を含めた国内離島旅客の1人当たりの免税品の年間購入限度額を3万元から10万元に引き上げた(2020年7月9日付ビジネス短信参照)ことに伴い、消費財の輸入が大幅に増加し、2020年下半期の消費財輸入額は前年同期比3倍の39億3,772万ドル(注1)となった。

表1:2020年1-12月海南省輸出入額(単位:万ドル、%)(△はマイナス)
項目 輸出入額 前年同期比 輸出額 前年同期比 輸入額 前年同期比
1-2月 180,686 △24.0 68,134 17.3 112,552 △37.4
3月 109,607 △16.1 50,252 △11.5 59,355 △19.6
4月 92,674 △12.2 38,764 △18.2 53,910 △7.4
5月 90,911 △0.9 21,296 △46.9 69,614 34.8
6月 95,775 △8.6 19,767 △50.6 76,008 17.4
7月 100,974 △19.0 27,096 △31.5 73,878 △13.2
8月 100,050 16.7 22,296 △33.7 77,754 49.3
9月 129,828 30.8 22,244 △42.0 107,584 76.6
10月 90,070 △2.5 17,005 △55.3 73,065 34.3
11月 139,979 31.1 21,330 △45.6 118,649 75.7
12月 223,388 64.4 93,276 38.2 130,112 90.2
合計 1,353,943 2.9 401,461 △19.5 952,482 16.6

出所:海口市税関

EU、日本からの輸入が大幅拡大

輸入を国・地域別に見ると、ASEAN、EU(注2)、米国が上位3位を占めるが、ASEAN、米国との貿易額が減少する一方、日本、EU、英国との貿易額は大幅に増加した(表2参照)。EUが52.7%増、ASEAN4.7%減、米国48.6%減、日本は2.4倍となった。

海南省政府が2018年と2020年に相次いで免税品の年間購入限度額を引き上げたことで、日本からの輸入は2019年から倍増している(表3参照)。

表2:2020年海南省の主要輸入対象国・地域(単位:万ドル、%)(△はマイナス)
地域・国名 金額 構成比 前年比
EU 194,428 20.4 52.7
ASEAN 176,249 18.5 △4.7
フランス 99,822 10.5 43.0
米国 92,026 9.7 △48.6
英国 82,425 8.7 189.7
日本 81,177 8.5 139.8
オーストラリア 68,144 7.2 40.7
イタリア 48,597 5.1 64.5
インドネシア 45,464 4.8 32.9
スイス 44,167 4.6 127.6

出所:海口市税関

表3:日本との貿易額の推移(単位:万ドル、%)(△はマイナス)
輸入額 前年比
2015年 15,023 △39.7
2016年 15,214 1.3
2017年 11,859 △22.1
2018年 13,778 16.2
2019年 33,851 145.8
2020年 81,177 139.8

出所:海口市税関

日本からの輸入品目では化粧品が大幅増

2020年の輸入を品目別にみると、化粧品が前年比2.8倍の31億2,406万ドル、次いで、機械・電気製品が58.7%減の9億3,407万ドル、乗用車は36.0%減、商用車は13倍増となった。加工生産に用いる基礎有機化学品は1.5%増の7億1,748万ドルとなった(表4参照)。

化粧品については、日本ブランドの中国での販売が好調だ。特に、2020年の日本からの化粧品類の輸入額は前年比3倍の6億5,532万ドルで、対日輸入額の8割を占めている。資生堂が発表した2020年の決算説明資料によると、2020年の中国での売り上げは前年比33%増で、海南島での販売が成長を支えたという。また、コーセーの2020年第3四半期累計(4月~12月)の決算資料では、中国市場はEコマースや免税事業を中心に大きく成長したと発表している。

表4:2020年1-12月海南省の品目別輸入(単位:万ドル、%)(△はマイナス、-は値なし)
品目 金額 構成比 前年同期比
化粧品類 312,406 32.8 179.1
機械および電気製品 93,407 9.8 △58.7
階層レベル2の項目自動車(車台を含む) 1794.6 0.2 △34.5
階層レベル3の項目乗用車 1749.6 0.2 △36.0
階層レベル3の項目商用車 45.0 0.0 1266.4
基礎有機化学品 71,748 7.5 1.5
農産物 63,045 6.6 45.1
階層レベル2の項目肉類 1548.5 0.2 8656.9
階層レベル2の項目穀物 6509.4 0.7 1347.2
階層レベル2の項目酒・飲料水 9136.4 1.0 102.7
精製油 45,517 4.8 10.0
階層レベル2の項目ジェット燃料 14163.0 1.5 768.7
文化関連製品 32,120 3.4 83.7
薬種・医薬品 20,173 2.1 14.8
革、毛皮およびそれらの製品 18,296 1.9 56.2
衣類・衣類付属品 16,984 1.8 41.9
原油 10,765 1.1
天然ゴム・合成ゴム(ラテックスを含む) 5,249 0.6 30.1
鋼材 4,602 0.5 647.8
繊維材料 3,464 0.4 99.0
合計(その他を含む) 952,482 100.0 16.6

出所:海口市税関

ポジティブリストの発表により今後も輸入は拡大の見込み

海南自由貿易港は一部の輸入商品をゼロ関税とする政策について、4つのリスト(1つのネガティブリスト、3つのポジティブリスト)で管理するとしている。既にポジティブリストについては、原材料・補助材料に対するもの(2020年11月25日付ビジネス短信参照)と、船舶や航空機等に対するもの(2021年1月12日付ビジネス短信参照)の2つが、ネガティブリストについては生産設備に関するもの(2021年4月5日付ビジネス短信参照)が発表されている。残る1つとして、島内居住者向けの輸入商品に関するポジティブリストの発表が待たれており、発表されれば海南省の輸入はさらに拡大することが見込まれる。


注1:
海南省政府の発表の人民元建て数値をジェトロがドル換算。
注2:
EUはEU27カ国の合計値、ASEANはASEAN10カ国の合計値を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
梁 梓園(リョウ シエン)
2017年、ジェトロ・広州事務所入所。